風速5センチメートル 作:三浦
001
うちの学校は変だ。
今咲いてるこの桜だって、みんな恒例みたいに騒いでるけど、おかしいに決まってる。
烏森七不思議の一つ、『狂い桜』。冬も近くなってきたこの時期に、満開の桜が咲くのだ。冷静に考えたらおかしすぎる。
......そうだ、おかしいことといえばもう一つある。クラスメイトの一人、墨村くんだ。もっとも、これを言うとアヤノもキョーコちゃんも笑うから誰にも言わないけど。
墨村 良守くん。同じクラスで、顔がすごいかっこいいわけじゃないけどオシャレさんで、クールで、でも話しやすく、分け隔てなく接してくれるというすごくいい人だ。
私みたいな地味な子にも優しいし、中等部でも割と人気だというのはまあ頷ける。でも、何かおかしいのだ。
幽霊っぽい人はやけに彼の周りに集まるし、明らかに意思疎通が取れてる気がする(勿論、誰かいる前で喋り出したりなんてことはしないけど)。
「墨村、墨村」
「なんだよ」
「神田さん、お前のことスゲー見てるぞ」
「あー....最近ちょくちょくあるんだよ。用あんなら言ってくれりゃいんだけどな」
「シンプルにウザ。鈍感かよお前」
「いや、そういうモテ系ではないだろ。たぶん」
!!目、合っちゃった....。
慌ててそらしたけど、見てたのばれちゃったかなぁ...。
「......フーン、不思議ちゃんだと思ってたけど、アンタも普通にかっこいい人に興味持つんだ?」
「へ?きょ、キョーコちゃん?なにが?」
「とぼけなさんな!墨村くんの方、すっごい見てたじゃん!」
「わ!い、痛いよアヤノ〜。そんなんじゃなくて、墨村くんはなんか気になるな〜ってだけ!」
「「そんなんじゃん」」
「違うの〜!」
二人ともひどい......ってあれ?なんの話だったっけ?
「ま、いっか」
「よくない!教えなさいよ〜、好きなんでしょ〜?ほれほれ!」
「うひゃあ!ごめんなさい〜」
(結局なんで俺の方見てたんだ......?)
002
結局墨村くんのことを思い出した時には既に昼休みで、しかもその本人から夜桜を見ようなんてするなと怒られてしまった。
「墨村、やんわりだったけど結構真剣っぽかったね」
「うん......夜の学校になんかあるのかな?」
「夜の学校ねぇ...はっ!」
「どしたのアヤノ」
「もしかしてさ、あの高等部の綺麗な幼馴染みさんとこっそり......」
「なっ!」
「なるほど」
「いやいや二人とも!墨村くんに限ってそんなことしないよ!」
「ユリはあいつに幻想持ちすぎだよ。あいつだって中学生男子なんだから、そういう欲求があっても変じゃないでしょ」
そういう欲求!キョーコちゃんストレートすぎだよ......。しかも後ろに墨村くんいるし!
「......なあキョーコ、別にいいけど、そういう話は本人がいないとこでするもんじゃないの?」
「アンタ、いてもいなくても変わんないじゃん」
「うわひっで」
「だって、アンタも私がいる前で私に蹴られた話してた」
「......確かに。でもそれでまた蹴られたんだし、それはもうノーカンじゃないの?」
「「.......」」
「逆にアタシが泣いたらこんなんじゃ済まないってことに気付いた方がいいよ」
「出たよ、とか言ってホントに泣いたら隠すじゃん。前行ったお化け屋敷だって......おい蹴るなよ」
「うるさいアンタが悪い」
「「.......」」
「あー......すまん。っと俺帰るわ。何故かいつの間に放課後だし、アヤノちゃんと神田さんもじゃ」
「?はいよ、また明日ね」
「......ねえキョーコ」
「......良守くんと、仲いいんだね」
「え?あー、えーっと......あはは」
そのあと小一時間くらい、アヤノと一緒に根掘り葉掘り聞き出していたがキョーコちゃん曰く、血に飢えた獣2匹と下校するのは命の危険を感じたらしい。
その時もキョーコちゃんがむっつりさんなのが悪いという話になったが、一つ言えるのは、既に全員夜桜なんて欠片も頭になかったということだ。
003
「分かってると思うけど、時音はテクニックタイプだ。そんでもって標的となる妖たちは俺らが結界師ってことをちゃんとわかってる」
「うん」
「でもそれは逆に、“結界師は結界で囲んでくる”って前提でやつらは仕掛けてくるってことだ」
「うん」
「 だからこそ時音、お前は敵を“結界で囲おうとするな”」
「う、ん?......あ、こないだの?」
「そ、俺がヨキを倒した時みたく薄く引き伸ばすんだ。まあ相手に破られないようにする工夫も必要だけど、とにかく普通の結界を作るとしても、確実に仕留められる時以外は相手を囲む気でやるな。そういうのは力の総量的に俺の方が向いてる」
「じゃあ、私は攪乱中心?」
「それもしてほしいけど、こないだヨキにやったようなぶち抜くのを時音がやってくれればその間に俺は別のことができる。あの時で言ったら念糸で夜未さんを拘束とかな。一人でいっぺんにってのは正直まだキツイ」
「そしたら、多重と伸縮を練習した方がいい?」
「いや、多重だと速攻で使えるけど燃費が悪い。余裕があるなら狙うぐらいにして、時音はまず、結界を出してから伸ばすまでの反応速度、それと伸ばす時の初速を徹底的に練習するのがいいと思う。それがいい感じになってきたら同時に出す結界の数を増やすとかな」
「反応速度と、初速と、数....と」
時音は真面目だ。自分のためになると思ったら俺みたいな年下にも喜んで教えを請うし、こうやって要点をメモしたりもするし、頭も柔らかい。
「それに、念糸を使った戦闘と式の使い方も並行してやっていきたい」
「念糸は分かるけど....式はなんで?」
「あー、式ってさ、応用が利きやすいんだよ」
「?」
ただ努力の人だから、教えたことも俺が見てないところで練習しまくってすぐに習得してしまうんだろう。
「兄さんって俺より力の総量は少ないけど、一度に出せる式の数は俺より多いんだ。それ初めて見た時にゴネて配分のコツとか式増やすやり方とか教えてもらってさ」
「うん」
別にそれ自体は俺も助かるしどんどん覚えてくれて構わない。ただ.....
「で、一通り教えてもらってから他の修行してて気付いたんだけど、前より力の注ぎがスムーズになってたんだよ。たぶん、少しの調整で容姿が変わる式を相手にしてると、力の流し込み方について理解が深まるんだと思う」
「はー、なるほどね」
「元々繊細な技は時音の得意分野だし、このへんは覚えるのも難しくないと思う」
「わかった。じゃあまず式からやりたい」
「よし、一回家に荷物置くからちょっと待ってろ」
「はいはい、じゃ、後でね」
俺に教えられることがなくなった時が2人での修行の終わりだと思うと、憂鬱な気分にならずにはいられない。
「もっと強くなりたいなぁ....」
14歳、秋。前世所帯持ちだった俺でもこれなんだから、男というのは一生女の尻を追いかける生き物なのかもしれない。
ほんとは中学生と高校生でこんな下校時間かぶったりしませんよ、たぶん。
しかも題名に反して後半は結局良守時音という。