問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
十六夜に勝利報酬を与え終えたローズ。そのすぐ後にゲーム終了を告げるように、木々は一斉に霧散した。
樹によって支えられていた廃屋が倒壊していく音を聞いて三人は一目散に走り出す。
「おい、そんな急ぐ必要ねえだろ?」
「大有りです!黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重傷のはず……!」
「黒ウサギ!早く此方に!耀さんが危険だ!」
風より速く走る三人は瞬く間にジン達の元に駆け付けた。廃屋に隠れていたジンは三人を呼び止める為に叫ぶ。黒ウサギは耀の容体を見て思わず息を呑んだ。
「すぐ治癒しないと耀さんの命が危険です……ローズさん、お願い出来ますか?」
「無論だ。すぐに耀の傷を癒そう」
ローズはそう言って耀の負傷した右腕に右手を翳し、
「
その手に円環状の漆黒の魔法陣が展開されると、そこから螺旋状の黄金の鎖が出現し、耀の右腕に巻き付く。すると耀の傷はみるみるうちに塞がり、更に血色も良くなっていった。
完治した耀を見てローズは黄金の鎖を消して黒ウサギに振り向く。
「ふむ、これで良し。これで耀の傷は完治した。もう大丈夫だぞ」
「あ、ありがとうございますローズさん!」
黒ウサギはローズに御礼を言って耀の容体を再確認し、スヤスヤと寝息を立てている彼女を見て安堵した。
それを見ていた十六夜が「ヤハハ」と笑ってローズを見つめ、
「さっきの鎖は何だ?つか〝クロノス〟って聞こえた気がしたが………気のせいか?」
「気のせいではないぞ十六夜。
「ああ。一説によると
「ほう。よく知っているな。そして我の
ローズが淡々と説明すると、十六夜は「へえ?」と瞳を怪しく光らせて、
「つまり対象の時間経過を一気に早めちまえば、寿命がある人間様は一瞬で化石になるってことか」
「そういうことになるな。まあ、我はそんな方法より混沌で呑み込んで痛みを感じさせることもなく屠る方が好みだが」
「………そうかい」
然り気無く恐ろしいことを言うローズに、十六夜は冷や汗を流した。
その後は、飛鳥が来て耀の傷が完治していたことに驚き、治癒したのがローズだと黒ウサギから教えてもらうと更に驚愕し、
「ローズさんが春日部さんの傷を治してくれたの!?だって無理したら治さないって言ってたのに」
「ああ、あれは嘘だ。ああでも言わぬ限り汝らは無理をすると思っていたのでな」
「そ、そう………春日部さんの傷を治してくれてありがとう、ローズさん」
脱力したようにガクリと肩を落とす飛鳥。けれども御礼は忘れずに言うとローズは「うむ」と返してニヤリと笑った。
その後は十六夜とジンを筆頭に、〝フォレス・ガロ〟に奪われた誇り―――〝名〟と〝旗印〟の返還を行い、最後に〝ノーネーム〟は〝打倒魔王〟を掲げたコミュニティであることを伝えると、激励の言葉を贈られ一先ず作戦は成功を収めたのだった。
ν
本拠に戻った一同は、眠っている耀を飛鳥とジンが運び、目が覚めるまで見守ることにした。
一方の十六夜・ローズ・黒ウサギの三人は、本拠の三階に在る談話室で、仲間が景品に出されるゲームのことを話していたのだが、
「ゲームが延期?」
「はい………申請に行った先で知りました。このまま中止の線も有るそうです」
黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに顔を歪めて落ち込む。
十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。
「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかなら無いのか?」
「どうにもなら無いでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」
それを聞いて十六夜の表情が目に見えて不快そうに変わった。するとローズが妙案を思い付いたように人差し指を立てて、
「ならば今こそ白夜叉に兎の娘を贈呈せねばな。さすれば彼女も嬉々として我らの要求に応じてくれよう」
「へ?」
「おお、それはナイスアイデアだローズ!」
「何がナイスアイデアですか嫌に決まってるのですよこの御馬鹿様方ッ!!!」
スパパァーン!と黒ウサギのハリセンが十六夜とローズの頭に奔る。
「くく」と笑うローズと、ケラケラ笑う十六夜。だが十六夜は本題に戻って「チッ」と盛大に舌打ちし、
「所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流も良いところだ。〝サウザンドアイズ〟は巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドはねえのかよ」
「仕方が無いですよ。〝サウザンドアイズ〟は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は〝サウザンドアイズ〟の傘下コミュニティの幹部、〝ペルセウス〟。双女神の看板に傷が付く事も気にならない程のお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」
諦めたように言う黒ウサギ。それに「ふむ」と顎に手を当てて考え込んだローズは頷き、
「ならばその〝ペルセウス〟とやらのコミュニティに殴り込みに行くか。ギリシャ神話の英雄たるペルセウスの名を汚す腑抜け共の根性を叩き直しに行こうではないか十六夜」
「え?」
「よし、乗った!根性叩き直しに行くんだし、少しくらい派手に暴れても良いよな?」
「うむ、我が許す。存分に」
「暴れさせるかこの御馬鹿様方あああああああッ!!!」
ズパパァーン!と黒ウサギの割と本気なハリセンが二人の頭を叩きのめす。
それを受けて十六夜は何事も無かったかのように話を戻し、
「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」
「そうですね………一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」
「へえ?よく分からんが見応えは有りそうだな」
「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くに居るのならせめて一度お話ししたかったのですけど………」
「ふむ。ならば話せば良いぞ兎の娘。さっきから我らを窓の外から窺っているあの―――金髪の小娘にな」
ローズの意味深な発言に「え?」と窓の外へ視線を向ける黒ウサギと十六夜。
それと同時にローズが指を鳴らすと、勝手に窓の錠が外れ開いた。
それに窓の外で浮いていた金髪の少女はきょとんとしながら、どういう仕組みだ?と小首を傾げる。
一方の黒ウサギはその人物を目にして瞳を見開かせた。
「レ、レティシア様!?」
「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。〝箱庭の貴族〟ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」
レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながら談話室に入る。
美麗な金の髪を特注のリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た少女だ。
「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見付からずに黒ウサギと会いたかったんだ」
「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ち下さい!」
黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かう。レティシアに会えたことが余程嬉しかったのだろう。
レティシアはスッとローズに視線を向けて、
「君が白夜叉と決闘して圧勝したローズか。本当に髪は虹色なのだな。………しかし上手く気配を消していたはずだったんだが。こうも簡単に見付けられてしまうとは」
「ふふ、我を欺きたければ何か強力な隠者系の
「ああ。今度からはそうさせてもらうよ。………といってもそんなギフトは生憎持ち合わせてないが。―――いや待て、幼いとは似たような容姿の君には言われたくないのだがな」
ローズの提案に苦笑するレティシア。だがふと十六夜の奇妙な視線に気付いてレティシアは小首を傾げる。
「どうした?私の顔に何か付いているか?」
「別に。前評判通りの美人………いや、美少女だと思って。目の保養に観賞してた」
十六夜の真剣な回答にレティシアは心底楽しそうな哄笑で返す。
口元を押さえながら笑いを噛み殺し、なるべく上品に装って席に着いた。
「ふふ、成る程。君が十六夜か。白夜叉の話通り歯に衣着せぬ男だな。しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さが有るぞ」
「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」
「「ふむ。否定はしない」」
「否定して下さい!―――というよりローズさんがレティシア様と初対面なはずなのに息ピッタリなのですよ!?」
「これぞ龍の為せる業だ」
「そんなわけあるかっ!」
「くく」と笑って答えるローズに、思わず語調を崩してツッコミを入れる黒ウサギ。
そんな二人をレティシアが笑いを噛み殺しながら眺めて、
「ローズも虹色の髪や妖精めいた美貌に透き通った白い肌、青白い焔のような瞳と見応え有りそうだが………その辺はどうなんだ十六夜?」
「ああ。確かにローズも見応えはある。黒ウサギが愛玩動物なら、ローズは愛玩人形かな。だが生憎ローズは俺の倒すべき目標だからな。観賞するより決闘がしたいくらいだ」
「そ、そうか」
十六夜の返答に顔を引き攣らせるレティシア。あの白夜叉を追い詰めたローズと戦いたいとは、凄い闘争心だな、とレティシアは思った。
黒ウサギは「それはそうと」と話を戻し、
「レティシア様はどのような用件で要らしたのですか?」
「ん?ああ、用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷付ける結果になってしまったからな」
「ふむ。やはりあの木々の鬼化は汝の仕業で有ったか―――吸血鬼の娘よ?」
ローズの指摘に黒ウサギはハッと思い出す。予想はしていたが、鬼化していた木々はやはりレティシアのものだった。
鬼種の中でも個体が少ない一つとされる吸血鬼の純血。
箱庭創始者の眷属であるウサギが〝箱庭の貴族〟と呼ばれるように。
箱庭の世界でのみ太陽を浴びられる彼らは〝箱庭の騎士〟と称される。
彼らの齎す恩恵はあらゆる儀式過程を省き、互いの体液を交換し合う事で鬼種化を成立させる事が出来る。この恩恵を受けた者は吸血鬼として食人の気を持つ事になるが、〝純血〟以外の吸血鬼に血を吸われても鬼種化する事は無い。
よって血に飢えた者は独自にギフトゲームを開催し、参加者からチップとして吸血を行う。箱庭で人と吸血鬼が共存出来るのは互いにこのルールを尊重しているからだ。
太陽の光を浴び、平穏と誇りを胸に生活出来る箱庭を守る姿から、吸血鬼の純血は〝箱庭の騎士〟と呼び称される存在となったのだ。
「吸血鬼?成る程、だから美人設定なのか」
「は?」
「え?」
「………ほう?」
「いや、いい。続けてくれ」
十六夜はヒラヒラと手を振って続きを促す。
「実は黒ウサギ達が〝ノーネーム〟としてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、何と愚かな真似を………と憤っていた。それがどれだけ茨の道か、お前が解っていないとは思えなかったからな」
「……………」
「コミュニティを解散するよう説得する為、漸くお前達と接触するチャンスを得た時………看過出来ぬ話を耳にした。神格持ちのギフト保持者と神格級のギフト保持者が、黒ウサギ達の同士としてコミュニティに参加したとな」
黒ウサギの視線が反射的にローズと十六夜に移る。恐らく白夜叉にでも聞いたのだろう。
「そこで私は一つ試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」
「結果は?」
黒ウサギが真剣な双眸で問うと、レティシアは苦笑しながら首を振った。
「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。ローズの実力は白夜叉から聞いたから分かるが、君の実力はまだなんだよ」
レティシアはそう言って十六夜に視線を向ける。それに気付いた十六夜はニヤリと笑い、
「へえ?つまりアンタは俺の実力が見たいと言いたいんだな?」
「そういうことになるな。………だがそれを知る機会は失われて―――」
「方法なら有るぜ」
「何?」
レティシアが眉を寄せると、十六夜はスッと立ち上がり告げた。
「実に簡単な話だ。アンタは俺の実力が魔王を相手に戦えるか知りたいんだろ?―――ならその身で、その力で試せばいい。どうだい、元・魔王様?」