問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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ξ

 レティシアは十六夜のその言葉を聞いて一瞬唖然としたが、すぐに哄笑に変わった。弾けるような笑い声を上げたレティシアは、涙目になりながら立ち上がる。

 

「ふふ………成る程。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ」

 

「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

「ゲームのルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ。手間暇掛ける必要も無い。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

 

「地に足を着けて立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴?」

 

 笑みを交わし二人は窓から中庭へ同時に飛び出した。

 開け放たれていた窓は二人を遮る事無く通す。窓から十間程離れた中庭で向かい合う二人は、天と地に位置していた。

 

「へえ?箱庭の吸血鬼は翼が生えてるのか?」

 

「ああ。翼で飛んでいる訳では無いがな。………制空権を支配されるのは不満か?」

 

「いいや。ルールにはそんなの無かったしな」

 

 飄々と肩を竦める十六夜。それに「ほう」とレティシアは感心する。

 

「(成る程。気構えは十分。後は実力が伴うか否か………!)」

 

 満月を背負うレティシアは微笑と共に黒い翼を広げ、己のギフトカードを取り出した。

 金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、コレが決闘である事に変わり無い」

 

 ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。

 光の粒子が収束して外殻を作り、突然爆ぜたように長柄の武具が現れる。

 

「互いにランスを一打投擲する。受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「好きにしな」

 

 投擲用に作られたランスを掲げ、

 

「ふっ―――!」

 

 レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる。全身を撓らせた反動で打ち出すと、その衝撃で空気中に視認出来る程巨大な波紋が広がった。

 

「ハァア!!!」

 

 怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に落下していく。

 流星の如く大気を揺らして舞い落ちる槍の先端を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、

 

「カッ―――しゃらくせえ!」

 

 

 殴り付けた。

 

 

「「―――は………!??」」

 

「ふむ。やはり受け止めずに殴って返すか」

 

 素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。ただ一人冷静に呟き十六夜を見るローズ。

 鋭利に研ぎ澄まされ、大気の壁を易々突破する速度で振り落とされた槍は、鋭い尖端も巧緻に細工された柄も、たった一撃で拉げて只の鉄塊と化し、宛ら散弾銃のように無数の凶器となってレティシアに向けられたのだ。

 

「(ま、不味い………!)」

 

 何と馬鹿馬鹿しい破壊力。これは受けられないから避けなければ。

 しかし思考に体が追い付かない。否、追い付いても意味が無い。

 鬼種の純血である彼女なら、たかが銃弾如きなら振り払う事も出来ただろう。しかし第三宇宙速度に匹敵する馬鹿馬鹿しい速度で迫る凶弾を退ける事など、今の彼女には不可能だった。

 

「―――少しは加減したらどうだ十六夜よ」

 

「………は?」

 

 レティシアの眼前に突如音も無く現れたローズが眼下の十六夜に呆れたような声音で言う。

 そして第三宇宙速度で迫る凶弾を苦もなく全て叩き落とし、レティシアを抱き抱えて虚空へと消え―――次の瞬間には十六夜の眼前に現れていた。

 

「うおっ!?いきなり目の前に現れるなよローズ!」

 

「知るか。汝が吸血鬼の純血相手に加減せぬのが悪い。それより吸血鬼の娘、怪我は無いか?」

 

「あ、ああ………君が助けてくれたから私は平気だ」

 

 ローズに心配されてレティシアは苦笑で返す。彼と私とでは随分と温度差が違うな、と。

 ローズがレティシアを降ろすと、窓から飛び出してきた黒ウサギが駆け寄ってきて、

 

「ローズさん!先程のは一体何なのですか!?まるで空間跳躍したように黒ウサギには見えたのですが」

 

「ん?ああ。あれも魔術だぞ兎の娘。空間制御の魔術で()()()()()()()()()()()()()()だけに過ぎぬよ」

 

「………そ、そうでしたか」

 

 どちらにしろ凄い魔術ですけどね!と内心で叫ぶ黒ウサギ。

 レティシアも驚きローズをまじまじと見つめる。十六夜は「へえ?」と瞳をキラリと光らせて、

 

「時間が掛からないってことはつまり―――光速以上で移動可能ってことか」

 

「そうなるな。但し、一瞬で移動出来るというだけで、肉体には同じ距離を徒歩で移動したのと同じだけの負担が掛かる。………まあ、我には関係の無い話だが」

 

「ヤハハ、ローズは〝無限〟の存在だからな。疲労とか有って無いようなものだろ」

 

「如何にも。………だからといって我を便利な交通手段に用いろうなどと思うなよ十六夜?それは我との決闘に勝利し、隷属出来たらにしろ」

 

「あいよ。早速お嬢様達にも〝便利な交通手段を見付けたぜ!〟と言いふらしに行くか」

 

(ひと)の話を聞け戯け」

 

 ケラケラと笑う十六夜。ローズはやれやれだな、と溜め息を吐いた。

 一方の黒ウサギは、レティシアがローズ達の話に耳を傾けている隙に、彼女のギフトカードを掠め取る。

 

「な、何をする黒ウサギ!」

 

 それに気付いたレティシアは黒ウサギを睨み付けるが、黒ウサギは無視してレティシアのギフトカードを見つめ震える声で向き直る。

 

「ギフトネーム・〝純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟………やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ………!」

 

 さっと目を背けるレティシア。それを聞いて十六夜は白けたような呆れた表情で肩を竦ませた。

 

「何だよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

 

「………はい。武具は多少残して在りますが、自身に宿る恩恵(ギフト)は………」

 

「チッ」と隠す素振りも無く十六夜は盛大に舌打ちした。

 

「ハッ。道理で歯応えが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

「いいえ………魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトでは有りません。武具などの顕現しているギフトと違い、〝恩恵〟とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意無しにギフトを奪う事は出来ません」

 

「ふむ。つまり吸血鬼の娘は―――自ら魔王にギフトを差し出したということか?」

 

「………っ、」

 

 ローズの指摘に苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らすレティシア。黒ウサギも苦い顔で問う。

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていた為〝魔王〟と自称する程の力を持てたはず。今の貴女は嘗ての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに………!」

 

「………それは」

 

 言葉を口にしようとして飲み込む仕草を幾度か繰り返すレティシアだったが、打ち明けるには至らず、口を閉ざしたまま俯いてしまった。

 十六夜は頭を掻きながら鬱陶しそうに提案する。

 

「まあ、あれだ。話があるなら取り敢えず屋敷に戻ろうぜ」

 

「………そう、ですね」

 

 黒ウサギとレティシアは沈鬱そうに頷き、中庭から屋敷に戻ろうとした。が、それをローズが右手で制し、

 

「その前に―――()()()()()駆逐せねばな」

 

「「「は?」」」

 

 ローズの意味深な発言に疑問の声を洩らす黒ウサギ達三人。だがその刹那、遠方から褐色の光が四人に射し込んだ。

 

「あの光………ゴーゴンの威光!?不味い、見付かった!」

 

 焦燥の混じった声と共に、レティシアは光から庇うように三人の前に立ち塞がる。

 光の正体を知る黒ウサギは悲痛の叫びを上げて遠方を睨んだ。

 

「ゴーゴンの首を掲げた旗印………!?だ、駄目です!避けて下さいレティシア様!」

 

「兎の娘の言う通りだぞ、吸血鬼の娘。石化は不死たる吸血鬼にとって天敵だが」

 

 ローズはレティシアの手首を掴んで引き寄せ、代わりにローズが前に出てつまらなそうな瞳で褐色の光を見据え、

 

「下らぬ。劣化品(レプリカ)では我を石には出来ぬぞ?」

 

 そう言って左腕を横一閃して、褐色の光を掻き消した。

 

「「―――……は!?」」

 

「「「「「ば、馬鹿なッ!!?」」」」」

 

「………へえ?」

 

 その光景に素っ頓狂な声を上げる黒ウサギとレティシア。ゴーゴンの威光を放った者達とおぼしき人影が有り得ない、という風な声を上げる。十六夜だけは面白そうなものが見れたとばかりに、嬉々とした笑みでローズの背を見つめる。

 ローズは見上げて、翼の生えた空駆ける靴を装着した騎士風の男達を一人一人指差して数えていき、

 

「………ふむ。人数はおよそ百人か。汝らの掲げた旗印を見ると、ゴーゴンの首は―――ペルセウス座に位置する恒星のことだ。つまり汝らは〝ペルセウス〟のコミュニティの者だな?」

 

「なっ!?」

 

「そして汝らの目的は逃亡した吸血鬼―――即ちこの娘か。不法侵入してまで奪還しに来たところを見ると、余程重要な取引と見受けられるな」

 

「そ、そうだ!我々は〝ペルセウス〟の者で、その吸血鬼は大事な取引材料だ!だからさっさと返してもらおうか小娘ッ!」

 

 ローズに次々と看破されて冷や汗を流す〝ペルセウス〟の騎士達。だが彼女が自分達の目的を把握済みなら話が早いと、すかさずレティシアを要求した。

 ローズは「ふむ」と顎に手を当てて考え込むと、数秒後黒ウサギに向き直り、

 

「どうする、兎の娘?〝ペルセウス〟の()()達は吸血鬼の娘を所望しているが」

 

「ぼ、坊や………?だ、駄目です!レティシア様は彼らには渡しません!断固拒否しますッ!!」

 

「く、黒ウサギ!?」

 

 黒ウサギの返答を聞いてぎょっとするレティシア。ローズは「うむ」と頷くと視線を上空にいる騎士達に戻す。

 

「残念だが、我らの〝愛玩動物黒ウサギ☆〟が吸血鬼の娘を渡さぬそうだ。故に汝らには悪いが帰ってくれ」

 

「何ですかその不巫戯た名称は!?普通に黒ウサギでいいのですよ!」

 

 悪ふざけするローズに怒る黒ウサギ。十六夜はそれを聞いて真剣な表情で考え込み、

 

「〝愛玩動物黒ウサギ☆〟………か。いいな、それ」

 

「十六夜さんも真剣な表情で考え込んどいてそれですか!?いい加減にするのですよこの御馬鹿様方ッ!!!」

 

 スパパァーン!と黒ウサギのハリセンがローズと十六夜の頭に奔る。それをレティシアが何やってんだか、といった感じで三人を呆れた表情で眺めていると、

 

「ふ、不巫戯るなッ!そんな要求、我々〝ペルセウス〟が承諾すると思ったか!?」

 

 騎士の一人がそう言ってローズ達を睨み付ける。伝染するように他の騎士達も口々に罵詈雑言を吐き捨てる。

 

「そもそも、何故我らが〝名無し〟風情の言うことを聞かなければならんのだ!」

 

「そうだ!貴様らこそ大人しく我らの要求に応じろ、〝名無し〟のクズが」

 

「な、何ですって………!?」

 

 彼らの態度にキレた黒ウサギは懐からギフトカードを取り出そうとして、ローズに制された。

 

「ほう?つまり交渉決裂というわけか。………ならば致し方無い」

 

 ローズはスッと瞳を細めて凶悪な笑みで騎士達を見上げ、

 

「汝らが力ずくで奪いに来い。我が相手になろう」

 

「「は?」」

 

「フン。戦うというのか?」

 

「愚かな。自軍の旗も守れなかった〝名無し〟など我等の敵では無いぞ」

 

「恥知らず共め。我らが御旗の下に成敗してくれるわ!」

 

 口々に罵り猛る騎士達。彼らはゴーゴンの旗印を大きく掲げると、陣形を取るように広がる。

 それをローズは「くく」と笑って、

 

「無理だな。汝らでは―――」

 

「何!?―――ガッ!?」

 

 怒号を上げた騎士を始め、次々と地上に落下していく〝ペルセウス〟の騎士達。酷いものはローズの攻撃を受けて気絶してしまっている。

 辛うじて意識が有るもの達が何とか起き上がってローズを睨み付け、

 

「き、貴様………我らに何をした!」

 

「何をと言われてもな。我はただ―――空間制御の魔術で汝らの()()()()()()()()()()()に過ぎぬよ」

 

「は!?空間制御の魔術だと!?」

 

「ば、馬鹿な!そんな高度な魔術を使える奴が〝名無し〟に居るなんてルイオス様から聞いてないぞ!?」

 

 空間制御の魔術と聞いて驚愕する騎士達。そんな彼らをしたり顔でほくそ笑みながら見下ろし、

 

「ふむ。加減はするものではないな。済まぬが起きている奴らを気絶(つぶ)しておいてくれ、十六夜」

 

「あいよ」

 

 十六夜は「ヤハハ」と笑って地を駆け、辛うじて意識を保っていた騎士達に順番に止めを刺していく。

 数秒後には騎士達(かれら)は一人残らず倒されており、静寂が訪れた。

 ローズは「うむ」と頷いて騎士達を紐で縛っている十六夜を見つめ、

 

「残飯処理させてるみたいで済まぬな十六夜」

 

「いや、多少は暴れられたし俺は構わねえよ」

 

「そうか。なら良かった」

 

 十六夜の言葉を聞いて安堵するローズ。黒ウサギ達に振り返り、

 

「………ん?どうした汝ら?」

 

「ど、どうしたもこうしたも有りません!彼らを気絶させてどうなさるおつもりですか!」

 

「別にどうもしないぞ。奴らは目障りだったから強制退場させただけに過ぎぬよ。―――というよりもこうでもしない限りその吸血鬼の娘は守れんだろう?」

 

「う、それは………そうですが」

 

 レティシアを渡さないと決定したのは黒ウサギだった為、言葉に詰まる。

 そのレティシアは「はあ」と深い溜め息を吐き、

 

「私を守ってくれた事には感謝するが………これからどうするんだ?」

 

「ああ。それは―――」

 

「白夜叉に詳しい事情を聞きに〝サウザンドアイズ〟に行く―――だろ?」

 

 十六夜がそう言うとローズは頷き、

 

「というわけだ。兎の娘は飛鳥達を呼びに行ってくれ。すぐに向かうのでな」

 

「は、はいな!」

 

 黒ウサギは頷き本拠へと駆けて行く。その後、耀も起きていたので、十六夜・黒ウサギ・ローズ・レティシアに加え、飛鳥・耀・ジンの計七人は〝サウザンドアイズ〟へ向かうのだった。

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