問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
「(全くです)」
耀の言葉に便乗してこっそりツッコミを入れる青髪ウサ耳の少女。
一方で、ローズは十六夜・飛鳥・耀を見回して、
「………ふむ。取り敢えず汝らの服を乾かしてやらねばな。風邪を引いては元も子もない」
「へえ?龍ロリは服を乾かす術を持ってるのか?」
ローズの呟きに十六夜が瞳を細めて問う。ローズは「うむ」と頷き、まず十六夜の腕に触れて、
「―――【フォティア】」
そう呟いた瞬間、十六夜の全身が火に包まれた。
それを見ていた飛鳥が悲鳴を上げる。
「きゃあ!ちょ、ちょっとローズさん!貴女一体何をしてるの!?」
「何って、少年の濡れた全身を乾かしてやってるんだが?」
「そうだけど、アレじゃ十六夜君が死んでしまうでしょう!?」
飛鳥が鬼気迫る表情でローズに言い寄る。が、ローズの表情に焦りはない。
「そろそろか」と呟いて、ローズは十六夜の腕を離す。
すると十六夜の全身を包んでいた火が消滅し、彼は火傷の痕が一つもない無傷な状態で立っていた。
「ハハ、いきなりだったから少しビビっちまったが………マジで髪や服が乾いてやがる」
「………え?十六夜君、熱くなかったの?」
「いんや全然。俺の推測では、龍ロリが燃やしたのは服や体じゃなくて、服や髪に付着した水分だけだろ?」
十六夜は心配そうに声をかけてきた飛鳥に無事を伝え、ローズのさっきやったことを推測した。
それにローズは「ほう」と感心そうに十六夜を細めた瞳で見つめて答えた。
「如何にも。我が【フォティア】―――火で燃やしたのは少年の全身に付着した水分だけだ。それらを火で熱して蒸発させたというわけだ」
「―――だとよ。どうする?お嬢様と春日部も乾かしてもらったらどうだ?」
提案する十六夜。飛鳥と耀は顔を見合わせて頷き、
「熱くないのなら、私達もお願いできるかしらローズさん?」
飛鳥が代表して頼むと「無論だ」とローズは答えて、飛鳥と耀の腕に触れて先程と同じ方法で乾かしてあげた。
β
ローズに乾かしてもらった三人。その中の一人―――十六夜が「さて」と呟き、
「服も乾いたことだし、そろそろ其処に隠れている奴にでも話を聞くか?」
「(―――!?)」
彼の言葉に、物陰に隠れていた青髪ウサ耳の少女はドキッとして跳び跳ねた。
そんな彼女にローズ達の視線が集まる。
「何だ、貴方も気付いていたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気付いていたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でも分かる」
「アレは隠れているとは言えぬよ」
「………へえ?面白いなお前ら」
軽薄そうに笑う十六夜。目は笑っていないが。
ローズに乾かしてもらったとはいえ、理不尽な招集を受けた十六夜・飛鳥・耀の三人は、殺気の籠った冷ややかな視線を青髪ウサ耳の少女に向ける。
その視線を受けて青髪ウサ耳の少女はやや怯む。
「や、やだなあ御三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んでしまいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵で御座います。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いて頂けたら嬉しいで御座いますヨ?」
「断る」
「却下」
「御断りします」
「あっは、取り付くシマもないですね♪」
バンザーイ、と降参のポーズを取る青髪ウサ耳の少女―――黒ウサギ。
しかし黒ウサギはめげずに、自分に殺気ではなく物珍しそうな視線を向けてくるローズにも訊いた。
「えと、そちらの御子様は黒ウサギの御話を聞いて頂けますか?」
「………ん?我か?………御子様ではないが、話くらいは聞いてやろう」
「ありがとうございます!」
黒ウサギはまともな方が一人いたことに喜びを感じた。その少女は〝神格〟持ちで圧倒的な存在感を放ってはいるが。
とはいえ、話を聞いてもらうのはローズだけとはいかない。他の三人は問題児だが、彼らを喚び出した黒ウサギには責任がある。けれどどうやってあの三人に接するべきかと悩んでいると、
「えい」
「フギャ!」
いつの間にか耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、彼女の青いウサ耳を根っこから鷲掴みにして力一杯引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
そう言って、今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。
「………じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待―――!」
今度は飛鳥が左から。左右に力一杯引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。
「そ、其処の御子様!助けてください!」
「………ふむ。ここは
「くく」と笑いながら傍観に徹するローズ。黒ウサギは恨めしそうな瞳で彼女を睨みつけ、
「(前言撤回!あの御子様も、やっぱり問題児なのですよ―――!)」
心の中でそう絶叫したのだった。
β
「―――あ、有り得ない。有り得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。其処の御子様は助けてくれませんでしたし、学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。
ローズ達は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。
黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて説明を開始した。
〝ギフトゲーム〟。それは特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた〝恩恵〟を用いて競い合うためのゲーム。
〝箱庭〟の世界とは、強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活出来るために造られた
そしてこの〝箱庭〟で生活するにあたって、数多とある〝コミュニティ〟に属さなければならない。
〝ギフトゲーム〟の勝者は、ゲームの〝
その〝主催者〟は様々で、暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもある。
前者は、自由参加が多いが〝主催者〟が修羅神仏なだけあって凶悪且つ難解なものが多く、命の危険もある。が、見返りは大きく〝主催者〟次第だが、新たな〝
後者は、参加のためにチップを用意する必要があり、参加者が敗退すればそれらは全て〝主催者〟のコミュニティに寄贈される
チップは様々で、金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭け合うことも可能。但し、ギフトを賭けた戦いに負ければ自身の才能も失う。
ゲームの始め方は、コミュニティ同士のゲームを除けば、其々の期日内に登録すれば可。商店街でも商品が小規模のゲームを開催している。
この〝箱庭〟の世界でも強盗や窃盗は禁止、金品による物々交換も存在する。ギフトを用いた犯罪などはNG。そんな不逞な輩は悉く処罰される。
だが、〝ギフトゲーム〟の本質は真逆で、一方の勝者だけが全てを手にする
但し、〝主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しており、奪われたくなければゲームに参加しなければいいだけのこと。
黒ウサギは一通りの説明を終えたようで、一枚の封書を取り出した。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界に於ける全ての質問に答える義務が御座います。が、それら全てを語るには少々御時間が掛かるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティで御話させて頂きたいのですが………宜しいです?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。質問してないのはローズも同じだが、直感的に質問内容が彼と同じだと判断して黙って聞くことにした。
軽薄な笑みが消えた十六夜に気付いて、黒ウサギは構えるように聞き返した。
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問い質したところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
そう言って、十六夜は視線を黒ウサギから外し、飛鳥・耀・ローズの順に見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
そして彼は何もかもを見下すような視線で一言、
「この世界は………面白いか?」
「―――――」
その問いの返事を、ローズ達は無言で待つ。
それに黒ウサギは笑顔で答えたのだった。
「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加出来る神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証致します♪」
【フォティア】―――ギリシャ語で意味は〝火〟。
【フォティア】―――無から火を生み出し、対象を焼き尽くす能力。
今回は〝水分〟を対象に設定して、それだけを焼き尽くした。