問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
―――東と北の境界壁。四〇〇〇〇〇〇外門・三九九九九九九外門、サウザンドアイズ旧支店。
四人が転移した瞬間、熱い風が頬を撫でた。高台からは街の一帯が展望出来る。
飛鳥は大きく息を呑み、胸を躍らせるように感嘆の声を上げた。
「赤壁と炎と………ガラスの街………!?」
「ふむ?天を衝きそうな程巨大な赤壁………あれが境界壁か?」
ローズも物珍しそうに赤壁を見上げて呟く。
そこから掘り出される鉱石で彫像されたモニュメントに、境界壁を削り出すように建築したゴシック調の尖塔群のアーチと、外壁に聳える二つの外門が一体となった巨大な凱旋門。
遠目からでも分かる程に色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊に瞳を輝かせる飛鳥。
「昼間のはずなのに、夕暮れ時みたいな感覚………」
「ああ。そう見えるのは街の装飾も関係すると思うが、境界壁の影に重なる場所を朱色の暖かな光で照らす巨大なペンダントランプが数多に点在してるからだろうな」
耀の呟きに十六夜が境界壁を見て応える。
ふと街に目を向けた十六夜は、二足歩行で街中を闊歩しているキャンドルスタンドを見つけて喜びの声を上げた。
「へえ……!九十八万キロも離れているだけあって、東とは随分と文化様式が違うんだな。歩くキャンドルスタンドなんて奇抜な物、実際に見る日が来るとは思わなかったぜ」
「そうだな。調べてみたが違うのは文化だけではないようだぞ十六夜。其処の外門から外に出た世界は真っ白な雪原で、それを箱庭の都市の大結界と灯火で、常秋の様相を保っているそうだ」
早速ギフトで調べたローズが答えた。十六夜は街に目を向けたまま頷く。
「ふぅん。厳しい環境が在ってこその発展か。ハハッ、聞くからに東側より面白そうだ」
「………それを白夜叉が聞いたら拗ねると思うぞ?〝東側だって良いものは沢山在るっ!おんしらの住む外門が特別寂れておるだけだわいっ!〟―――という風にな」
「ヤハハ、そうに違いねえな!」
「ヤハハ」と笑って頷く十六夜。
一方の飛鳥は、胸の高まりが静まらないようで、美麗な街並みを指差して熱っぽく訴える。
「今すぐ降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょうローズさん?」
「いや、何故其処で我の許可が必要なんだ?我は汝らのメイドだからな。後は好きにしろ」
「ええ、そうね。じゃあ早速―――」
「「「此処から街中まで転移よろしく、メイドさん」」」
そういうことか、とローズは溜め息を吐いて頭を抱えた。高台から降りる行為だけでも、空間転移を利用するつもりらしい。問題児三人は『使えるメイドはとことん使う』という風にローズをこき使う気満々なのだ。
しかしメイドであるローズに拒否権はない。やれやれだな、とローズは指を鳴らして問題児三人を街中へ転移させようとしたその時、
「「其処まで(です・だ)ッ!!」」
「「「―――ッ!?」」」
「ぬ?」
聞き覚えのある二つの声に、問題児三人はドキリとして恐る恐る振り返る。ローズも転移するのをやめて振り返る。
其処に居たのは、片や桃色の髪を戦慄かせ、片や黄金の御髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振り撒く黒ウサギと吸血鬼メイドのレティシアの姿だった。
早すぎる登場に驚愕の表情を見せる問題児三人だったが、ふと十六夜が黒ウサギを見て、
「―――あん?何でずぶ濡れなんだ黒ウサギ?」
「………っ!こ、これは………十六夜さん達を捜しに白夜叉様の下へ訪れたら、いきなり白夜叉様に襲われて池に落下したからです―――!!」
黒ウサギが胸元を隠して恥じらいながら答えると、彼女の後方から歩いてきた白夜叉が「呵々!」と哄笑を上げ、
「如何にも。犯人は―――この私だッ!!」
「黙らっしゃいこの御馬鹿様ッ!!」
スパァーン!と黒ウサギのハリセンが白夜叉の頭に一閃された。
十六夜はどうして此処に白夜叉が来ているのか不思議に思ったが、それよりもと白夜叉に視線を向けて右手を掲げ、
「白夜叉、超グッジョブ!」
「うむ」
ビシッ!と親指を立てる十六夜。白夜叉も「うむ」と頷いて親指を立てて返した。
それを見てガクリと項垂れる黒ウサギ。そんな彼女の下へジンとリリが駆け寄って励ます。
一方のレティシアは怒りの表情のままローズを睨み付け、
「我が主ッ!眷属である私をほったらかしにして、主殿達と北側へお楽しみとは一体どういう了見だッ!!」
「ぬ?」
「へ?怒るところ其処なのですかレティシア様!?」
レティシアの激怒した理由に驚く黒ウサギ。ジンとリリも「え?」ときょとんとしている。
ローズは「ふむ」と少し考え込み、
「………ふふ。そう言って我を油断させて捕らえる算段だな?悪いがその手には乗らぬぞレティシアよ」
「は?」
「ん?我の勘違いか?」
「………むっ、我が主はそんな酷いことを言うのか?悲しいな………」
レティシアは悲しそうに紅い瞳を揺らしてローズを見つめる。それにローズは「ふむ」と小首を傾げて、レティシアの眼前に空間転移する。
間近に迫ったローズだが、レティシアは動こうとしない。まさか本当に純粋に怒っているだけか?とローズはそう思い、
「ふふ、それは済まなかったな。眷属の気持ちも理解出来ぬとは我もまだまだ―――」
レティシアの頭を撫でようと手を伸ばした―――瞬間。レティシアはほくそ笑み、
「もらったぞ!」
「ぬっ!?」
ローズの手首を、レティシアが第三宇宙速度で伸ばした手で掴み掛かった。
不意打ちのタイミングは完璧。速度もこれならいける。捕らえた―――とレティシアはローズの捕獲を確信した。だが、
「甘いな」
「!?」
レティシアの手はローズを捕らえることなく虚空を掴んだ。空間転移で避けられたのだ。
上空へ転移したローズは、レティシアを見下ろして「くく」と笑った。
「中々良い線ではあったが、我を捕らえるならばもう少し油断させねばな?」
「くっ………!いけると思ったのだがな」
悔しそうにローズを見上げるレティシア。そのやり取りを見ていた十六夜がハッと思い出したように叫ぶ。
「ローズ!今のうちに俺達を何処かに転移しろ!」
「ふむ?それもそうだな」
「………っ!?」
黒ウサギがしまった、という風に舌打ちして立ち上がる。が、もう遅い。
ローズは頷き、十六夜達三人を転移しようと指を鳴ら―――
「駄目です!それは僕が認めません………!」
「ぬ?」
―――せなかった。ジンが慌てて待ったを掛けたからだ。
ローズがジンの言うことに従ったのは、十六夜が『御チビ様はリーダーだから逆らうな』という言葉を思い出したからだろう。
そしてコミュニティのリーダーということは、十六夜達よりもジンの命令を従うべきだとローズは判断したのだ。
ローズは「ふむ」とジンを見据えて、
「それは我への命令か?ジンよ」
「はい、命令です。ローズさんは大人しく僕のところへ来て捕まってください」
「………ん、命令とあらば従わぬわけにはいかないな」
ジンの命令に従ったローズは、彼の目の前に転移して大人しくした。ジンはそんな彼女に申し訳なく思ったが、黒ウサギ達の為だと首を振ってローズの手首を取って捕獲した。
その様子を見た黒ウサギとレティシアは安堵した。ローズがメイドで良かったと。
もし彼女がメイドじゃなかったら、十六夜達を何処かに転移させ、逃がしてしまうだろうから捕まえるのが困難になっていただろう。
一方の十六夜達は「チッ」と舌打ちしていた。だが同時に笑みも浮かんだ。このままあの二人がデートコースに向かってくれれば儲けものだと。
黒ウサギは怪しい笑みで十六夜達三人に向き直り、
「残念で御座いましたね問題児様方?これでローズさんの助けはなくなりました。皆様モ大人シク黒ウサギニ捕マッテクレマスネ?」
「「「だが断るッ!!」」」
十六夜は飛鳥を抱き抱えて展望台から飛び降りる。耀もグリフォンのギフトで旋風を巻き起こして上空に逃げようとするが、
「逃がさないのです!!」
一瞬で間を詰めてきた黒ウサギにブーツを掴まれあえなく御用となった。
耀を引き寄せ、胸の中で強く抱き締め、黒ウサギは耀の耳元で囁く。
「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ♪」
「りょ、了解」
反論を許さない黒ウサギの片言の声に、耀は怯えながら頷く。
黒ウサギは白夜叉に向かって耀を投げ付ける。三回転半して吹っ飛んだ耀と白夜叉は悲鳴を上げた。
「きゃ!」
「グボハァ!お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしは些か礼儀を欠いておらんか!?コレでも私は東側のフロアマスター―――!」
「耀さんの事をお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」
聞くウサ耳を持たずに叫ぶ黒ウサギ。白夜叉は勢いに負けて頷く。
「ぬっ………そ、そうか。良く分からんが頑張れ黒ウサギ」
「はい!行きますよレティシア様!」
「ああ。ジンとリリも我が主が逃げないようにしっかり見張っておいてくれ」
「「はい!」」
展望台から飛び降りる黒ウサギと、黒い翼を広げて空を舞うレティシア。
二人の背を見送ったジンは、視線をローズに戻すと、何故か彼女の頬が赤らんでいた。
「………どうしたんですかローズさん?顔が赤いようですけど」
「それはジンが我の手首をずっと掴んでいるからだろう!?いい加減に離せ!」
やや怒り気味に言うローズ。ジンは「あっ」と声を洩らして顔を真っ赤にすると、ローズを離そうとした。が、リリにそれを制された。
「ダメだよジン君!レティシア様からローズ様をお願いされたばかりでしょ!?その手は絶対に離しちゃダメ!」
「いや、でも………」
「でも、じゃないの!ローズ様が使用人の恰好をしてるからって油断したら逃げられちゃうよ!?ダメったらダメ!!」
「う………分かったよ」
リリに説得されてジンは渋々従った。ローズはムッとした顔でリリを睨んだ。
「狐の娘よ。我はメイド故、命令には忠実だぞ?ジンの言われた通り大人しくもしてるんだが」
「そうですね。ですがすみませんローズ様!口約束よりもこの方が確実なのです!」
リリにそう言われて「ぬっ」と押し黙るローズ。ジンに未だに手首を握られている為、頬は赤いままだ。
赤面する二人をニヤニヤと見つめていた耀が、ふと良い案を思い付いたのか笑みを深めて提案した。
「ジン、ローズ。そのまま手を繋いで街を回ってきたら?」
「「は?」」
その提案に固まるローズとジン。手を繋いで街を回る?何だその恥ずかしすぎるイベントは!とジンが思い、
「よ、よよよよ耀さん!?それってつまり―――ローズさんとデートしろって事ですか!?」
「YES♪デートなのですよ!」
耀が黒ウサギの真似をして首肯する。ジンが焦る中、ローズは小首を傾げて、
「何故我がジンとデートをせねばならぬ。別に恋人でも何でもないだろう?」
「………っ!」
ローズの言葉にジンの表情が悲しそうに歪む。彼女が興味あるのは自分を倒せるだけのギフトを持つ十六夜であり、ジンなど欠片も興味がなかった。分かってはいたが、突き付けられた現実にジンは悲しくなってしまったのだ。
それを察したリリはジンを可哀想に思うも、同時に安堵していた。ローズがジンに興味がないということを知って。
同じく察した耀が深い溜め息を吐くと、呆れたような顔でローズを睨み、
「………鈍感」
「ぬ?鈍感とは何の事だ?我にはさっぱり―――」
「もういい。ローズ、今からジンとデートしてきて」
「え?」と耀の言葉にジンとリリが顔を上げる。ローズは「ふむ」と耀を見据えて、
「それは我への命令か?耀よ」
「うん。これはとても重要な命令。拒否は駄目絶対」
「そうか。ならば応じる外ないな」
ローズは頷き、ジンを抱き抱えた。
「え!?ちょ、ローズさん!?」
「済まぬなジンよ。少し付き合ってもらうぞ」
ローズはニヤリと笑い、ジンを胸にしっかり抱き締め、展望台から飛び去っていった。
その様子を唖然と見つめたリリ。耀はほくそ笑みながらも、ジンの健闘を祈る。
白夜叉はローズ達の背を見送り、ボソリと呟くのだった。
「あのジンがローズちゃんを………くく、面白くなってきたのう」