問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
それから数分後。ジンは何も食べずに北側へ来ていた為、お腹が空いていた。それにより二人は出店で何か食べることにした。
ローズは「ふむ」とどの店にするか選び、チョコバナナを一本だけ購入した。
ジンは「は?」と目を瞬かせて、ローズに訊いた。
「………どうして一本だけなんですか?」
「ん?それは二人で食べるからに決まっているだろう?」
「え………!?」
ジンはぎょっとした顔でローズを見る。しかし彼女はジンの事など無視して、近くに在ったベンチに座り、隣をペシペシ叩いた。
「ほら。ジンも座れ」
「は、はい」
ローズに促されて隣に座るジン。物凄く嫌な予感しかしないが、これはデートなのだから、と自分に言い聞かせる。
そんなジンの肩をチョンチョンと軽く叩いてローズが言う。
「ふふ、ジンよ………あーんだ」
「ッ!?」
ジンが振り向くと、ローズがチョコバナナを食べさせようとしてきた。
予想は付いていたが、まさかこの人通りの多い場所で『はい、あーん♪』をしてくるとは思いもしなかった。
ジンは暫しローズとチョコバナナを交互に見比べて―――やがて意を決したようにチョコバナナの端に齧り付く。
「………美味しいです」
「ふふ、それは良かった」
恥ずかしがりながらも素直な感想を口にするジン。それを見て満足そうな顔をしたローズ。
ローズは「では我も」と、ジンが口付けた部分を口に運んで齧り、モグモグと美味しそうに咀嚼する。
それにジンは顔から火が出そうな程真っ赤になって狼狽した。
「な、なななな―――っ!?」
「………ん?どうしたジン?」
ローズは、狼狽するジンを「ほう」と面白そうに見つめた。
「何だ、間接キスされたくらいで大袈裟ではないかジンよ?………くく、可愛い坊やだ」
「か、可愛い………ッ!?」
ローズに『可愛い』と言われて、ジンは恥ずかしさと嬉しさの余り目を回しながら気絶してしまった。
ベンチの背に凭れながら器用に気を失ってしまったジンを、ローズはそっと自分の方へ倒して、彼の頭を膝上に乗せる。
ローズはジンの頭を優しく撫でながら、仕返し成功とほくそ笑んだ。
「………しかし、ジンもからかえば中々面白い坊やだな。間接キスだけでああまでなるとは」
口をパクパクさせながら狼狽するジンの顔を思い出して、「くく」と喉を鳴らしながら笑うローズ。
ローズは今まで、ジンに興味はなかったが、今回で〝からかい甲斐のある少年〟にランクアップした。
次はどんな風にからかってやろうか、といつの間にかローズの膝上で気持ち良さそうな寝息を立てていたジンを見つめながら、ニヤリと笑うのだった。
αε
「―――凄く綺麗な場所。私の故郷にはこんな場所は無かったわ」
ローズとジンがデート中、飛鳥と十六夜もデートもどきを楽しんでいた。
飛鳥は煉瓦とカットガラスで彩られた赤窓の歩廊の中心にある、龍のモニュメントの前で休憩していた。
対照的に十六夜は、大きな翠色のガラスで作られた龍のモニュメントの周囲をグルグルと回って眺めている。感心したように見上げた十六夜は、静かに呟いた。
「へえ………こんなに大きなテクタイト結晶、初めて見た」
「テクタイト結晶?ガラスではなく?」
「いや、テクタイトは天然ガラスの一種さ。隕石の衝突で生まれたエネルギーと熱量によって合成した希少鉱石。有名なのはドイツのネルトリンガー・リースに降った隕石とかだな」
「ドイツの………隕石?でも箱庭の世界に隕石なんて降るのかしら?」
「ああ、俺も疑問に思ってた。色からしてモルダバイトの類似品だと思うんだが………ん?」
十六夜は足を止め、翠色のモニュメントに掲示された看板に目を落とす。
『出展コミュニティ〝サラマンドラ〟
タイトル:霊造のテクタイト大結晶によって彫像された、初代頭首〝星海龍王〟様
製作者・サラ』
十六夜はやや沈黙した後、目を疑うようにモニュメントを見上げた。
「霊造ってことは………オイオイ、人為的に造り出したテクタイト結晶ってことか?」
「天然物ではなく?」
「ああ。製作者は人間じゃないみたいだが………ふぅん。この製作者のサラって奴、面白そうだな。確か御チビが知っている奴だし、機会が有ったら会ってみるか」
ニヤリと物騒に笑いながら龍のモニュメントを見上げる十六夜。
彼の横顔を不思議そうに見つめていた飛鳥は、ポツリと声が洩れる。
「前々から思っていたけれど………十六夜君は、どうしてそんなに博学なの?もしかして、こっそりローズさんから色々教わってるんじゃ」
「失礼なことを言うなお嬢様。まあ、確かにローズに頼めば知りたいことを何でもギフトで調べて教えてくれそうだが………俺の方は博学というよりは雑学程度だ」
「そう。………あら?あれって十六夜君が北側に来て早々見付けた歩くキャンドルスタンドじゃないかしら?」
「ん?おっ、本当だ!」
飛鳥が二足歩行で歩くキャンドルスタンドを指差して言うと、十六夜は嬉々として駆けた。飛鳥を置き去りにして。
飛鳥は、そういえばこれはデートではなく散策だったわね、とちょぴり残念そうに肩を竦ませ、十六夜の後を追う。
歩くキャンドルスタンドも美術展の作品らしく、首(?)から〝ウィル・オ・ウィスプ〟という看板を下げていた。
「二足歩行のキャンドルスタンドに浮かぶランタン………ならカボチャのお化けはいないのかしら?ハロなんとかっていうお祭りに出てくる妖怪なのだけど、十六夜君は知ってる?」
「んあ?」
突然の飛鳥の言葉に、十六夜は足を止めて目を丸くする。
「おいおい、箱入りが過ぎるぜお嬢様。カボチャの怪物って、ジャック・オー・ランタンの事だろ?今時ハロウィンぐらい知っておけよ―――と、そうか。お嬢様は戦後間もない時代から来たんだっけ?」
半身だけ振り返って質問する十六夜。
―――日本でハロウィンが広く認知され始めたのは一九九〇年代。最古まで遡っても一九八〇年代の事である。
「そう………十六夜君の時代には、もうハロウィンは珍しいものではないのね」
「まあな。お嬢様はハロウィンみたいなお祭りが好きなのか?」
「好きという程のものじゃないわ。ただ幼い頃に小耳に挟んだ時は………とても素敵な催し物だと思ったの」
飛鳥は空を仰ぎ、遠い場所を見るように瞳を細める。自嘲の笑みを浮かべて。
「私が居た場所は、本当につまらない場所だったわ。財閥の令嬢なんて言えば聞こえはいいかもしれないけれど………肝心の両親はもう居ないし、人心を操る力なんて持って生まれたせいで、隔離のような形で寮制の学校に閉じ込められていたもの」
「………へえ?それはお嬢様らしくねえな。さっさと抜け出せばよかったじゃねえか」
「そう、それよ。あの手紙が来なかったら、帰省に乗じて出て行くつもりだったの。行き先は………そうね。終戦のお祝いに、さっき話していたハロウィンでも経験しに行っていたわ」
歩廊の真ん中でおどけて笑う飛鳥。十六夜はその瞳に、哀愁のようなものを感じていた。
「〝
「大きなカボチャを被りながら?」
「そうそう!ああだけど、そうね。今の私なら魔女でも良いわ。似合うと思わない?」
「そうだな」と相槌を打つ十六夜。飛鳥はクルリとスカートを大きく靡かせ、一回転する。
「私………箱庭に来て本当に良かったわ。こんなに素敵な場所に来る事が出来たんだもの。噂のハロウィンを経験する事は出来なかったけど………実家で飼い殺しにされる人生なんかよりも、よっぽど明日に期待を持てるもの」
「………そうかい。そりゃ何よりだな」
クルリクルリと歩廊の真ん中で廻る彼女を、十六夜は静かに見つめていた。
クルリクルリ―――ステップを踏んで、ターンターン。飛鳥は飛び込むように十六夜の顔を覗き込んだ。その表情に陰は無く、何時もの小憎たらしい―――否、彼との距離が近過ぎたせいか頬を赤らめていた。
飛鳥は、十六夜から視線を逸らして言う。
「………そ、それじゃ行きましょうか。一か所にずっと居たら黒ウサギ達に見付かるわ………っ!」
「ヤハハ、そうだな。それはそうなんだが………なあ、お嬢様」
「何?」
「ハロウィンが、元々は収穫祭だってことは知ってるか?」
「え?」と突然の質問に飛鳥はきょとんとして十六夜を見る。彼は知らぬ顔で質問を続ける。
「序でに言うとだ。〝ノーネーム〟の裏手には莫大な農園跡地があってだな。あの土地を復活させれば、コミュニティも大助かりだと思うんだが………如何なものだろう?」
「え、ええ。そうね。それは知ってるわ」
知っている、が十六夜の質問の意図が分からない飛鳥は、小首を傾げて困った表情を向ける。
ニヤリと笑った十六夜は、飛鳥の顔に顔を近付け、
「農園を復活させて―――何時か俺達で、俺達のハロウィンをしよう―――という提案なんだが、お嬢様はどう思う?」
「………それは私の為に言ってくれているの十六夜君?後、か、顔が近いのだけれどっ」
「ん?そうだが?それと、後者のはわざとな」
「―――ッ!?そ、そう。とても嬉しい提案をありがとうね十六夜君………っ!」
顔を赤くしながら飛鳥は十六夜の顔を押し返す。「ヤハハ」と笑いながら彼女から離れる十六夜。
飛鳥は気を取り直して「こほん」と咳払いし、
「つ、つまり十六夜君が言いたいのは―――私達のコミュニティで………ハロウィンのギフトゲームを主催する、ということ?」
「ああ。箱庭で過ごす以上、やっぱり〝
十六夜の言葉に、パァッと瞳を輝かせた飛鳥は、両手を合わせて感嘆の声を上げる。
「ええ、素晴らしい提案だわ!それならコミュニティも助かるし、とても楽しそうだもの!」
「ハハ、流石に話が分かるなお嬢様!じゃあ俺達が最初に〝主催者〟をするギフトゲームはハロウィンで予約しておこうぜ。後、どんなアレンジをするかも考えておかないとな」
コクコクと勢いよく頷く飛鳥。その瞳は熱っぽい。頬を緩ませ、はにかんで笑う彼女は、未来の主催を思い描いて夢心地に呟く。
「私達が主催するハロウィンか………ふふ。じゃあ収穫祭を行う為にも、まずは農地を復活させないといけないわね」
「YES。その為には御二人の力が無ければ実現出来ないのですよ」
「ええ、そうね―――え?」
飛鳥はゆっくりと背後に目をやる。するとそこには―――どす黒いオーラを立ち上らせて怪しく笑うダークウサギ………ではなく黒ウサギが居た。
余りにも自然に黒ウサギが会話に割り込んできた為、一瞬頷きかけた飛鳥。
その黒ウサギはニコォリと邪悪に笑って、
「〝ノーネーム〟でハロウィンをやりたいのでしたら、我々のコミュニティから〝脱退〟するのは可笑しいで御座いますね?ですので御二人様―――オトナシク黒ウサギニ捕マッテクレマスヨネ?」
「「だが断るッ!!」」
二人は即答し、十六夜が歩廊にクレーターを作る程の踏み込みで駆け出す。飛鳥は彼とは反対方向に逃げるが、そこにはレティシアが待ち構えていた。
「ふふ。逃がさないぞ飛鳥」
「え?レティシア!?くっ………!」
飛鳥は、メイドの癖に生意気よ!と内心で叫びながらギフトカードを取り出し―――その隙に一瞬で間合いを詰めてきたレティシアに御用となった。
レティシアに捕まってしまった飛鳥は、最後に一声、十六夜に向かって叫んだ。
「十六夜君!貴方が最後の一人よ!簡単に捕まったら許さないわ!」
「了解、任せとけお嬢様!」
「逃がさないのですッ!!今日という今日は堪忍袋が爆発しました!捕まえたら黒ウサギの素敵なお説教を長々と聞かせて差し上げるのですよーッ!!」
「ヤッハハハハハ!」
黒ウサギの言葉に、十六夜は心底楽しそうに笑って歩廊を駆ける。追いかけっこもいよいよ終盤に差し掛かったのだった。