問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
「アレを見ろ!ウサギだ!〝月の兎〟が誰かと戦っているぞ!」
「〝箱庭の貴族〟がこんな最下層に!?」
「まさかサンドラ様の就任式の為にわざわざ上層から祝いに来たのか!?」
騒ぎを聞き付けたギャラリー達が、黒ウサギを見上げて叫ぶ。
しかし十六夜と黒ウサギは観衆を無視して、激しく睨み合っていた。
「………ルールを確認するぜ。黒ウサギは俺を捕まえれば勝ち。俺は今日一日逃げ切れば勝ち。そうだな?」
「YES。黒ウサギは十六夜さんを捕まえてお説教します。十六夜さんが逃げ切れば―――」
「そう、それだ。実は手紙に書いたのは冗談半分の内容だったんだが」
「ほほう?ほほほ~う?コミュニティの脱退を賭けた勝負を冗談で持ち掛けたと?それはそれは、随分と笑えない話で御座いますねえ」
キッと黒ウサギが十六夜を睨む。
コミュニティの脱退を賭けた勝負。それは飛鳥が書いたものを、ローズがレティシアへ転移させた手紙の内容である。
『黒ウサギへ。
北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。
貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアも必ずね。貴女の主が待ってるわ。
私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合四人共コミュニティを脱退します。死ぬ気で捜してね。応援しているわ。
P/S 現場に居合わせたジン君とリリは拉致していきます』
黒ウサギの怒りはこれが理由であり、しかも冗談と知って更に怒り度が増している。
そんな彼女を見て、十六夜は肩を竦ませて笑う。
「まあ、そうだな。確かに冗談にしては質が悪い。悪戯ってのは、後で笑って誤魔化せるぐらいじゃないと可愛げも無い。其処は認める」
「………大人しく降参すると?」
「馬鹿言え。此処まで盛り上げといて何もしないなんて、ギャラリーが許さねえよ」
十六夜は、クイッと親指で眼下を指す。其処でようやく二人は観衆に目を向けた。少人数だったのがいつの間にかかなりの人数になっている。
「其処で提案なんだが。俺と黒ウサギだけで、短時間の別ゲームをしないか?」
「………!それは良い提案で御座いますね!」
「だろ?―――つかやる気満々だなオイ」
「当然で御座います!飛鳥さんだけお楽しみなのは許せないのですから!」
「は?」
「―――はっ!?」
黒ウサギは慌てて口を塞ぐ。余計な言葉を口にしてしまった、と頬を紅潮させている。
そんな彼女を十六夜が「へえ?」とニヤニヤ顔で見つめる。
「何だ?もしかして俺がお嬢様とデートっぽいことをしてたから妬いてんのか黒ウサギ?」
「べ、別に妬いてなんかいません!………ただ、その………狡い、とは思いましたが」
「つまり、妬いてんじゃねえか」
「で、ですから黒ウサギは!妬いてなんかいませんもんっ!!」
十六夜がからかうと、妬いてない、と意地になる黒ウサギ。
そんな彼女を、十六夜は必死に笑いを噛み殺して話を戻す。
「まあいいや。んで、チップについてなんだが―――」
「そ、それなら互いに
「は?」
「十六夜さんのことですから、謝罪代わりに黒ウサギのチップは無しでいいとか言いかねません。しかしそれでは黒ウサギが
面白くない、とまるで十六夜みたいな事を言う黒ウサギ。いや、もしかしたら、まるでではなく―――故意で真似しているのかもしれない。
十六夜は、黒ウサギの癖に生意気だな、と内心では思いながらも、同時に、これは面白い、と笑みが零れた。
「………ハッ、お前がそれで良いなら俺も構わねえが―――後悔すんなよ?」
「はいな。十六夜さんこそ、黒ウサギに負けても恨みっこ無しで御座いますよ?」
十六夜の挑発を、挑発で返す黒ウサギ。互いの自由を賭けたギフトゲームはこうして始まった。
『ギフトゲーム名〝月の兎と十六夜の月〟
・ルール説明
・ゲーム開始のコールはコイントス。
・参加者がもう一人の参加者を、〝手の平で〟捕まえたら決着。
・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。
宣誓 上記のルールに則り、〝黒ウサギ〟〝十六夜〟の両名はギフトゲームを行います。』
αζ
一方、飛鳥とレティシアはクレープを買い、食べ歩きしていた。
飛鳥がクレープを珍しそうに見つめていると、レティシアは小さな口でかぶり付きながら、そんな彼女を不思議そうに見上げて訊いた。
「飛鳥はこういった食べ物を知らないのか?」
「え、ええ。温かい皮で包んで、中身は冷たい洋菓子。とても美味しそうなんだけど………そのまま齧り付くというのは少し品が無いわ。どう頑張っても口回りが汚れるもの」
「そうか?私はこの温かくて柔らかい皮を噛み破いた時に溢れる赤くて甘いドロリとしたソースが、口の中で滑りながら広がる感触が好きなのだが」
「吸血鬼に言われるとゾッとするわね」
思わず苦笑いする飛鳥。だがふと、あることを思い出してレティシアに訊いてみた。
「吸血鬼と言って思い出したのだけど………レティシアはローズさんの血を戴いて強くなったのよね?」
「ん?ああ、そうだな。それがどうしたんだ?」
「そう。………それでなんだけどレティシア。私がこんなことを聞くのは可笑しいかもしれないのだけど………ローズさんの血は美味しかったかしら?」
「………は?」
飛鳥のまさかの問いに、レティシアは思わず素っ頓狂な声を上げた。彼女がそんな質問をしてくるとは思いもしなかったのだろう。
レティシアはフッと笑って頷き、
「そうだな。我が主の血はとても美味かったぞ?主の白い柔肌に牙を突き立て鮮血を啜る………ふふ、今でも鮮明に思い出せるな。その瞬間と、主の甘く愛おしい血の味が」
「………そ、そう」
恍惚とした表情で答えるレティシア。飛鳥は、改めて彼女は吸血鬼なんだなあ………と思った。
だがふと、ある懸念が浮上し、飛鳥は訊いた。
「………ねえ、レティシア。まさかとは思うけど、ローズさんを狙ってたりは」
「ん?………いや、流石に私はそういう趣味はないよ。確かに主のことは好きだが、私はあくまで眷属として主を慕っているだけだ」
「そう。それなら良かったわ」
なら、ジン君の障害にはならないわね、と一人安堵の息を洩らす。
そんな飛鳥を、レティシアは怪訝な表情で見つめて、
「………もしかして飛鳥も我が主の血を狙ってるのか?」
「は?そ、そんなわけ無いでしょう!?私は吸血鬼じゃないもの。誰かの血を飲みたいなんて思いもしないわ」
「そ、そうか。なら良いんだ」
今度はレティシアが安堵の息を吐く。そして、我が主の血は私だけのものだからな、と内心で呟いた。
それはさておき、とレティシアが飛鳥を見上げて、
「お話をするのは構わないが、飛鳥は何時になったらそのクレープを食べるんだ?」
「………あ、そうね。チャレンジしてみるわ」
話題が逸れて、まだ一口も食べていないクレープを、レティシアの指摘で気付いた飛鳥は、齧り付いた。
「………美味しいわ」
「それは良かった。コレぐらいの食べ物で二の足を踏まれたのでは、南側には絶対に行けないからなあ」
「そ、そう。そんなに南側の食事は凄いの?」
「凄いなんてものじゃないぞ。向こうの料理は兎に角ワイルドなんだ。以前に〝六本傷〟の旗を掲げているコミュニティの店に入ったのだが、アレは凄かった。斬る!焼く!齧る!の三工程を食事だと説明された時は、流石の私も頭を抱えたよ」
フッと遠い目をして、思い出したのか小さく身震いするレティシア。
そんな彼女の姿に苦笑しながら、飛鳥はクレープを食べようとした。が、その時、視界の隅に小さな影が映った。鮮やかな切子細工のグラスを売る出店の棚の下に、尖った帽子の―――
「レティシア。あれは………何?」
「ん?」とレティシアは、飛鳥の指差す方向に首を傾け、目を丸くして驚いた。
指の先には―――手の平サイズしかない身長の、尖り帽子を被った小人の女の子が、切子細工のグラスをキラキラとした瞳で眺めていたのだ。
「あれは、精霊か?あのサイズが一人でいるのは珍しいな。〝はぐれ〟かな?」
「〝はぐれ〟?」
「ああ。あの類いの小精霊は群体精霊だからな。単体で行動している事は滅多にないんだ」
「そう」と相槌を打った飛鳥は、物珍しそうに尖り帽子の精霊に近付く。
背後から飛鳥の影が掛かったのか、尖り帽子の精霊は驚いて振り返り、二人の視線は自然に交差した。
「「………………………、」」
途端、「ひゃっ!」と愛らしい声を立てて逃げる尖り帽子の精霊。
飛鳥は、レティシアにクレープを預け、その小さな背中を追う。
「わっ、あ、飛鳥!」
「残りはあげるわ!ちょっと追い掛けてくる!」
嬉々として尖り帽子の精霊を猛追する飛鳥。そんな彼女の背を、レティシアは困ったように笑いながらクレープを齧り、見送ったのだった。
αζ
「………う、ん………」
ジンは、辺りが騒がしくなってきたせいか、目を開けた。あれから数十分は気絶してしまっていたらしい。
起き上がろうとして、ジンは頭を横にすると―――見覚えのある漆黒エプロンが視界に映った。
「え?」とジンは、以前にも同じことがあったような………と、デジャヴを感じ始めた。
頭の下に柔らかな感触。視界の隅に映る虹色の髪。そして間近に映る漆黒エプロン。
ジンはすぐさま、僕はまたローズさんに膝枕されてるんだ、と思った。もしかして、と彼はゆっくり視線をローズの顔に持っていき―――
「(や、やっぱり眠ってる!?)」
そう、彼女は地下書庫の時のように、ジンに膝枕したまま無防備にも寝顔を晒していたのだ。
ジンはゴクリ、と生唾を飲む。これは千載一遇のチャンスなのでは、と緊張が走った。
あの時とは状況が違う。問題児達及びリリもいない。更にはどういうわけか、賑わっていた人達の姿も無かった。
この場には、ジンとローズの二人のみ。準備は整っており、後は彼の勇気次第で〝スる〟か〝シない〟かが決まる。
ジンは、バクバクと鳴り続ける自分の心臓の音が、ローズに聴こえてしまわないかと冷や汗を掻きながらも、慎重に起き上がり、彼女の肩に手を置いた。
そして、ジンはゆっくりとローズの顔に顔を近付けて、彼女の唇に口付けを―――
「くく、随分と積極的ではないかジンよ?」
「―――ッ!!?」
―――することが出来なかった。ジンは心臓が飛び出しそうになる。何故なら、ローズは起きていたからだ。
ジンは慌ててローズから離れようとしたが、それを彼女に手首を掴まれて阻止された。
「何故逃げようとするジン?此処まで迫ってきたのは汝だろう?」
そう言って、ローズはジンの顎を持ち上げニヤリと笑う。彼は、今にでも飛び出してきそうな心臓を必死に抑え、
「そ、そうですけど!………あ、あれは!………そ、その………ローズさんが眠ってると思ったから―――!!」
「ほう?眠ってるからとな?………ふふ、だが状況がどうあれ、ジンは我のファーストキスを奪うつもりだったのだろう?」
「………は?初めてッ!!?」
ジンは思わず絶叫してしまった。ローズは、そんな彼の口を塞いで、
「戯け!そのような言葉を大声で叫ぶな!流石の我も恥ずかしいだろう!?」
「
ローズに口を塞がれたままの状態で謝るジン。彼女は、やれやれだな、と溜め息を吐いた。が、フッと笑ってジンを見つめ、
「………だがジンにしては中々だったぞ?故に、我から褒美をくれてやる」
「え?ほ、褒美って」
何ですか、とは続かなかった。何故なら、ローズが、ジンの額に口付けしたからだ。
ジンの顔は真っ赤に染め上がり、今日一番の狼狽を見せる。
「な、ななな、ななななななな―――――ッ!?!?」
「くく、どうしたジン?額にキスされた程度でそうなってしまっては―――
「~~~~~~~~~~ッ!!!?」
コッチは、とローズは自分の唇に指を当てて、ジンを挑発する。彼は、口と口のキスを妄想してしまったのか、頭の天辺から白い煙を発生させ、
「………………………きゅぅ」
また気絶してしまった。そんなジンを「くく」と喉を鳴らしながら、また彼に膝枕して頭を優しく撫でてあげるのだった。