問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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αη

『ギフトゲーム名〝月の兎と十六夜の月〟

 ・ルール説明

  ・ゲーム開始のコールはコイントス。

  ・参加者がもう一人の参加者を、〝手の平で〟捕まえたら決着。

  ・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。

 宣誓 上記のルールを則り、〝黒ウサギ〟〝十六夜〟の両名はギフトゲームを行います。』

 

 

 宣誓を交わすと、両者に羊皮紙が一枚ずつ手元に舞い落ちる。

 これはコミュニティ間の決闘ではなく、個人の間で取引される〝契約書類(ギアスロール)〟で、決着時に勝者の紙は命令権へと変化し、敗者の紙は燃える仕組みになっているそうだ。

 黒ウサギが十六夜にコイントスを譲り、十六夜はポケットから一枚のコインを手に取り、ピンと指で弾く。

 滑らかな弧を描いて落下していくコインを二人は見つめ―――……キン!という金属音が響いた瞬間、二人は動いた。

 黒ウサギは全力で後方に跳躍。それを見透かしていたかのように、十六夜が前に跳躍した。

 

「やはり黒ウサギの初手は見抜かれていましたか。流石は十六夜さんです!」

 

「当然。お前の考えはお見通しだぜ黒ウサギ!」

 

 黒ウサギは楽しそうに呟きながら、十六夜から距離を取ろうと後ろ向きのまま屋根を次々と飛び回る。

 十六夜は「ヤハハ」と笑いながら、黒ウサギとの距離を詰めようと屋根を駆けては跳躍して追い掛ける。

 本来なら、十六夜が()()()跳躍すれば一瞬で決着がついてしまうゲーム。しかしそれではつまらないし、何より足場が地面ではなく屋根上。踏み込みに失敗すれば屋根を壊して落下してしまうし、その隙を突かれれば一貫の終わりだ。

 リスク承知で一発目で勝負を決めるよりは、チャンスを窺って確実に勝利を掴む方が断然良い。

 それにこのゲームを楽しんでくれている黒ウサギの為にも、敢えて彼女に速度を合わせて暫しの間遊んでやろう、というのが十六夜の考えだった。

 一方の黒ウサギも、十六夜が本気を出していないことに気付いていた。尤も、彼女もまた全力ではないのだが。

 とはいえ黒ウサギの全力は、十六夜の全力―――第三宇宙速度超には程遠い。それでも〝ノーネーム〟の中でレティシアの次に速い走力を持ち、加えて高性能ウサ耳を持っている。

 箱庭の中枢と繋がっている〝月の兎〟のウサ耳は、審判時ならばゲームの全範囲、プレイヤー時なら一キロの範囲まで情報が収集可能な反則並みのウサ耳が。

 常に相手の位置や言動を把握出来る為、十六夜の視界から消えることが出来れば、あとは黒ウサギの不意打ちでゲームセット。

 しかしそんな黒ウサギは、十六夜を見ながら捕まらないように逃げている。そうする必要がないというのにだ。

 では何故、黒ウサギは十六夜を見ながら逃げ回っているのか。それは、少しでも多く、ゲームを楽しむ十六夜の顔を見ていたいからだった。

 そんなことを思っていると、急に恥ずかしくなって頬を赤らめる黒ウサギ。

 それに気付いた十六夜はニヤリと笑って、黒ウサギをからかった。

 

「どうした黒ウサギ?顔が赤いぜ。もうバテちまったか?」

 

「い、いえ!黒ウサギは全然元気で御座いますよ………っ!」

 

 黒ウサギは手を振って、大丈夫なのです!とアピールする。すると十六夜は「そうかい」と返して、急に速度を上げて黒ウサギに掴み掛かった。

 

「………っ!」

 

 肉薄し、掴み掛かってきた十六夜の手を黒ウサギが手で払う。が、また彼の手が捕らえようと伸びてきた。黒ウサギはまたそれを手で払う。

 次から次へと十六夜の手が襲い掛かり、黒ウサギはそれらを手で払うというような感じで防戦一方になっていた。

 このままじゃ不味い、と思って後方に跳躍―――が、焦って跳びすぎた。

 上空高く跳び上がった黒ウサギを確認した十六夜は、落下地点を瞬時に計算して、其処へ屋根に亀裂を入れさせる踏み込みで飛び込んだ。

 黒ウサギは後ろを確認する。其処には既に彼女の落下地点に先回りしていた十六夜が待ち構えていた。

 空を飛べるわけでもない黒ウサギは、捕まる―――と思った。

 このまま十六夜に捕まって、彼に一度だけされるがままでもいいかな………と黒ウサギは思う。だが潔く負けを認めたくない自分もいる。

 正直、このゲームは黒ウサギにとっては、勝っても負けても()()()()()。どちらも十六夜と一緒に居られるのだから。

 けどどうせなら十六夜さんを一度だけ好きに出来る方が断然良いのです!と、貪欲な黒ウサギは『勝利』の二文字を目指して、

 

「勝利を確信するのは―――まだ早いのですよ十六夜さん!」

 

「は?」

 

 黒ウサギはそう言って、空中で身体を捻り回し蹴りを十六夜のこめかみ目掛けて振るった。

 流石の十六夜も黒ウサギの行動が予想外だったのか、受け止めることを忘れて上体を反らして躱した。

 その一瞬の隙を突いて、黒ウサギは屋根に着地してすぐに跳躍し、時計塔の尖塔に跳び乗った。

 それに十六夜は「チッ」と舌打ちする。が、次の瞬間、十六夜は黒ウサギを見上げて不満そうに叫んだ。

 

「オイコラ黒ウサギ!スカートの中が見えそうで見えねえぞ!どういうことだ!?」

 

「あやや、怒るところは其処なのですか?」

 

 てっきり取り逃がして自己嫌悪に陥ったのかと思い気や、まさかのそっちだった。まあ寧ろ十六夜さんらしい、と黒ウサギは思ったが。

 黒ウサギは知らないが、十六夜が彼女の蹴りを受け止めずに敢えて躱したのは、彼女のスカートの中を覗こうとしたのが目的だったりする。

 そんなことを知らずに黒ウサギはスカートの裾を押さえながら、眼下の十六夜に笑い掛ける。

 

「フフン♪この衣装は白夜叉様の好意で、絶対に見えそうで見えないという鉄壁ミニスカートなギフトを与えられているので御座いますよ♪」

 

「はぁ?あの野郎、チラリストかよ。クソが。こうなったらスカートに頭を突っ込むしか」

 

「黙らっしゃいこのお馬鹿様!!!」

 

 お馬鹿なことを言いながら此方に突っ込んできた十六夜。黒ウサギは速攻で断じながら跳躍し別の屋根に跳び移る。

 十六夜は時計塔を勢い良く登って尖塔を掴み、後ろを確認した。

 すると、十六夜の瞳に映ったのは―――悪戯っぽい笑みでペロ、と舌を出した黒ウサギが右手を掲げた姿だった。

 

「尤も、そんなお馬鹿なことを言えるのは其処までです」

 

「何?」

 

「黒ウサギの逆転勝利なのですよ、十六夜さん」

 

 突然の勝利宣言。黒ウサギは身体を小さく縮こませると、全身の力で超跳躍を見せた。

 眼下の歩廊目掛けて飛び降りた黒ウサギ。それに十六夜はしまった、と自分の失態に気付いて舌打ちする。

 このまま追って跳べば間違いなく捕まる―――と。

 黒ウサギに向かって跳躍すれば確実に捕まる。かといって地道に追っても身を隠されてアウト。あの時、同時に跳躍しなければならなかったのだ。

 

「それじゃ、サヨウナラなのですよ~♪」

 

 遠くでにこやかに手を振る黒ウサギ。彼女はもう勝ったも同然だと油断していた。

 十六夜はふと時計塔を見て、良いことを思い付いた、とニヤリと笑う。

 

「………中々やるじゃねえか、黒ウサギ。シンプルだが、お前のゲームメイクは面白いぞ」

 

 確かに面白い。だが、勝敗は別だ、と嘲笑う。

 

「悪いが、此処からは俺のゲームメイクだ。大胆素敵に吠え面掻きやがれ黒ウサギ……!!」

 

 十六夜は身を翻し、力を溜め込む。針金のようなしなやかさで全身を撓らせ、足場の時計塔を―――全力で蹴り飛ばした。

 

「………は?え、ちょ、ちょっと待ちなさいお馬鹿様あああああああ!?」

 

 これには余裕を見せていた黒ウサギも絶叫ものである。

 巨大な時計塔の頭角は無残にも瓦礫と化し、第三宇宙速度で迫る散弾の雨となって歩廊を襲う。黒ウサギの着地点はギャラリーから遠く離れていた為に人的被害は無いだろうが、赤窓の歩廊は宛ら爆撃を受けたように残骸が舞い散る。

 

「「「あ、あの人間滅茶苦茶だあああああああ!?」」」

 

 ギャラリーからも絶叫が起こる。まあ最下層で此処までド派手に破壊行為を行う者は、魔王の配下ぐらいだからだ。

 堪らず足を止めて残骸を避ける黒ウサギ。その瓦礫の陰から「ヤハハ」という十六夜の笑い声が響く。

 

「っ、十六夜さん………!」

 

「射程距離だぜ、黒ウサギ」

 

 舞い落ちる残骸を蹴り飛ばし、その陰から十六夜の右手が伸びる。それを間一髪手の甲で弾く。同様に伸びる黒ウサギの右手。十六夜も手首で弧を描いて流し、また掴み掛かる。

 瓦礫が落ちるまでの刹那の時間、千手の攻防を繰り返す二人。互いが互いの攻守に全霊を尽くす中、時計塔の残骸によって倒壊した建物が二人の頭上から襲う。

 それが勝負の分かれ目だった。二人は同時に拳を振り上げて倒壊した建物を吹き飛ばす。

 その一撃に割いた時間で、守の一手が遅れる。掴み掛かった二人の手は―――

 

「「あっ、」」

 

 パシッ。と、全く同時にお互いの腕を掴み取った。

 二人の〝契約書類〟が発光し、勝敗を定める。

 

『『勝敗結果:引き分け。〝契約書類〟は以降、命令権として使用可能です』』

 

「………は?」

 

 黒ウサギの腕を掴んだまま、訝しげに声を上げる十六夜。黒ウサギは苦々しく笑って説明。

 

「あー………コレは、アレです。引き分けなので、互いに命令権を一つ得たみたいです」

 

「そんな事はどうでもいい。腹の底からどうでもいい。俺が気に入らないのは〝引き分け〟の結果だけだ。どう見ても俺の方が速かっただろ」

 

「やや、そんなことは無いのですよ?箱庭の判定は絶対なのです」

 

「はぁ?何だそれ何処の神様が決めた判定だよ不巫戯んな今すぐ速攻で誤審を問い質してやるから俺の前に連れてきやがれ糞ウサギ―――!」

 

「そこまでだ貴様ら!!」

 

 厳しい声音が歩廊に響く。二人の周りには炎の龍紋を掲げ、蜥蜴の鱗を肌に持つ集団が集まっていた。北側の〝階層支配者〟―――〝サラマンドラ〟のコミュニティが、騒ぎを聞き付けて来たのだ。黒ウサギは痛烈に痛そうな頭を抱え、両手を上げて降参した。

 丁度其処へ、

 

「先程物凄い音が聞こえたのだが………汝ら無事か?」

 

 突如黒ウサギと十六夜の目の前の虚空から、虹髪と青白い焔のような瞳が特徴的な漆黒メイドの幼い少女―――ローズが気絶しているジンをお姫様抱っこした状態で現れた。

 

「きゃあ!?ちょ、ちょっとローズさん!唐突に現れないでください!―――ってジン坊っちゃん!?何故気絶しているのですか!?」

 

「ん?ジンか?我がこの坊やに褒美にキスをしてやったらこの通りでな。やれやれ、まだまだ青い少年よ」

 

「キ、キキキキスッ!?」

 

「へえ?」

 

 キスと聞いて全身を真っ赤にして狼狽する黒ウサギ。十六夜はキラリと瞳を怪しく光らせて訊いた。

 

「キスしたのか。んで、御チビの唇にか?」

 

「えっ!?」

 

「いや、額にだ。我のファーストキスは、この坊やには贅沢だからな。我が認めた相手以外に、我の初めてを捧げてやるつもりはない」

 

 そう言って「くく」と喉を鳴らして笑うローズ。

 黒ウサギは〝額〟と聞いてホッと胸を撫で下ろす。しかしジンは十一歳の子供だ。ローズの行為は褒められたものじゃない、と黒ウサギは彼女を睨んだ。

 そんな保護者的な意味でジンを心配する黒ウサギに、ローズは苦笑した。

 

「そう睨むな兎の娘。我はこの坊やの唇を強引に奪うつもりはないぞ。………とはいえこの少年は、我が寝た振りをしていた時に、我の唇を奪いにきたがな」

 

「へ?ジン坊っちゃんが!?」

 

「ハハ、マジかよ。中々やるじゃねえか御チビ様」

 

 唖然とする黒ウサギ。ジンを称賛する十六夜。「ふふ」とローズもジンを見て笑う。

 そんな彼らに、軍服姿の男が激怒した。

 

「貴様ら!我々を無視するとは良い度胸だな!?」

 

「ぬ?」

 

「あん?」

 

「………あっ、」

 

 男の怒鳴り声に、振り返る三人。黒ウサギは忘れてた、という表情で頭を抱える。

 ローズは壊れた時計塔と変わり果てた赤窓の歩廊を見回して、

 

「ふむ。大体の予想はついた。要するに汝が憤っているのは、其処の二人がギフトゲームを始めては暴れ回り色々壊した挙げ句、無視はするし反省の色も無い―――といったところか?」

 

「そうだ!………無視の主な原因は貴様だがな!よってこの場にいる四名は、我々〝サラマンドラ〟が連行するッ!!」

 

 男の言葉に、ローズが何故我とジンもなんだ?と思ったが、十六夜と黒ウサギはコミュニティの同士であり友だから見捨てるわけにはいかない。故に此処は従うことにした。

 

「連行は構わないが、まずは壊れたところを直さねばな」

 

「は?」

 

 何を言ってるんだこの小娘は、と軍服の男が内心で呟いた瞬間、ローズは指を鳴らした。

 その刹那、まるで時間が巻き戻るかのように壊れた時計塔や倒壊した建物、変わり果てた赤窓の歩廊が元通りに修復されていった。

 その光景に唖然とする〝サラマンドラ〟一同。一方の十六夜と黒ウサギはもう驚かない。それはローズのデタラメ加減を沢山見てきたからだ。

 ローズはコレで良し、と頷いて、

 

「待たせたな〝サラマンドラ〟の者。()く連れていくが良い」

 

「………あ、ああ」

 

 軍服の男は顔を引き攣らせながらも頷き、ローズ(と彼女にお姫様抱っこされたジン)・十六夜・黒ウサギを連行するのだった。

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