問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
―――境界壁・舞台区画。〝火龍誕生祭〟運営本陣営。
ローズ達は〝サラマンドラ〟のコミュニティに連行され、〝火龍誕生祭〟の運営を行う為の本部まで来ていた。
巨大で真っ赤な境界壁を削り出すように造られた宮殿はゲーム会場と直結しており、その奥にある石畳を通って本部に渡る。
ゲーム会場は輪郭を円状に造られており、それを取り囲む形で客席が設けられている。現在は白夜叉の持っていたチラシのギフトゲームが開催されており、その舞台上では最後の決勝枠が争われていた。
『お嬢おおおおお!!其処や!今や!後ろに回って蹴飛ばしたれええええ!!』
「耀様ああああ!頑張ってえええええ!!」
リリに抱き抱えられた三毛猫が叫び、彼女もまた耀にエールを送る。
舞台で戦っているのは〝ノーネーム〟の耀と、〝ロックイーター〟のコミュニティに属する
「これで、終わり………!」
更に耀は、瞬時に自分の体重を〝象〟へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒す。石垣の巨人が倒れると同時に、割れるような観衆の声が起こった。
『お嬢おおおおおおお!うおおおおおお!お嬢おおおおおおおお!』
「わあ!耀様が圧勝しました!凄いのです!!」
三毛猫は耀の雄姿に雄叫びを上げ、リリも興奮したのか狐の二尾をパタつかせ、彼女の勝利を心から喜んだ。
リリ達に気付いた耀は、目配せと片手を向け微笑を見せる。
宮殿の上から見ていた白夜叉が柏手を打つと、観衆の声がピタリと止む。
白夜叉はバルコニーから朗らかに笑い掛け、耀と一般参加者に声を掛けた。
「最後の勝者は〝ノーネーム〟出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは………ふむ。ルールはもう一人の〝
白夜叉は振り返り、宮殿のバルコニーの中心を譲る。舞台会場が一望出来るそのテラスに現れたのは、深紅の髪を頭上で結い、色彩鮮やかな衣装を幾重にも纏った幼い少女。
龍の純血種―――星海龍王の龍角を継承した、新たな〝階層支配者〟。
炎の龍紋を掲げる〝サラマンドラ〟の幼き頭首・サンドラが玉座から立ち上がる。
華美装飾を身に纏い、緊張した面持ちの彼女に、白夜叉は促すように優しく笑い掛ける。
「ふふ。華の御披露目だからの。緊張するのは分かるが、皆の前では笑顔を見せねばならぬぞ。我々フロアマスターは下層のコミュニティの心の拠り所なのだからな。私の送った衣装も、そのような硬い表情では色褪せてしまうというもの。此処は凜然とした態度での」
「は、はい」
サンドラは大きく深呼吸し、鈴の音のような凜とした声音で挨拶した。
「ご紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故も無く、進行に協力くださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りてお礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましてはお手持ちの招待状をご覧ください」
『ギフトゲーム名〝造物主達の決闘〟
・決勝参加コミュニティ
・ゲームマスター・〝サラマンドラ〟
・プレイヤー・〝ウィル・オ・ウィスプ〟
・プレイヤー・〝ラッテンフェンガー〟
・プレイヤー・〝ノーネーム〟
・決勝ゲームルール
・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。
・ギフトを十全に扱う為、一人まで補佐が許される。
・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事。
・総当たり戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝。
・優勝者はゲームマスターと対峙。
・授与される恩恵に関して
・〝階層支配者〟の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言出来る。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。
〝サウザンドアイズ〟印
〝サラマンドラ〟印』
これにて本日の大祭はお開きとなった。
耀はリリと三毛猫と合流すると、ビシッ!と出店を指差し、
「そうだ、出店巡りしよう」
「え?もうすぐ夕ご飯の時間ですよ!?食べ歩きするんですか!?」
『せやな。ワシもお嬢の応援に気合い入りすぎて腹減ってもうたわ!』
「大丈夫。軽く食べるだけだから。三毛猫もお腹空いたって言ってるし、リリも行こ」
リリの小さな手を取った耀は、三毛猫を肩に乗せて出店巡りへ切り込む。
「鯛焼き十個」
「え?」
「タコ焼き五パック」
「えっ!?」
「フランクフルト二十本」
「ええ―――ッ!!?」
出店を転々としながら次々と大量に買い漁る耀。リリは何処が軽くなのですか!?とでも言いたげな表情で耀を見る。
三毛猫は三毛猫で、耀に買ってもらったネコマンマを堪能してる。
そんなリリも鯛焼きを一つ戴いて小さな口で食べているが。
そして耀にとっては、これが〝軽く〟だった。彼女が本気を出せば、出店の一つや二つ、簡単に食い潰せるそうだ。
そんな彼女の勢いは止まることを知らず、
「焼きそば紅生姜大盛り三パック」
「へ?」
「クレープ全種類」
「ちょ、」
「焼き鳥お任せ三十本」
「い、いい加減にしてください耀様!それじゃあ夕ご飯が入らなくなりますよ!?」
リリが流石に止めなければ不味いと思い、忠告したが、
「大丈夫、問題ない」
耀はグッ!と親指を立てて返す。その彼女の腕には無数の袋達が下がっている。
リリはもう好きにしてください、と肩を落として脱力したのだった。
αθ
「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」
「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」
「胸を張って言わないで下さいこのお馬鹿様!!!」
スパァーン!と黒ウサギのハリセンが十六夜の頭に奔る。その後ろでジンを抱えたままローズが「くく」と喉を鳴らして笑う。
四人は連行された後、運営本陣営の謁見の間まで連れてこられたのだ。
白夜叉は必死に笑いを噛み殺しつつ、なるべく真面目な姿勢を見せる。
サンドラの側近らしき軍服姿の男が鋭い目付きで前に出て、十六夜達を高圧的に見下す。
「ふん!〝ノーネーム〟の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!相応の厳罰は覚悟しているか!?」
「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」
白夜叉がマンドラと呼ばれた男を窘める。
サンドラは謁見の間の上座にある豪奢な玉座から立ち上がると、黒ウサギと十六夜に声を掛けた。
「〝箱庭の貴族〟とその盟友の方。此度は〝火龍誕生祭〟に足を運んで頂きありがとうございます。負傷者は奇跡的に無く、貴方達が破壊した建造物の一件も、貴方達の同士が修繕してくださったようなので、この件に関して私からは不問とさせて頂きます」
「チッ」と舌打ちするマンドラ。ホッと胸を撫で下ろす黒ウサギ。軽く肩を竦める十六夜。
白夜叉はローズを見て「うむ」と頷き、
「本当は私が修繕しても良かったのだが、その前にローズちゃんが直してくれたようだの?」
「ああ。後始末は十六夜らのメイドである我の仕事だからな。当然のことをしたまでよ」
ローズはそう言って笑みで返す。白夜叉はそうか、と頷き、
「………ふむ。良い機会だから、昼の続きを話しておこうかの」
白夜叉が連れの者達に目配せをする。サンドラも同士を下がらせ、側近のマンドラだけが残る。この場に残ったのは彼らを除いて十六夜・黒ウサギ・ローズ(と抱き抱えられているジン)の四人だけだ。
サンドラはまず、玉座を飛び出してローズへと駆け寄った。
「すみません。ジンと話がしたいので起こしてもらえませんか?」
「ん?ああ、構わぬよ」
ローズはサンドラの要求を飲むと、未だに眠っていたジンの額に―――ビシッ!
「~~~~~ッ!!?」
彼には痛すぎる凸ピンをお見舞いした。言葉にならない絶叫を上げて飛び起きるジン。
サンドラが唖然とするなか、ローズは「くく」と笑い、
「ほらジン。火龍の娘が汝と話したいそうだ。何時までも我にしがみついてないで降りろ」
「し、しがみついてなんかいません!ローズさんが勝手に僕を抱き抱えているだけでしょう!?―――っては!?サンドラ………!」
ジンは痛む額を涙目で片手で押さえながらローズに文句を言い、サンドラが視界に入った途端、ローズの腕から抜け出してサンドラの前に降り立った。
サンドラは硬い表情と口調を崩し、少女っぽく愛らしい笑顔をジンに向けた。
「ジン、久しぶり!コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!それと額、大丈夫?凄く痛そうな音がしたけど」
「ありがとう。サンドラも元気そうで良かった。………あ、うん。物凄く痛いけど何とか。心配してくれてありがとう」
同じく笑顔で接するジン。サンドラに心配されて照れ臭そうに頬を掻く。
サンドラは鈴の音のような声ではにかんで笑う。
「それは良かった。ふふ、当然。魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐに会いに行きたかったんだ。けどお父様の急病や継承式のことでずっと会いに行けなくて」
「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて―――」
「そのように気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」
ジンとサンドラが親しく話していると、マンドラは獰猛な牙を剥き出しにし、帯刀していた剣をジンに向かって抜く。
ジンの首筋に触れる直前、その刃をローズが人差し指で受け止めた。
「マンドラとやら。汝は今、ジンを殺す気で剣を振るったな?」
「当たり前だ!サンドラはもう北のマスターになったのだぞ!誕生祭も兼ねたこの共同祭典に〝名無し〟風情を招き入れ、恩情を掛けた挙げ句、馴れ馴れしく接されたのでは〝サラマンドラ〟の威厳に関わるわ!この〝名無し〟のクズが!」
「ほう?そんな理由でジンの命を奪っても良いと?―――不巫戯るなよ小僧ッ!!」
マンドラに激怒したローズは、凄まじい殺気を噴出させながら彼を睨み付けた。
「命より重い威厳などあるものか!そんなモノが
「ぐっ………!?」
少女のものとは思えない殺気を浴びて、マンドラは息を呑む。身動ぎ一つ出来ないこの状況に嫌な汗が噴き出す。
重苦しい空気の中で誰もが沈黙していると、不意に白夜叉が声を上げた。
「やめんか戯け!マンドラの言動は確かに悪い。だが小娘、おんしが怒りのまま力を振るえば祭りどころではなくなる。頼むから此処は抑えてくれ」
「………ふん。本当は我が友を手に掛けようとしたこの小僧に絶望を味わわせてやりたいが、白夜叉の顔に免じて目を瞑ってやる」
ローズはマンドラを鋭く睨んだあと、殺気を消してジンの隣に立つ。
ホッと息を吐く一同。彼女が暴れれば本当に祭りどころではなくなるだろう。
一方のジンは、ローズが守ってくれたことと怒ってくれたことが嬉しくて、思わずニヤける。
それに気付いたローズはニヤリと笑ってジンを見つめ、
「ん?どうしたジン?何か良いことでもあったか?」
「え?あ、いえ!別に、何でもありません………っ!」
ローズに言われて慌てて手を振って誤魔化すジン。恥ずかしそうに顔を赤らめるジンを、ニヤニヤと笑って見つめるローズ。
そんなジンとローズを見ていたサンドラの表情は、ムッと眉を顰めたものだった。面白くない、という風に。
それに気付いたマンドラは「チッ」と舌打ちしてローズを睨んだ。
「………ふん。聞いていた通りの小娘だな。同士を貶すと容赦しない魔王が〝ノーネーム〟にいると。まさか本当だったとは」
「ぬ?」
「「「え?」」」
「は?」
「何?」
マンドラの言葉に一同が彼に視線を向ける。〝ノーネーム〟一同及び白夜叉は、何故彼がその事を知っているのだろう、という風に。しかしマンドラは気にすることなく続けた。
「貴様が魔王ならば、此度の噂の魔王も、貴様ではないのか?」
「「「「噂の魔王?」」」」
何のことかさっぱりな〝ノーネーム〟一同は首を傾げる。
「うむ」と白夜叉は頷いて一枚の封書を取り出して内容を口にした。
「この封書に、こう記されておる―――『火龍誕生祭にて、〝魔王襲来〟の兆しあり』―――とな」