問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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 ―――境界壁・舞台区画・暁の麓。美術展、出展会場。

 その頃、飛鳥は尖り帽子の精霊と壮絶な追いかけっこを制していた。

 赤窓の歩廊を抜けて境界壁の真下にまで走って来ていた。巨大なペンダントランプが吊るされた麓は、日陰にも関わらず朱色の灯火で照らされている。

 走り疲れた尖り帽子の精霊を肩に乗せ、飛鳥は境界壁の麓の街道を散策。

 

「別に取って食おう、というわけじゃないの。ただ旅の道連れが欲しかっただけよ」

 

「……………、」

 

 尖り帽子の精霊は飛鳥の肩の上で大の字で寝そべり、「ひゃ~」と疲れ切った声を上げている。

 飛鳥は麓の売店で買ったクッキーを割って、尖り帽子の精霊に分け与えた。餌付け作戦である。

 

「はいコレ。友達の証よ」

 

「――――!?」

 

 ガバ!!と甘い匂いに釣られて起き上がる尖り帽子の精霊。

 食欲を刺激されたらしく、自分の背丈程のクッキーをシャリシャリと齧った尖り帽子の精霊は「キャッキャッ♪」と愛らしい声を上げて飛鳥の頭の上まで登る。

 飛鳥は、餌付け作戦は成功したようね、とこっそり思いながら、頭の上で跳び跳ねる尖り帽子の精霊を両手で優しく包み込むように取り、自分の顔の前に下ろし、

 

「それじゃ、仲良くなったところで自己紹介しましょうか。私は久遠飛鳥よ。言える?」

 

「………あすかー?」

 

「ちょっと伸ばしすぎね。締まりが無くてだらしがないわ。もう少し最後をメリハリ付けて」

 

「………あすかっ?」

 

「もう少しよ、頑張って。最後を綺麗に区切って発音するの」

 

 幼い口調の尖り帽子の精霊は二度三度と頭を横に振り、小首を傾げて名前を呼んだ。

 

「………あすか?」

 

「そう。その発音で元気良く、疑問形抜きで」

 

「………あすか!」

 

「ふふ、良く出来ました。それじゃあ貴女の名前を教えてもらえるかしら?」

 

 尖り帽子の精霊は飛鳥の両手の上で立ち上がり、元気良く答えた。

 

「らってんふぇんがー!」

 

「………?ラッテン………?」

 

 やや驚いた顔をする飛鳥。

 

「それ、貴女の名前?」

 

「んー、こみゅ!」

 

「コミュ………コミュニティの名前?じゃあ貴女の名前は?」

 

「?」

 

 意味が分からない、という感じで小首を傾げる尖り帽子の精霊。

 ふと飛鳥はレティシアの言葉を思い出す。彼女は尖り帽子の精霊を〝群体精霊〟と呼んだ。

 ならば彼女はそういう種の精霊なのだろうか?

 

「(もしかして、個別の名前を持っていないのかしら………?)」

 

 だとしたら彼女の言う通り、ラッテンフェンガーと呼ぶのが正しいのかもしれない。

 だが飛鳥は、尖り帽子の精霊は愛らしい容姿だというのに、その名前は似つかわしくないわ、と思った。

 考え込むように頬に指を当て、そうだわ、と良い案が浮かんだのか尖り帽子の精霊に提案する。

 

「折角だから、私が名前を付けましょうか?」

 

「?んーん、らってんふぇんがー」

 

「ええ。だからそのラッテンフェンガーという名前以外に、」

 

「んーん、まきえ」

 

 尖り帽子の精霊は、飛鳥の両手の上で首を振って否定する。

 

「らってんふぇんがー、まきえ」

 

「………マキエ?それが貴女の名前?」

 

「んーん。らってんふぇんがー!」

 

 要領が掴めないまま、飛鳥は溜め息を吐く。コミュニケーションが取れないのは仕方がない。

 名前の事は一度諦めて、尖り帽子の精霊を肩に乗せると、彼女と共に展覧会を見て回ることにした飛鳥だった。

 

 

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 ―――境界壁・舞台区画。〝火龍誕生祭〟運営本陣営、謁見の間。

『火龍誕生祭にて、〝魔王襲来〟の兆しあり』―――と白夜叉が手紙を読み上げると、黒ウサギとジンが絶句した。

 ローズは「ほう」と呟いて瞳を細める。すると十六夜が鋭い瞳のまま無表情に白夜叉へ問い返した。

 

「正直意外だったぜ。てっきりマスターの跡目争いとか、そんな話題だと思ったんだがな?」

 

「何ッ!?」

 

 牙を剥くマンドラを慌てて窘めるサンドラ。白夜叉は二人を無視して話を進める。

 

「謝りはせんぞ。内容を聞かずに引き受けたのはおんしらだからな」

 

「違いねえ。………それで、俺達に何をさせたいんだ?魔王の首を取れっていうなら喜んでやるぜ?」

 

 十六夜は不敵な笑みを浮かべながら、ローズに視線を向ける。ローズは一瞬、は?となり、

 

「………十六夜よ。其処で何故我を見る?確かに我は箱庭(ここ)では魔王扱いされているが、火龍誕生祭を潰そうという気は微塵も思ってないぞ?」

 

「ヤハハ、冗談だよ。そう怒るなって」

 

「………ふん。どうだか」

 

 ローズは念の為、十六夜を警戒する。冗談だという割には彼の瞳が本気だったからだ。

 そんな二人を白夜叉は笑いを堪えながら見ていた。小僧は相変わらずだの、と。

 

「この封書に書かれている〝魔王〟はローズちゃんではないから安心せい」

 

「まあ、当然だな。して、その封書は何だ?汝の所属する〝サウザンドアイズ〟には未来予知でも出来る人材がいるのか?」

 

 ローズが訊くと、白夜叉は「うむ」と頷いて答えた。

 

「そうだ。この封書は〝サウザンドアイズ〟の幹部の一人が未来を予知した代物での」

 

「ほう?それで、未来予知した者の名は?」

 

「………〝ラプラスの悪魔〟だの」

 

〝ラプラスの悪魔〟と聞いて、黒ウサギは驚きの声を上げた。

 

「あの、予言で全てを見通すという!?」

 

「ある瞬間に於ける全ての物質の力学的状態と力を知ることが出来、且つもしもそれらのデータを解析出来るだけの能力の知性―――即ち因果的に決定された未来を完全に見通す事が出来る者の存在を仮定した空論上の概念的存在、〝ラプラスの悪魔(Laplacesher Damon)〟か。ふふ、流石は修羅神仏が跋扈する箱庭。〝ラプラスの悪魔〟が実在するとはな」

 

「「「え?」」」

 

 ブツブツと一人呟くローズを、キョトンとした顔で見つめる黒ウサギ・ジン・サンドラ。

 十六夜は、相変わらず詳しく解説してくれるな、と内心で呟き「ヤハハ」と笑う。

 白夜叉は「うむ」と苦笑いを浮かべながら続けた。

 

「其奴から誕生祭のプレゼントとして贈られたのが、この〝魔王襲来〟という予言だったわけだ」

 

「ふむ。それで?」

 

「うむ。其奴は〝魔王襲来〟のことだけでなく、〝誰が投げた〟も〝どうやって投げた〟も〝何故投げた〟も解っていての。ならば必然的に〝何処に落ちてくるのか〟を推理することが出来るだろ?これはそういう類いの予言書なのだ」

 

「………まあ〝ラプラスの悪魔〟なら其処まで知ることは可能だろうな」

 

 納得し頷くローズ。一方、十六夜は呆れたような顔をしており、黒ウサギ達もその事実に言葉を失っている。マンドラに至っては顎が外れる程愕然としていた。

 マンドラは顔を真っ赤にし、怒鳴り声を上げた。

 

「ふ、不巫戯るな!!それだけ分かっていながら魔王の襲来しか教えぬだと!?我々を愚弄する気かッ!!」

 

「に、兄様………!これには事情があるのです………!」

 

 憤るマンドラを必死に窘めるサンドラ。

 白夜叉は扇で口元を隠し、無視して明後日の方向を向く。

 十六夜は頭の中で情報を整理し、確認するように白夜叉へ問う。

 

「成る程。事件の発端に一石投じた主犯は既に分かっている。………けど、その人物の名前を出す事は出来ないんだな?」

 

「うむ………」

 

 歯切れの悪い返事をする白夜叉。

 十六夜はニュアンスを変えてもう一度強く問い直す。

 

「今回の一件で、魔王が火龍誕生祭に現れる為、策を弄した人物が他にいる―――その人物は口に出す事が出来ない立場の相手ってことなのか?」

 

 ハッとジンが気付いてサンドラを見る。

 

「まさか………他のフロアマスターが、魔王と結託して〝火龍誕生祭〟を襲撃すると!?」

 

「秩序の守護者である〝階層支配者〟が、その秩序を乱す………か」

 

 ジンの言葉に、ローズも続けて言う。

 白夜叉は哀しげに深く嘆息した後、首を左右に振った。

 

「まだ分からん。………しかし、サンドラの誕生祭に北のマスター達が非協力的だった事は認めねばなるまいよ。何せ共同主催の候補が、東のマスターである私に御鉢が回ってきた程だ。北のマスターが非協力だった理由が、〝魔王襲来〟に深く関与しているのであれば………これは大事件だ」

 

 唸る白夜叉と、絶句する黒ウサギとジン。

 ローズが「ふむ」と考え込んでいると、十六夜が得心がいかないように首を傾げる。

 

「それ、そんなに珍しいことなのか?」

 

「ぬ?」

 

「へ!?」

 

「お、可笑しなことも何も、最悪ですよ!フロアマスターは魔王から下位のコミュニティを守る、秩序の守護者!魔王という天災に対抗出来る、数少ない防波堤なんですよ!?」

 

「けど所詮は脳味噌のある何某だ。秩序を預かる者が謀をしないなんてのは、幻想だろ?」

 

「ふむ。十六夜の時代は秩序や政を預かる者が道を踏み外すことは、然して珍しくなかったんだな?」

 

 ローズの問いに、「ああ」と首肯する十六夜。それを知った白夜叉は、静かに瞳を閉じて首を振る。

 

「成る程、一理ある。しかしなればこそ、我々は秩序の守護者として正しくその何某を裁かねばならん」

 

「けど目下の敵は、予言の魔王。ジン達には魔王のゲーム攻略に協力して欲しいんだ」

 

 サンドラの言葉に、合点がいったという顔で一同は頷く。

 ジンは事の重大さを受け止めるように重々しく承諾した。

 

「分かりました。〝魔王襲来〟に備え、〝ノーネーム〟は両コミュニティに協力します」

 

「うむ、済まんな。協力する側のおんしらにすれば、敵の詳細が分からぬまま戦うことは不本意であろう。………だが分かって欲しい。今回の一件は、魔王を退ければ良いというだけのものではない。これは箱庭の秩序を守る為に必要な、一時の秘匿。主犯には何れ相応の制裁を加えると、我らの双女神の紋に誓おう」

 

「〝サラマンドラ〟も同じく。―――ジン、頑張って。期待してる」

 

「わ、分かったよ」

 

 ジンは緊張しながら頷く。白夜叉は硬い表情を一変させ、哄笑を上げた。

 

「そう緊張せんでも良い良い。魔王はこの最強のフロアマスター、白夜叉様が相手をする故な!おんしらはサンドラと露払いをしてくれればそれで良い。大船に乗った気でおれ!」

 

 双女神の紋が入った扇を広げ、呵々大笑する白夜叉。

 しかしジンが快諾する一方で、スッと瞳を細めて不満そうな双眸を浮かべる十六夜。

 それが気になった白夜叉は、口元を扇で隠しながら苦笑を向けた。

 

「やはり露払いは気に食わんか、小僧」

 

「いいや?今回は露払いで良いが―――別に、何処かの誰かが偶然に魔王を倒しても、問題は無いよな?」

 

 挑戦的な笑みを浮かべる十六夜に、呆れた笑いで返す白夜叉。

 

「良かろう。隙あらば魔王の首を狙え。私が許す」

 

 こうして交渉は成立―――と思い気やローズが白夜叉の下へ歩み寄り、

 

「白夜叉よ。実は汝に残念な話がある」

 

「ん?残念な話とな?それは一体何だ?」

 

 白夜叉が訊き返すと、ローズはスッと瞳を細めて真剣な表情で告げる。

 

「白夜叉、汝は―――魔王襲来時、()()()()()()()()()

 

「………何じゃと?」

 

 白夜叉は一瞬固まり、ローズを怪訝な顔で見る。黒ウサギ達も「え?」と驚いて固まる。

 そんななか、十六夜は真剣な表情で訊いた。

 

「………それは本当なんだな?」

 

「ああ。残念だが本当の事だ。()()襲来してくる魔王の()()()()によって、白夜叉は()()されるからな」

 

 首肯して答えるローズ。それを聞いた十六夜・黒ウサギ・ジン・白夜叉の四人の表情が険しくなる。

 一方、サンドラとマンドラは唖然としてローズを見つめ、

 

「ちょ、ちょっと待ってください!どうして貴女はそんなことが分かるんですか!?」

 

「え、えっとだね、サンドラ。ローズさんは実は―――〝ウロボロス〟っていう全知全能の龍神様なんだ」

 

「え?〝ウロボロス〟?―――って龍神!?しかも全知全能!?」

 

「何!?」

 

 ジンの言葉にギョッとした顔でローズを見つめるサンドラとマンドラ。

 ただ者ではない感じはしていたが、まさか全知全能の龍神とは思わなかったのだろう。

 そんな二人を白夜叉は「うむ」と頷いて、

 

「まあ、見た目がこんな幼子だからの。角もない故、龍神に見えんのも無理ないのう」

 

「それを言うなら汝もだろう白夜叉?永遠の不落(びゃくや)の太陽を司る星霊が幼子の姿をしているとか本当に質が悪いな」

 

「何を言うか。永遠(むげん)そのものを司る龍神のおんしの方がよっぽど質が悪いわいっ!」

 

 睨み合う見た目だけが幼い星霊と龍神(しょうじょたち)。それに十六夜が「ヤハハ」と笑って、

 

「どちらも質の悪さに関しては大差ないと思うけどな」

 

「「「「うん」」」」

 

 十六夜に同意する黒ウサギ・ジン・サンドラ・マンドラの四人。

「うぐっ」と図星を突かれたローズと白夜叉は頬を赤らめる。

 白夜叉は「オホン!」と咳払いをすると、気を取り直してローズの肩に手を乗せ告げた。

 

「ローズちゃん曰く、私は明日の魔王戦は何も出来ないらしいの。―――だが心配せんでも良い!代わりに私より強いローズちゃんが魔王を倒してくれるからの!」

 

「それはとても心強いです!明日の魔王戦よろしくお願いします、龍神様!」

 

「様付けは良いぞ火龍の娘。我のことは気軽に」

 

「「ローズ(ちゃん)」」

 

「と呼べば良い―――って汝は黙っていろこの駄神っ!」

 

 横槍を入れてからかう白夜叉に怒るローズ。

 十六夜は白夜叉にこっそり親指を立てて「超グッジョブ」と称賛した。白夜叉も「うむ」と親指を立てて返す。

 そんな様子をサンドラは苦笑しながら眺めて、

 

「分かりました。では慎んでローズさんと呼ばせて頂きます。私のこともサンドラとお呼びください」

 

「うむ。それと敬語も不要だぞサンドラよ。堅苦しいのは好まぬ故な」

 

「わ、分かった」

 

 緊張した声で返すサンドラ。龍神であるからには自分より遥か年上の大先輩。総合力も遥か格上の彼女にタメ口は気が引けたのだろう。

 一方のマンドラはその光景に「チッ」と舌打ちする。確かに龍神であるローズの方が自分よりも遥か格上だが、彼女は〝ノーネーム〟出身の為気安く名前で呼んで欲しくないのだ。

 そんななか、十六夜はローズを鋭い視線で睨み、

 

「おいローズ。分かってるとは思うが―――」

 

「ああ。安心しろ十六夜。魔王を独り占めする気は更々ないからな。何時でも狙いに来ると良いぞ」

 

「おう。序でにアンタの首も狙おうかな♪」

 

「………はぁ、もう良い。好きにしろ」

 

 やはりそうきたか、とローズは深い溜め息を吐き、諦めたように頷くのだった。

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