問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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γ

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れて来ましたよー!」

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

「はいな、此方の御四人様が―――」

 

 クルリ、と笑顔で振り返る黒ウサギ。

 カチン、と笑顔のまま固まる黒ウサギ。

 

「………え、あれ?後二人いませんでしたっけ?ちょっと目付きが悪くて、かなり口が悪くて、全身から〝俺問題児!〟ってオーラを放っている殿方と、圧倒的な存在感を放っていて、けれど見た目は可愛らしい方で、黒ウサギの期待を見事に裏切って下さった御子様が」

 

「ああ、十六夜君とローズさんのこと?彼らなら〝ちょっと世界の果てを見てくるぜ!〟、〝ほう。面白そうだから我も付いて行くぞ〟と言って駆け出して行ったわ」

 

「あっちの方に」と飛鳥は断崖絶壁を指差して言う。

 街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ハッと我に返るとウサ耳を逆立てて問い質す。

 

「な、何で止めてくれなかったんですか!」

 

「〝止めてくれるなよ〟と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「〝兎などに言う必要はない〟と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒臭かっただけでしょう御二人さん!」

 

「「うん」」

 

 ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。

 そんな彼女とは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。

 

「た、大変です!〝世界の果て〟にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

 

「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 ジンは必死に訴えるが、飛鳥と耀は肩を竦めるだけ。

 黒ウサギは溜め息を吐きつつ立ち上がった。

 

「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様の御案内を御願いしても宜しいでしょうか?」

 

「分かった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児二人を捕まえに参ります。事の序でに―――〝箱庭の貴族〟と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

 悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、青髪を桃色に染めていく。外門目掛けて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能御座いませ!」

 

 黒ウサギは、桃髪を戦慄かせ踏み締めた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に飛鳥達の視界から消え去っていった。

 その様を眺めていた飛鳥が呟く。

 

「………箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」

 

「そう」と飛鳥は空返事をする。

 飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り、

 

「黒ウサギも堪能下さいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がして下さるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですが宜しく御願いします。二人の名前は?」

 

「久遠飛鳥よ。其処で猫を抱えているのが」

 

「春日部耀」

 

 ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥と耀はそれに倣って一礼した。

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

 飛鳥はジンの手を取ると、胸を笑顔で箱庭の外門を潜るのだった。

 

 

γ

 

 

「ヤハハ。流石は〝ウロボロス〟―――無限を意味する龍だな。俺の速度に付いてこれるとは驚きだ」

 

「そういう汝も人の身にしてはデタラメな走力を持っているな。まだ本気ではないのであろう?」

 

「まあな。何なら今から本気出してやろうか?」

 

 ニヤリと笑って森林地帯を共に並走するローズに訊く十六夜。

「それは面白そうだな」とローズも呟いたが、

 

「………残念だがそろそろ森を抜けるようだな。汝の全力疾走はまた今度見させてもらうとする」

 

「チッ、そうみてえだな」

 

 十六夜は舌打ちして恨めしそうに前方を睨んだ。

 そして二人の眼前が開け、森を抜けて大河の岸辺に出た。

 

「………へえ?こいつは中々の眺めだな」

 

「ふむ、そうだな。絶景とはまさにこのような風景のことを云うものか………」

 

 十六夜の呟きにローズも便乗して眺める。

 だが、それを邪魔するかのように大河から巨躯な白蛇が姿を現した。

 

『………人間共よ。此処は我のテリトリーだ。早急に立ち去れ』

 

「あん?」

 

「ぬ?」

 

 巨躯な白蛇の言葉に二人は反応してソレを見つめた。

 

「………誰だ、オマエ?」

 

『我はこの辺りを支配する主だ。して、人間共。此処へ足を踏み入れたからには―――我が試練を受けよ』

 

 大きく裂けた口でニヤリと笑い、ローズ達を見下ろす巨躯な白蛇。

 十六夜は不快そうに眉を寄せ、ローズは「ふむ」と頷き、

 

「―――だそうだ。あの蛇は汝を所望のようだぞ」

 

「みてえだな。つかあのヘビ、龍ロリを人間と思い込んでるみたいだぜ?」

 

「そのようだな。やれやれ、龍たる我を人と見紛うとは………愚かな蛇よ」

 

『おい貴様ら!我を無視して呑気に話をするな!』

 

 無視されたことに怒る巨躯な白蛇。

 十六夜は「はあ」と深い溜め息を吐いて、

 

「分かったよ。オマエがそこまで俺と遊びたいってんなら―――俺を楽しませてみな!」

 

『何!?人間風情が、図に乗るなッ!』

 

 十六夜の不遜な態度に激昂した巨躯な白蛇は、大河の水を巻き上げて二つの竜巻く水柱を作る。

 それを十六夜に向けて放つ。が、彼は俊足を持って難なく躱し、

 

「オラァ!」

 

『ガッ………!?』

 

 爆撃音のような踏み込みで跳躍し、巨躯な白蛇の頭上に躍り出ると、その頭に踵落としを打ち付けた。

 巨躯な白蛇は苦悶の声を洩らし、ぐらりと体勢を崩して大河に倒れ落ちる。

 その衝撃で、巨大な水柱が発生し十六夜とローズに豪雨となって容赦なく降り注いだ。

 

「「……………」」

 

 再びずぶ濡れになった二人は、無言で水面に浮かぶ巨躯な白蛇を睨み付けた。

 丁度其処へ、黒ウサギが森を抜けてローズ達を捜しに現れた。

 

「この辺りのはず………」

 

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

「桃色だな。一体汝の身に何があったんだ?」

 

 黒ウサギを発見した二人はそれぞれ思ったことを口にする。

 それに気付いた黒ウサギは怒髪天を衝くような怒りを込めて勢いよく振り返る。

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?」

 

「〝世界の果て〟まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

 

「成る程な。怒りの余り髪色が変化したのか。ふむ、理解した」

 

「誰のせいだと思ってるのですか!」

 

 呑気な二人に激怒する黒ウサギ。

 そんな彼女を見つめて十六夜は興味深そうに笑う。

 

「しかし良い脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺達に追い付けるとは思わなかった」

 

「むっ、当然です。黒ウサギは〝箱庭の貴族〟と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

「アレ?」と首を傾げる黒ウサギ。

 

「(黒ウサギが………半刻以上もの時間、追い付けなかった………?)」

 

 箱庭のウサギ達は疾風より速く駆け、生半可な修羅神仏では手が出せない程の力を持つ。

 その黒ウサギに気付かれることもなく姿を消したことや、追い付けなかったこと、思い返せば人間とは思えない身体能力だ。

 自身を龍と名乗るローズは兎も角、十六夜は黒ウサギの目からはただの人間にしか見えないはずなのに。

 

「ま、まあ、それは兎も角!御二人様が無事で良かったデス。先程の水柱を見て、もしや水神のゲームに挑んだのではないかと肝を冷やしましたよ」

 

「水神?―――ああ、アレのことか?」

 

「え?」と黒ウサギは硬直。十六夜が指差したのは川面に薄っすらと浮かぶ白くて長い―――

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

 身の丈三十尺強はある巨躯な白蛇。それが鎌首を起こして怒号を上げた。

 

「蛇神………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

「なんか偉そうに『試練を受けよ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるかどうか試させてもらったのさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

 

『貴様………付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。

 

「十六夜さん、下がって!」

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

 黒ウサギが庇おうとすると、十六夜が鋭い視線と本気の殺気が籠った声で制する。

 だが、そんな十六夜の前にゆっくりとローズが歩み出る。

 

「おい龍ロリ。そのヘビは俺の獲物だぞ。アンタが横取りするってんなら」

 

「済まぬが少年。我もこの蛇神とやらに興味を持ってな。それに―――」

 

 ローズは、スッと青白い炎のような瞳を細めると獰猛な笑みを浮かべて、

 

「たかが蛇神如きに龍たる我は見下されたのだ。流石の我も何もせずにはいられんよ」

 

「「『!?』」」

 

 ローズの幼い少女とは思えぬ凄みに、十六夜達は息を呑んだ。

 そして〝龍〟と聞いて蛇神は巨躯な全身を震え上がらせた。

 

『な、龍だと!?小娘の貴様がか………!?』

 

「左様。言っておくが今更頭を下げようが我は汝を許してはやらぬ―――覚悟せよ」

 

 そう言ったローズの姿は霞の如く掻き消え、次の瞬間には蛇神の頭を指で、ちょん、と軽く突いていた。

 

『―――グ、ガァ………!?』

 

 たったそれだけなのに蛇神の頭は激震し、苦悶の声を洩らすと力尽きたかのように大河に崩れ落ちた。

 それと同時にまた巨大な水柱が発生しローズ達の頭上に豪雨となって降り注いだ。

 

「「「……………」」」

 

 ローズ達は無言で水面に浮かぶ蛇神を睨み付けた。

 だがハッと我に返った十六夜が岸辺に着地したローズに歩み寄り、

 

「ハハ、凄えなオイ。あのヘビ相手に拳は不要ってか?」

 

「ふふ。まあそんなところだ。アレを殴ったら殺してしまうかもしれぬしな」

 

「へえ………?」

 

 ローズの言葉を聞いた十六夜は瞳を怪しく光らせる。

 それに気付いたローズは面白そうに彼を見つめ、

 

「何だ、少年?我と一戦交えてみるか?」

 

「え!?」

 

「お、いいなそれ。お前に俺の獲物を奪われて苛ついてたところだったしな。よし乗った!」

 

 ローズの提案に嬉々として乗る十六夜。

 黒ウサギが慌てて止めようと声を上げたが、

 

「ちょっと待っ―――」

 

 時既に遅し。獰猛な笑みを浮かべた十六夜が嬉々として飛び出し―――第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度でローズに飛び込んだ。

 あの時とは比べ物にならない程の走力を見せた彼を、ローズは「ほう」と感嘆の声を洩らし、

 

「面白い………フッ!」

 

 軽く握った拳で迎え撃つ。十六夜の速度と同じ速さでローズも拳を振るい―――ゴッ!と両者の拳がぶつかり合う。

 数瞬だけ鬩ぎ合い、次の瞬間にはローズの拳が勝り十六夜の腕は弾かれ、彼は後ろに数メートル吹き飛んだ。

 

「………っ!野郎ッ!」

 

 十六夜は「チッ」と舌打ちして追撃の拳を振るうために再びローズに肉薄する。

 しかし今度は十六夜の拳を迎え撃たず、片手で受け止めてローズは嬉しそうに笑った。

 

「ふふ。やはり汝の拳は良いな。地平線の彼方まで吹き飛ばすつもりだったが、殆んど相殺してみせるとは恐れ入った」

 

「そりゃどうも。出来ればアンタの余裕面を今すぐにでも歪ませてやりたいが―――アレを撃つのは此処じゃ不味いな」

 

 十六夜は苦笑いを浮かべて返す。

「アレとは何だ?」と不思議そうな表情で小首を傾げて訊くローズ。

 しかし十六夜は答えずに「取って置きのだ」とだけ言って拳を引っ込めた。

 これで一先ずお楽しみはお預けにすると、互いに笑みを交わし合い―――

 

「何をやってるんですかこの御馬鹿様方あああああああ!!!」

 

 スパパァーン!と黒ウサギが何処からともなく取り出したハリセンを、ローズ達の頭に奔らせたのだった。

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