問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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αλ

 ―――境界壁の展望台・サウザンドアイズ旧支店。

 

「お風呂へ駆け足ッ!!今すぐです!」

 

 店先で飛鳥を迎えた割烹着姿の女性店員は、見るや否や八重歯を剥いて大一喝。

 

「そのような薄汚れた格好で〝サウザンドアイズ〟の暖簾を潜ろうなどとは言語道断!衣類を此方へ!洗濯します!解れは修繕してあげますから感謝なさい!―――は、何です?生傷?そんなものはお風呂に入れば治りますッ!!さっさと身を清めてください!お店が汚れてしまうでしょうが!」

 

 ―――……と、半ば無理矢理服を剥ぎ取られ、湯殿に連れて行かれた飛鳥。

 清めの手拭いを一枚だけ渡され、露天風呂のように空が見える湯殿で唖然とした。

 

「………まあ、汚れていたのは確かだものね」

 

 泥とネズミの返り血。ほんと、不清潔極まりない。

 だがこの扱いに、曲がりなりにも乙女の飛鳥は少しだけ傷付いた。

 飛鳥は嘆息を洩らしながらも掛け湯を繰り返し、身を清める。すると生傷がみるみる治癒し始めた。その劇的な効用に感心しながら湯船に浸かる。

 

「凄いわね。水樹の浄水とは比較にならないわ」

 

 流石は〝サウザンドアイズ〟ね、と感心しながら、湯船に肩まで浸かりゆっくりと身体を休ませる。

 今日は久し振りに、心の底から楽しい一日だった。

 誰彼構わず自由に走り回り、未踏の地の文化を噛み締める。

 そんな、ずっと私が夢見ていた日々を、今日は今まで以上に実感出来た。

 無口で可愛い春日部さん(ゆうじん)

 弄り甲斐のある騒がしい黒ウサギ(ゆうじん)

 皮肉を言い合える十六夜君(あくゆう)

 担ぎ上げたリーダーはまだ幼く未熟だが、誠実で真っ正直なジン君(しょうねん)

 仲間を、友を大事に思う最強の龍神のローズさん(メイド)

 龍神メイドの眷属兼ね私達のレティシア(メイド)

 箱庭の世界は、故郷で問題児(トラブルメーカー)として隔離されていた飛鳥にとって出来すぎな理想郷である。

 

「(………だけど、それもギフトがあるからこその関係よ)」

 

 少し寂しげに、飛鳥は夜空を見上げる。そして先程の襲撃を思い出す。

 

「(さっきのネズミ………どうして私のギフト(いこう)が通用しなかったのかしら………?)」

 

 私の〝威光〟が通じなかった存在。

 一つ目は、我らの龍神メイド―――ローズ。

 二つ目は、原初の海神龍―――ティアマト。

 三つ目は、〝ノーネーム〟の工房に眠る宝剣・聖槍・魔弓といった武具(ギフト)

 即ち、飛鳥よりも格上の超常存在が相手では、飛鳥の持つギフトは通用しないのだ。

 

「(〝霊格〟というものはまだ理解し切れていないけど、ネズミに劣る事は無いはずよ)」

 

 飛鳥は夜空を見上げ、黒ウサギの話を思い出す。

 

 

 ―――〝霊格〟とは、世界に与えられた〝恩恵(ギフト)〟生命の階位である。

 箱庭に来た当初、黒ウサギはこう推測した。

 

「霊格を得るには大きく分けて二通りあります。

 一つ、〝世界に与えた影響・功績・代償・対価によって得る〟

 二つ、〝誕生に奇跡を伴う遍歴がある〟

 など他にもありますが、多くの場合はこの二つで御座いますね。前者が誕生に絡むのは主に悪魔などの超常存在が有名です。後付けであれば、幾星霜を生きた生命は仙道に、生け贄や人柱などで得た者は悪鬼羅刹としての霊格を。けどまあ、人間は殆んどが後者で御座いますね」

 

「では私は、誕生に何かしらの奇跡が………?」

 

「YES!例えば先日戦った〝ペルセウス〟ですが、彼はギリシャ神話の主神の息子。本来は違う生命体である人間と神霊の間に子を宿すのは不可能なことなのですが、その不条理を捻じ曲げて生まれてくる者達は本来の生命体よりも高位の存在―――高位生命(ハイブリッド)として、後の五代までを神族と称されます。……まあ、ペルセウスの場合はゴーゴン退治の功績もありますが。

 飛鳥さんの高い霊格は誕生に際して、何か特殊な事情があったのか、若しくは先祖の方で修羅神仏に属する超常存在がいたのだと思われます」

 

「そ、そう………特殊な事情が、私の出自に………」

 

「あやや、そんなに難しく考える必要は御座いませんよ?基本の法則として〝伝承がある〟ということは〝功績がある〟、という程度の認識で問題はありません」

 

 炎に飛び込んだ〝月の兎〟の献身のように、と黒ウサギは締め括った。

 余談だが、神仏が眷属や武具に与える各位を〝神格〟と呼ぶらしい。種族の最高位にまで力を高めるらしいが、詳しくは聞いていない。

 そもそもワータイガーのガルドでさえ跪かせたこの〝威光〟は、原石のままでも高い霊格を備えていると黒ウサギは太鼓判を押してくれた。

 

「(なら………他に考えられる理由は一つ)」

 

 飛鳥は受け入れ難い事実に歯噛みする。〝威光〟がネズミに通用しなかった原因は―――飛鳥よりも強力な支配を既に受けていた、と考えられる。

 

「(…………っ)」

 

 ドボン!と深く湯に沈む。

 飛鳥の〝恩恵〟は四人の中で一番有用性が低い。彼女の選んだ原石の方向性―――〝ギフトを支配するギフト〟というスタンスは、別途に強力なギフトが無ければ十全に力を発揮することが出来ない。

 かといって、〝ノーネーム〟の工房に眠る高位ギフト達はまだまだ扱えない。聞けば、あの中には神格が付与されたものもあるらしい。

 いやそもそも、人並みにしか武芸を嗜んだことが無い飛鳥では、武具は意味がない。

 力を引き出せたとしても、十六夜や耀のような大立ち回りを見せることは不可能だし、ローズのように全知全能というわけでもない。

 

「(………選択、誤ったかしら)」

 

 ブクブクと、膝を抱えて息を吐く飛鳥。

 今ならまだ修正が利く。人心を操る方向性に強く育ったこの力を伸ばせば、様々な種を支配下に置く魔性のギフトとして開花していくだろう。

 そうすれば、彼女の心身を操る魔女として大成する可能性が残されている。

 

「………だけどそんなの、私は望んでないわ」

 

 儚い声は、湯殿の湯気と共に浮かんで消えた。

 飛鳥はプライド以上に正義感の強い少女。心を歪めてまで相手から得る〝(YES)〟に、如何ほどの価値があるというのか。

 

「(あの幼い精霊がいる限り、また襲ってくるはず。その時に決着をつけてみせるわ………!)」

 

 頭上で纏めていた髪を解き、湯船から上がる。脱衣場が騒がしくなったのはその時だった。

 

「飛鳥さん!お怪我の程は大丈夫で御座いますか!?」

 

 服を脱ぎ、身体を手拭いで隠し、ウサ耳を逆立てながら勢い良く飛び込む黒ウサギ。が、

 

「待て待て待て黒ウサギ!!家主より先に入浴とはどういう了見だいやっほおおおおお!」

 

「きゃああああああ!!」

 

 バシャン、ズゴン!!

 同じく素っ裸な白夜叉に背後から強襲され、二人はくっついたままトリプルアクセルで湯船にダイブ。特に黒ウサギは頭から飛び込んでいた。

 致命的な音を聞いた飛鳥は、慌てて黒ウサギに駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっと黒ウサギ!大丈夫!?湯船の底に頭が突き刺さってるわよ貴女!」

 

()だび()ぼぶ(丈夫)()()()()()()あぶば(飛鳥)()()()()きぶはだい()ぼう()()()()()!?」

 

 湯船の底に頭を突っ込み、泡を吐きながらも、飛鳥を心配する黒ウサギ。

 そんな彼女のウサ耳を、

 

「てい!」

 

「フギャア!!」

 

 白夜叉ははしゃぎながら掴んで勢い良く湯船から引き抜いた。

 黒ウサギは半泣きになりながらも、飛鳥の肩を掴んでボディチェックをし始める。

 

「き、傷は大丈夫で御座いますか?細菌は問題ないですか?乙女の肌に痕が残るようなものは御座いませんか?痩せ我慢していませんか?本当に大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ。湯船に浸かったらすぐ治ったわ」

 

 無遠慮な程に身体をまさぐられるが、疚しい気持ちがあるわけではないので突き放せない。

 飛鳥が困ったようにしていると、白夜叉がマジマジと飛鳥の素肌を上下に見つめる。

 

「………ふむ。飛鳥は十五歳とは思えん肉付きだの」

 

「は?」

 

「飛鳥の身体は鎖骨から乳房まで豊かな発育をしているのに乳房から臍のボディラインには一切の崩れが無く然れど触れば柔らかな女人の肉であることは間違いなくしも臀部から腿への素晴らしい脾肉を揉み解せば指と指の間に瑞々しい少女の柔肌が食い込むのは確定的に」

 

 スパァーンッ!!

 木製の桶が二つ、白夜叉の顔面に直撃。

 冒頭から最後まで一秒と掛からない変態(セクハラ)発言だった。

 飛鳥は真っ赤に頬を染めながらも、まるで生ゴミを見るような冷えた瞳で白夜叉を見下す。

 

「………え、何?白夜叉ってこんな人だったの?」

 

「ええ、まあ。凄い人ではあるのですが。それ以上に残念な御方なので御座います」

 

「そう」と冷たく相槌。

 そのまま湯殿から出ようとした飛鳥だが、脱衣場にはまだ人の気配がある。次に入ってきたのは、耀、リリ、レティシア、ローズ、尖り帽子の精霊の五名だった。

 

「あすか!」

 

 スタタタタ、と走り寄った尖り帽子の精霊はそのまま飛鳥の身体をよじ登る。

 こそばゆいのを我慢しながら、飛鳥はローズ達に振り返る。

 

「どうしたの?皆して入浴?」

 

「うん」

 

「はい♪」

 

「ああ」

 

「うむ」

 

 飛鳥の問いに頷くローズ達。だが、

 

「………どうしてレティシアは()()なのかしら?」

 

「あ、いや………つい先程、我が主の強烈なデコピンをもらってな。凄く痛いんだ」

 

「え?」と飛鳥はローズを見る。ローズは「くく」と喉を鳴らしながら笑い、

 

「そうだ。我が眷属は飛鳥を無傷で守れなかった故な。少しお仕置きしてやったわけだ」

 

「……………」

 

「ん?なんだレティシアよ?もう一発デコピンする(いっとく)か?」

 

「い、いや、遠慮しとくよ………っ!」

 

 サッと額を手で覆い隠して守るレティシア。ローズはそんな彼女をニヤニヤと見つめた。

 その様子に、これは遊ばれているな、と飛鳥と耀は察してニヤリと笑う。苦笑する黒ウサギとリリ。

 ちなみにローズは、最初は『良くぞ飛鳥を守ってくれた。汝は良き眷属だ』とレティシアの頭を優しく撫で。

『だが無傷じゃないのは駄目だな。よってお仕置きと行こうか♪』とレティシアの額に強烈なデコピンをした。

 〝頭を優しく撫でる(あめ)〟と〝デコピン(むち)〟とはまさにこの事だった。

 レティシアは、次こそは油断などするものか!とローズのお仕置き回避に燃えている。

 

「それはそうと………何でローズさんが此処に?ジン君と入らないの?」

 

「ぬ?」

 

「は?」

 

「「え!?」」

 

 飛鳥の言葉に間の抜けた声を出すレティシアと、ぎょっとする黒ウサギとリリ。一方の耀はニヤリと笑って便乗し、

 

「本当だ。デート後は混浴という決まりがあるのに、ローズはイケない子」

 

「そんな決まりはないのですよ!?何を言ってんですかこの人は!?」

 

「ジン君と混浴………はわわ………っ!」

 

 顔を真っ赤にしてすかさずツッコミを入れる黒ウサギ。ジンとの混浴を想像(もうそう)して激しく狼狽するリリ。狐耳まで真っ赤にしながら。

 そんな二人の反応を面白そうに眺めたローズは、いやな、と呟き、

 

「その混浴の件なら、十六夜にも進められたぞ。〝ローズ、お前は御チビ様と一緒に風呂に入んな〟―――と言われてな。無論、我はジンと混浴しても問題はなかったが、ジンは〝じ、冗談でしょう!?ぼ、僕はぜ、ぜぜぜ絶ッ対に!ローズさんとは一緒に入りませんからね!?〟―――と拒否されてしまった。やれやれ。一度は我の裸を見ているというのに何が恥ずかしいのか」

 

「恥・ず・か・し・いに決まってるのですよ!?お互いに裸を見せ合うんですからね!!それにあの時は一瞬且つ事故だったじゃないですかッ!!」

 

「………ふむ。そういうものか?」

 

「そういうものです!」

 

 ローズの天然(?)ボケに全力ツッコミを決める黒ウサギ。勿論、全身を真っ赤にして。

 飛鳥と耀は、流石は十六夜、分かってる、と称賛した。

 何を言ってるんだ主殿達は、とレティシアは呆れる。が、

 

「ジン君と、裸を見せ合う!?―――はにゃああああ………」

 

 バタリ、と興奮し過ぎてその場に倒れ込むリリ。全身を真っ赤にして。

 

「え?リリ!?しっかりして!」

 

「………はにゃー」

 

「は、はにゃー………?」

 

 耀が慌ててリリを抱き起こすも、聞こえてきたのは謎の言語のみ。

 これに耀は焦りながらも、やっぱりリリもジンのことが好きなんだね、と確信しニヤリと笑う。

 耀のその笑みに気づいた飛鳥も、そういうことね、と耀の思っていることを察してニヤリと笑う。

 そして飛鳥と耀は、これは面白くなりそうだ、と思い笑いを噛み殺した。

 ………リリが目覚めたのは、湯殿から出た後の話である。

 

 

αλ

 

 

 湯殿から出た飛鳥達は備えの薄い布を着て十六夜とジンと合流したのだが、

 

「………おお?コレは中々良い眺めだ。そうは思わないか御チビ様?」

 

「はい?」

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでも分かる二の腕から乳房に掛けての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシア、ローズ、リリの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちる様は視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあ」

 

 スパァーン!!

 本日二度目の速効ツッコミ。

 勿論、耳まで紅潮した飛鳥と、ウサ耳まで紅潮させた黒ウサギである。

 

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

 

「白夜叉様も十六夜さんも皆お馬鹿様ですッ!!」

 

「ま、まあ二人とも落ち着いて」

 

 慌てて宥めるレティシア。無関心な耀。狐耳まで紅潮させるリリ。「くく」と喉を鳴らして笑うローズ。ケラケラと腹を抱えて笑う白夜叉。

 ジンが痛そうな頭を両手で抱えていると、彼の肩に女性店員が同情的な手を置いた。

 

「………君も大変ですね」

 

「………はい」

 

 一方は組織主力に問題児しかいない。

 一方は組織のトップが最大の問題児。

 そんな虚しい哀愁を分かち合う二人。

 その裏側で、同好の士を得たように握手する十六夜と白夜叉。

 その後、十六夜はジンに歩み寄って耳打ちし、

 

「―――で、御チビ様?感想はねえのか?」

 

「は?」

 

「ローズの風呂上がりを見てどう思う?」

 

 十六夜の質問に、ジンはローズの頭の天辺から足の先まで見つめて、

 

「そ、そうですね。元が芸術絵画のようにとても綺麗な印象でしたが、虹色の髪が濡れてより美しく仕上がったような気がします。そ、それに………」

 

「うん?それに?」

 

「………と、とてもい、良い匂いがします………っ、」

 

 顔を真っ赤にして言うジン。十六夜は「ほう」と、それは良いことを聞いた、とニヤリと笑い、

 

「だそうだぜローズ。御チビ様はお前をべた褒めしてた」

 

「え?ちょ、十六夜さん!?」

 

「ほう?ジンが我をか?」

 

 ローズはジンに歩み寄ると、彼の頭に手を置き、

 

「ありがとうなジン。我はとても嬉しいぞ」

 

 そう言いながらローズは微笑み、ジンの頭を優しく撫でる。ジンは恥ずかしい反面、嬉しそうに口元を緩ませていた。

 その様子をニヤニヤと眺める十六夜達。リリだけは、私だって負けない!と小さな拳を握り締めたのだった。

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