問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
―――境界壁・舞台区画。〝火龍誕生祭〟運営本陣営。
割れるような歓声のなか、〝ノーネーム〟一同は運営側の特別席に腰掛けていた。舞台を上から見ることの出来る本陣営のバルコニーに用意されたこの席は、一般席が空いてない彼らのために、サンドラが取り計らってくれたものだ。
十六夜は嬉々とした面持ちで決勝の開幕を待ちわびていた。
「ところで白夜叉。黒ウサギが審判をする許可は下りたのか?」
「うむ。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させてもらったぞ」
「そうか。けど〝箱庭の貴族〟の審判が無くてもギフトゲームを進行する事は出来るだろ?なら審判をする事に何の意味がある?」
十六夜が首を傾げて訊くと、中央に座るサンドラが前に出て念を押す。
「ジャッジマスターである〝箱庭の貴族〟が審判をしたゲームは、〝箔〟付きのゲーム。ルール不可侵の正当性は、箱庭の名誉ある戦いに昇華され、記録される。箱庭の中枢に記録される事は両コミュニティが誇りの下に戦ったという太鼓判。これは、とても大事」
「へえ?じゃあサンドラ………いや、サンドラ様の誕生祭は見事に箔付きのゲームに認定されたってことだ」
マンドラが、サンドラを呼び捨てにするな!と鋭い視線で訴えてきたため、十六夜は肩を竦めて改める。
一方、飛鳥は落ち着きがなくそわそわしながら大会の進行を見守っている。
「どうした、お嬢様。落ち着きないぞ」
「………昨夜の話を聞いて心配しない方が可笑しいわ。相手は格上なのでしょう?」
「うむ」と返した白夜叉は、手を翳す。すると空中に光る文字で対戦相手の名が刻まれる。
「〝ウィル・オ・ウィスプ〟と〝ラッテンフェンガー〟―――両コミュニティは本拠を六桁の外門に構えるコミュニティ。通常は下位の外門のゲームには参加しないものだが、フロアマスターから得るギフトを欲して降りてきたのだろう。魔王の一件を抜きにしても、一筋縄ではいかんだろな」
「そう。………白夜叉から見て、春日部さんに優勝の目は?」
「ない。が、それはあくまであやつのみで挑んだらの話だの。ローズちゃんがおるから寧ろ優勝以外ありえんと思うがのう」
うんうん、と頷く白夜叉。それを聞いて「それもそうね」と同意する飛鳥。
だがそれでも飛鳥は、内心では耀のことが心配だった。
何故なら、ローズの助力を得ているとはいえ、耀は、勝てない、と思うまで彼女に頼らないつもりだからだ。
耀がそう思うまでローズは手を出せない。否、手を出してはならない。それはつまり、耀が大怪我を負ってしまうかもしれないということだった。
魔王の件は、ローズの未来予知によると、耀達の戦いが終わった後に襲来してくるそうなので決勝の途中で襲われる心配はない。
だが、決勝で怪我した耀が魔王に襲われる、という可能性も無きにしも非ずなのだ。その時にローズが傍にいなかったら………そう考えただけでゾッとする。
そんな不吉な予想をして飛鳥は全身を震わせていると、十六夜がそれに気づいてニヤリと笑った。
「春日部が心配なのは分かる。だがあいつには龍神様がついてるんだ。万が一の事があったとしても大丈夫だろ」
「そうだけど………」
「それに忘れたのか?ローズは俺達に約束してくれたじゃねえか。〝我が汝らの命を保証する〟―――ってさ」
「―――!」
飛鳥はハッと気がついて顔を上げる。そうよ、ローズさんは約束してくれたじゃない。自分達の命を保証してくれるということを。
それを約束してくれたのは誰?龍神メイドであるローズさんよ。彼女なら本当に私達を護ってくれるはず。全能の彼女ならばきっと―――
「そうよね。私達にはローズさんがいるんだもの。春日部さんなら平気よね」
「ああ。もし春日部を護れなかったらそん時は―――」
「ええ。ローズさんなんか丸焼きにして
「お?龍神メイドの丸焼きか。一度は龍を喰ってみたいと思ってたんだよな。そりゃいい案だぜお嬢様」
「超グッジョブ!」と十六夜が親指を立てて言うと、「ええ」と飛鳥も親指を立てて返す。それを聞いていた白夜叉がニヤリと笑って、
「良かろう。ではローズちゃんを焼くのはこの私に任せろ!あの子は私が封印されるというのに何の策も用意してくれなかったのだ!これはもう、腹いせにローズちゃんの全身を隅から隅まで焼き尽くさなければ気が晴れんわいっ!!」
轟々と瞳に宿った怒りの炎を燃やす白夜叉。この恨み晴らさで置くべきか!というように。
そんな白夜叉を面白そうに眺めた十六夜と飛鳥は、ニヤァと邪悪に笑い、
「「いい(ぜ・わ)。(俺・私)が許す!」」
「フホホホ!言質は取った!私との約束、忘れるでないぞおんしら」
「「はーい」」
ニコォリと邪悪な笑みを浮かべる十六夜・飛鳥・白夜叉。
そんな恐ろしい計画を聞いてしまったサンドラは身震いし、マンドラが、大丈夫だ、と
そんな彼らを余所に、決勝の準備は進んでいく。
日が昇り切り、開催の宣言のために黒ウサギが舞台中央に立つ。黒ウサギは胸一杯に息を吸うと、円状に分かれた観客席に向かって満面の笑みを向ける。
『長らくお待たせいたしました!火龍誕生祭のメインギフトゲーム・〝造物主達の決闘〟の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は〝サウザンドアイズ〟の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』
満面の笑みを振り撒く黒ウサギ。すると、歓声以上の奇声が舞台を揺らした。
「うおおおおおおおおおお月の兎が本当に来たあああああああぁぁぁぁああああああ!!」
「黒ウサギいいいいいいい!お前に会うため此処まで来たぞおおおおおおおおおお!!」
「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」
割れんばかりの熱い情熱を迸らせる観客。
黒ウサギは笑顔を見せながらもへにょり、とウサ耳を垂れさせて怯んだ。
「…………………………………………。随分と人気者なのね」
熱狂的な歓声奇声を向けるなかで一際輝く『L・O・V・E 黒ウサギ♡』の文字。
飛鳥は生ゴミの山を見るような冷めきった目で一部の観客席を見下ろす。
「(これも日本の外の異文化というものなのかしら………頭を柔軟にして受け入れないと……)」
それに黒ウサギが可愛いのは事実だし、文句のつけようもないのだけれどね、と飛鳥は思う。
十六夜はその有象無象の観客席の声を聞き、ハッと重要なことを思い出す。
「そういえば白夜叉。黒ウサギのミニスカートを絶対に見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だオイ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ。昨夜に語り合ったお前の芸術に対する探究心は、その程度のものなのか?」
「そんなことを語っていたの?」
「お馬鹿じゃないの?」と飛鳥は言ったが、もう二人に届かない。
一方の白夜叉は、双眼鏡に食らいついていた視線を外して不快そうに一瞥する。その表情には、
「フン。おんしも所詮その程度の漢であったか。そんな事では彼処に群がる有象無象と何ら変わらん。おんしは真に芸術を解する漢だと思っていたのだがの」
「………へえ?言ってくれるじゃねえか。つまりお前には、スカートの中身を見えなくすることに芸術的理由があるというんだな?」
「無論」と白夜叉は首肯。まるで決闘を受けるかのような気迫で白夜叉は凄む。
「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ?エロか?成る程、それもある。だが時にそれを上回るのが想像力!未知への期待!知らぬことから知ることの渇望!!小僧よ、貴様程の漢ならばさぞかし数々の芸術品を見てきたことだろう!!その中にも、未知という名の神秘があったはず!!例えばそう!!モナリザの美女の謎に宿る神秘性ッ!!ミロのヴィーナスの腕に宿る神秘性ッ!!星々の海の果てに垣間見るその神秘性ッ!!そして乙女のスカートに宿る神秘性ッ!!それらの神秘に宿る圧倒的な探究心は、同時に至る事の出来ない苦渋!その苦渋はやがて己の裡に於いてより昇華されるッ!!何物にも勝る芸術とは即ち―――己が宇宙の中にあるッ!!」
ズドオオオオオオオオオオン!!という効果音が似合いそうな雰囲気で十六夜は硬直した。
「なッ………己が宇宙の中に、だと………!?」
自分の知らない新境地に衝撃を受ける十六夜。
一方で、白夜叉の話を聞いていたサンドラ一同は、別の意味で衝撃を受けていた。
「し、白夜叉様………?何か悪いものでも食べたのですか………!?」
「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」
マンドラは不安そうなサンドラの顔をそっと隠し、何も知らぬ存ぜぬの姿勢を貫く。しかしその視線は冷えきっていた。
だが白夜叉は一向に構わない。冷たい視線など、白夜叉にとって針ほどの痛みもない。そして白夜叉は握り拳を作って、己の説法をこう締めた。
「そうだッ!!真の芸術は内的宇宙に存在するッ!!乙女のスカートの中身も同じなのだ!!見えてしまえばただただ下品な下着達も―――見えなければ芸術だッ!!」
ズドオオオオオオオオオオン!!という効果音が似合う顔で白夜叉は言い切った。
其処には恥も外聞もない。ただただ、ロマンの求道者が胸を張って十六夜を睨んでいる。その双眸には一点の曇りもない。
そして右手には、
「この双眼鏡で、今こそ世界の真実を確かめるが良い。若き勇者よ。私はお前が真のロマンに到達出来る者だと信じておるぞ」
「………ハッ。元・魔王様に其処まで煽られて、乗らないわけにはいかねえな………!」
ガッ!と双眼鏡を受け取り、二人は黒ウサギのスカートの裾を目で追う。訪れるかもしれない、奇跡の一瞬を逃す事のないように。
飛鳥はそんな二人を空気と思うことにした。コレも箱庭という日本の外の異なる文化体系。時に理解出来ないものを生温い目で見る事も必要なのだと、心の底から割り切るのだった。
αν
耀は観客席からは見えない舞台袖で、三毛猫と戯れていた。その傍に彼女のサポーターとして漆黒メイドのローズが控えている。
セコンドについたジンとリリ、レティシアは、次の対戦相手の情報を確認していた。
「―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟に関して、僕が知っている事は以上です。参考になればいいのですが………」
「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから。それにいざという時はローズに頼る」
「うむ。任せておけ」
耀の言葉に頷くローズ。セコンドサイドのジン達も「うん」と頷いた。
会場では黒ウサギの手でゲームが進行し、とうとう試合開始が近くなる。
ジンの右隣にいるレティシアは、ローズを見て言う。
「耀のことは任せたぞ、我が主」
「ああ、無論だ」
「耀様、ローズ様、頑張って下さい!」
「うん、頑張る」
リリの応援に笑みで返す耀とローズ。
舞台の真中では黒ウサギがクルリと回り、入場口から迎え入れるように両手を広げた。
『それでは入場していただきましょう!第一ゲームのプレイヤー・〝ノーネーム〟の春日部耀と、〝ウィル・オ・ウィスプ〟のアーシャ=イグニファトゥスです!』
三毛猫をリリに預け、通路から舞台に続く道に出る耀。それにローズも続く。
その瞬間、耀の眼前を高速で駆ける火の玉が横切―――
「YAッFUFUFUUUUUuuuuuu!!」
「………フン」
―――れなかった。ズビシッ!という効果音と共にローズが火の玉をデコピンで吹き飛ばしたのだ。
「YAho!?」
「きゃあああああ!?」
耀達を強襲しようとした人影が、火の玉と一緒に宙を舞い―――ドスンッ!と舞台の上に尻を強打した。
耀とローズは舞台に上がり、尻を強打して涙目になるツインテールと白黒ゴシックロリータの派手なフリルのスカートを着た少女・アーシャを見た。
「………大丈夫?」
「ああん!?大丈夫なわけあるか!そのメイドのせいで尻が痛いったらありゃあしないっての!」
「ふん、強襲してきた汝らが悪いな。吹き飛ばされても文句は言えまい」
「んだとコラ!〝ノーネーム〟のメイドの分際で生意気だっつの!身の程を弁えろよな!」
憤慨するアーシャを冷たく見下ろすローズ。
一方、観客席ではざわめき立っていた。
「誰だ、あのメイドっ娘は?」
「〝ノーネーム〟の切り札なのか?」
「髪の色が虹色とか珍しいぞ」
「ん?だけどあのメイド、昨日どっかで見かけたような………?」
そんな言葉が飛び交うなか、耀はアーシャの頭上に浮かぶ火の玉―――正確にはその中心に見えるシルエットに釘付けだった。
「その火の玉………もしかして、」
「はぁ?何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。コイツは我らが〝ウィル・オ・ウィスプ〟の名物幽鬼!ジャック・オー・ランタンさ!」
「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」
アーシャは立ち上がってスカートの裾についた土や埃を払い整えると、頭上の火の玉へ合図を送る。すると火の玉は取り巻く炎陣を振りほどいて姿を顕現させる。その姿に耀だけではなく、観客席の全てが暫し唖然となった。
轟々と燃え盛るランプと、実体の無い浅黒い布の服。人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャ頭。
その姿はまさしく、飛鳥が幼い日より夢見ていた、カボチャのお化けそのものだった。
「ジャック!ほらジャックよ十六夜君!本物のジャック・オー・ランタンだわ!」
「はいはい分かってるから、落ち着けお嬢様」
熱狂的な声を上げて十六夜の肩を揺らす飛鳥。そんな彼女に苦笑を零す十六夜。
一方で舞台上でアーシャが耀達を睨み付けながら言う。
「そのメイドもそうだけど、〝ノーネーム〟の癖に私達〝ウィル・オ・ウィスプ〟より先に紹介されるとか生意気だっつの。ま、私の晴れ舞台の相手をさせてもらうだけで泣いて感謝しろよ、この名無し」
「YAHO、YAHO、YAFUFUUUuuuuuuuu~~~♪」
小馬鹿にしたような態度を示すアーシャとジャック。しかしそんなもの、耀とローズにとっては挑発にすらならない。
二人は円状の舞台をぐるりと見回し、最後にバルコニーにいる飛鳥達に手を振った。
飛鳥もそれに気がついて二人に向かって笑顔と手を振り返す。
アーシャは耀達のその仕草が気に入らなかったのか、舌打ちして皮肉気に言う。
「大した自信だねーオイ。私とジャックを無視して客とホストに尻尾と愛想振るってか?何?私達に対する挑発ですかそれ?」
「「(うん・愚問だな)」」
カチン!と来たように唇を尖らせるアーシャ。どうやら効果は抜群らしい。
普段大人しい耀だが、彼女は結構負けず嫌いだったりする。ローズの場合は耀に便乗しているだけだろうが。
黒ウサギはそんなやり取りを苦笑しながら眺めると、宮殿のバルコニーに手を向けて厳かに宣言する。
『―――それでは第一ゲームの開幕前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります。ギャラリーの皆様はどうかご静聴の程を』
刹那、会場からあらゆる喧騒が消えた。〝主催者〟の言葉を聞くために静寂が満ちていく。
バルコニーの前に出た白夜叉は静まり返った会場を見回し、緩やかに頷いた。
「うむ。協力感謝するぞ。私は何分、見ての通りのお子様体型なのでな。大きな声を出すのは苦手なのだ。―――さて。それではゲームの舞台についてだが………まずは手元の招待状を見て欲しい。其処にナンバーが書いておらんかの?」
観客は一斉に招待状を取り出した。手元に無い者は慌てて鞄の中を捜し、置いてきた者はひたすらそれを悔いていた。一喜一憂する観客達の様を温かく見つめる白夜叉は、説明を続けた。
「では其処に書かれているナンバーが、我々ホストの出身外門―――〝サウザンドアイズ〟の三三四五番となっている者はおるかの?おるのであれば招待状を掲げ、コミュニティの名を叫んでおくれ」
ざわざわとどよめく観客席。するとバルコニーから真正面の観客席で、
「こ、此処にあります!〝アンダーウッド〟のコミュニティが、三三四五番の招待状を持っています!」
「おおお!」っと歓声が上がる。白夜叉はニコリと笑いかけ、バルコニーから霞のように姿を消し、次の瞬間には少年の前に立っていた。
「ふふ。おめでとう、〝アンダーウッド〟の
コクコクと勢い良く頷く少年。彼の差し出した木造の腕輪には、コミュニティの
「今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆のもの。お手を拝借」
白夜叉が両手を前に出す。それに倣って全観客も両手を前に出す。
パン!と会場一致で柏手一つ。その所作一つで―――全ての世界が一変した。