問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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 変化は劇的だった。

 耀の足元は虚無に呑み込まれ、闇の向こうには流線型の世界が頭に廻っていた。その世界の一つに、耀が鷲獅子(グリフォン)と戦った舞台があったことに気がつく。

 

「(これは………白夜叉の………?)」

 

 なら不安に思う事は何もない。坩堝の底に沈んでいく感覚に身を任せ、濾過されるのを静かに待つ。

 激しいプリズムを迸らせながら、自分一人だけが星の果てに投げ出された。

 バフン!と少し意外な着地音がする。見れば下地は樹木の上だ。否、しかし唯の樹木などではなく―――

 

「この樹………ううん、地面だけじゃない。此処、樹の根に囲まれた場所?」

 

 そう。上下左右、その全てが巨大な樹の根に囲まれている大空洞だったのだ。

 樹の幹が根だとすぐに理解出来たのは、耀の持つ恩恵―――〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟によって強化された嗅覚が土の匂いを嗅ぎとったからだ。

 耀の独り言を聞いていたアーシャが、小馬鹿にしたように彼女を笑う。

 

「あらあらそりゃどうも教えてくれてありがとよ。そっか、ここは根の中なのねー」

 

「……………」

 

 フイっと無関心そうにアーシャから顔を背ける耀。今度は決して挑発行為に及んだわけではなかったが、アーシャを苛立たせるには十分だったようだ。

 そんな二人をローズは「くく」と喉を鳴らしながら見つめる。

 アーシャは横に立つジャックと共に臨戦態勢に入る。が、耀はそれを小声で制す。

 

「まだゲームは始まってない」

 

「はあ?何言って」

 

「勝利条件も敗北条件も提示されていない。これじゃゲームとして成立しない」

 

 それにムッとするアーシャ。だが耀の言い分に正当性を感じたのか、ツインテールを振り回し、呆れたように根の大空洞を見回してぼやく。

 

「しっかし、流石は星霊様ねー。私ら木っ端悪魔とは比べ物にならねえわ。こんなヘンテコなゲーム盤まで持ってるんだもん」

 

「それは………多分、違う」

 

「ああん?」

 

「ああ、違うな。白夜叉がわざわざ決勝の舞台を決めたというのに、自分のゲーム盤を使うのは変であろう?案外此処は―――〝アンダーウッド〟とやらの中かもしれぬよ」

 

 耀の代わりに応えるローズ。とはいえ全知のギフトを使って調べたわけではないので、あくまでもローズの憶測に過ぎないが。

 それを聞いて耀はハッと思い出す。招待状のやり取りで、確かに〝アンダーウッド〟のコミュニティが選ばれていたことを。

 

「(じゃあ私が感じている温度の低さ………〝アンダーウッド〟とかいう場所が寒くて其処に跳ばされたってこと?)」

 

 そんなことを思っていると、突如、耀とアーシャの間の空間に亀裂が入る。亀裂の中から出てきたのは、輝く羊皮紙を持った黒ウサギだった。

 ホストマスターによって作成された〝契約書類(ギアスロール)〟を振り翳した黒ウサギは、書面の内容を淡々と読み上げる。

 

 

『ギフトゲーム名〝アンダーウッドの迷路〟

 ・勝利条件

 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。

 二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

 三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

 ・敗北条件

 一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

 二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。』

 

 

「―――〝審判権限(ジャッジマスター)〟の名に於いて。以上が両者不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

 黒ウサギの宣誓が終わり、ゲームは開始された。

 耀とアーシャは距離を取りつつ初手を探る。ローズとジャックはその様子を見守る。

 暫しの空白のあと。先に動いたのは、小馬鹿にした笑みを浮かべるアーシャだった。

 

「睨み合っても進まねえし。先手は譲るぜ」

 

「……………?」

 

「オマエら〝ノーネーム〟へのハンデってやつだよ。ありがたく受け取っておきな」

 

 ツインテールを揺らしながら余裕の笑みを浮かべるアーシャ。

 耀は無表情で暫し考えたあと、一度だけ口を開いた。

 

「貴女は………〝ウィル・オ・ウィスプ〟のリーダー?」

 

「え?あ、そう見える?なら嬉しいんだけどなあ♪けど残念なことにアーシャ様は、」

 

「そう。分かった」

 

 リーダーと間違われた事が嬉しかったようで、愛らしい満面の笑みで答えるアーシャ。だが耀は聞いていない。耀は会話をほっぽり出し、背後の通路に疾走していったのだ。

 

「え………ちょ、ちょっと……………!?」

 

 自分から投げ掛けたにも関わらず話の途中で逃げ出した耀。そんな彼女にアーシャは暫し唖然とする。ローズだけは「くく」と喉を鳴らしながら笑い、耀の背を見つめた。

 ハッと我に返ったアーシャは全身を戦慄かせ、怒りのままに叫び声を上げた。

 

「オ………オゥェゥウウケェェェェイ!とことん馬鹿にしてくれるってわけかよ!そっちがその気なら加減なんざしねえ!行くぞジャック!樹の根の迷路で人間狩りだ!」

 

「YAHOHOHOhoho~!!」

 

 怒髪天を衝くが如くツインテールを逆立たせて猛追するアーシャ。()()()()並走するローズ。

 耀は背中を向けて通路と思わしき根の隙間を次々と登る。アーシャはその背中に向かって叫んだ。

 

「地の利は私達にある!焼き払えジャック!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 左手を翳すアーシャ。ジャックの右手に提げられたランタンとカボチャ頭から溢れた悪魔の業火は、瞬く間に樹の根を焼き払って耀を襲う。

 しかし耀は最小限の風を起こし、炎を誘導して避けた。

 

「(避けた?違う!今の風………コレがコイツのギフトか………!?)」

 

 アーシャはジャックの業火の軌道が逸れたことに舌打ちし、

 

「―――ふむ。鷲獅子(グリフォン)から授かった風のギフトで軌道をずらしたか。やるな、耀」

 

「「(は・YAho)?」」

 

 間の抜けた声を洩らすアーシャとジャック。そして声の主に振り向き、アーシャはぎょっと瞳を見開いた。

 

「なっ、なんでオマエが私達と並走してんのさ!?」

 

「ん?ああ、それはな。()()手を出してはならぬからだ。それにこの位置だと、汝らの戦いを傍観しやすいというのもある」

 

「………あっそ。私達の邪魔をしないんならいいけど―――サポーター呼んどいて使わないとか、何処まで私達を馬鹿にすりゃ気が済むんだよ、くそったれ!!」

 

 ローズ(サポーター)を呼んでいながら使わない耀に、ますます苛立つアーシャ。

 対して、耀は既にジャックの秘密に気がつき始めていた。

 

「(あの炎………ジンの話していた〝ウィル・オ・ウィスプ〟のお話通りだ)」

 

 耀は試合前に教えられていた知識を思い出す。

 

 

 ―――Will(ウィル) o'() wisp(ウィスプ)Jack(ジャック) o'(オー) lantern(ランタン)の伝承。

 前者の伝承は、無人の場所で突如、青白い炎が生まれる現象。鬼火と云われるもの。

 後者の伝承は、彷徨う死者の魂が形骸化された逸話。所謂幽鬼と云われるもの。

 しかしこの二つの伝承には、それぞれに共通した逸話が残っている。

 その一つが、『二度の生を受けた大罪人の魂に、名もなき悪魔が篝火を与えた』という点。

 伝承では、生前のジャックは二度の生を大罪人として過ごし、永遠に生と死の境界を彷徨うこととなる。それを哀れに思った悪魔が与えた炎こそ、ジャックのランタンから放つ業火。

 ―――〝伝承がある〟という事は〝功績がある〟。その法則に則るなら〝ウィル・オ・ウィスプ〟のコミュニティのリーダーは、『生と死の境界に現れた悪魔』のはずだ。

 

「(だけど………彼女はリーダーじゃない。なら違う悪魔か種族のはず)」

 

 もし仮にアーシャの正体が、生と死の境界を行き来出来る程の力を持つ悪魔だったのであれば、耀に勝ち目はなかっただろう。さっきの質問はそれを確かめるためだったのだ。

 

「あーくそ!ちょろちょろと避けやがって!三発同時に撃ち込むぞジャック!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 アーシャが左手を翳し、次に右手のランタンで業火を放つ。先程より勢いを増した三本の炎。対する耀は、鷲獅子(グリフォン)のギフトすら使わずにそれら全てをすり抜けた。

 

「……な………!?」

 

 絶句するアーシャ。今度こそ耀は業火の正体を確信する。

 

「(やっぱり。あの炎は、ジャックが出してるんじゃない。あの子の手で、可燃性のガスや燐を撒き散らしてるんだ)」

 

 そう。〝ウィル・オ・ウィスプ〟の伝承の正体とは―――大地から溢れ出た、メタンガスなどの、可燃性のガスや物質の類いである。

 湖畔のような水辺でも炎が発生するのはそのためなのだ。

 本来は無味無臭の天然ガスだが、嗅覚が人間の数万倍の感覚を持つ耀はその違和感を感じ取っていた。鷲獅子(グリフォン)のギフトで軌道を曲げる事が出来たのは、僅かな風を起こすことで噴出したガスや燐を発火前に霧散させていたからだ。

 どうやら気づいたようだな、とローズは感心したように耀の背を見つめる。そしてアーシャも、種を見破られた事を察して歯噛みする。

 

「くそ、やべえぞジャック………!このままじゃ逃げられる!」

 

「Yaho………!」

 

 走力では俄然、耀が勝っていた。豹と見間違う健脚はみるみるうちに距離を空けて遠ざかる。しかも耀の五感は外からの気流で正しい道を把握している。最早彼女にとっては迷路ですらない。

 アーシャは離れていく耀の背中を見つめ―――諦めたように溜め息を吐いた。

 

「………くそったれ。悔しいが後はアンタに任せるよ。本気でやっちゃって、ジャックさん」

 

「わかりました」

 

「え?」と耀が振り返る。遥か後方にいたジャックの姿はなく、耀のすぐ前方に霞の如く姿を現したのだ。巨大なカボチャの影を前にした耀は、驚愕して思わず足を止める。

 

「嘘」

 

「嘘じゃありません。失礼、お嬢さん」

 

 ジャックの真っ白い手が、強烈な音と共に耀を薙ぎ払う。

 耀が樹の根の壁に叩きつけられそうになった瞬間―――彼女の背後にローズが姿を現し耀をふわりと優しく受け止めた。

 

「―――大事はないか、耀?」

 

「う、うん。ありがとうローズ。………けど痛かった」

 

「「え………!?」」

 

 ぎょっとした表情でローズ達を見るアーシャ。ジャックの様子も同様だった。

 さっきまでアーシャの隣で傍観を決め込んでいたはずのローズ(メイド)。その彼女が次の瞬間には、ジャックのように一瞬で遥か前方に移動して耀を受け止めたのだ。

 

「(あのメイド、()()()()()ジャックさん並みに速く動けるのか!?)」

 

 アーシャがそんなことを思っているなか、ローズは、耀をそっと樹の根の床に降ろした。

 それを確認したジャックは、すぐさまアーシャに言った。

 

「今のうちに早く行きなさいアーシャ。このお嬢さん方は私が足止めします」

 

「でもあのメイド、なんかヤバそうだぜジャックさん!」

 

「ええ。ですから貴女は先へ。茶髪のお嬢さんが助力を求める前に早く!」

 

「くっ!済まないジャックさん。後は頼みます!」

 

 申し訳なさそうに頭を下げたアーシャは、ローズを一瞬だけチラッと見たのち、全速力で駆けていった。慌ててその背に追い縋る耀。

 

「ま、待っ」

 

「待ちません。貴女は此処でゲームオーバーです」

 

 ジャックが言い、ランタンから篝火を零す。その僅かな火は樹の根を瞬く間に呑み込み、轟々と燃え盛る炎の壁となった。

 先程までとは比にならない圧倒的な熱量と密度に、耀は息を呑んでジャックを見る。

 対照的に余裕な表情を見せるローズが耀を庇うように前に出て一言。

 

「潮時だ、耀。我に助力を求めよ」

 

「………っ!ま、まだやれる。だから」

 

「ほう?汝、本物のジャック・オー・ランタンを倒せると?」

 

「う、うん。多分………大丈夫!」

 

「………我と同じで、不死だとしてもか?」

 

「うん―――え、不死!?」

 

 ぎょっと瞳を見開いてローズを見つめる耀。しかしローズの言葉を聞いて驚いたのは耀だけでなく、ジャックも同様だった。

 

「なんと!?貴女も不死でしたか!ということは貴女は、人間ではないですね!?」

 

「ん?ああ、そうだが?」

 

 平然と返したローズは、ジャックから耀に視線を戻し、再度訊いた。

 

「それで、どうする耀よ?不死と知っても、あのカボチャの坊やと戦うつもりか?」

 

「……………っ、」

 

 ローズの問いに返事を躊躇う耀。なるべく自分の力でゲームクリアを目指したい。が、本物のジャック・オー・ランタンにして不死と聞いては、自分の力で切り抜けられる気がしなかった。

 暫しの沈黙のあと、耀は悔しげな表情を一瞬だけ見せて、すぐにいつもの表情で頷いた。

 

「ごめん、ローズ。後のことは、任せた」

 

「うむ、任された」

 

 耀が助力を求め、ローズはそれに応えた。ローズの表情は嬉々としている。

 一方、ジャックはそんな二人を通しはしまいと両手を広げて立ち塞がった。

 

「行かせませんよ、お嬢さん方。どうしても此処を通りたいというのならば―――この私を倒してからにしなさい!」

 

「ほう、そうか。我らの行く手を阻むというならば―――覚悟せよ、カボチャの坊や」

 

「………ッ!?」

 

 ジャックは思わず息を呑んだ。目の前のメイドの娘が放った馬鹿馬鹿しい程の霊格(そんざい)の大きさに。

 そして次の瞬間には、ローズの小さな拳がジャックの眼前に迫っていた。

 

「―――!!」

 

 ジャックはすぐさま其処から横へ大きく動いて、ローズの拳を躱す。標的を失ったローズの一撃は空を切り―――拳圧が炎の壁を跡形もなく吹き飛ばした。

 

「なっ………!?」

 

「ふふ、壁は取り除いた。往け、耀」

 

「うん」

 

 ローズの言葉に頷いて駆ける耀。ジャックはローズの狙いに気がつき、すぐに行動に移した。が、

 

「―――汝の相手は我だぞ、カボチャの坊や」

 

「………!」

 

 小柄なメイドの少女が、ローズがジャックの行く手を阻んだ。先程とは立場が逆になっていた。

 ジャックは警戒する。目の前の敵は幼いが、そんな彼女の全身から滲み出るのは不相応な霊格(そんざい)の大きさだ。ジャックの直感が危険を知らせているが故に慎重に動かざるを得ないのだ。

 

「ヤホホ、してやられました。貴女の目的は私を倒すことではなく、最初から炎の壁を壊すことだったのですね」

 

「ああ。汝とゆっくり拳で語り合いたいからな。故に倒すのではなく、耀の行く手を阻む障害(かべ)を取り除かせてもらったというわけだ」

 

 それに我が汝を壊すのはルール違反だからな、とローズは付け加えた。

 造物主達の決闘のルールには、〝ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事〟がある―――そう。ジャックは製作者が違えど創造されたギフトに変わりない。勝利条件の〝対戦プレイヤーのギフトを破壊〟を、サポーターであるローズが行うのは禁句である。ルールを破ればその時点で〝ノーネーム〟の敗北が決定してしまうだろう。

 不死でさえ簡単に壊せるローズにとってはもどかしいルールだが、破壊衝動は抑えて耀に勝利を掴んでもらう他ない。

 そんなローズの気持ちを察したジャックは、彼女が登録者じゃなくて良かった、と安堵した。

 ローズは「さて」とジャックを青白い焔のような瞳で見つめ、言う。

 

「無駄話はこの辺で終わりにしようか、カボチャの坊やよ」

 

「ヤホホ、そうですね。どのみち貴女を倒さなければ、茶髪のお嬢さんを追うことも、足止めすることも出来ませんからね」

 

 ジャックは覚悟を決めて虹髪青眼のメイド少女を、カボチャ頭の奥に宿す炎の瞳で鋭く見つめ、告げる。

 

「生と死の境界に顕現せし大悪魔―――ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作にして、聖人ペテロに烙印を押されし不死の怪物であるこのジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!覚悟はよろしいですね?」

 

「ふふ、それは此方の台詞だ。カボチャの坊やよ。我は純血の龍種と神霊の高位生命体(ハイブリッド)―――〝無限の魔王〟ウロボロス。勇敢なる木っ端悪魔よ。不死にして不滅の肉体を持つ我を、見事討ち滅ぼしてみるが良い!」

 

「………………………………………………は?」

 

 ローズの自己紹介と宣戦布告に、ジャックは素っ頓狂な声を洩らしたのだった。




長くなるので一旦此処で切らせてもらいました。

次回はようやくペスト達が出れるかも。
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