問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
黒ウサギのハリセンによる制裁を喰らった十六夜とローズ。
その後は黒ウサギを含めて再びずぶ濡れになってしまった十六夜を【フォティア】で乾かした。
そして―――
「と、ところでローズさん。その蛇神様はどうされます?というか生きてます?」
「生きておるよ。頭を揺らして気絶させただけだからな」
「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、ローズさんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」
「待て。何故我のみだ?
黒ウサギの言葉を指摘し訂正を求めるローズ。
「あ」と黒ウサギは思い出したように頬を掻き、
「申し訳御座いません!最初に叩きのめしたのは十六夜さん―――って、え!?」
「あん?どうした黒ウサギ?」
驚いている黒ウサギを怪訝な顔で見る十六夜。その黒ウサギはローズの言葉を聞いて、信じられないとでも言いたそうな顔で十六夜を見つめ返す。
「(そ、そういえば黒ウサギが最初に蛇神様を見つけた時には……もう既にのびていたような―――!?)」
まさか、と黒ウサギがまじまじと十六夜を見つめていると、ローズは「はあ」と深い溜め息を吐き、
「……少年」
「なんだ、龍ロ―――!?」
十六夜は瞬時に身の危険を察知してその場から跳び退く。それと同時に彼に殺気を向けていたローズは右手を掲げ、
「―――【ネロ】」
そう告げた瞬間、彼女の周囲に膨大な水が生まれ、それらが融合して直径数十メートルはあろうかという程の巨大な水球を頭上に創り出した。
「兎がどうやら汝の力を見たいらしい。故に我が【ネロ】で創りし水球を凌いでみせよ!」
「………ハッ、そういうことならやってやるよ!」
嬉々として拳を構える十六夜。黒ウサギは「これから一体何が始まるのですか?」という風に二人を眺めている。
ローズはニヤリと笑い、掲げていた右腕を振り下ろす。それに従って巨大な水球が十六夜目掛けて降下する―――!
「―――ハッ、しゃらくせえ!!」
十六夜はその巨大な水球に拳を振るい、消し飛ばす。
「嘘!?龍が生み出した水球をあっさり………!?」
「ふむ、やるではないか少年。先のは其処の蛇神が出せるであろう全力の倍はあったのだがな」
「へ?蛇神様の全力の倍………!?」
ローズの呟きを聞いた黒ウサギは驚愕する。
ローズは実際に蛇神の本気を目の当たりにしてはいないが、蛇神から力を感じ取ってそれを分析し、その力の倍の水球を生み出していたのだ。
そしてそれを打ち破った十六夜は、蛇神以上の相手にも拳一つで叩きのめせることの証明となる。
それを理解したからこそ、黒ウサギは驚きを隠せないのだった。
一方の十六夜は「へえ」と物足りなさそうに笑い、
「今のがあのヘビの全力の倍か。ハハ、軽いな。まだまだ俺はいけるぜ、龍ロリ」
「ふふ、そう急くな少年。楽しみというのは、後に取っておいた方が面白味が増すと思うぞ?」
「それには同感だ。それに今はまず―――黒ウサギに聞きたいことがあるしな」
急に話を振られて「え?」となる黒ウサギ。そんな彼女に十六夜は訊いた。
「なあ黒ウサギ。オマエ、何か決定的な事をずっと隠しているよな?」
「………何の事です?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」
「違うな。俺が聞いてるのはオマエ達の事―――いや、核心的な聞き方するぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」
黒ウサギは内心ドキリとした。表情には出さなかったものの動揺は激しい。
「それは………言った通りです。十六夜さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」
「ああ、そうだな。俺も初めは純粋な好意か、若しくは与り知らない誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていた。俺は大絶賛〝暇〟の大安売りしていたわけだし、龍ロリ達も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由が有ったんだろうよ。だからオマエの事情なんて特に気に掛からなかったんだが―――なんだかな。俺には、黒ウサギが必死に見える」
「―――!?」
黒ウサギは遂に動揺を表情に出してしまった。瞳は揺らぎ、虚を衝かれたように見つめ返す。
「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、若しくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えればさっきの行動や、俺がコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点がいく―――どうよ?百点満点だろ?」
「っ………!」
「んで、この事実を隠していたってことはだ。俺達にはまだ他のコミュニティを選ぶ権利があると判断出来るんだが、その辺どうよ?」
「……………」
「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも龍ロリ連れて他のコミュニティに行ってもいいのか?」
十六夜の言葉に、静聴していたローズが眉を寄せて、
「待て少年。何故我もなんだ?」
「そりゃ俺達が召喚された中で一番面白そうな奴だし、手離すのは勿体無えからな」
「ふむ、そうか」
納得するローズ。まあローズ自身も十六夜という人間に興味を持っているから連れて行ってもらえるのは寧ろ歓迎なのだが。
「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」
「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ。………龍ロリも聞いておくか?」
「そうだな。聞くだけ聞いておこう。加入の否応はそれから考えるとするか」
十六夜は川辺に有った手頃な岩に、ローズはその場にしゃがみ込んで聞く姿勢を取る。
しかし黒ウサギにとって今の状態を話すのは余りにもリスクが大きかった。
「(せめて気付かれたのがコミュニティの加入承諾を取ってからなら良かったのに………!)」
「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺は龍ロリ連れてさっさと他のコミュニティに行くだけだ」
「………話せば、協力して頂けますか?」
「ああ。面白ければな」
「我は先程言伝てした通りだ」
ケラケラ笑う十六夜。しかしその目は笑っていない。ローズの瞳もいつになく真剣だった。
「………分かりました。それではこの黒ウサギも御腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせて頂こうじゃないですか」
コホン、と咳払い。内心では殆んど自棄っぱちで語り始めた。
黒ウサギ達のコミュニティには名乗るべき〝名〟が無く、名前の無いその他大勢、〝ノーネーム〟という蔑称で称される。
次に、コミュニティの誇りである〝旗印〟も無い。旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っている。
トドメに、中核を成す仲間達が一人も残っておらず、ゲームに参加出来るだけのギフトを持っているのは百二十二人中、黒ウサギとジンのみで後は十歳以下の子供ばかりというまさに崖っぷちの状態だった。
そして子供達の親も全て奪われたのは、箱庭を襲う最大の天災―――〝魔王〟という存在。
その〝魔王〟は倒せば条件次第で隷属させることも可能。
魔王は〝
黒ウサギ達はコミュニティの改名を行わないのは、それがコミュニティの完全解散を意味することを知っているからだ。故にそれでは駄目だ、仲間達が帰ってくる場所を守りたい、という気持ちが改名を拒否している理由なのだ。
δ
「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんやローズさん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼る外ありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸して頂けないでしょうか………!?」
「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」
「……………」
深く頭を下げて懇願する黒ウサギ。しかし必死の告白に十六夜は気の無い声で、ローズは無言で瞼を閉じる。それを見て黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。
「(ここで断られたら………私達のコミュニティはもう………!)」
黒ウサギは唇を強く噛む。
肝心の十六夜は組んだ足を気怠そうに組み直し、たっぷり三分間黙り込んだ後、
「いいな、それ」
「―――――………は?」
「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」
「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れで御座いました?」
「そんな流れだったぜ。それとも俺が要らねえのか?失礼なこと言うと本気で龍ロリ連れて余所行くぞ」
「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!―――って然り気無くローズさんまで連れて行こうとしないで下さい!」
「素直で宜しい。―――で、龍ロリはどうするんだ?俺は黒ウサギのコミュニティに入ろうと思うんだが」
十六夜がケラケラと笑いながらローズに訊く。
ローズは閉じていた瞼を開けて、真剣な瞳で訊いた。
「………一つ、確認したいことがある。我を召喚したのは―――汝ではないな?」
「………!?」
ローズの問いに黒ウサギの息が一瞬止まった。それを聞いた十六夜は「何?」と怪訝な顔で黒ウサギを見つめ、
「おい黒ウサギ。それは本当か?」
「………う、は……はい。ローズさんは我々が召喚した方ではありません。偶然、重なっただけでした」
黒ウサギは一瞬誤魔化そうと思ったが、そうすることで折角手に入れた協力者を失うかもしれないと思い正直に話した。
これでローズを失うリスクが高まってしまったが仕方が無いことだった。何故なら、本当に彼女は全くの
それを聞いて「ほう」と興味深そうにローズは笑い、
「とはいえ、我にも少年らと同じく招待状を貰って来たのだがな。………つまり、我を召喚した人物は兎ではないが―――兎に召喚のギフトを与えたであろう人物と同一人物なのかもしれぬな」
「え!?」
ローズの推測を聞いて驚く黒ウサギ。それに十六夜は「へえ」と興味深そうに笑い、
「何はともあれ、こんな面白そうな
「ふむ、同感だ。我も中々面白そうな場所に来れたし、我を召喚してくれた人物には感謝したいものだな」
「くく」と笑って、ローズは黒ウサギに向き直る。
「………まあ、あれだ。出逢ったのも何かの縁。我も汝らのコミュニティに入ろう。正直、気になる奴等もいるからな」
ローズはニヤリと笑い、青白い炎のような瞳が獰猛に煌めく。
黒ウサギはパアッと表情を明るくして元気良く返した。
「あ、ありがとうございます!これから宜しく御願い致しますね、十六夜さん!ローズさん!」
「ああ、宜しくな兎の娘」
「おう」
ローズと十六夜は苦笑しながらも頷いて返した。
その後、蛇神が『龍と知らずに見下して済まなかった』と猛省し、その詫びとして大きな水樹の苗を受け取った。
この苗を得たことで一番喜んでいたのは黒ウサギだったそうだ。
【ネロ】―――ギリシャ語で〝水〟を意味する。決して666の皇帝ネロではない。
【ネロ】―――無から水を発生させて、対象を押し流す。今回は水球に形作り、対象を呑み込み溺死させるモノ。