問題児たちとウロボロスが異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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今回は10000超えてしまった………


αφ

 ―――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、貴賓室。

 

「ギフトゲーム〝The PIED PIPER of HAMELIN〟の審議決議、及び交渉を始めます」

 

 厳かな声で、交渉テーブルの真ん中に陣取る黒ウサギが告げる。

 参加者側は、右からサンドラ・十六夜・ジンの順に座り、マンドラとローズ、レティシアは席には着かず立っていた。

 マンドラは、サンドラと十六夜の間の後ろ(ローズの右隣)に。ローズは、十六夜とジンの間の後ろ(マンドラとレティシアの間)に。レティシアは、ジンの左斜め後ろ(ローズの左隣)に並んでいる。

 一方、主催者側は〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟のみが座り、その両隣にヴェーザー(右隣)とラッテン(左隣)が立っていた。

 

「(ふぅん?両隣の二人が〝ラッテン(ネズミ)〟に〝ヴェーザー河〟。あと、レティシアが倒した巨人が〝シュトロム()〟だっけ?なら残りの一人は………いや、後でいいか)」

 

 十六夜はそこで思考を止めた。

 招かれた部屋は豪奢な飾り付けが施された貴賓室。本来招かれるはずだった来客はゲームの外にいたのか、不在となっているらしい。

 対等のゲームを定める為の交渉を謁見の間で行う訳にもいかず、この貴賓室で行うことになった。

 

「まず〝主催者(ホスト)〟側に問います。此度のゲームですが、」

 

「不備は無いわ」

 

 斑少女は、黒ウサギの言葉を遮るように吐き捨てる。

 

「今回のゲームに不備・不正は一切ないわ。白夜叉の封印も、ゲームのクリア条件も全て調えた上でのゲーム。審議を問われる謂れはないわ」

 

 静かな瞳とは裏腹に、ハッキリとした口調で話す斑少女。

 

「………受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘を吐いてもすぐ分かってしまいますヨ?」

 

「ええ。そしてそれを踏まえた上で提言しておくけれど。私達は今、無実の疑いでゲームを中断させられているわ。つまり貴女達は、神聖なゲームにつまらない横槍を入れているということになる。―――言ってること、分かるわよね?」

 

 涼やかな瞳で、サンドラを見つめる斑少女。

 対照的に、サンドラは歯噛みした。

 

「不正がなかった場合………主催者側に有利な条件でゲームを再開させろ、と?」

 

「そうよ。新たなルールを加えるかどうかの交渉はその後にしましょう」

 

 斑少女はそう言って、意味深な笑みを浮かべ、ローズを見つめた。

 ローズは「ん?」と小首を傾げる。

 

「何故我を見る、斑娘よ?もしや―――」

 

「違うわよ!?」

 

「む。まだ何も言ってないんだが」

 

「何が言いたいのか予想出来るもの!貴女は口を開かなくていいわ………っ!」

 

 落ち着いた口調が一転して、荒々しく叫ぶ斑少女。どういうわけか彼女は、ローズが苦手らしい。

 事情を知らない者は首を捻り、唯一、知っているサンドラは苦笑した。―――が、すぐに表情を戻し、斑少女の提案を受け入れる。

 

「不正がなかった場合の件、分かりました。黒ウサギ」

 

「え?あ、はい」

 

 斑少女とローズのやり取りに呆気に取られていた黒ウサギは、頷くと、天を仰ぎ、ウサ耳をピクピクと動かす。

 十六夜は、斑少女にローズが何をしたのか気になったが、それよりも、と右斜め後ろにいるマンドラに小声で問う。

 

「なあ。どの程度ならゲームの不正に該当するんだ?」

 

「………そんな事も知らずに同行したのか、貴様」

 

「チッ」と舌打ちするマンドラ。

 

「貴様も知っているだろうが、ギフトゲームは参加者側の能力不足・知識不足を不備としない。不死を殺せと命ぜられようが、殺せぬ方が悪い。飛べと命ぜられても、飛べぬ方が悪い。今回ならば、クリアに〝ハーメルンの笛吹き〟の伝承の知識が必要でも、知らぬ方が悪いとなる」

 

「へえ?そりゃ理不尽だ」

 

「今回のゲームに不備があるとすれば、まず白夜叉の封印。参加を明記しておきながら、参戦は出来ぬという。これは看過出来ん。其処には明文化された原因が必要のはず」

 

「しかし記されていたのは『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』の一文のみ、か」

 

 そこで二人の会話が途切れる。

 黒ウサギは暫し瞑想した後―――気まずそうに顔を伏せた。

 

「………箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに、不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な方法で造られたものです」

 

 ギリ、と奥歯を噛む音がした。これで参加者側が不利となる。

 

「当然ね。じゃ、早速ルールの改変を要求するわ」

 

 斑少女はそう言って、ローズを見つめた。

 黒ウサギ達は嫌な予感を覚える。ローズを見たということは、それはつまり―――

 

「私達が有利な条件を獲得するには、〝無限の魔王〟、貴女をどうにかしなければならないわ」

 

『!?』

 

「本当は、貴女をゲームから除外すれば済む話だけれど、それだと貴女は手に入らない」

 

 斑少女の言葉を聞いて、ローズは「ふむ」と呟いて瞳を細めた。

 

「つまり―――我の行動に()()()()()()、ということだな?」

 

「そうよ。ふふ、話が早くて助かるわ」

 

『―――ッ!!?』

 

 ローズの行動に制限を設ける。それは参加者側に敗北の道を作りかねない要求だった。

 ローズが自由に動けるから、参加者側に『敗北』の二文字は存在しなかったのだから。

 ローズ以外の参加者側が息を呑んで、斑少女の言葉を待つ。

 斑少女は、笑みを浮かべてルールを提示した。

 

「まず一つ目。〝無限の魔王〟の屈服・殺害は、現状では不可能だということが、貴女との戦闘を経て理解したわ。だから〝無限の魔王〟の屈服・殺害を―――私達の勝利条件から()()()()

 

『なっ………!?』

 

「ほう?つまり、()()()()参加者を屈服、若しくは殺害出来れば、汝らの勝利条件は満たされると?」

 

「ええ。こうでもしない限り、私達に勝ちの目はないと思ったからよ」

 

 諦めたような調子で言う斑少女。悔しいが、本当に勝てないのだから仕方がない、と割り切るしかないのだ。

 そんな斑少女を見つめてローズは、「ほう」と感心したような声を発した。

 

「諦めがいいのは良いことだ。それで、次は何だ?このルール改変は、あくまでも汝らの勝利を可能にしたものであるだけだろう?そも、汝らは我を縛ると言っているが、まだ我は一つも縛られておらぬしな」

 

「ええ。これじゃあまだイーブンにも至ってないもの。まだまだあるわ」

 

『………っ!』

 

 参加者側が不安を募らせる中、斑少女はルール改変を続けた。

 

「二つ目。〝無限の魔王〟、貴女に、恩恵の使用を禁じるわ」

 

『―――ッ!!?』

 

「………ほう?それで?」

 

 驚愕する黒ウサギ達とは対照的に、落ち着いた調子で次を急かすローズ。

 これには斑少女だけでなく、ヴェーザーとラッテンも驚いた。

 

「………おいおい、〝無限の魔王〟さんよ。恩恵の使用を禁止って言われてんのに、なんで顔色一つ変えねえんだ?」

 

「そ、そうよ!貴女、恩恵を使用出来るのと出来ないのとでは―――」

 

「汝らよ。恩恵を禁止された程度で何故我が動揺する?まさか、その程度で最強種たる我に勝てるなどと、驕ってはおるまいな木っ端悪魔共よ?」

 

 ラッテンの言葉を遮って、不思議そうな声で返すローズ。

 ヴェーザーとラッテンは、「ぐ」と黙り込む。確かに恩恵なしでも彼女のデタラメ加減は変わりはしない。

 部下が代わりに驚いたからか、その間に冷静に戻れた斑少女は、「そう」と呟き、

 

「恩恵使用禁止で揺さぶれるかと思ったけれど、中々手強いわね貴女」

 

「それはどうも。して、次は何だ?」

 

「そう急かさなくてもいいわ。三つ目は………そうね、〝無限の魔王〟、貴女に、ゲームマスターの()()()禁じるわ」

 

『……………っ!!?』

 

 黒ウサギ達は驚愕に瞳を一杯に見開いた。ローズの手で魔王を討てない。それは最後の砦を崩されたようなものだった。

 しかしローズは、特に驚いたりもしない。それどころかニヤリと笑って、

 

「斑娘の打倒禁止か。では―――凸ピンなら構わないんだな?」

 

「なっ!?また私を弄ぶつもり!?なら、凸ピンも、禁止にするまでよ………っ!」

 

「む。我の楽し―――コホン、戦法の一つを封じるとは、酷いではないか斑娘」

 

「今楽しみって言いかけなかった!?―――って、凸ピンの何処が戦法の一つなのよ!?」

 

「ん?きっと気のせいだ。ぬ、何を言う。凸ピンも立派な戦い方の一つだぞ。凸ピンをした時の汝の反応が面白いからとは、決して思っておらぬよ?」

 

「やっぱり面白がってたんじゃないのよおおおおおおおおおお―――――ッ!!!」

 

 うがーっ!とローズに威嚇しながら吼える斑少女。

 そんな斑少女の反応を、ニヤニヤしながら見つめるローズ。

 相手は敵で、魔王で、且つ審議決議の真っ最中ですよね!?と内心で叫び、唖然とする黒ウサギ・サンドラ・ジンの三人。

 マンドラは、呆れてものも言えないようだ。

 十六夜は、相変わらずの自由人………自由龍だな、と笑いを噛み殺す。

 我が主はこの場でも平常運転なのだな、と苦笑を零すレティシア。

 マ、マスター!?と普段見せない斑少女の態度に驚愕するヴェーザーとラッテン。それとは別に、こういう風に取り乱すマスターもいい、と思っていたりした。

 斑少女は、苛々を何とか捩じ伏せると、いつもの調子に戻って、

 

「………話が逸れたわね、ごめんなさい。ルール改変は以上よ。次にゲーム再開の日取りなのだけれど」

 

 凸ピン禁止も入れるんだ、と内心で苦笑する黒ウサギ達。

 

「―――え?日取り?日を跨ぐと?」

 

 サンドラは意外な声を上げた。ローズ以外の周りの人間も同じだ。

 ローズの行動に制限を設けたから、今すぐにでも再開するものだと思ったのだろう。

 ローズは、嫌な予感を覚えた。我に、恩恵を使用することを禁止させたのが、()()()()()意味しているのだとしたら―――

 

「ジャッジマスターに問うわ。再開の日取りは最長でいつ頃になるの?」

 

「さ、最長ですか?ええと、今回の場合だと………一ヵ月でしょうか」

 

「じゃ、それで手を―――」

 

「待ちな!」

 

「待ってください!」

 

 十六夜とジンの二人が同時に声を上げる。その声はこの上なく緊迫していた。

 

「………何?時間を与えてもらうのが不満?」

 

「いや、ありがたいぜ?だけど場合によるね。………俺は後でいい。御チビ、先に言え」

 

「はい。主催者に問います。貴女の両隣にいる男女は〝ラッテン〟と〝ヴェーザー〟だと聞きました。そしてもう一体が〝(シュトロム)〟だと。なら貴女の名は………〝黒死病(ペスト)〟ではないですか?」

 

「ペストだと!?」

 

 黒ウサギ・サンドラ・マンドラの表情が驚愕に歪み、一斉に斑少女を見つめた。

 

「ヒトの体にペスト菌が感染することにより発症する伝染病だな。元々齧歯類に流行した病気だが、蚤がそのものの血を吸い、次いで人が血を吸われた結果、その刺し口から菌が侵入したり、感染者の血痰などに含まれる菌を吸い込んだりすることで感染する。人間、齧歯類以外に、猿、兎、猫などにも感染するとか」

 

「………わ、我が主?」

 

「嘗ては致死性を持っていたことや罹患すると皮膚が黒くなることから黒死病と呼ばれて恐れられ、十四世紀から始まる寒冷期に大流行し、約一億人は死に絶えたそうだな」

 

「なっ、い、一億ッ!?」

 

「病状は、大きく分けて腺ペスト・敗血症・肺ペストがあるが………黒死病は敗血症の別名だからな。局所症状を呈しないままペスト菌が血液によって全身に回り敗血症を起こすと、急激なショック症状、昏睡、皮膚のあちこちに出血斑が出来て、手足の壊死を起こし全身が黒い痣だらけになって死亡する―――といったところか」

 

 説明を終えて、「うむ」と一人頷くローズ。

 ローズの相変わらずの細かい説明に、ポカンと口を開けて固まる黒ウサギ・サンドラ・マンドラ・ジン・レティシアの五人。主催者側も唖然とローズを見ていた。

 十六夜だけは、「ヤハハ」と笑いつつも苦笑いを浮かべていた。

 グリム童話の〝ハーメルンの笛吹き〟に現れる道化が斑模様であったこと。

 そしてローズが説明していた黒死病が大流行した原因である、齧歯類の一つ―――ネズミを操る道化であったこと。

 この二点から、〝一三〇人の子供達は黒死病で亡くなった〟という考察が存在するのだ。

 

「ペスト………そうか、だからギフトネームが〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟!」

 

「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」

 

「………ええ。正解よ」

 

 涼やかな微笑で斑少女―――改めペストは頷いた。

 

「御見事、名前も知らない貴方。よろしければ貴方とコミュニティの名前を聞いても?」

 

「………〝ノーネーム〟、ジン=ラッセルです」

 

 コミュニティの名前を聞いたペストは、少し意外そうに瞳を見開いた。

 

「そっ。覚えておくわ。………だけど確認を取るのが一手遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右出来ると言質を取っているわ。勿論、参加者の一部には既に病原菌を潜伏させている。ロックイーターの様な無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものを」

 

「っ……………!!?」

 

「黒死病の潜伏期間は最短で二日。一番遅くて一週間か。………ふん。我は問題ないが、一月も待たされては殆んどが死に絶えるだろうな」

 

 冷静な口調で言うローズ。しかしその瞳には怒りのような感情が刻まれていた。

 余裕を無くし始めたローズを見て、ペストはほくそ笑んだ。

 

「ジャ、ジャッジマスターに提言します!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう一度審議を、」

 

「駄目ですサンドラ様!ゲーム中断前に病原菌を潜伏させていたとしても、その説明責任を主催者(ホスト)側が負う事はありません。また彼らに有利な条件を押し付けれるだけです………!」

 

「ぐっ」と言葉を呑み込むサンドラ。

 すると、ローズが「ちぃ」と盛大に舌打ちしてペストを睨んだ。

 

「前言撤回だ、斑娘―――いや、黒死病の()()。してやられたぞ。我に、恩恵を使用させなくしたのは………我がギフトで黒死病を完治させぬ為か」

 

『―――――ッ!!?』

 

 全身から放たれたローズの凄まじい殺気に、黒ウサギ達だけでなく主催者側も一瞬息を止める。

 その殺気を真正面から受けたペストは、全身から嫌な汗を流しつつも、「ええ」と肯定した。

 

「だって貴女は龍神だもの。それくらいは可能でしょう?」

 

「ああ。我がギフト『()()()』を与えれば可能だ」

 

「へ?ば、万能薬!?」

 

 驚愕の声を上げるサンドラ。

 それにジンが説明した。

 

「ウロボロスは、陰と陽などの相反する二つのものから成っています。その中に、一方では死を齎す毒、バジリスクにして蠍であり、他方では万能薬であり救済者でもあります」

 

「全ての病や怪我を治せる万能薬を与えられるんだし、それは黒死病も例外なく治せるってわけだな」

 

 ジンに続いて十六夜が言う。

 万能薬を与えるギフト。そんな凄いギフトを持っていたとは驚きである。

 だが、そのギフトも、ルール改変により使用不可。黒死病を完治する術を参加者達は失ってしまったのだ。

 一方、ペスト達は、相変わらずのデタラメっぷりに言葉を、声を失っていた。

 ペストは『死』を与える恩恵を持っている。だが、ローズは万能薬という名の『生』と、毒という名の『死』の両方を与えられるという。

 ………格が違い過ぎて可笑しくないのに笑えてくる。

 だがしかし、その化け物の恩恵は、ルール改変で完封した。なら、交渉で優勢に立てるのは、私達の方。

 ペストは、心を落ち着かせて、いつもの涼やかな微笑を浮かべ、その場にいる参加者達に問う。

 

「此処にいる人達が、参加者側の主力と考えていいのかしら?」

 

「……………」

 

「マスター。それで正しいと思うぜ」

 

 黙り込む参加者に代わり、ヴェーザーが答える。

 

「なら提案しやすいわ。―――ねえ皆さん。此処にいるメンバーと白夜叉。それらが〝グリムグリモワール・ハーメルン〟の傘下に降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」

 

「なっ、」

 

「私、貴方達の事が気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭いいし。〝無限の魔王〟は………凸ピンさえしなければ好きよ」

 

「え!?貴女もローズさんを狙ってるんですか!?」

 

 唐突に声を上げるジン。

 そんな彼を見て、〝ノーネーム〟のメンバーは即座に理解した。ジンは………とんでもない勘違いをしているのだと。

 ペストは、「は?」と目を点にした後、

 

「何を言ってるのジン。当然じゃない」

 

「と、当然!?」

 

「ええ、当然よ。〝無限の魔王〟は手に入れなきゃ絶対に損する人材だもの。こんな絶好の機会を逃すわけないわ」

 

「へ?人材?………あっ、」

 

 ジンは漸く気づいた。自分はとんでもない勘違いをしていたのだと。

 顔を真っ赤にして俯くジン。そんな彼をニヤニヤと見つめる十六夜とローズ。

 苦笑する黒ウサギ。「ふん」と鼻を鳴らすレティシア。

 サンドラは、ジンの言葉の意味を理解してムッと剥れる。そんな妹を見て、「チッ」と舌打ちし、ジンを鋭い視線で睨みつけるマンドラ。

 ペストが不思議そうに小首を傾げる中、ヴェーザーとラッテンは、そういうことか、と理解して苦笑いを浮かべた。

 

「私はマスターに大賛成です!私が戦った吸血鬼さんは、とても強くて綺麗で可愛いから欲しいでーす!」

 

「………俺も、〝無限の魔王〟お墨付きの坊主を失うのは勿体ねえと思うから賛成だマスター」

 

 ラッテンはレティシアを、ヴェーザーは十六夜を高評価する。

 

「ふふ、それなら此処でゲームは手打ちにしましょう。ねえ、参加者全員の命と引き換えなら安いものでしょ?」

 

 微笑を浮かべ、愛らしく小首を傾げるペスト。

 しかしその笑顔の裏にあるのは真逆の意。

 従わなければ(ローズを除いて)皆殺しだと、この少女は笑顔で言ってのけたのだ。

 戦慄するような、幼くも美しい笑みに戸惑う一同。

 ローズが瞳を細めてペストを見返している中、十六夜とジンは、冷静に状況を解析していた。

 

「………これは白夜叉様からの情報ですが。貴女達〝グリムグリモワール・ハーメルン〟はもしや、新興のコミュニティなのでしょうか?」

 

「答える義務はないわ」

 

 即答するペスト。しかしそれが逆に不自然さを浮き彫りにする。

 十六夜はすぐさま察して畳み掛ける。

 

「成る程、新興のコミュニティ。優秀な人材に貪欲なのはその為か」

 

「……………」

 

「おいおい、このタイミングの沈黙は是と取るぜ?いいのか魔王様?」

 

 切り口を見つけ、挑発的に笑う十六夜。

 ペストは笑みを消し、眉を歪めて十六夜を睨んだ。

 

「………だから何?私達が譲る理由は無いわ」

 

「いいえあります。だって貴女達は、僕らを無傷で手に入れたいと思っているはずですから。もしも一ヵ月も放置されたら、きっとローズさん以外は死んじゃいます。………だよねサンドラ」

 

「え?あ、うん」

 

 突然話を振られたサンドラは地の返事をする。

 慌てて正そうとするが、ジンはそれを聞かずに続けた。

 

「そう。死んでしまえば手に入らない。だから貴女はこのタイミングで交渉を仕掛けた。実際に三十日が過ぎて、その中で失われる優秀な人材を惜しんだんだ」

 

 断言して言い切る。今回に限ってだが、ジンはこの解答に絶対の自信があった。

 しかしペストは、それでもなお憮然と言い返す。

 

「もう一度言うけど。だから何?私達には再開の日取りを自由にする権利がある。一ヵ月でなくとも………二十日。二十日後に再開すれば、病死前の人材を、」

 

「では発症したものを殺す」

 

 ギョッとローズ以外がマンドラに振り向いた。その瞳は真剣そのものだ。

 

「例外はない。縦令(たとえ)サンドラだろうと〝箱庭の貴族〟だろうと………この私であろうと殺す。フロアマスターである〝サラマンドラ〟の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

 

 絶句する。縦令ブラフだとしても過激過ぎる宣言だ。

 ローズは、「ほう」と瞳を細めてマンドラを見つめた。

 十六夜は策を閃いたようにマンドラから繋げる。

 

「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」

 

「へ?………あ、YES!」

 

 黒ウサギも何かに気がついたようにピン!とウサ耳を伸ばす。

 

「交渉しようぜ、〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟。俺達はルールに〝自決・同士討ちを禁ずる〟と付け加える。だから再開を三日後にしろ」

 

「却下。二週間よ」

 

 ペストに即決を下される。しかし二週間は長い。

 理想的な期間は、例の謎解きの事も考えて一週間以内。

 ふっと脳裏にローズが浮かぶ。だが、これ以上ローズを縛るのは、万が一の事態を考えれば危険だ。

 只でさえ主催者側に、ローズはゲームマスターの打倒と恩恵の使用を禁止されてしまっているのだから。

 首を振って、他に交渉出来る物は無いかと見渡し、黒ウサギと目が合う。

 

「今のゲームだと、黒ウサギの扱いはどうなってるんだ?」

 

「黒ウサギは大祭の参加者ではありましたが、審判の最中だったので十五日間はゲームに参加者出来ない事になっています。………主催者側の許可があれば別ですが」

 

「よし、それだ魔王様。黒ウサギは参加者じゃないからゲームで手に入れられない。けど黒ウサギを参加者にすれば手に入る。どうだ?」

 

「………十日。これ以上は譲れないわ」

 

「ちょ、ちょっとマスター!?〝箱庭の貴族〟に参戦許可を与えては………!」

 

「だって欲しいもの。ウサギさん」

 

 焦るラッテンに素っ気ない一言で返答する。

 十日。後少し。後少しでギリギリのラインまで持っていける。しかし交渉するモノが他に見当たらない。

 全員が思考を最速で張り巡らせる中、ローズが口を開こうとして、

 

「ゲームに………期限を付けます」

 

 ジンが彼女をこれ以上縛らせまいと、意を決してそう言った。

 

「何ですって?」

 

「再開は一週間後。ゲーム終了は………その二十四時間後。そして、ゲームの終了と共に主催者の勝利とします」

 

 ゴクリ、と黒ウサギ達の息を呑む音が貴賓室に響いた。

 ローズは、ジンの覚悟を決めた表情を見て、閉口した。

 

「………本気?主催者側の総取りを覚悟するというの?」

 

「はい。一週間は死者が現れないギリギリのラインです。今後現れるであろう病状やパニックを想定した場合、精神的にも体力的にもギリギリ耐えられる瀬戸際。そして、それ以上は僕らも耐えられない。だから全コミュニティは、無条件降伏を呑みます」

 

「―――――………」

 

 ペストは口に手を当てて思案する。これは両者にとって得となる話である。

 今後の準備や謎解きの時間が欲しい参加者側。

 優秀な人材達を無傷で手に入れたい主催者側。

 一週間+一日というタイムリミットは、まさに理想的な期限―――では、ある、のだが。

 

「(………気に入らないわ)」

 

 ペストは不快だった。ローズの行動を制限して、参加者側の優勢を切り崩してやったというのに、不利になるような条件を言ってきた。それが気に食わない。

 確かに、私は若輩者。魔王を名乗れはするけれど、同時にルーキー。思うようにゲームメイクが出来ないのはある種仕方がない。

 ふっと、ローズの恩恵使用禁止を、黒死病を治せる万能薬のみ使用可にしようかと思った。そうすれば、一ヵ月でも文句は言うまい。

 ………いや、それは駄目ね。とペストは切り捨てる。万能薬の使用を可にしてしまったら、私達は万全状態の全コミュニティを相手にしなくてはならなくなる。

 そう考えると、このままジンの提案に乗るのも悪くはない。悪くはない、けれど。

 

「ねえジン。もしも一週間生き残れたとして………貴方は、魔王(わたし)に勝てるつもり?」

 

「勝てます」

 

「〝無限の魔王〟は恩恵使用不可に加え、魔王(わたし)を打倒してはいけないルールに変わったのよ?それでも―――」

 

「僕らが絶対に勝ちます」

 

 ジンは脊髄反射のような答えで返す。

 考えて答えた訳ではないので内心肝が冷えているジン。しかしそれでも、自分の同士の勝利だけは疑っていなかった。

 ………貴女に頼らずとも、僕らだけで魔王を倒せるのだと、絶対に証明してみせます。だからローズさんも、僕らを信じてください!

 

「…………………………………そう。良く分かったわ」

 

 ペストは不機嫌な顔を一転させ、にっこりと笑った。そんな、華が咲いたような笑顔で、

 

 

「宣言するわ。貴方は必ず―――私の玩具にすると」

 

 

 瞳に壮絶な怒りを浮かべた。

 激しく黒い風が吹き抜け、ローズ以外の参加者達が顔を庇う最中、主催者―――〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟とその配下二人は消え、一枚の黒い〝契約書類(ギアスロール)〟だけが残った。

 

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

 

 ・プレイヤー一覧

  ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ(〝箱庭の貴族〟を含む)。

 

 ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

  ・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。

 

 ・プレイヤー側・ホスト指定プレイヤー・禁止事項

  ・〝無限の魔王〟・龍神 空星 ローズ

  *恩恵の使用を禁ず。

  *ゲームマスターの打倒を禁ず。

  *凸ピン禁ず。

 

 ・プレイヤー側・禁止事項

  ・自決及び同士討ちによる討ち死に。

  ・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

  ・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方に限る。

 

 ・ホストマスター側 勝利条件

  ・全プレイヤーの屈服・及び殺害(〝無限の魔王〟を除く)。

  ・八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

 ・プレイヤー側 勝利条件

  一、ゲームマスターを打倒。

  二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 ・休止期間

  ・一週間を、相互不可侵の時間として設ける。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

   〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』




はい、というわけでローズが恩恵使用不可、ペスト打倒禁止となりました。後は原作と変わりません。
ローズも同意してるし、問題ナイデスヨネ?

ゲームルール改変前に、舞台区画から出てしまった場合ってどうなるのかな?知らなかったから許される?それともルールはルールだしアウト?

誘拐されなかった飛鳥の場合は、ディーン手に入れて参加出来るか否か………

追記
凸ピン禁ずを忘れていた!
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