東方魔集郷   作:負け狐

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残酷描写がどの程度を指すのか、というか自分の文章で残酷描写が出来ているのか。
そんなことを考えてしまった前回からの続きです。


11 狩るか枯れるか

 魔理沙はパクパクと口を開き、しかし言葉を発せずにその姿を指差すのみ。対する咲夜は、取り乱すことなく真っ直ぐに相手を見詰めていた。半ば予想通りであり、むしろこうなることを望んでいた節もある彼女にとって、この光景は驚嘆に値しない。

 

「本当。良かったわ」

「な、何がだよ! アリスの腕千切れて、首へし折れてんだぞ!」

「やったのは貴女じゃない」

 

 明らかに取り乱している魔理沙に至極冷静に返す。まあ、いいから見てなさい。そう言うと、彼女は一歩前に出た。

 『アリス』はそのやり取りを笑顔で見詰めている。強引に直した首は据わっておらずゆらゆらと揺れており、左腕から流れ出る液体も未だ止まっていない。それなのに、笑みを浮かべたまま、じっと二人を見詰めている。

 表情に出さず、しかし咲夜はそんな目の前の相手に嫌悪感を持った。一応曲がりなりにも友人と呼べる少女を模した姿をしているそれを、出来ることならばすぐに片付けたい。そんなことまで頭をもたげた。

 そう、模しているのだ。『あれ』は、アリスではない。彼女はそう確信していた。

 

「ねえ魔理沙」

「何だよ」

「足手まといなら置いていく、だったわね」

「言ったのは霊夢だけどな」

「どっちでもいいわ。確認してもらえるのなら」

 

 持っていたカードにマナを込めた。屋敷の面々との練習や、氷精や野良クリーチャーとの小競り合いとも違う、実戦。ほとんど初めてのそれに、咲夜はどこか高揚感を抱いていた。無力であった自分が立ち向かえる側になったことを、無意識の内に喜んでいた。

 

「さあ、『盲目の幻』。出番よ」

 

 名の通り盲目、というより顔のない幻影が咲夜の前に浮かび上がる。行きなさい、という彼女の言葉で『盲目の幻』は『アリス』に向かいその幻の腕を伸ばす。実態の無いようなその腕は、しかし確かな質量を持って相手の胸を穿っていた。『アリス』の豊かな双丘の片側はえぐり取られ、ぽっかりと風穴を開けている。そこから溢れ出る赤黒い液体は青いドレスをどす黒く染めていた。

 だが、それでも『アリス』はその穴を一瞥しただけで表情一つ変えることはない。薄く笑みを浮かべたまま、乱暴なのね、と世間話でもするかのような気楽さで言葉を紡ぐ。

 

「何じゃありゃぁ!?」

 

 背後で見ていた魔理沙が叫ぶ。自身の知り合いだと思っていた存在が胸に穴を開けたまま笑っているのだ、そうなるのも無理はないであろう。だが、どうやらその声とは裏腹に、彼女はある程度冷静に現状を整理しているようであった。暫し考えこむように顎に手を当てると、成程な、と帽子を弾く。

 咲夜、と目の前の少女の名を呼んだ。何? と振り向くことなく返した相手に向かい、知ってたのか、と魔理沙は続けた。

 

「あくまで予想よ。確信を持ったのは折れた首を無理矢理直したところかしら」

「まあ、確かにあれは明らかに普通じゃなかったしな」

「そう思ってたのに貴女は確信を持てなかったの?」

「何にでもまず疑って掛かるのは相手に悪いだろ」

 

 背後で魔理沙のそう述べ笑う声を聞きながら、咲夜はやれやれと肩を竦めた。それが本音だろうと建前だろうと、彼女は別に気にしない。問題なのは、目の前にいる『アリス』をどうにかしておかないと面倒な事態になりそうだということ。

 邪推するならば、これも妖夢の言っていた異変の一部ではなかろうか。そんなことを心の中で呟いた。

 

「まあ、とりあえず片付けましょう」

「随分と軽く知り合いと同じ顔をぶっ殺すんだな」

「何かおかしかったかしら? だってあれは同じ顔なだけで知り合いじゃないわ。何より――」

 

 動く死体になった知り合いだったものを片付けることなど飽きるほど経験した。言葉には出さずにそう続けると、咲夜はもう一枚カードを取り出した。『盲目の幻』を自身の前面で構えさせ、そのカードにマナを込める。

 それに対し、『アリス』もぎこちない動作で一枚のカードを取り出していた。穴だらけの体では思うように動かないらしく、不便になったわね、などと笑っている。

 

「さあ、行きま――」

「『盲目の幻』、殺って」

 

 持っていたカードを唱えず、咲夜は既にいる自身の操っていたクリーチャーに指示を飛ばした。『アリス』の頭を鷲掴みにし、そのまま地面に叩き付ける。何かが潰れるような嫌な音がして、彼女の頭が上下に揺れた。頭部から滲み出る液体を気にすることなく微笑んだまま尚も呪文を唱えようとしていた『アリス』の顔面を、返す一撃で叩き潰した。脳漿と目玉が飛び散り、『盲目の幻』に返り血が掛かる。

 苦い顔をしてその光景から目をそらした魔理沙は、どっちが容赦無いんだよ、と一人毒づいた。

 

「大体、スペルカードルールは本気の殺し合いをしないための決闘ごっこだぜ。完全に殺るか殺られるかになってるじゃないか」

「別にスペルカードルールに則った戦いではなかったわよね、これ」

「まあそうなんだが、流石に人殺し、いや妖怪殺し? はもう少し慎重に――」

 

 お互い別々の方向を見たままそんなやり取りをしていた二人だが、魔理沙がその途中で何かを見付けたようで言葉を止めた。どうしたの、と咲夜も彼女の方を向くと、そこには先程顔面を潰した少女と同じ顔をした人物がこちらに歩いてくる姿が。

 別段それだけならば何の問題もない。精々が本物かどうか疑ってしまう程度のものだ。では、何故彼女達が言葉を止めてそれを凝視してしまったか。その答えは至極簡単である。

 

「あら、どうしたの魔理沙?」

「あら、どうしたの魔理沙?」

「……あ、アリス?」

「そうよ、当たり前じゃない」

「そうよ、当たり前じゃない」

「確実に偽物ね」

「失礼ね」

「失礼ね」

「ステレオで喋るな! 鬱陶しい!」

 

 やって来た『アリス』は、二人だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 顔面を吹き飛ばされた『アリス』はフラフラと体を揺らすと、そのまま地面に倒れ伏した。隣を見ると、真っ二つにされた『アリス』が崩れ落ちるところであった。

 

「……いくら偽物だからって、貴女達私に容赦無さ過ぎじゃないの?」

「あらそう? 本当に容赦無いってのは頭を鷲掴みにして地面に叩き付けた後に追撃で顔面を砕くくらいのことを言うのよ」

 

 アリスの言葉に霊夢はしれっとそう返し、それにしてもこれは何なのよと頭を掻く。隣では妖夢が刀を鞘に仕舞いながらさあ、と肩を竦めていた。

 分からない、と述べる半人前二人とは違い、アリスは何かを考えこむように自身の偽物の死体を眺めている。何かしらの呪文であることは間違いない。問題なのは、どんな呪文で、その使い手が何者か、ということだ。

 彼女が人里で「アリスが人を襲っている」という話を聞いて探索を始めたのが今日の朝方。そして自身の偽物二体と遭遇したのが少し前。どこからかやってきた霊夢達と合流したのがつい先程だ。異変を解決するためにうろついているらしい二人の行動を照らし合わせると、使い手は異変の本人か関係者である可能性は高いだろう。そう結論付けアリスは一人溜息を吐く。中々に厄介なことをしてくれる相手だ、と。

 

「誤解を解くまでが一苦労ね……」

「話を聞く限りでは一人か二人死んでるんでしょ? 確かに大変ね」

「それは何というか……ご愁傷さまです」

 

 幸い目撃者の証言から本人ではないという話にはなっているものの、やはりある程度は覚悟するべきだろう。異変解決後の後始末の方が大変だと一人頭を抱えるアリスとそれを慰めるように頭を垂れる妖夢を見ながら、霊夢は一人周囲に注意を向けていた。

 複数の偽物を操っているのならば、この近くに術者がいる。そう思っての行動であったが、生憎とそんな気配は見付からない。勘が鈍ったのだろうかと首を傾げる彼女であったが、横から掛けられたアリスの言葉で目を見開いた。

 あれは完全にほったらかしにされていたクリーチャーだ、と。

 

「偽物作って、後は放置? 何考えてるのよ」

「何も考えていないんじゃないかしら。もしくは、混乱を生むのが目的か」

「混乱、ですか? そんなことをして一体何になるんでしょうか」

 

 妖夢の問い掛けに、そうね、とアリスは少しだけ悩むように顎に手を当てた。そして、二人の顔を順に見やると、まあそんなところでしょうと一人納得したように頷く。

 一人で納得してるんじゃない、という霊夢の言葉をあらごめんなさいと流し、まあでも大体予想は付くんじゃないのと続ける。それはそうだけど、と霊夢も少し苦い顔をしてそう返した。

 

「え、っと?」

「何? 頭の中まで半分なの?」

「どういう意味よ!」

「そのままの意味よ」

「こらこら、ケンカしないの」

 

 子供じゃないんだから、とアリスは苦笑した。そのまま、あくまで予想だけど、と前置きをして彼女は言葉を紡ぐ。まず偽物を創りだした術者は異変の首謀者か関係者である。ここまではいいわね、と二人を見やった。

 

「そして、その犯人の目的は白玉楼の大木。何をしたいのかは分からないけれど、それが本命と見ていいでしょうね」

「あ! つまり、木の方から目を逸らさせるために!」

「そう考えるのが妥当でしょうね」

 

 そう言って肩を竦めたアリスは、霊夢と妖夢に背を向けた。そんなわけだから、貴女達はさっさと異変の大本に行きなさい。そんなことを述べながら二人の進む道とは逆方向に歩いて行く。

 何処に行くのよ、という霊夢の言葉に、決まってるでしょうと彼女は返した。

 

「偽物は何体いるか分からないの。だったら、全部潰す役が必要でしょう?」

 

 ひらひらと手を振り、そのまま彼女は森の奥へと足を踏み出す。残された二人はお互いに顔を見合わせ、そしてふんとそっぽを向く。が、それも一瞬。さっさと行くわよ、という霊夢の言葉に、そうね、と妖夢は返し。

 そのまま一直線に白玉楼へと二人は飛んでいった。

 そんな二人を特に気にせず、アリスは一人森を歩く。さて、果たして当たりには出くわすのか、そんなことを呟きながらマナの残滓を注意深く探った。

 索敵範囲をさらに広げる。術者は見付からずとも、偽物ぐらいは見付かるだろう。そんなことを思っていたアリスがピクリと反応した。ここから東、自身の家の近くでマナを使用した形跡を発見したのだ。そちらの方角へと飛ぶと、だんだんその正体が分かってくる。片方は自分のよく知っている呪文構成、黒と緑のマナを使ったこれは魔理沙のものだ。もう片方はよく分からない青の呪文だが、どうやらこれは犯人ではないらしく、霊夢達との会話から恐らく咲夜であろうと予測を立てた。

 そして残るは黒のマナを使ったお粗末な、しかし殺意が込められた呪文。同時に先程始末した偽物と同じ痕跡が三つ。

 

「動いていないし反応が弱い。ということは、もう魔理沙達が始末した後かしら」

 

 一人呟きながらそこに降り立つと、腕をもがれ胸を穿たれ顔面を潰された自分の死体があった。辺りを見渡すと、穴だらけになった自分の死体と消し炭になった自分の死体も見える。これをやった張本人は既にいないようで、三つの死体以外に動くものは見当たらない。周囲のマナにも乱れはなく、これ以上の収穫は無さそうであった。

 どうやら自分の偽者は合わせて五体で打ち止めのようだ。そう結論付けると、アリスは自分の偽物の死体に手を伸ばす。何か手掛かりはないだろうか、そんなことを思ったが、あるならば先程の二体の時点で分かっているかと独りごちた。

 そんな折である。ガサガサと音がすると、一人の少女が姿を表した。黒い魔女の帽子を被っているそれはアリスもよく知る人物と同じ顔をしていて。あら魔理沙、と彼女も思わず声を掛けた。

 が、すぐに表情を引き締めると、立ち上がって距離を取った。その目は細められ、左手にマナを込めたカードを取り出している。

 どうしたんだよアリス、と『魔理沙』は笑う。そんな目の前の相手に、表情を変えることなくちょっとねと返すと、その奥へとカードを投げ付けた。マナを込めていたカードは失速することなく飛来し、そして中に封じられていた呪文が展開される。

 

「『打ち寄せる水』」

 

 言葉と共にカードから滝のような水が噴射された。目標に向かって一直線に進んだそれは、そこにいた者を流しアリスの目の前まで吹き飛ばす。ゴロゴロと転がったその人影は、あいたたたと腰をさすりながらゆっくり立ち上がった。

 

「いきなり乱暴しますねぇ」

 

 長めの赤い髪をしたその女性は、黒いスカートについた汚れを叩きながらそう言って苦笑した。その背中には蝙蝠を思わせる羽がついていたが、吸血鬼のそれとは違い、高潔なものは感じられない。若干緩んだネクタイを締め直した彼女は、それで、どうしたんですかと続けた。

 

「偽物を作ったのは貴女ね?」

「はて、何のことやら」

 

 笑い、そして肩を竦めた。その態度に眉を上げたアリスは惚けないでと声を荒げる。そこにいる『魔理沙』が何よりの証拠でしょうと指差した。『魔理沙』は笑みを浮かべたまま立ち続けており、それはさながら命令を待つクリーチャーにも見えた。

 その指摘を受けた女性は、おやおやと大げさに驚くと、わざとらしく困ったように頭を掻く。バレてしまっては仕方ないですね。そんなことを言いながらニヤリと口角を上げた。

 

「仰る通り、貴女の偽物を作ったのは私です。あ、申し遅れました、わたくし小悪魔と申します。主からは時たま「こぁ」と呼ばれますが、まあ個体名は特に無いのでお好きにお呼びください」

「……よろしく小悪魔さん。私はアリス・マーガトロイド、貴女に要らない濡れ衣を着せられた被害者よ」

「あらら、それはご愁傷様です」

 

 これっぽっちも同情していない表情で頭を下げる小悪魔を見て、アリスの苛立ちは更に募る。相手もそれが分かっているのか、話は終わりですかと首を傾げながら問い掛けてきた。勿論そんなはずはない、ともう一枚カードを取り出してアリスは彼女を睨み付けた。

 おやおや、やる気ですか。予想通りというような口ぶりで、小悪魔も同じようにカードを取り出す。その行動に少しだけ驚いたのか、アリスは表情を少しだけ怪訝なものに変えた。

 

「カードを取り出したのがそんなに不思議ですか? あ、ひょっとして私をこの次元のルールを守らない無法者だと思っていましたね。失礼しちゃいますよ、私も主もちゃんと郷に入れば郷に従えという考えを持っているんですから」

 

 笑いながらそう述べると、じゃあ始めましょうかと彼女はカードにマナを込めた。それに反応したアリスもまた、意識を戻しすぐさまマナをカードに込める。小悪魔が何かをする前に、と素早くカードを展開した。

 喚び出したのは一体のカカシ。奇妙な獣を模したそれは、腕のような前足を振り上げアリスの前に立つ。

 

「行きなさい、『蹄のスカルキン』」

 

 言葉と共に『蹄のスカルキン』は小悪魔に襲い掛かる。だが、それに反応するように『魔理沙』がその攻撃を受け止めた。

 いきなりなんて危ないですね、と笑いながら述べた小悪魔は、じゃあこっちも行きますかとカードを掲げた。通常よりも多めにマナを込められたそれは、普段通りに放つよりもさらなる効果を生み出す。そのことを確認したアリスは、苦い顔をしながら『蹄のスカルキン』を下がらせた。

 

「『複製の儀式』。さ、増えましょうねぇ」

 

 言葉と共に『魔理沙』が五体増えた。同じ顔が六体並び一斉にアリスに襲い掛かろうとしているそれは、ある種異様な光景である。ただ、どうやら森をうろついていた『アリス』とは違い、『魔理沙』はカードを取り出すことなく直接攻撃を行うようであった。そのことを確認したアリスは少しだけ安堵する。流石に一斉に呪文を放たれては防ぎ切れない。

 

「貴女の複製はちょーっと賢過ぎたんですよねぇ。おかげで私の言うこと聞いてくれないし。まあ元から制御する気なかったんで別にいいんですけど」

「それで人が死んだのだけど」

「あら、それはいけませんねぇ。主に怒られちゃいますよ。あの人苦痛を重視しますから、その死んだ人がどんな苦痛を受けたのか知ってないと文句を言われるんですよ」

「……従者が従者なら主も主、か」

「失礼な。私は主ほどぶっ飛んでいませんよ。苦痛は芸術だ、なんて笑いながら言う変人と一緒にしないでください」

「傍から見ていたらどっちも一緒よ」

 

 その言葉と同時にマナを込めていたカードを『魔理沙』の一体に投げ付ける。空間に渦が生まれ、そしてその渦に『魔理沙』は飲み込まれた。だが特に残りの『魔理沙』は反応しない。それを見て、アリスは更に表情を苦いものに変えた。

 『魔理沙』が動く。『蹄のスカルキン』で迎撃を行うが多勢に無勢。あっという間にカカシはボロクズへと変わり、そして残った『魔理沙』が彼女に襲い掛かる。組み伏せられたアリスは、動かせる目で自身を見下ろしている小悪魔を睨んだ。

 やっぱり知り合いだと本気で戦えないんですかね。顎に手を当てながらそんなことをのたまう小悪魔を、アリスは白々しいと切って捨てた。偽物が既に殺されている事を知っている癖によくもまあ抜かすものだ、と更に毒づく。

 そんなアリスを、小悪魔は面白そうに眺めている。そんな体勢で良くそれだけ口が回るものですね、と笑う。

 

「というか、スペルカードルールでしたっけ? それだと、もうこれ勝負ありなんじゃないんですか?」

「生憎とこのルールはその辺りが適当なの。負けてないって思えば、勝負はまだ続くのよ」

「よくそんな方法でルールとか言えますね」

「問題ないじゃない。だってこれは、決闘ごっこなんだか、ら!」

 

 いつの間にか取り出していたカードを展開、同時に彼女を組み伏せていた『魔理沙』が吹き飛んだ。それを行った異様な風貌を持つカカシは、長い手を振り上げ燃え盛る頭部から声にならない叫びを上げる。

 

「『鳴らし猛火のカカシ』、足止め頼むわよ」

 

 言いながらもう一枚カードを取り出す。喚び出したのは簡素な構造をした一体のゴーレム。カチリカチリと歯車の回る音が鳴り響くが、しかし一向に動く気配はない。

 そんな変な物体を見た小悪魔は一瞬だけ訝しげな顔をしたが、まあ気にすることもないと思考から追い出した。何かあるならばその都度対応すればいい、そんな風に考えた。

 だから、彼女は見逃した。歯車が回るたびに、アリスがマナを込めていることに。

 

「あの変なカカシもそろそろ限界っぽいですねぇ」

 

 『鳴らし猛火のカカシ』も複数の『魔理沙』との戦闘でボロボロになっていた。『魔理沙』も一体減り四体となっていたが、しかし未だに数の差は埋まらない。そうこうしている内に『鳴らし猛火のカカシ』が崩れ落ちた。動かなくなったカカシには目もくれず、一人立つアリスに視線を向ける。隣には動かず歯車だけが回っている人形が一体。

 

「さ、今度こそ決着ですね」

「ええ、決着ね」

 

 言葉と共に隣に立っていたゴーレムが動き出した。『魔理沙』を一体掴み上げると、そのまま力任せに引き千切る。グシャリと中身をぶちまけた『魔理沙』の成れの果てが地面に落ちるのを見て、小悪魔は目を丸くさせた。

 どう見てもそんな力はない貧弱なクリーチャーであったはずだ。動きもしないガラクタが、何故そんな。口には出さずにそんな疑問がグルグルと回る中、アリスは一人優雅に佇む。どうやら見逃しちゃったみたいね、と一人笑う。

 

「『時間人形』。これはね、マナをつぎ込めばつぎ込むほど強くなる。まあ、その間に動くことは出来ないからのんびりとしたものだけれど」

 

 貴女ものんびりしてくれたおかげで助かったわ。そう言って笑みを強くさせたアリスを見て、余裕を崩さなかった小悪魔の表情が初めて苦いものに変わった。

 じゃあ行きましょうか、とアリスは『時間人形』に命令を下す。一歩踏み出したそれを見て、小悪魔は慌てて残りの『魔理沙』を防御に回した。同時に自分は逃走の為に後ろに下がる。

 

「あら、逃げるの?」

「勿論ですよ。私は主と違うんですから、自分に苦痛を与えるのをよしとしないんです」

「成程。でも、ダメよ。私の偽物で悪さした分は、ちゃんと支払ってもらうわよ」

 

 口角を上げ、そしてカードを取り出した。『時間人形』に更なる力が宿り、そしてその両手に何やら青白い火花が飛ぶ。それを見て短く悲鳴を上げた小悪魔は、慌てて逃げようと踵を返した。

 

「逃がさないわよ。私の『怨恨』、ちゃんと受け取ってもらうわ」

「『クローン』! 私の盾になりなさい!」

 

 『時間人形』を受け止めんと『魔理沙』が立ち塞がる。が、物ともせずに纏めて腹部を貫いた。その勢いのまま、逃げ切れなかった小悪魔へと拳が迫る。

 盛大な音が響き渡り、そして小悪魔は宙を舞った。放物線を描いて森の木よりも高く上がった彼女は、そのまま遠くへ落ちていく。激突音は聞こえなかったが、しかしその姿を見れただけでよしとするかとアリスは満足気に微笑んだ。

 

「さて、と」

 

 どうしようか、と彼女は考える。このまま異変の中心までいくか、それともここで終わるか。暫し迷ったが、結局彼女は後者を選んだ。霊夢達が既に向かっているのだ、自分までわざわざ行くことはあるまい、そう判断したのだ。

 とりあえずは犯人の正体と事の顛末を新聞にでもしてもらおうか。そんなことを考えながら、アリスは喚び出したクリーチャーを戻し、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「いたたたた。うぅ、タンコブ出来ちゃいましたよ……」

 

 ペタリと座り、頭をさすりながら小悪魔はそう呟く。実際はコブだけで済んでいないのだが、細かい傷は持ち前の回復力で強引に治療を行なっていた。それでも頭のそれは治し切れなかったようである。アリスの『怨恨』が込められたそれは、ある種の呪いに近いのだろう。

 若干涙目になりながら彼女は立ち上がる。過程がどうであれ、結果として逃走することは成功したので、特に問題なく仕事の続きが出来る。そんなことを思いながら、懐から魔力の込められたアミュレットを取り出した。それに向かい、彼女は声を掛ける。

 

「主、聞こえますか?」

 

 その声に、アミュレットから何だと返答があった。あまりにもぶっきらぼうなそれに、小悪魔は何だとは何ですかと唇を尖らせる。こっちは頑張って魔法使いから逃げてきたっていうのに、そう続けると、向こう側から笑い声が聞こえてきた。

 

「何が可笑しいんですか」

 

 そうは言ったものの、彼女は何となく理由が察せた。きっと、楽しいのだろう。自分の部下が苦痛を受けたのが。口には出さずに、しかしあからさまに態度に出しながら、小悪魔はそんなことを思う。

 案の定向こうから聞こえてくる答えは彼女が予想をした通り。強大な者を相手にし必死で逃げるという光景は実に素晴らしいなどとのたまっている。放っておけば際限なく苦痛の芸術について語り出しそうであった為、小悪魔は自身の主の言葉を遮ると、それでこれからどうすればいいのかと尋ねた。

 

『ふむ。とりあえずこちらに戻ってこい。どうやらお客が来そうなんでな』

「それ、また痛い目に遭いそうなんですけど」

『それはお前次第だな。痛い目に遭うのが嫌ならば、そうならないように動けばいいだけだろう』

「簡単に言ってくれますねぇ」

『当たり前だ。どちらに転んでも俺は特をするからな』

 

 そう言って笑う主の声を苦い顔で聞いていた小悪魔は、やがて諦めたように溜息を吐くと分かりましたと答えた。それで、一体今は何処にいるんですか? そう続けると、向こうから暫し思案するような声が届けられた。

 今いる場所も知らないのか。少しだけ馬鹿にした口調でそう問うたが、彼女の予想とは裏腹に主は仕方ないだろうと軽く流す。もとよりここに定住するわけでもなし、立ち寄った程度の場所など一々覚えてなどいられない。そう答えるのを聞いて、小悪魔はやれやれと肩を竦めた。

 

「芸術家を気取るなら、もう少し周りの地名に目を向けた方がいいですよ」

『くだらん。俺が欲するのは苦痛だ。それ以上でも以下でもない』

「あーはいはい。分かりましたよ」

 

 それで結局場所は何処だ。再度訊ねると、向こうから白玉楼という場所だと返答が来た。

 白玉楼、という単語を聞いて、小悪魔は思わず顔を顰める。それは、先程ぶっ飛ばされた相手の知り合いが向かっている場所だ。つまり、彼女の主の言うお客というのは。

 

「えーっと、博麗の巫女とかいうのがお客さんですか?」

『そんな役職らしいな。何でもこの次元の異変を解決する者だとか』

「……本当に私が相手しないと駄目ですか?」

『適当に相手をしてくれればいい。多くは期待しない』

「あーはいはい。分かりましたよ」

 

 先程と全く同じ返答をした小悪魔は、じゃあそちらに行きますねと続けた。ああ、待っているという返答を聞いた彼女は、もう一度諦めの溜息を吐く。面倒臭い、と思ったことをそのまま口に出しながら、通信の終わったアミュレットを仕舞い込む。

 無事に終わるかな、と呟きながら足を踏み出した小悪魔は、無理だろうなと自分で否定の呟きを続けた。何せ自分の主は、他者を傷付けることが他者を殺すことよりもずっと好きな、苦痛の魔術師なのだから。

 

「もう、勘弁してくださいな、ティボルト様……」

 

 主の名を呟き、肩を落としながら、彼女はトボトボと目的地まで歩みを進める。彼が植えた木へとやってくるお客よりも、早く着く為に。

 




アヴァシンの帰還の発売前日にフラゲしたパックからティボルトが出ました。
翌日ボックスを買ったらティボルトが出ました。
ソリンvsティボルトのデッキは当然買いました。

どうしたものかこのジェットストリームティボルト……。


スペル説明
『盲目の幻』…クリーチャー:イリュージョン パワー2 タフネス3。
『打ち寄せる水』…本来はクリーチャーのパワーを下げる呪文。アリスは小悪魔をあぶり出すために使用した。
『蹄のスカルキン』…アーティファクト・クリーチャー:カカシ パワータフネス共に2。能力未使用。
『複製の儀式』…対象のコピーを作り出す呪文。通常より更にマナを加えると、コピーを五体作り出す。
『時間人形」…アーティファクト・クリーチャー:ゴーレム パワータフネス共に1。 マナを込めれば段々と強くなっていくが、その間は行動不能になる。
『怨恨』…対象のパワーを上げ、クリーチャーごと術者にダメージを与える力を与えるエンチャント呪文。
『クローン』…クリーチャー:多相の戦士 対象とする相手の姿形を再現することが出来るクリーチャー。


詳しいことはMTGWikiで調べるとグッドです。
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