東方魔集郷   作:負け狐

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せめてある程度区切りをつけてから間を開けないといけない、と思いつつこんなに前回と開いてしまいました。

ともあれ、これでようやく妖々夢(?)終わりです。


14 決着か結託か

「やってらんないですよもう!」

 

 悪態を吐きながら小悪魔は二人から距離を離す。身代わりはあっさりと捻り潰され、今度こそ捕まったら自分がミンチになる番だ。そう考えていた彼女はどうにかしてこの状況を打破しようと必死で頭を巡らす。二人を躱しつつ、残っている手駒を使って逃げる方法を考える。

 

「で、何処に行くつもりです?」

「……わーお」

 

 そんな小悪魔の思考から抜け落ちていたのは、先程多数のクリーチャーを眠らせ足止めしていた美鈴であった。普段の彼女らしからぬ表情を浮かべ、眠りから覚めた自身のしもべを背後に控えさせている。恐らく彼女が一言述べれば背後のスリヴァー達は一斉に小悪魔に襲い掛かり、服どころか皮まで剥がされ無残な姿に剥かれるであろうことを予見させた。

 

「ああ、ご心配なく。『筋肉スリヴァー』や『増力スリヴァー』では、精々叩き潰してミンチにするのが精一杯なので、辱められることはありませんよ」

「その言葉のどこに安心出来る要素があるんですかね!?」

「安心、安心ですか……」

 

 小悪魔の一言に少しだけ考え込むような仕草を取ると、美鈴はじゃあこれですと一枚のカードを放り投げた。枯葉のような形をした頭部と棘の生えた体、特徴的な鉤爪を持ったそれは彼女の隣に召喚され、『筋肉スリヴァー』と『増力スリヴァー』の力によりその体躯を大きく増した。

 新しく現れたそのクリーチャーがギロリと小悪魔の方を向くと、彼女はひぃと小さく悲鳴を上げる。それに合わせるように美鈴の背後のスリヴァーも一歩前に踏み出した。

 

「追い打ちかける気マンマンマンじゃないですか!」

「いえいえ、これはあれです。そっちの言ったものを用意しただけですよ」

「へ? 何がどうなってそんなものに……」

「『暗心スリヴァー』」

「駄洒落!?」

 

 下らない空気が流れているものの、しかし状況としては依然小悪魔は絶体絶命である。むしろ向こうの戦力が増したことで悪化したとも言える。ここでもたついている内にすぐにでも後ろから二人が追い付いてくる。そうなれば彼女は完全に詰みであった。

 が、出来ることがあるかといえば、無いと答えるしかないのもまた事実。

 

「『幽々子』! 『幽々子』ぉ!」

 

 苦し紛れに『水銀のガルガンチュアン』でコピーをした女性の名を叫ぶ。向こうはまだ余裕があったはずで、少しぐらいこちらにかまけてくれても罰は当たらないはずだ。無茶を言っているのは重々承知であるが、しかしそうでもしなくては召喚したクリーチャーより先に術者がやられる。

 そんな彼女の言葉に応えたのか、名を呼ばれた女性はゆっくりと小悪魔の隣に降り立った。

 

「はいはい。呼んだかしら?」

「呼びましたよ! この状況を何とか――って!」

 

 西行寺幽々子は小悪魔の隣でそれは大変ねぇと呑気にのたまう。目を見開いて固まっている当の本人を置いてきぼりで、である。

 先程までの白玉楼の縁側の観客席と化していた場所には既に誰もおらず、空の湯呑みが二つ置いてあるのみ。『解放の樹』の傍では『幽々子』と霊夢がオロオロする妖夢を尻目に戦闘中。

 

「でもねぇ、私としては向こうで妖夢と戦いたいなぁって思うの」

「……」

「というわけで。ちょっと『幽々子』、こっちに来られるかしら?」

 

 来い来い、と手招きをし、幽々子は『幽々子』を呼び寄せる。はいはい、と霊夢との戦闘を一時中止してやって来た『幽々子』に向かい、先程の提案を告げると了解と笑みを浮かべて頷いた。

 

「というわけで、貴女はこちらでこあちゃんのサポートをしてあげてね」

「分かったわ。死なない程度に頑張らせてもらうわね」

「あら、そんな姿勢でいいの?」

「向こうで地面のシミになったもう一体と同じ目には遭いたくないの。ほら、私って美人でしょう?」

「美人薄命、という言葉があるわよ」

 

 クスクスと幽々子と『幽々子』は笑い合う。まあ精々頑張りなさいなと幽々子は告げ、じゃあ早速と向こうで事態についていけずに立ち尽くす妖夢と霊夢に視線を向けた。

 その前に、と再び小悪魔へと向き直る。

 

「私は呪文で操られて泣く泣く妖夢と戦う羽目になったのよ」

「え? へ?」

「私は呪文で操られて泣く泣く妖夢と」

「あーはいはい! えーと……『説得』!」

「あーれー。あやつられたー」

「……何だこれ」

 

 とりあえず現状を打破出来るならなんでもいいや、と彼女は開き直ることにした。

 

 

 

 

 

 

 レミリア・マルコフは忌々しげに舌打ちをした。目の前で笑っている半人半魔の男に為す術なくなぶられているこの現状に、である。従者にあれだけの啖呵を切った上であっさりと主導権を奪われたことに、である。

 肌はティボルトの唱えた呪文でジリジリと焼け、焦げ臭い臭いが鼻を突く。向こうも状況は同じはずなのに楽しげに笑っているのが彼女を一層不快にさせた。ふざけるな、と呟くが、周囲の渦に掻き消され自分の耳にすら届かない。

 彼女は真っ直ぐに目の前の男を睨む。ふざけるな、ともう一度呟いた。先程よりも大きなそれは、今度は向こう側にいる相手に届いたらしい。口角を上げ、それは光栄だと返される。

 

「会話も出来ないほど精神を蝕まれたのかしら自称芸術家」

「はははっ。いや何、そちらの言葉の真意を読み取って返答しただけさ」

「戯言を」

「そうかな? 案外、正確に当てられて歯軋りをしているかもしれんぞ」

「耳も悪ければ目も悪い。おまけに性格も最悪。貴方、モテないわね」

「それは手厳しい。では、もう少しレディに手厚いもてなしをしよう」

 

 あくまで余裕の笑みを崩さず、ティボルトは一枚のカードを取り出す。呪文が唱えられ、そこから生まれた光が針となりレミリアの胸へと突き刺さった。その光景に目を見開いたレミリアは、自身の心臓に刺さったそれを引き抜こうと手を伸ばす。

 

「あぐっ!」

 

 それと同時、突き刺さったそこから流し込まれたものにより彼女の血管が鳴き声を上げた。ジクリジクリと何かの気を引くように、一定のリズムで悲鳴を上げる。

 足がもつれ、思わず片膝を付いた。決して倒れぬと顔を上げたレミリアが目にしたのは、彼女を観察し何かを手帳に書き込んでいるティボルトの姿。まるで実験動物か何を見るようなその表情に、彼女の怒りは更に燃え上がった。

 

「ん? どうした? その『貫かれた心臓の呪い』はお気に召さなかったかな?」

「気に入ると思っているなら、脳を取り替えてもらった方がいいわ」

「ふむ。それは失礼した。すぐに代わりを用意しよう」

 

 言葉と同時にティボルトは再度呪文を唱える。周囲の渦に加え、新たに頭上に黒い雲が生み出された。では、と別のカードを取り出すと、それらを自身の周囲にばら撒いていく。

 ティボルトの周囲に赤い印章が浮かび上がると同時、頭上の雲から雷がレミリアを打ち据えた。一つ唱えるごとに、一発、二発と彼女は雷光に撃たれていく。小柄な体が宙に舞い、しかし倒れんと体制を立て直す、立て直そうとする。

 それに追い打ちを掛けるように、彼の周囲を漂う印章が砕かれ、炎が彼女に襲い掛かった。

 

「くぁ……!」

「我慢は良くない。声を出してくれて構わないぞ。痛いのならば痛いと、苦痛だと、素直に口にして、そして涙ながらに叫べばいい」

「……マルコフを、この程度で倒したと思うのか?」

 

 立ち上がり、レミリアは笑う。同時に彼女の心臓に刺さった呪いで血管が悲鳴を上げ、周囲の渦は肌を焼く。それでも彼女はまだその足でしっかりと地に足をつけた。

 そんな彼女を見て、ティボルトは素晴らしいと拍手をする。苦痛に身を焦がしながら気丈に振る舞うその姿は実に見事。そんな称賛をしながら、もう一度先程の『炎の印章』を周囲に漂わせた。同時に雲から雷が轟く。

 

「……『雷雲』程度で、私の心が折れるとでも?」

「そう思っていたのだが、なかなかどうして。うん、素晴らしい」

 

 横に待機させておいた『よろめく死体』を顎で使う。のっそりとレミリアに近付いた『よろめく死体』は、彼女を後ろから羽交い締めにした。身動きの取れなくなった彼女は抜けだそうともがいたが、そういうように出来ているゾンビの惰力に吸血鬼とはいえ小柄な少女の肉体しか持たないレミリアでは抵抗できない。

 無防備な姿をティボルトの前に晒すことになってしまったレミリアは、今までの苦痛よりもこの状況の屈辱でその顔を顰めた。それが彼にとってはとても愉快で、心底楽しそうに笑い声を上げる。

 ゆっくりと彼女に近付いたティボルトは、その頬にそっと手を添えた。ギリリ、と歯軋りが聞こえてきそうな表情を満足そうに見詰めると、残っている方の手で取り出したカードにマナを込める。

 

「プレインズウォーカーというものをやっていると、色々な場所で色々なものを見ることがある。これも、その時見た光景さ」

 

 言葉と共に、渦の内側から激しいマグマの噴流と爆炎が吹き荒れる。同時に『雷雲』から雷がレミリアを打ち据え、ビクリとその体を震わせた。

 段々と強くなる爆炎は、何かの拍子にこの場にいる者を飲み込んでもおかしくない。そんな場所に姿を変えた目の前の風景を、レミリアはゆっくりと見渡す。その目は虚ろで、目の前にいるティボルトはそんな彼女の顔を見てようやくかと口角を上げるほどだ。

 

「うん、いい顔だ。では『ボガーダンの中心』、その溜めたマナで目の前のマルコフの末裔を焼き尽くせ」

 

 満足そうに微笑みながら、彼はゆっくりとレミリアから距離を取る。周囲の爆炎が空間ごと弾け飛ぶほどの勢いで唸りを上げ、周囲の渦もそれに合わせるかのように激しく回る。頭上の『雷雲』はまだ足りんとばかりに光が瞬き、そしてその上には大きな月。

 

「――――」

「ん? 何か言ったかな?」

 

 小さくレミリアの口が動いた気がしたが、距離を取ったティボルトには聞こえない。まあどうせ適当な呪詛の言葉だろうと当たりを付け、そんなことより苦痛を与えねばと自身の生み出したエンチャント呪文全てにマナを注ぎ込まんと手を振り上げる。

 その掲げた先に見えるのは月。先程も見えた大きな大きな月。

 そしてその隣に、負けじと輝きを増すもう一つの大きく丸い。

 

「月が、二つ……?」

 

 はっ、と視線をレミリアに向けた。相変わらず羽交い締めにされているその少女は、いつの間にか一枚のカードをその手に掲げていた。呪文が唱えられ、ゆっくりと効果を発揮し消えていくカードを、である。

 先程の呟きは、そういうことか。そう彼が気付いた時には既に遅い。もう一つの月はその光を周囲に振り撒き、雲も、渦も、爆炎も、そしてティボルトの周囲に漂っていた印章も全て消し去っていく。

 光の強さで目をやられ『よろめく死体』の拘束が一瞬緩んだのを見計らい素早く抜け出し、地に足を着けると同時に一気に駆ける。一瞬の油断により体勢の崩れているティボルトへと。

 

「『幻月』。良くも悪くも、月の光は全ての真実を見せてくれるわ。――そう、貴方の敗北という真実を、ね」

「マ、ルコフ……!」

「ここまで追い詰めておいて、一気に敗北するのはどういう気分かしら? なんてね」

 

 カードを握り潰す。込めたマナが開放され、そこに描かれていた呪文が彼女を介してその姿を表わす。彼女の右手が鈍く輝き、どんな鎧や肉体をもってしても防げない魂に直接触れるという所業をやってのける。

 レミリアの口が三日月に歪み、そこから二本の牙が顔を覗かせた。

 

「『死の――」

 

 右手がティボルトの胸へと叩き込まれる。服をすり抜け、肉体をすり抜け、骨をすり抜け、心臓をすり抜け。彼の魂へと、直接に打ち込まれる。

 

「――わしづかみ』!」

 

 悲鳴は、上がらなかった。

 

 

 

 

 

 

「もう、何でちゃんと戦ってくれないの?」

「あったり前です! ふざけてるんですか!?」

「大真面目よ。私は操られて泣く泣く妖夢と戦うの」

「大嘘じゃないですか!」

「そんなことないわ。ほらこうやって自分の意志とは無関係に呪文を――『貿易風ライダー』」

「おもっくそ自分の意志で呪文選びましたよね! 『斑の猪』!」

「『溺れたルサルカ』、『夢捉え』――『貿易風ライダー』、妖夢のクリーチャーを戻しなさい」

「ひ、『火打ち蹄の猪』!」

「『貿易風ライダー』、やっちゃって」

「幽々子さまのバカァ!」

 

 帰っていいかな、と霊夢は一人離れた場所で腰を下ろした。

 いい加減見ているのに飽きたらしい本物の幽々子は操られたと言い張って妖夢にちょっかいを出している。そして先程まで戦っていた『幽々子』は向こうで小悪魔の支援で呪文をばら撒いていた。そんな状況で博麗の巫女がやれることは、事の成り行きを見守ることくらい。

 

「いやいや、それはどうなのよ私」

 

 いかんいかんと首をブンブンと振ると、視線を暴れている連中から一本の大木へと変えた。確か元々の異変の原因と妖夢が語ったのはこの木だ。用意したのは向こうの男であろうが、だからといってこれをそのまま放置するわけにもいかない。そう判断した彼女はそこに向かって一歩足を踏み出す。

 

「……なんだろ、これ。呪われているような気もするのに、何かを赦しているような気もする」

 

 そっと木に触れる。ぞわりと数多の命を吸ったのであろう思いがそこから伝わり、弾かれるように手を離した。思わず触れていた手を見るが、別段何か変わった様子は見られない。

 ふう、と息を一つ。やっぱりこれはへし折った方がいい。そう判断した霊夢は丁度いい何かがないかとライブラリーを漁った。折って、燃やす。多分その辺りが妥当だろう。

 

「物騒ね」

「あらレミリア。終わったの?」

「ええ。私の勝ちよ」

 

 ほら、と指差した先では、ごろりと大の字に転がったまま笑っているティボルトの姿が見える。負けたショックでおかしくなっているのだろうかと霊夢が顔を顰めたが、気にしない方がいいというレミリアの言葉に分かったと頷き視線を逸らした。

 

「で、これなんだけど」

「ああ、これね。これは『解放の樹』。スレイベンの処刑場に生えている絞首用の大木よ」

「スレイベン?」

 

 聞きなれない地名に首を傾げた霊夢に向かい、レミリアは私の住んでいた次元の地名だと告げる。ふうんと返した霊夢は、そういえばあいつあんたと同郷だって言ってたっけと手を叩いた。

 

「まあそれよりも、これはへし折っても大丈夫なの?」

「別に、いいんじゃないかしら。呪文で構築されたものだろうし、本物とは違うでしょうから」

「よし、じゃあ遠慮無く――」

「待った待ったストップストォォップ!」

 

 改めて呪文を唱えようとカードを取り出した矢先、霊夢にしがみつくように小悪魔が突っ込んでくる。うげ、とその衝撃ですっ転んだ霊夢をレミリアはケラケラと笑い、小悪魔を追い掛けてきた三人を見て表情を綻ばせた。

 随分とボロボロじゃないか、という魔理沙の言葉に笑って返すと、彼女は自分の従者を見やる。堂々と胸を張り、何か文句あるかと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「私は、お嬢様を信じておりましたので」

「ホント見事にボロボロですねぇってええぇ!?」

「よし美鈴、あんた暫く飯抜き」

「殺生なぁぁ!」

 

 崩れ落ちる美鈴を横目に、魔理沙はしがみついている小悪魔を霊夢から引き剥がすと、ちょっとこれ持ってろと後ろにいた『幽々子』に投げ渡した。了解と彼女を羽交い締めにした『幽々子』は、そろそろ私もお役御免かしらねと微笑んでいる。

 で、後はどうするんだと魔理沙は霊夢に尋ねた。まあ、首謀者はあそこでぶっ倒れているし、と彼女は向こう側を指差すと、後はこれでしょとその指を目の前の木に突き付け直す。

 

「へし折るのか」

「へし折るわよ」

「だからやめて下さいって言ってるでしょうが! その木はですね、『解放の樹』って言って」

「スレイベンの処刑場にある絞首用の大木でしょ。さっき聞いたわ」

「あ、そうなんですか。じゃなくて! その木は本来処刑された人や怪物の魂を赦す為に膨大な力を持っているんですよ。へし折ったりなんかしたら」

 

 いいから黙ってろ、と魔理沙は小悪魔に返すとカードを取り出す。確かに生半可な力で攻撃しても折れそうにない。そんなことは一目見て分かる。だから、精一杯の力で攻撃してやる。そう決めて彼女はそのカードにマナを込める。

 霊夢もそれに合わせるようにカードを取り出しマナを込めた。魔理沙に負けないくらいの一撃を、目の前の木にぶつけてやる。そんなことを思いながら、とっておきの攻撃を叩き込むために力を込める。

 魔理沙が唱えたのは巨大なワーム。数多の戦いをくぐり抜けてきたと思わしきその古き鱗は、いかなるものも打ち倒し、またいかなるものからも守り通すという意志が見て取れた。

 霊夢が唱えたのは巨大な精霊。数多の攻撃により傷付いた枯木を思わせるその四肢は、全てを叩き潰さんとする強烈な憤怒が溢れ出ており、しかし大事な存在を守ろうとする意志も見て取れた。

 

「『古鱗のワーム』!」

「『ガイアの復讐者』!」

 

 魔理沙が、霊夢が、それぞれ喚び出したクリーチャーの名を呼ぶ。目標は、目の前の大木。この騒動の原因となった、少なくともこちらにとっては忌まわしき木。

 『古鱗のワーム』が吠える。その巨体を持って薙ぎ倒さんと。

 『ガイアの復讐者』が唸る。その巨大な四肢を使いへし折らんと。

 

「叩き潰せぇ!」

「へし折れぇ!」

 

 二つの巨体が木へとぶつかる。片方だけでは『解放の樹』は揺るがず、しかし二体同時に攻撃を受けてしまえば、流石の大木もその身を揺らした。しかし尚、その根は大地から離れない。

 

「ダメですって! これ以上やったら、大変なことに!」

「やかましい!」

「黙って見てなさい!」

 

 もがく小悪魔を一括し、霊夢と魔理沙は再び木に一撃を加えんと各々のしもべに声を掛ける。一度で駄目なら何度でも、お互いにそう決め、揃って頷く。

 それに応えるかの如く、彼女達の背後から声が聞こえた。振り向くと、レミリアがカードにマナを込めながら歌を歌っている。『古鱗のワーム』と『ガイアの復讐者』はその歌を聞き力が溢れんばかりに吠えた。

 合わせるように、別の場所からも歌が聞こえた。幽々子が妖夢をあしらいながら、レミリアと同じようにカードにマナを込めながら歌を歌っていた。それを聞いた二体は更に鼓舞され力を上げる。

 

「『栄光の頌歌』。一度耳にすれば、吸血鬼の戦いの歌は永遠に聞き手の一部となる」

「『栄光の頌歌』。一度耳にすれば、亡霊の戦いの歌は永遠に聞き手の一部となる」

 

 後はお前達次第だ、と二人の歌姫は微笑む。分かっているとばかりに、巫女と魔法使いは笑みを浮かべた。

 やれるな、と魔理沙は霊夢に尋ねた。もちろんだ、と霊夢は魔理沙に答えた。

 

「行け! 『古鱗のワーム』!」

「行け! 『ガイアの復讐者』!」

 

 二人のクリーチャーによる攻撃は同時に大木に叩き込まれ。そして、メキメキと音を立てて倒れていく。へし折れた木が悲鳴を上げるように一際甲高く音を上げた。

 同時に、木に込められていた爆弾のようなマナが一斉に解放、白玉楼を光に包み込む。

 

「は?」

「へ?」

「だから言ったのにぃぃぃぃ!」

 

 

 

 

 

 

 これは酷い、と幽々子は辺りを見渡しながら呟いた。

 白玉楼、と呼ばれていた場所の面影は、『解放の樹』が無くなったことにより戻ってきた西行妖という名の桜の木のみ。それ以外は一切合切消し飛んでいた。屋敷は廃屋の方がまだましであり、枯山水の庭は何処から何処がそうだったのか見当もつかない。

 

「困ったわねぇ」

「全然困ってるように見えないんだけど」

 

 幽々子の呟きに霊夢がそう返す。あらそうかしら、と返した幽々子は、まあ引越し先の当てはあるからかしらねと微笑む。そんな彼女の姿を見てやれやれと肩を竦めた霊夢は、だったらとりあえずあれをどうにかした方がいいと向こう側を指差した。

 廃屋の前で座り込んでゆらゆらと揺れている妖夢を、である。

 

「もう、妖夢ったらだらしないわね」

「……ああ、うん、そうね。じゃあ後は任せたから」

 

 こいつと話していてもしょうがない。そう判断した霊夢はさっさと話を切り上げ別の場所へと向かう。魔理沙の背中に声を掛けると、振り向き頬を掻きながらやっちまったなと苦笑した。

 

「まさかあの木がこんな爆弾になってるなんてなぁ」

「だから言ったじゃないですかぁ!」

 

 あはは、と笑う魔理沙に涙目になった小悪魔が叫ぶ。意図的に叫びを無視した彼女はそんなことよりと霊夢に指を突き付けた。こいつらどうするんだ、とつい先程無視した小悪魔とその隣にいるティボルトを指差す。

 

「どうするって、まあスペルカードでの勝負だし、こういう場合は――」

「案ずるな博麗の巫女。俺はこの次元から去る」

「あら、レミリアにリベンジとかしないの?」

 

 ほれ、と向こうで何やら言い合っている三人組の中でも一番小柄な一人を指差すが、ティボルトはゆっくりと首を横に振った。勝負事にこだわるのは自分の趣味ではない。そう述べるとさっさと次元移動の為の準備にかかり始めた。

 

「何か第一印象と違うわね。もっとこう、話の通じない奴かと思った」

「話なんか通じませんよこの拷問馬鹿は! たまたまそういう気分だっただけで騙されちゃいけませんからね!」

「小悪魔、お前はここで残ってリンチでも受けるか?」

「嫌ですよ! 連れてってくださいよ!」

「そうか」

 

 その時はリンチの感想をレポートに纏めて欲しかったのだが。そんなことを続けつつ、準備を終えたティボルトは呪文を紡いだ。そのマナの流れに気付いたのか、レミリアがこちらに向かって駆けてくる。

 何とも微妙な表情を浮かべる吸血鬼の少女を見て、何が可笑しいのかティボルトは腹を抱えて笑った。何が可笑しい、と憤るレミリアを見て、彼は余計にその笑みを強める。

 

「レミリア・マルコフ」

「何だティボルト」

「礼を言おう。実に有意義な時間が過ごせた」

「……なら、こちらも礼を言っておくわ。マルコフの、いえ、ソリンの名を守ることが出来たから」

 

 彼女の不敵な笑みを見て、彼は再び可笑しそうに笑った。

 呪文の詠唱を終え、ティボルトと小悪魔が光に包まれる。縁があったらまた会おう。そんなお決まりの文句を残すと、二人はそのまま光の中へと消えていく。

 そうして光の消えた後は、そこに最初から誰もいなかったかのような空間が残るばかり。

 

「さて、帰りましょうか」

「そうね」

 

 レミリアの言葉に同意した霊夢は、いつのまにか妖夢に説教されている幽々子を一瞥し白玉楼の門であった場所へと足を進める。待てよ、と魔理沙がその背中を追い、レミリアはそんな二人をしばし眺めてから足を踏み出した。無論、咲夜と美鈴もそこにいる。

 五人はそのまま帰路につく。異変も終わり、日常に戻る為に。

 

 

 

 

 その最中、霊夢がああそうだとレミリアへと向き直った。どうしたの、と首を傾げる彼女に向かい、霊夢は忘れたのと指を突き付ける。

 

「夕飯、ごちそうしてくれるんでしょう?」

「ああ、そうね。今から?」

「んー。明日でいいわ」

「了解。咲夜」

 

 どうかしら、とレミリアは視線を隣の従者に向ける。咲夜は表情を崩さずに、かしこまりましたと頭を下げた。

 

「では明日は、お嬢様と霊夢、魔理沙の三人分の夕食をお作りします」

「ええ、よろしくね」

「お、私もいいのか?」

「無理にとは言わないけど」

 

 行くに決まってるだろう、と魔理沙は笑う。こりゃ明日は腹を空かせないとな、と腕を振り回しながら彼女は鼻歌交じりで進む速度を早めた。

 そんな会話に参加していないもう一人の従者はというと。

 

「えーっと、お嬢様?」

「飯抜きよ」

「あの、私もあれは失言だとしっかり認識しておりましてですね」

「飯抜きよ」

「この通り、反省しておりますのでどうかご容赦をば」

「そもそも最初にからかったこと、私は忘れてないわよ」

「そこ根に持っちゃってるんですか!? って、あ」

「咲夜」

「かしこまりました」

 

 何とも情けない叫び声が、幻想郷の空に響き渡ったとかなんとか。

 




ティボルトのフレイバー・テキストが驚くほど少ないので試行錯誤をしていたら、気付くとこんな感じに。
そして妖々夢がベースのはずなのにおぜうがメインに。


スペル説明
『暗心スリヴァー』…クリーチャー:スリヴァー パワータフネス共に2。能力未使用。
『説得』…対象のクリーチャーを自分のクリーチャーに変えるエンチャント。本来は小悪魔が幽々子に使用したところで何の効果も発揮しない。
『貫かれた心臓の呪い』…対象の術者を苦痛に苛ませるエンチャント。じわじわとダメージを与えていく。
『雷雲』…赤の呪文を唱える際追加で赤マナを込めると相手に攻撃を行うエンチャント。
『ボガーダンの中心』…維持するのにマナが掛かり、維持をやめた際にそれまで使ったマナに応じて相手にダメージを与えるエンチャント。
『幻月』…全てのエンチャントを破壊し、その数に応じて詠唱者を癒やす呪文。東方旧作とは関係がない。
『死のわしづかみ』…対象にマナを注ぎ込んだ分だけダメージを与え、自身はその分回復するドレイン呪文。
『斑の猪』…クリーチャー:猪 パワータフネス共に2。能力未使用。
『溺れたルサルカ』…クリーチャー:スピリット パワータフネス共に1。能力未使用。
『夢捉え』…クリーチャー:スピリット パワータフネス共に1。能力未使用。
『火打ち蹄の猪』…クリーチャー猪 パワータフネス共に2。能力未使用。
『古鱗のワーム』…クリーチャー:ワーム パワータフネス共に7。クリーチャーを突き破り術者にダメージを与える能力持ち。他にも能力はあるが、未使用。
『ガイアの復讐者』…クリーチャー:エレメンタル パワー8、タフネス7。打ち消されず、素早く行動が出来る他、緑呪文以外を受け付けない。
『栄光の頌歌』…全ての味方クリーチャーを強化するエンチャント。

ちゃんとした説明はMTGWikiとかで確認をするといいと思います。
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