東方魔集郷   作:負け狐

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この物語の主人公はあらすじからすれば霊夢だけのはずなのですが、どうやら案外そうでもないかもしれないと最近思ってきました。

まあ元々MTGのブロックごとのストーリーもそんな感じですし。
ジェイスとかジェラードみたいにがっつり主人公する人もいるっちゃいますけど。
ウルザ……? はてさてなんのことやら。


6 終わりと始まりの説話

「人里に異変だって聞いてみれば……何よ、アレ」

 

 空に停止したまま動く気配の無い飛翔艦を見上げ、霊夢はそう呟いた。隣では魔理沙が呑気に凄くでかいなとはしゃぎ、アリスがそれを呆れた顔で見ている。視線を空から周囲に移動させてみたが、どうやら別段混乱している様子が無いのを確認した霊夢は首を傾げた。来る間もそうであったが、こんなものが頭上に浮かんでいたら慌てて然るべきはずなのだが。そんなことを思っていると、一人の女性が彼女達へと近付いてきた。

 

「あら慧音。どうしたの?」

「いや、お前達の姿を見掛けたものだからな」

 

 人里の守護者と称されるこの人物ですら平然とそんなことをのたまうこの状況は明らかにおかしい。そう判断した霊夢は彼女に詰め寄った。これは一体全体どういうことだ、と。

 問われた方はそれを予想していたのか、惚けることなく、しかし見ての通りだと簡潔に語った。それが分からないから聞いているんじゃないか、と若干苛立った様子で霊夢は返し、慧音はそう言われてもな、と頭を掻いた。

 

「私も詳しくは知らないんだ。霖之助に忠告されただけだからな」

「霖之助さんに?」

 

 思ってもみない人物の名前が飛び出した彼女は素っ頓狂な声を挙げた。横で聞き耳を立てていた魔理沙がそれに続き、最初に慧音に声を掛けたアリスは何かを考え込む様子で船を見上げた。三者三様のその姿を見つつ、慧音はああそうだと話を続ける。霖之助が自分のところまでやってきて、船を乗っ取った賊が人里にやってくるから避難や協力を要請したいと告げたことを話した。

 信用出来んと追い返したがな、と苦笑する慧音を見て、霊夢は成程ねと頷く。つまり、予め知っていたから人里は驚いていないわけだ。そう結論付けた彼女は、やれやれと肩を竦めた。

 

「信用出来んっつったのに皆に注意を呼びかけたのかよ」

「いや、まあ……話は信用出来なかったが、一応、霖之助は信用しているし、な」

 

 ジト目でそう述べる魔理沙に慧音は少しバツの悪そうな顔でそう告げ顔を逸らした。はいはいそうかよ、と吐き捨てるように言うと、魔理沙は視線を空へと移す。動く気配の無い聖輦船が、変わらずそこに佇んでいた。

 それで、香霖はあそこにいるのか? 視線を動かさずにそう問い掛けた。

 

「あ、ああ。小野塚さんや命蓮さんと一緒に侵入したみたいだ」

「ちょっと待った。何で下層の連中の名前が出てくるの?」

 

 その言葉に反応したのはアリス。怪訝な表情を浮かべて慧音を睨む。嘘を吐いているんじゃないでしょうね、と目が訴えかけていた。慧音はそれに首を横に振ると、本当のことだと念を押す。ただ、何故あの二人が来ているのかは良く知らないがな、と続けた。

 

「一応仕事で来ているという話は聞いたが、そのくらいだ」

「仕事、ね……」

「船の正体でも探れって言われたのか?」

「中の賊を退治するのは正体を探るって言わないわよ」

「中身をぶちまけるのが手っ取り早いってことだろ」

 

 言いながら魔理沙は視線を空から霊夢達へと戻した。こりゃ私達の出番はなさそうだぜ、と笑っているところ見る限り、どうやら彼女は傍観に徹するつもりらしい。元来人里に何か危害が加えられるのを黙ってみている性質ではない慧音もこうして傍観の立場に立っていることからして、その選択をするのも間違いではないのだろう。

 しかし、と霊夢は考える。自分は博麗の巫女、こういう状況の解決を生業とする身である。それをただ見ているだけというのは如何なものだろうか。

 

「いいんじゃないかしら」

「アリス?」

 

 そんな彼女掛けられたのはそんな言葉。そちらに振り向くと、微笑を浮かべているアリスの姿が目に入った。別にわざわざ解決に向かっている場所に乗り込むのが仕事というわけじゃないのだから。そう言いながら霊夢の肩を叩く。

 

「これは本当に解決に向かってるの?」

「……さあ? 霖之助さん達次第かしらね」

 

 無責任なこと言ってくれちゃって。そんな悪態を吐きつつ、霊夢もまあそんなものかと踵を返した。一応大丈夫かどうか監視はするわよ。そう続けながら近くの茶屋に足を運ぶ。

 

「慧音、奢って」

「お、いいなそれ。慧音、私も奢ってくれ」

「何故私がお前達に奢らんといかんのだ……」

 

 そう言いながらも財布の中身を調べる彼女を見て、お人好しだなとアリスは一人含み笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 聖輦船内を四人は歩く。ナズーリンの先導により、当初の目的地から変更されたその場所へと進む途中、その助けて欲しいという女性のことを色々と聞いていた。

 曰く、猫族の獣人らしいが、外見は人間と大差ないとのこと。

 

「猫族というと、レオニンだろう? 人と外見が変わらないというのは中々に特殊だな」

「そうなのかい? 私は他の猫族を見たことが無いから知らないんだ」

 

 霖之助の言葉にナズーリンはそう返す。命蓮と小町はそもそもそのレオニンという種族を知らない為に会話に口を挟めないでいた。それに気付いたのか、霖之助は二人に向かってレオニンとはと薀蓄を語りだす。ああ、また始まったと少々うんざりしつつも、二人にとっては新しい知識な為に聞き流すことなくそれを聞いた。彼によるとレオニンは猫、主にライオンの特徴を持つ人型の生物で、場所によってはそれ以外の猫科の生物の特徴を持つ者もいるらしい。かいつまんでその辺りまでを理解した二人は、成程確かにと頷いた。人と外見が変わらないのは確かに特殊なのであろう、霖之助の説明が間違っていないのならば、であるが。

 

「実際そこの鼠人みたいなものもいるからな」

 

 そう言いながら命蓮は視線をナズーリンに向ける。その視線を受けた彼女はびくりと肩を震わせ、そして困ったように頬を掻いた。私も確かに少々特殊だからね、と苦笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。どうやら詮索して欲しくない話題らしく、それを悟った三人はそうかと返すのみでそれ以上のことは言わなかった。

 

「ん? でも、命蓮。お前さん彼女を一目見て鼠人だと気付いたんだろう?」

 

 どうしてだい、と問い掛ける小町に、命蓮は簡単なことだと肩を竦めた。今の自分はスピリット、魂の形を見分けることが出来る存在だからな。事も無げにそう述べると視線を小町からナズーリンへと向ける。その言葉を聞いていた彼女は複雑な表情で彼を見詰め返した。結局魂は鼠人なんだな、という呟きが聞こえたが、しかしあえて聞き返すことはしなかった。

 

「それで、その寅丸という人はどこに捕らわれているんだい?」

 

 案内されてはいるが、正確な目的地を聞いていない。話題を元に戻すように言った霖之助の言葉を受け、ナズーリンはそういえばそうだったと述べた。私がまだ賊の一味だった時の情報だから正確とは言い難いが、と続けると、三人の方へと向き直った。

 

「この船を動かす為には、鼠人の力では不足なんだ。だから操舵室にいるはずだ」

「操舵室? じゃあその娘がこの船を操縦しているのか?」

 

 命蓮の疑問にナズーリンは首を横に振る。あくまで彼女は動力源だ、恐らく操縦は鼠人、ないしは大峨が行っている。そこまで言うと足を止めた。

 あそこがそうだ、と突き当たりを指差した。その先には大きな扉が三人からも見える。

 

「さて、どうしたものかね」

「強行突破しかないんじゃないかな」

「簡単に言ってくれる」

 

 どうせ狭いからとまた傍観する気だろう、と霖之助を睨むと、彼はその通りと言わんばかりに苦笑を浮かべた。その態度が気に入らなかったのか、命蓮は眉を跳ね上げると彼の肩を掴み、そしてぐいぐいと前に押し出す。言ったからには自分でやれ、そう言いながら扉へ霖之助を押し付けた。

 けたたましい音を立て扉が開く。当然ながらその音に反応してその部屋の住人は一斉に彼らの方を向いていた。鼠人が数人、大峨が二体、そして拘束されている女性が一人。金髪と黒髪の混ざったような髪をしたその女性は、入ってきた面々の中に見知った顔を見付けると驚いたような表情を浮かべた。

 

「ナズーリン!? 何故ここに!?」

「……助けに来たに決まっているだろう。待っていてくれ、すぐに助ける」

「やるのは僕達だけどね」

「いや、私も手伝うさ。付け焼刃だが、スペルカードは習ったのだから」

 

 霖之助の隣に立ったナズーリンはそう告げる。小町は完全に傍観状態、命蓮はカードを取り出しつつも二人の様子を見守っている。そして霖之助はどうしたものかと頭を掻いた。

 彼女が戦えるかどうかではない。自分がこの空間で何をしていいものかと頭を悩ませたのだ。とりあえずは彼女の動き次第かな、と隣に視線を移す。緊張しているのが傍から見ていても分かったが、かといって何か言葉を掛けることも出来ないので霖之助は益々頭を悩ませた。

 

「いけ、『泥ネズミ』!」

 

 ナズーリンが掲げたカードから喚び出されたのはネズミ。数だけは多いが、しかし逆に言えばそれだけでしかない程度のものである。当然ながら鼠人や大峨はそんなものなど脅威に値しないと下卑た笑みを浮かべていた。

 成程、と呟いた霖之助は前に出ようとした命蓮を手で制す。ここは僕の出番なんだろう? と述べると、一枚のカードを取り出してマナを込めた。その手に握られたのは、一つの首輪。それをナズーリンに渡すと、彼はニヤリと口角を上げた。

 

「小さなネズミにも意地があるというところを、見せてやるといい」

「……あ、ああ。分かった。行くぞ『泥ネズミ』!」

 

 渡された首輪を『泥ネズミ』に付けると、ナズーリンは『泥ネズミ』を伴って鼠人へと突っ込んでいく。完全に見下している鼠人はその攻撃を避けることもせず、あえて食らって反撃しようと武器を振り上げた。それが霖之助の計画通りだとも知らずに。

 『泥ネズミ』の攻撃を受けた鼠人はその瞬間に苦しみ始め、反撃を行うどころではなくなってしまった。膝を付き、ヒューヒューと情けない呼吸をしながら虚ろな目で立っているナズーリンを見上げる。その表情を見る限り彼女自身も何が起きたのかを良く理解していないようであったが、自分の攻撃が有効であるということは分かったらしく、他の鼠人にも引き続き攻撃を仕掛けていた。

 

「『バジリスクの首輪』か」

「えげつないねぇ、霖の字は」

 

 どういう理由で倒されているのかよく分かっていない鼠人は、『バジリスクの首輪』で毒をもった『泥ネズミ』に為す術なく倒されていく。相手を取るに足らないものだと嘗めていた弊害がこれ以上無いほどに表れていた。あっという間に数人の鼠人は倒され、息はあるものの行動不能に陥らされていた。

 後はあの大峨をどうにかすれば。そう考えたナズーリンは『泥ネズミ』をけしかけるが、今までの光景を見ていた大峨はその攻撃を避けると返す刀でネズミを叩き潰した。驚愕で目を見開く彼女に向かい、もう一体の大峨は手に持っている斧を振り上げる。

 やられる、と思わず目を瞑ってしまったナズーリンは、その足が地面から離れていることに気付くのに時間が掛かった。目を開けると彼女は命蓮の腕にすっぽりと抱きかかえられており、その向こう側には何やらよく分からないガラクタが山のように積み上げられている。状況が良く理解出来なかったが、しかし助けられたということは分かったのでお礼を述べた。気にするな、と命蓮は返し、攻撃を防いだのはあれだからな、と視線だけでガラクタの山を指す。

 

「……あれは?」

「『ガラクタの壁』。霖之助の出したスペルだ」

 

 見たままの名前のそれは、その言葉と同時に時間が巻き戻るかのように霖之助の手元のカードへと戻ってしまった。どうやら攻撃を防ぐ以外に何か効果があったわけではないようで、大峨は変わらずそこに佇み得物を振り上げている。

 まだやれるか? という命蓮の言葉に、勿論だと彼女は答えた。そうか、と彼は返すと、抱きかかえていたナズーリンを地面に下ろす。一歩後ろへ下がると、なら見させてもらおうかと不敵に笑った。

 真っ直ぐ立ったナズーリンは、もう一度カードを取り出す。先程よりもマナを込め、そしてそれを眼前に掲げた。出て来い、という叫びと共に、そのカードが光を放つ。

 

「『貪欲なるネズミ』!」

 

 先程とは違うネズミが再び群れを成す。だが、大峨はそれがどうしたと鼻で笑った。先程のように攻撃を当てることは出来んぞと彼女を睨むが、しかし。別に攻撃を当てる必要などないさ、と彼女は笑った。

 

「そもそも、その攻撃手段はどこにあるんだい?」

 

 その言葉で、ようやく大峨は自分達が持っていた得物が消え去っていることに気付いた。ガリガリという音が聞こえ、その方向に目を向けると先程喚び出されたネズミがそれらを齧りボロボロにしているのが見える。何時の間に、とそこに意識が集中してしまった大峨は、背後にまた別のネズミが迫っていることに気が付かなかった。

 齧っている個体とは別の『貪欲なるネズミ』の一撃。先程霖之助に渡された『バジリスクの首輪』を装備したそれは、大峨の意識をあっさりと刈り取った。ふらりとよろめくと、力無く二体は倒れ伏す。動かなくなったことを確認すると、ナズーリンは大きく息を吐きへたり込んだ。どうやらまだ慣れていないスペルカードで戦ったことによる精神的な疲労のようで、拘束を解かれ駆け寄る星に心配要らないと笑みを見せていた。

 星はそんな彼女にお礼を述べる。助けに来てくれてありがとうと。そして、助けに来なくても良かったんですよと続けた。言葉は悪いが、それはナズーリンを心配していることからくるものであり、彼女に余計な怪我や被害を増やすまいと考えたものであった。それが分かっているからこそ、ナズーリンは首を横に振る。ふざけるなと眉を跳ね上げる。

 

「私は貴女をこんな状況にした張本人だ。一人だけおめおめと逃げおおせるなんて出来るはずがない」

「……それで、良かったんですよ。私は貴女が無事ならそれで良かった。大事な友人に無用な怪我をして欲しくなかった」

「それはこちらも同じだ。貴女がこれ以上被害を受けるのが我慢ならなかった。こんな薄汚い賊であった私を拾い上げてくれた大切な友人を、放っておくことなぞ出来なかった」

 

 だから、本当はお礼を言うのはこちらの方なのだ。そう言って、泣き笑いのような表情でナズーリンは星に頭を下げた。助けられてくれて、ありがとう、と。

 そんなことを言われては、もう何も言えないじゃないですか。そう言って苦笑した星は、もう一度彼女にありがとうと告げた。そして、二人を見守っていた三人にも顔を向けると、ありがとうございましたと頭を下げた。霖之助も、命蓮も、小町も。反応は三者三様であったが、結局のところ気にするなという返事であった。

 

「さて、これで目的は達成なのかな?」

 

 霖之助のその言葉に、ナズーリンはゆっくりと首を横に振る。申し訳ないが、もう一仕事手伝ってもらいたい。そう言うと、彼女は操舵室の出入り口の扉まで歩みを進めた。

 

「この聖輦船を、取り戻す」

「ナズーリン!?」

「いいや、これは譲れない。この船の主導権を取り返し、そして故郷に帰る。そこまでして初めて私は私になれる」

「……戻ったら、貴女は」

「それでいいんだ。賊の一味として裁かれるのなら、それでいい」

 

 迷い無くそう言い切った彼女は、扉を開いて廊下へと歩き出す。その後姿を悲痛な表情で見詰めていた星は、ならば私も行きますとその後を追った。

 まったく、と誰かが呟くのが聞こえた。特に誰なのかを探ったりはしなかった。三人が三人共に、同じ言葉を呟いていたからだ。

 

「四季様だったら、また違う行動したのかもねぇ」

「どうかな? 映姫のことだ、文句を言いつつ手伝うかもしれんぞ」

「君達の中の閻魔様のイメージがよく分からないね」

 

 そんな軽口を叩きながら、二人の後を追い掛けた。

 

 

 

 

 目的地は船長室。当初向かう予定だったそこにいる親玉を倒し、船を取り返す。そう意気込んで進んだ一行が眼にしたのは、ずらりと並んだ鼠人と大峨であった。こんなに人数がいるはずがない、と驚愕に目を見開くナズーリンに、いるものはいるのだから仕方ないだろうと命蓮は返す。

 

「大方君がいなくなった後から増やしたんだろう。あるいは、元々隠していたか」

「大峨だっけ? そいつがいるのも知らなかったって言ってたし、まあ前者だろうねぇ」

 

 ともあれ、全員ぶちのめさないと主導権を取り戻すことなど出来そうにない。そう判断した三人は各々カードを取り出した。ナズーリンも同じようにカードを取り出そうとするが、彼女を護衛してやってくれという言葉に頷き星を伴い一歩下がる。

 サボるなよ、という命蓮の言葉に、霖之助は肩を竦めることで返答とした。小町はそんな彼が面白いのかケラケラと笑い、そしてお前もだと返される。はいはい分かってますよと答えると、笑みを潜め前を見た。

 

「じゃ、行きますかね。『幼年期の怪物』」

 

 白い、ドラゴンのような怪物が小町の背後に現れる。見た目こそ荘厳であったが、そのまとう雰囲気は神々しいものなどでは決してなく。不気味さが真っ先に湧いてくるような、そんな異様なものであった。名に違わず、まさしく怪物なのだろう。

 そんな小町の『幼年期の怪物』を見た霖之助もカードを掲げる。さて、出番だとマナを込めたその名を呼んだ。

 

「『時代寄生機』」

 

 節足動物のような機械が彼の隣に立つ。胴体が淡く光っており、その瞬きがまるで獲物を前に舌なめずりをしているように見えた。その異様な風貌に、鼠人は少しだけ後ずさる。

 呼び出された二体は目の前の集団へと突き進んだ。『幼年期の怪物』は空を舞い相手を翻弄し、その隙を突いて『時代寄生機』が襲い掛かる。スペルカードという神河では見ることの無かったその戦闘方法、それにより余裕を崩された鼠人は数で勝っているにも拘らず防戦一方に追い込まれ、大峨はそんな情けない鼠人を見て悪態を吐く。邪魔だ、と鼠人を押しのけて一体の大峨が『時代寄生機』に切りかかった。巨躯から繰り出されるその一撃はあっさりとその身を両断し、バラバラと残骸が宙を舞う。ただの見掛け倒しではないか、と刃を振り下ろした大峨は笑うと、喚び出されたもう一体である『幼年期の怪物』へと襲い掛かった。怪物の放つ一撃を躱し、その胴を薙いだ。薙ごうとした。一人、この大立ち回りの間を縫って進んでいる変わった髪色をした男が一枚のカードを投げていることなど気にせずに、目の前の怪物だけを始末しようとしたのだ。

 

「『高潔のあかし』」

 

 その刃は胴に届いた瞬間、枯葉の如く砕け散った。その光景を信じられない、などと思う暇も無くその大峨は怪物に殴り飛ばされ宙を舞う。地面に叩き付けられた大峨はそのまま動かなくなった。

 『幼年期の怪物』は止まらない。そのまま近くにいた別の大峨を吹き飛ばし、反撃の刃を躱すと返す一撃で意識を刈り取る。数で押せ、という一体の大峨の言葉で一斉に襲い掛かったが、今度はその背後から悲鳴が上がった。

 どうした、と振り向くと、そこには先程木っ端微塵になったはずの『時代寄生機』がその不気味に光る顎を広げていた。一回り大きく凶暴になったそれに、鼠人は容赦なく蹂躙されていく。大峨が慌てて迎撃に向かおうとしたが、それを待っていたとばかりに目の前にいた怪物が唸りを上げた。その相貌は凶暴さを増しており、守ることなど考えてもいない、ただただ攻撃するのみと大峨に襲い掛かる。

 一体何が起きたのか、それを考察などする余裕はやってこなかった。待ち構えていた賊は相手の力を見誤ったのだ。この次元での常識を見誤ったのだ。その代償は大きく、彼等の野望はえらくあっさりと潰えてしまうことになる。バタバタと倒れる部下達を見ながら、賊の頭目は呆然と立ち尽くしていた。

 そんな彼の目の前に、一人の男が立ち塞がる。法衣を纏ったその男は、どうやらお前が頭のようだなと呟くと笑みを浮かべた。護衛や救援にやってくる気配もないことを確認すると、その男は、命蓮はゆっくりと足を踏み出す。お前を捕らえれば、仕事は終了だ。そんなことを呟いた。

 賊の頭目は無造作に近付いてくる命蓮を見ながら腰に携えてある刀に手を掛けた。どうやら目の前の相手は後ろの二人のように何かを喚び出しているわけではない。たかが人間一人、命を奪うことなど造作も無い。ここで目の前の男を始末し、自分だけは逃げおおせてみせる。そんなことを思いながら、彼はその刃を振るう。

 

「悪いが、その発想は間違いだ」

 

 少し体をずらすだけでその斬撃を躱すと、命蓮はその手を掴んで投げ飛ばした。同時に手首を捻り、相手の刃を手から離す。その体勢のまま一枚のカードを取り出すと、仕舞いだ、と倒れている頭目に告げた。

 

「『拘引』。……後は、ナズーリン達次第といったところか」

 

 振り向くと、どうやら向こうも片付いたようで、倒れた鼠人と大峨を霖之助と小町がふん縛っているのが見えた。意識のある者もいたが、『幼年期の怪物』と『時代寄生機』に睨まれ大人しくされるがままになっている。見る限り死人はいなさそうで、そのことを確認した命蓮は苦笑しつつ溜息を吐いた。俺達も甘いな、と一人ぼやくと、身動きの取れなくっている頭目を担いで二人の方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 聞いているのですか、という怒号で命蓮は我に返った。目の前にはどう見ても怒っていますと言わんばかりの表情で映姫が仁王立ちしている。ああ済まない、聞いていなかった。悪びれる様子も無くそう伝えると、彼女は呆れたように溜息を吐いた。

 

「一体どうしたんですか? この間から上の空ではないですか」

「ああ、そうかな。自分では気が付かないが」

 

 そうは言ったものの、そうかもしれないな、と彼は思った。あの一件、聖輦船の奪還以来、どうにも色々なことに身が入らない。元々生前と比べると目を疑うほど怠けている彼であるが、今のように芯から何もしていないのは珍しかった。それが分かっているからこそ、映姫もどこか心配するように訊ねているのだ。

 何かあったのですか、という彼女の問いに、どうだろうなと彼は返す。実際に分からないのだ。何か自分がこの状態になるようなことがあったのかどうかが。

 あの後、賊を纏めて船の一室に閉じ込めてから、ナズーリンと星は三人にお礼を述べ聖輦船を使って元の次元へと帰っていった。星は何とかして彼女の減刑を願うと言っていたが、当の本人は別に気にしなくていいと笑っていた。

 さてでは帰ろうか、と告げたナズーリンは、改めて三人に向き直った。ありがとう、君達と出会えて良かった。そう言うと深々と頭を下げた。霖之助はこちらこそ良い物を見せてもらったと笑い、小町は一石二鳥だったから丁度いいさと笑った。

 そして命蓮は、無意識にそんな彼女の頭に手を置いていた。久しぶりに同郷の手助けが出来てよかった。そう言うと、彼は薄く微笑んだ。その行動に一瞬驚いたナズーリンであったが、少し照れ臭そうにされるがままになっていた。

 

「ああ、そうだ」

 

 三人へのお礼も済まし、聖輦船の次元移動の魔力も準備が出来た頃、彼女はそう言って振り向いた。覚悟しているなんて言っておきながらあれだけれど。そう続けながら、視線を逸らして頬を掻いた。

 

「もし、もし私が処刑されずに生き延びたら。その時は――」

 

 もう一度ここに遊びに来ても構わないかい? そう言って笑ったナズーリンの顔が、命蓮の頭にちらつく。集中出来ていない原因は間違いなくあの最後の問い掛けだろう。もう二度と会えない可能性の方が高いのにも拘らず、再会の約束をして彼女は去っていった。それが彼の中で消えずに燻っていたのだ。何が残っているのかも分からずに、延々と。

 あの時に自分は別に構わないと返事をした。まだスペルカードも教えたばかりだしな、と続けた。だがそれは本当に自分の言いたかったことだっただろうか。叶うはずもない約束をするのが正しかったのだろうか。

 

「……引き止めれば、良かったのか?」

「さあ、どうでしょうね」

 

 思わず呟いた一言に答えが返される。そういえば仕事の最中だったと思い出し、目の前の上司に目を向けた。また上の空でしたね、とぼやく映姫に済まないと返した。

 やれやれ、と彼女は肩を竦める。貴方は一体何をはっきりさせたいのですか? そう問い掛ける映姫に向かい、命蓮は何なのだろうなと答えた。自分でも何をはっきりさせたいのか分からない。結局、彼は何も分からないのだ。自分のことであるはずなのに。

 成程、と映姫は呟いた。それならば仕方ないですね。そう続けると、机から一枚の書類を取り出しそこに何やらつらつらと文字を書いていく。一体何をやっているんだ、と命蓮が首を傾げていると、その書類は彼の眼前に突きつけられた。

 

「……何だ?」

「見て分かりませんか?」

 

 書かれているのは、閻魔の仕事の一つである上層中層と下層との橋渡しとなる仕事の斡旋。どうやら中層の人里の外れに住人のいない寺があるらしく、そこの管理者を募っているらしい。そこの仕事を請ける人物の部分に自分の名前が書いているのを見た命蓮は目を見開いた。その下には許可をするという旨の文章が四季映姫の名前入りで記されている。さっき書いていたのはこれかと思いつつ、どういうことだと彼女に問うた。

 

「そのままの意味です。碌に仕事もしないような幽霊はクビ、ということですよ」

「……閻魔の下っ端職を解雇させて、廃寺の管理人になれってことか」

「察しが良くて助かります。こんな場所で上の空でいるくらいなら、お寺の敷地内でぼさっとしていてください」

 

 そう言うと彼女は笑った。神河では僧侶をやっていたんでしょうから、丁度良い。そんなこと続けて、話は終わりと立ち上がった。では終わった書類を提出しに行きますのでと部屋を退室しようとする彼女に向かい、命蓮は待ったと声を掛ける。何か? と振り向いた映姫に向かい、礼は言わないぞと短く告げた。

 

「当たり前です。私は貴方を解雇するだけなのですから」

「ああ……そうだったな」

「そうです。まあ、人里で人を待ち続けるのならば、寺に自分の名前でも付ければいい目印になるかもしれませんよ」

「『命蓮寺』? 冗談じゃない」

「あら、意外と合うと思うけれど」

 

 クスクスと笑うと映姫は部屋を出る。その背中と閉められた扉をしばらく睨んでいた命蓮は、やがて大きく息を吐くと椅子に体を預けた。いいようにあしらわれた気がする、と呟くが、それに答えてくれる人物はこの場にいない。

 仕方ない、と彼は立ち上がる。とりあえず小町に話して引越しの手伝いをさせよう。そんなことを思いながら、映姫の出て行った扉に手を掛けた。

 

「命蓮寺、か」

 

 悪くないのかもしれないな。そう呟いて扉を勢い良く開いた。

 いつの間にか、燻っていた何かは無くなっていた。

 




紅魔郷(?)→聖蓮船(?)って凄い流れですね。自分でやっといてなんですけど。
というか元の東方っぽい異変微塵も出てきてないし……。


スペル説明
『泥ネズミ』…クリーチャー:ネズミ パワータフネス共に1。 能力何も無し。
『バジリスクの首輪』…相手を一撃で倒す毒を付与させる装備品。もう一つ効果があったが未使用。
『ガラクタの壁』…アーティファクト・クリーチャー:壁 パワー0 タフネス7。 自分から攻撃は出来ず、攻撃を防ぐと自動的に送還される。
『貪欲なるネズミ』…クリーチャー:ネズミ パワータフネス共に1。 召喚された際、相手の行動手段を一つ潰す能力を持っている。今回は攻撃手段を一つ潰した。
『幼年期の怪物』…クリーチャー:ホラー パワータフネス共に2。 飛行能力持ち。一定条件で凶暴になり戦闘能力が上がるが、術者を守らなくなる。
『時代寄生機』…アーティファクト・クリーチャー:構築物 パワータフネス共に1。通常の方法で倒されると時間の経過で蘇り、ついでに強くなる。
『高潔のあかし』…迎撃をしているクリーチャーを大幅に強化する。
『拘引』…対象の動きを完全に封じるエンチャント。

しっかりとした説明はMTGWikiを見るのがお勧めです。
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