東方魔集郷   作:負け狐

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自分が一番持っているエキスパンションは恐らくプロフェシーです。

当時ガッツリ買ったのは恐らくプロフェシーです。



8 幻想郷の日常 弐

 よろしかったのですか、と妖怪の賢者は目の前の偉大なる竜の杯に酒を注ぎながら訊ねた。対する彼は、何がだと視線も向けずに返すと注がれた酒を飲み干す。あのウメザワの子孫です、そう続けた彼女は再び杯に酒を注いだ。

 ふん、と鼻を鳴らした彼は、それに一体何の問題があるのだと彼女を睨んだ。その視線に射竦められた彼女はびくりと背筋を震わせ、出過ぎた質問をしてしまいましたと頭を下げる。その光景を見た彼は、酒に口を付けながらカラカラと笑った。そんなことを一々心配するのは、いかにもお前らしい。そう言いながら今度は逆に彼女の杯へ彼が酒を注ぐ。

 注がれた酒をありがたく頂いた彼女は、それが私ですからと微笑んだ。この幻想郷を見守る者として、当たり前のことをやっているだけです。そう告げると、扇子で口元を隠しながら彼と同じようにカラカラと笑った。

 そうして暫くお互いの笑い声のみが響いていた空間は、どちらからともなくそれを収めることで再び静寂を取り戻した。酒が尽きているな、と彼が呟くと、彼女は至急用意いたしますわと虚空に視線を向ける。空間に裂け目が現れ、そこから新たな酒樽が二つほど取り出された。

 新たな酒を注ぎお互いに一杯飲み干すと、彼は彼女に向かって意地の悪い笑みを浮かべながら問い掛けた。それで、お前はどうするのだ。簡潔な一言に対し、彼女は不敵な笑みを浮かべて答える。ご心配には及びませんわ、と。

 この幻想郷は全てを受け入れる。どれだけ力に自信のあるものでも、どれだけの野心を持ったものでも、どこまでも力無きものでも、どこまでも無心であるものでも。その全てを受け入れてしまう。それこそが、この次元なのだから。

 その言葉を聞いた彼は笑う。大きく出たな、と酒を飲みながら笑う。そしてそれを飲み干した後、しかしそれはどこまでも残酷な世界だ、と続けた。

 何せ、どれだけの思いを持ってここに来ようとも、この次元にはどうしようもないほど残酷な理がある。覆せない根本原理がある。

 ――上には、上がいる。

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山の上の神社に辿り着いた一行は、その境内で掃き掃除をしている一人の少女の姿を目にした。少女は霊夢達を見ると溢れんばかりの笑みを浮かべ、こちらへ小走りで走り寄ってくる。ようこそ守矢神社へ。大きな声でそう述べると、ニコニコと笑顔を浮かべたままその場に佇む。

 

「……え、っと」

「はい! なんでしょう?」

 

 あまりにも邪気が無さ過ぎて若干引き気味になった霊夢は少しバツの悪そうに頬を掻くと、貴女はこの神社の巫女なのかしら、と訊ねた。問われた彼女は笑みを崩さずにはいそうですと頷くと、参拝所のご案内もしますよと胸を叩いた。

 そんな二人のやり取りを見ていた魔理沙とアリスは、どこまでも冷めた目で文を見詰める。向けられた方は意に介さずに、これは人違いだったんですかねぇなどと惚けたことを呟いていた。

 

「なあ、どう見ても悪さするような奴に見えないんだが」

「普通の、というか、むしろ純粋過ぎるんじゃないかってくらいの娘よね」

 

 博麗神社で話していたような、別の神社を潰そうとしているウメザワの子孫には到底思えない。もし彼女が本当に文の言っていたような人物だったとしたら、その本心の隠し方は驚嘆に値するだろう。そう思いつつも、まあ絶対違うだろうなとアリスは溜息を吐いた。

 二人の目の前では、少女――早苗の元気さに押され気味の霊夢の姿が見える。どうやら本題に入りたいが、いまいちペースが掴めないようであった。

 しょうがない、とアリスはもう一度溜息を吐くと、ちょっといいかしらと早苗に声を掛けた。はい、なんでしょうと彼女の方に顔を向けた早苗は、聞きたいことがあるのだけれどという言葉に少し違和感を覚え首を傾げた。どうやらこの神社の参拝などについてではないらしいと感じ取ったのだ。

 

「博麗神社を知っているかしら?」

「博麗神社? って、あの人里の向こうにある神社のことですよね。はい、知ってます! 近い内に挨拶に行かなきゃいけないって思ってたんですよ」

「挨拶?」

「はい、やっぱり同業者の方には必要だと思って」

 

 同業者。その単語に反応したのは霊夢であった。博麗神社の巫女を同業者と言ってのけるということは、この娘はやはり文の言うような奴なのか。そんなことが若干だが頭をもたげた。

 

「人里にもあるわよ、神社。豊穣と紅葉を司る神が祀られてるわ」

「あ、はい、そこにも行こうと思ってます。でもやっぱり最初はここで一番大きな神社からかなって」

 

 文の言っていたことが再び思い出される。まずはこの次元で一番目立っている神社を潰そうとしている。その言葉が霊夢の中で繰り返される。魔理沙はそんな彼女の様子を見て、ああこれはまずいパターンだと一人天を仰いだ。

 じゃあ、と次の質問をしようとしたアリスを押しのけ、霊夢が再び前に出る。私が博麗神社の巫女よ、そう言うと、彼女は目の前の早苗の反応を確かめた。

 

「あ、そうだったんですか!? ごめんなさい、私ったら不勉強で。ちょっと待っててください、すぐにお茶の準備をしますから」

「――その前に、一つ聞きたいことがあるの」

「はい? なんですか?」

 

 あんたは、ウメザワの子孫なの? 無表情でそう訊ねた霊夢に対し、早苗は気にすることなく笑顔ではいそうですと答えた。答えてしまった。この幻想郷で悪名だと聞かされていたにも拘らず、特に気にすることなく普通に答えてしまったのだ。

 そう、と霊夢は短く述べる。そして、一歩後ろに下がった。いつの間にか、その手には一枚のカードが取り出されている。

 

「お茶の用意は後でいいわ」

「え? そうですか?」

「ええ、それよりも――」

 

 あんたの真意をしっかりと体で教えてもらうわよ。そう言うと霊夢はそのカードにマナを込めた。

 

 

 

 

「え!? え、えええ、えぇぇぇぇ!?」

 

 突如臨戦態勢を取った霊夢に、早苗は若干のパニックを起こしていた。一体全体何がどうなったのだ、そんなことを思いながら、この状況をどうにかしようと思考を巡らせる。

 まずは原因だ、どうしてこうなったのか。それを考えた瞬間、あ、と間抜けな声が出た。そういえばここで梅澤の家名はご法度だったのを思い出したのだ。参拝者がやってきたという喜びでそのことをすっかり忘れていた早苗は、やってしまったと頭を抱えた。

 

「あ、あの、博麗の巫女さん。私、その、今はもう梅澤じゃなくて。そう、東風谷、東風谷なんです!」

「でもウメザワの子孫なのは間違いないんでしょう?」

「あ、はい。それは間違いないです」

「だったら一緒よ。異変を起こしかねない芽は早めに摘むに限る」

「異変なんか起こしませんよぉぉぉぉ!」

「信用出来ないわ、ウメザワの言葉なんか」

 

 完全に戦う気になっている霊夢にとって、早苗の言い訳など馬耳東風。このまま戦わずに穏便に済ます、という選択肢はどうあっても現れないようであった。

 ここにやって来た時に出会った最初の相手、犬走椛の言っていたことを思い出す。下手に争い事を起こされては堪らない、確かそう彼女は言っていたはずだ。その彼女の心配がすぐさま現実になってしまったことを申し訳なく思いつつ、早苗は仕方ないと自身もカードを取り出した。同時に、もう片方の手で腰に差していた十手を抜き放つ。

 

「スペルカードで武器を併用、ね。あんた、本当に新参者なの?」

「……右も左も分からない、まだまだ信用されていない新参者ですよ」

「信用して欲しいのなら、態度で示しなさい」

「ボコボコにされろ、ってことですか?」

「まさか。全力で来なさい!」

 

 叫びと同時に霊夢は持っていたスペルを解き放つ。生み出された稲妻は一直線に早苗へと向かい、しかし持っていた十手でそれを弾かれた。苦い顔を浮かべた霊夢は、だったら次はともう一枚のカードを取り出す。

 

「『火花の精霊』!」

 

 彼女の隣に現れた文字通りの赤く燃える精霊が、目の前で冷や汗を垂らしている早苗を捉えた。行け、という霊夢の言葉で、先程の稲妻と同じように一直線に相手へと向かう。十手で防げないと判断した早苗は、持っていたカードを目の前に掲げた。

 

「頑張ってください、『輝くオオヤマネコ』!」

 

 水晶のような何かで出来た巨大な猫が、早苗を守るように立ちはだかった。猫は『火花の精霊』を受け止めるが、しかし威力を完全には殺しきれなかったようですぐ後ろで応援していた早苗と激突してしまう。あいた、という言葉と共に尻餅を付く彼女を、霊夢は呆れた目で眺めていた。

 

「なにやってんのよ」

「うう、鼻が痛い。で、でもでも、防ぎましたよ!」

「防いだ、ってあんた……え?」

 

 早苗の目の前では『火花の精霊』と激突し吹き飛ばされたはずの『輝くオオヤマネコ』が平然と佇んでいる。その顔はどうだと言わんばかりで、それが霊夢の機嫌を更に悪くさせた。

 むかつく、と一言呟くと、一枚のカードにマナを込めそれを召喚する。以前吸血鬼を退治しに行った時にも使っていた『窯の悪鬼』、それを喚び出した霊夢は、今度は上手く行かないわと早苗を睨み付けた。

 

「行きなさい、『窯の悪鬼』!」

「『輝くオオヤマネコ』、ファイトです!」

 

 二体のクリーチャーがぶつかり合う。お互いの爪と牙でダメージを与えようとしているが、『窯の悪鬼』はオオヤマネコの特殊な体に傷を付けることが出来ず、しかし『輝くオオヤマネコ』の攻撃力では悪鬼を倒すには至らない。お互い決め手を欠いたその戦いは泥沼の様相を成してきた。

 これでは埒が明かない、と霊夢はもう一枚カードを取り出す。それに合わせるように、早苗もまたカードを一枚取り出した。

 

「来なさい、『燃えがらの精霊』!」

「気張ってください、『リボン蛇』!」

 

 下半身が渦巻いている炎のような奇妙な人型をした精霊と、文字通りリボンのような体躯で薄ぼんやりとした羽を持った蛇がそれぞれ召喚される。早苗は精霊の大きさに思わず後ずさりし、霊夢は蛇の羽を見て苦い顔をした。

 二人の喚び出したクリーチャーを見て、少し離れたところから見ていたアリスはまずいわね、と呟く。何がまずいんだ、と訊ねた魔理沙に向かい、あの蛇意外と強いわと返した。

 

「それは、飛べるからですか?」

「それもあるわね」

 

 そんな会話をしている間に勝負は着いていた。『リボン蛇』が空中を翔け、『燃えがらの精霊』の喉元に食らい付く。あっさりとその体を食い千切られた精霊はその姿を霧散させた。あーあと魔理沙は頭を押さえ、文はあららとカメラを構える。そしてアリスは、成程ね、と一人頷いていた。

 

「戦力差を覆したわ」

「は?」

「え?」

 

 ほら、と彼女が指差した先は、先程『燃えがらの精霊』が倒された場所。喉笛を食い千切られ霧散したはずのそれは、一つの巨大な火球となって漂っていた。燃やせ、という霊夢の言葉と同時、その火球は『リボン蛇』へと向かう。業火に包まれた蛇は、その身をあっという間に黒焦げにさせた。火が消えたその空間には何も残らず、少々の焦げ後があるばかり。

 

「相打ちみたいね」

「え? え? 何が起こったんですか?」

「召喚するクリーチャーには能力を持ったものもいる。それをちょっと使用しただけよ。何あんた、そんなことも知らないの?」

「……原理は知ってます」

「素人ね」

「素人ですよ!」

 

 貴女も素人に毛が生えたようなものよ、というアリスの呟きは幸か不幸か霊夢には届かなかった。聞こえていた隣の魔理沙は爆笑していたが、勿論貴女もよ、という追加の言葉でがくりと頭を垂れる。

 そんなやり取りを見つつ、文はさて次はどうなるか、とカメラを構えつつ目を光らせていた。このままスペルカードの戦いが続けば続くほど自分の記事の内容は充実していく。それが彼女にはたまらなく楽しく、思わず歌いだしそうになるほどの快感であった。

 だから、掛けられた声に思わず反応してしまった。

 

「で、これは誰が仕向けたんだい?」

「ふっふっふ、この射命丸文の根回しの賜物です。これで新旧二人の巫女大激突特集は爆売れ間違いなしですよ」

「成程ねぇ」

「……ん?」

 

 答えてから、彼女はその声が聞き覚えの無いものだということに気付いた。視線を横に向けると、アリスと魔理沙は少し離れたところで自分達は関係ないというアピールを行っている。背中に冷や汗が出てくるのを感じつつ、文はゆっくりと振り向いた。

 

「ようこそ鴉天狗。私はここの明神の一人、八坂神奈子」

「同じくここの明神、洩矢諏訪子。ゆっくりしていきな鴉天狗」

 

 力を失い一介のクリーチャーに成り下がってしまう、ここにやって来た際に言っていたそんな言葉が嘘のような威圧感を漂わせた二人が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

「これはこれはお二方。私は「文々。新聞」という新聞を発行している記者の射命丸文と申します」

「ほう、それはそれは」

 

 内心の動揺を隠しつつ、文は務めて冷静に振舞った。それが功を奏したのか、神奈子も諏訪子も威圧感を若干和らげながら彼女の言葉に耳を傾ける。

 それで、新聞記者が何の用だい、という言葉に、文は勿論取材ですと答えた。

 

「こちらの方々はまだ幻想郷に来て日が浅い。新参者だからと無用に警戒されるのは良しとしないでしょう。ならば、少しでも知ってもらうには記事にするのが一番だと思いまして」

「確かにそうだね」

「そうでしょうそうでしょう」

「で、どんな記事にするんだい?」

「まずは敵意の無い者だということを広めます。そして、この幻想郷のルールに則った戦いを行ったことを記録として残せば、野蛮でこの次元の理を守らないと思う輩はいなくなると思っていいでしょう。加えて、博麗の巫女と実力試しを行った者という箔を付ければもう言うことなし、完全に受け入れられます」

 

 すらすらと飛び出してくるその言葉を聞き、神奈子は成程それはいいと頷いた。早苗は早くここに馴染んで欲しいからね、と笑顔を見せた彼女に、文はそうでしょうそうでしょうと首を振る。

 対する諏訪子は、そんな文をどこか胡散臭げな表情で見詰めていた。確かに言っていることは間違っていないし、それも理由の一つであることは間違いない。だが、最初に零していた言葉を彼女は忘れていないのだ。特集を組んで新聞をより多く売る。何より大きな理由はそちらなのだろう、そう当たりをつけていた。

 会話の弾んでいる文と神奈子を尻目に、諏訪子は少し離れた場所にいる二人へと近付く。ちょっと聞きたいことがあるのだけど、そう述べると、魔理沙とアリスは何なのかと返した。

 

「ここにはどういった理由で来たの?」

「えっと、ウメザワの子孫が博麗神社をぶっ潰そうとしているから、それを阻止しようと」

「魔理沙!?」

「え? 言っちゃまずかったのか?」

「ああ、いや、大丈夫。貴女達がそう考えたなんて思ってないから」

 

 言ったのはあれでしょう? そう言って指差した先には談笑している文が。勿論と頷いた魔理沙にありがとうと述べると、談笑しているもう片方の相手、神奈子を呼んだ。どうしたんだいとこちらに来た彼女に、先程魔理沙が言っていたことをそのまま告げる。笑みを一瞬にして凍らせた神奈子は、錆びた蝶番のような動きで背後に振り返った。

 

「鴉天狗……貴様は我を侮辱したな……」

「え? いえいえ滅相も無い。私は清く正しいをモットーとしておりまして」

「梅澤の子孫が他の神社を潰そうと画策しているそうだな」

「誰ですかバラしたのは!」

「いや、お前だよ、たった今」

「そうね、たった今伝聞が確定になったわね」

「はっ!? しまった!」

 

 慌てて口を塞ぐがもう遅い。神奈子は先程よりも更に威圧感を増し、今にも襲い掛かりそうなほどマナを溜めている。これはまずいと判断した文は退散しようと一歩後ろに下がり、そして何かにぶつかった。

 何だ、と振り向くと。そこには拳を握り締め怒りを隠そうともしない霊夢の姿が。

 

「あやややや。どうしました霊夢さん」

「聞こえたわよ。全部あんたのデマだってのが」

「……あちゃー、作戦失敗かぁ」

「呑気に言ってられるのも今のうちよ。ぶっ飛ばしてやるから覚悟しなさい!」

 

 振り下ろした拳を避けると、文は素早く霊夢から距離を取る。いきなり物騒ね、と呟きながらそのまま空中で佇んだ。その視界には、神奈子から説明を受けてびっくりしている早苗の姿も見える。どうやらこれは味方が誰もいないな、と判断した彼女は素早くその場から離脱を試みた。

 

「『突風』」

「うぇ!?」

 

 突如吹き荒れたその風にバランスを崩し、文は地面に叩き付けられる。痛たとぶつけた尻をさすりつつ、一体誰ですかこんなことをする輩はと声を張り上げた。

 その声に反応するように、やれやれ、と一人の白狼天狗が姿を現す。どうせそんなことだろうと思ってましたよ、と頭を掻きながら歩いてくるのは彼女も良く知る人物。自分の部下であり、ここの情報を半ば無理矢理だが提供してもらった人物。

 

「椛! どういうつもりよ!」

「悪人を退治しただけですが何か?」

 

 文の苦情にさらりと返すと、後は任せましたよと霊夢に向き直った。任せなさいと腕をブンブンと振り回しながら足を踏み出す彼女を追いかけるように、何故か魔理沙も足を踏み出していた。

 

「別にお前の言ってた戦いの邪魔じゃないから、問題ないよな」

「よっぽどここに来る前に倒されたのが腹に据えかねたのね」

 

 やる気満々で霊夢の隣に並ぶ魔理沙を見て、彼女は思わず肩を竦める。まあ戦力は多い方がいいでしょう、と結論付けた霊夢は、じゃあ行くわよと隣に目を向けた。任せろ、とその手にカードを取り出しマナを込める。

 これはもう逃げられそうに無いな。そう判断した文は、立ち上がって二人を見据えた。どうせなら貴女も掛かってきて構わないわよ、と椛を睨んだが、結構ですと一言だけ述べられる。あらそう、と返すと、彼女はでは始めましょうかと改めて二人に視線を向けた。

 

「まあ、所詮素人二人だし。手加減してあげるから、本気で掛かってきなさい!」

「言ったなこのカラス!」

「その嘗めた口聞けないようにしてやるわ!」

 

 

 

 

 さてと、と文が喚び出したのは二羽の鳥。鮮やかな色をした巨大なその鳥は、彼女の周りを悠々と飛びまわる。

 

「あら、今回は普通に唱えるのね」

「ああいうのは奇襲だから意味があるの。警戒されてる内はやらないわ」

「ああそうかい。で、その鳥で攻撃するのか?」

「まさか。これは布石よ、ねぇ、『極楽鳥』」

 

 二体の鳥にそう声を掛けると、彼女は一枚のカードを取り出す。だが、それを唱えることはせずに霊夢と魔理沙の動きを眺めていた。どうやら彼女は先に行動を起こさないらしい。そのことに勘付いた二人は、上等とお互い持っていたカードにマナを込める。

 

「『炎の精霊』!」

「『針刺ワーム』!」

 

 霊夢は名前の通り全身が炎で出来た精霊を、魔理沙は文の喚んだ鳥よりも更に巨大なワームをそれぞれ喚び出した。二人は彼女の思った以上のものを召喚したようで、文は少しだけ目を見開き成程、と呟いている。

 降参するなら今のうちだ、そう魔理沙が述べたのを聞いた文は笑い出す。中々面白い冗談よね、と返すと、じゃあこちらの番とカードにマナを込めた。

 

「『青銅嘴の恐鳥』」

 

 現れたのは首の長い、飛行よりも走ることに特化していると思われる大きな鳥。鎧を纏ったその身を揺らし、好戦的な目を向けている。霊夢の『炎の精霊』を一睨みすると、けたたましい鳴き声を上げて突進していった。

 嘗めるな、と霊夢は『炎の精霊』に迎撃を取らせる。その拳で弾き飛ばされた『青銅嘴の恐鳥』は、しかし倒れることなく受身を取ると再びその爪と嘴で襲い掛かった。もう一度吹き飛ばしてやる、と霊夢は指示を出そうと拳を振り上げ。

 向こう側で文が笑っていることに気付いた。

 

「『炎の精霊』、避けなさい!」

「あらら、ばれちゃったか」

 

 嘴が大地を抉り、豪快に土塊が飛ぶ。いつの間にかその体躯を二倍以上にした『青銅嘴の恐鳥』は、今度は魔理沙の『針刺ワーム』へと目を向けた。面食らった魔理沙はワームに回避命令を出すと、自身も霊夢の方へと走って逃げた。一体なんだあれ、と彼女に訊ねるも、分からないわよという簡潔な答えを返される。どうせ向こうが何かやったのよ、と視線を向けると、いつの間にか文の周りの鳥が四羽になっていた。

 

「鳥ばっかり出しちゃって。見世物小屋でも作りたいの?」

「それもいいかもしれないわね。博麗の巫女を観察する小屋、儲かりそうだわ」

「冗談はあんたの記事だけにしときなさい」

 

 言いながら霊夢は魔理沙に目配せをする。ニヤリとそれに答えるように彼女が笑ったのを確認すると、真っ直ぐに走り出した。後ろに『炎の精霊』を伴って文のいる場所まで駆け抜ける霊夢を、一呼吸遅らせて『針刺ワーム』に乗った魔理沙も追いかける。どうやら勝負を賭けに来たか、と判断した文は、自身の前に『青銅嘴の恐鳥』を呼び戻すと、一枚のカードを取り出し掲げた。

 

「さ、出てきなさい。『天空の目』!」

 

 宣言と共に彼女の傍らに鳥が二羽現れる。それに呼応するかのように『青銅嘴の恐鳥』は雄叫びを上げ、そして最初より一回り大きくなった体躯を使い霊夢達へと襲い掛かる。

 霊夢は避けない。突っ込んでくる鳥に目も向けない。見詰める先はただ一つ、この拳を叩き込もうと決めている目の前の天狗、射命丸文だけ。

 その嘴と爪が目前に迫る。そのタイミングで、背後からマナの込められたカードが飛び出した。

 

「流石に黒でもアーティファクトでもないだろ。『恐怖』!」

 

 ビシリ、と何かが割れる音がした。『青銅嘴の恐鳥』の被っていた兜が砕け散り、そして自身も何かに貫かれたように体を震わせる。そのまま倒れピクリとも動かなくなった鳥を蹴り飛ばし、霊夢は文の懐へと飛び込んだ。

 

「しまっ――」

「ぶっ飛べバカラス!」

 

 霊夢の拳と『炎の精霊』、二つの拳が綺麗に彼女のみぞおちへと叩き込まれた。空を自在に舞うはずの鴉天狗が、外的要因で空を舞う。

 そんな錐揉みしている上司を見ながら、椛はやれやれと肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「では、お騒がせしました」

 

 目を回している文を背負った椛は、そう言って頭を下げる。対して、一行は別に気にするなとそんな彼女に返した。霊夢と魔理沙はぶっ飛ばせてスッキリしたと笑い、アリスはどうせそんなことだろうと思っていたと微笑み、早苗は結果的にお友達が出来ましたから感謝してますとサムズアップを向けた。

 

「まあ、建前とはいえその娘が言っていた内容の通りの新聞を作ってくれるのなら、私達としても咎めはしないよ」

「こちらとしても、ここに馴染めるのならば願ったり叶ったりだからね」

 

 そして神奈子と諏訪子はそう言って肩を竦めた。椛はそんな皆へ寛大な措置に感謝しますともう一度頭を下げる。彼女の態度に、そんな大げさなと皆苦笑した。

 

「でも、椛さん。さっきのやり取りを見てる限り、その新聞記者さん、ええっと文さんでしたっけ、とは仲が悪そうに見えましたけど」

 

 首を傾げながらそう問い掛ける早苗に向かって、すこぶる悪いですよと彼女は即答した。ただ、と椛は背中に視線を移す。いつの間にか気絶から睡眠に移行していた文を眺めて、思わず吹き出してしまった。

 

「こんなのでも上司ですからね。ほっとけないんです」

「あはは。そうなんですか」

「ええ。本当は途中で落としてもいいくらいなんですけど」

 

 そう言って早苗と椛は笑い合う。そのまま二人でひとしきり笑い合うと、ではこれでと椛は神社から去っていった。また来てくださいね、と見えなくなるまで手を振っていた早苗は、では改めてと霊夢達に向き直る。

 

「お茶の準備を、してきますね」

「……ああ、そういえば。そんなこと言ってたわね」

「茶菓子は出るのか?」

「魔理沙、子供じゃないんだから」

 

 呆れたようにアリスが呟くが、気にするなと魔理沙は笑う。早苗はじゃあ最中でも用意しますねと駆けていった。その背中を目で追っていた三人は、ん? と首を傾げる。

 ひょっとして、ここまで持ってくる気なのだろうか、と。

 

「……案内するよ。こっちだ」

「早苗、抜けてるにも程だよ……」

 

 神奈子と諏訪子は溜息を一つ。そして、早苗が走っていた方を指差すと三人を伴って歩き始めた。

 その道中、霊夢は一つだけ気になっていたことを問い掛ける。ウメザワの子孫は、ここで何かをしでかすことはないのか、と。

 

「見ての通り、早苗は優しい娘だ。悪さをするような奴じゃない」

「ついでに天然だからね。悪巧みするには向いていないよ」

 

 そんな早苗の守護神をやっている以上、自分達も何かをすることはないさ。そう言って二人は苦笑した。それならいいわ、とあっさり納得する姿を見せたことで、それはよかったと苦笑を微笑に変える。

 そして、早苗とこれからも仲良くしてやってくれ、と続けた。

 

「お安い御用だぜ」

「ついでだし、この二人と一緒にスペルカードも教えるわよ」

 

 そう言って魔理沙とアリスは笑う。そして霊夢も、まあそれもいいかもしれないわね、とぶっきらぼうに答えた。

 素直じゃないな、と笑う魔理沙にうるさいと返し、お茶のお盆を持ってこちらに歩いてくる早苗を見て霊夢は吹き出す。本当に持ってくる気だったのか、そんなことを思いながら、彼女は早苗の名前を呼んだ。

 

「はい?」

「今度、私の知り合いの吸血鬼のいる館にでも行きましょう。きっと仲良くしてくれるわ」

「あ――はい!」

 

 元気一杯の笑顔を向ける彼女を見て、霊夢もつられるようにその顔を綻ばせた。

 




今回は前後編で終わりました。良かった良かった。
……射命丸ファンの方ごめんなさい。

スペル説明
『輝くオオヤマネコ』…クリーチャー:猫 パワータフネス共に1。条件を満たさない限り自身の受けるダメージを全て軽減する。
『燃えがらの精霊』…クリーチャー:エレメンタル パワータフネス共に2。自身を代償にしてダメージを与える能力を持つ。
『リボン蛇』…クリーチャー:蛇 パワー2 タフネス3。飛行出来るが、相手にそれを妨害されてしまう特性を持っている。
『突風』…飛行している相手に軽度のダメージを与える。
『極楽鳥』…クリーチャー:鳥 パワー0 タフネス1。飛行能力と、自身で好きな色のマナを生成する能力を持つ。
『炎の精霊』…クリーチャー:エレメンタル パワー5 タフネス4。
『針刺ワーム』…クリーチャー:ワーム パワー5 タフネス4。
『青銅嘴の恐鳥』…クリーチャー:鳥 パワータフネス共に2。召喚者が別のクリーチャーを呼び出すと強化される能力を持つ。
『天空の目』…鳥を呼び出すスペル。おまけでスペルカードではない自身のクリーチャーをもう一体呼び出すことが出来る。

しっかりした説明はMTGWikiとかがいいと思います。
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