東方魔集郷   作:負け狐

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一応キャラごとにこの呪文を使う、みたいな制約をつけています。

霊夢の場合はクリーチャーは基本エレメンタル、魔理沙は節操無く使うがいざという時の切り札はこいつ、みたいな。
今のところ早苗さんの制約はプロフェシーです。

霊夢は赤緑、魔理沙は黒緑、早苗さんは五色です。
でもプロフェシー縛りです。


9 博麗神社の日常

「もう一回言ってみなさい」

「あら、最近の巫女は聴覚まで未熟になったのかしら?」

「あ、やっぱいいわ言わなくて。喧嘩売ってるのよね?」

 

 昼下がりの博麗神社。そこで一人殺気を膨らませているのはそこの巫女である霊夢である。対する相手はそんな殺気を平然と受け止め、逆に挑発し返す始末。プルプルと霊夢の握った拳が震え、そして今にも振りかぶられそうであった。

 霊夢と対峙している相手、コノハズクの羽角のようなはねた金髪と「和」と記された耳当てをしたその人物は、持っている笏で口元を隠しながらクスクスと笑う。そんなに怖い顔をしなくてもいいのに、と言いながら視線を彼女から奥の神社に向けた。

 

「別に、この神社を寄こせなどとは一言も言ってませんよ」

「言ってたらとっくにぶん殴ってるわよ」

「ただ、異変解決の役目をこちらに譲ってくれないか、とそう言っただけです」

「充分喧嘩売ってんのよそれは」

 

 胸倉を掴まんとした勢いで足を踏み出す霊夢を見て、相手の後ろに控えていた相手が間に割り込む。無礼者、と霊夢を睨むが、やかましいと被っていた烏帽子を弾き飛ばされた。

 烏帽子を拾いに行っているその人物をもう一人の控えていた人物は冷めた目で眺めつつ、霊夢には少し落ち浮いてくれと言葉を掛ける。落ち着けるか、と吐き捨てると、彼女は三人に向かって指を突きつけた。

 

「大体、あんたら上層の連中でしょ! 何で中層の役職に首突っ込んでくるのよ!」

「異変解決は下層中層上層関係なく行われるものでしょう? それの最たる者が博麗の巫女。ならばなんら間違いはないと思うのだけど」

「その提案を出すこと自体が間違いだって言ってんのよ。いきなりしゃしゃり出てきて何様のつもりよ」

「太子様だ」

「黙ってろそこのアホ!」

 

 胸を張ってそう宣言する先程烏帽子を飛ばした相手にそう返すと、とにかく、と三人の中心人物を睨み付けた。

 これでも龍師範に選ばれた者なのだから、それなりの誇りがある。だから、はいそうですかと譲るわけにはいかない。それだけ言うと、霊夢は話は終わりだと踵を返した。

 そんな彼女の背中に声が掛けられる。何だ逃げるのか、その言葉に反応した彼女は振り返り発言者に目を向ける。いつのまにか残り二人より一歩前に出てきた烏帽子の少女が、霊夢を見下すように笑っていた。

 

「自身が未熟だから、太子様には敵わぬと分かっているから、逃げるのだろう?」

「……何が言いたいのよ」

「知れたこと。もし先程の言葉が偽りでないのならば、その実力を示してもらおう」

「つまり、あんたをぶっ飛ばせば納得してくれるってことね」

「然り」

 

 言葉と同時にお互いがスペルカードを取り出す。それを見ていた二人は仕方ないなと肩を竦め、じゃあ任せましたよと一歩下がる。ご期待に応えます太子様と笑顔を見せた少女は、カードにマナを込めるとそれを天高く掲げた。

 

「行くぞ博麗の巫女。この物部布都、容赦せん!」

「はいはい。さっさと片付けてお帰り頂くわ」

 

 

 

 

 よくやるわね、とその光景を見ながらアリスは呟いた。そうだな、と隣で見ていた魔理沙も頷く。眼前では霊夢と布都のスペルカードでの戦いが繰り広げられているが、どうやら霊夢の方が優勢らしかった。じりじりと押されていく布都は悔しげに顔を歪め、それを見ている残り二人は苦笑している。

 視線をその二人へと向けていた魔理沙は、なあアリス、と横にいる相手に訊ねた。

 

「あいつら、何で負けそうなのにあんな余裕ぶっこいてるんだ?」

「そうね。まあ、考えられる理由は色々あるけど」

 

 本気で異変解決の役職を取ろうと思ってなかったんじゃないの。そう言うと彼女は肩を竦めた。何だそりゃ、と魔理沙は返し、じゃあこれは一体何なんだと続ける。

 その質問に少し考えるように顎に手を当てたアリスは、まああくまで予想だけれどと言うと、少し困ったように笑った。

 

「暇潰しじゃないかしら」

「傍迷惑な暇潰しだな」

「あくまで予想よ。ああ、後はそうね」

 

 稽古をつけるって意味もあるかもしれないわ。そんなことを言いながら彼女は再び視線を戦っている二人に向けた。布都が体勢を崩している隙を逃さず、霊夢が『ボール・ライトニング』を召喚していた。ああこれは決まったな、と魔理沙が呟くのと同時、雷光球が布都に激突し盛大に彼女は吹き飛ぶ。ゴロゴロと境内を転がった布都は、無念、という言葉と共に倒れ伏した。

 

「予想以上の強さですね」

「当たり前よ。こちとらいつまでも未熟でいる気は無いの。加えるなら、ちょっと最近異変解決で経験を積んだし」

「成程成程。確かにこれならば、博麗の巫女としての素養は充分にあるわね」

「ふん。分かったならとっとと帰りなさい」

「ええ、ではそうさせていただきましょう。後は、無礼も詫びておきます」

 

 そう述べ頭を下げると、倒れている布都を抱きかかえ三人は神社から去っていった。一体何だったのよ、という霊夢の呟きに答えるものは誰もいない。アリスと魔理沙は遠巻きに彼女を眺めるだけだ。

 本当に暇潰しかよ、という魔理沙の言葉は、幸いにして霊夢には届いていないようであった。ただでさえ不機嫌になっている彼女をこれ以上不機嫌にさせるわけにはいかない。そう思っていたアリスはほっと胸を撫で下ろす。

 が、どうやらその心配は杞憂だったようだ。逆の意味で、であるが。

 

「あーもう、イライラする。魔理沙、ちょっと私に倒されなさい」

「はぁ!? やなこった。逆にぶっ倒してストレス増大させてやるぜ」

 

 お互いに距離を取り、そしてスペルカードを構える。同時にマナを込めたそれは、同時に発動の宣言をされ、同時に召喚された。

 

「『暴れ玉石』!」

「『意識混濁の胞子』!」

 

 巨大な石で出来たクリーチャーを喚び出した霊夢と対照的に、魔理沙が召喚したのは彼女の周りを漂う細かな胞子であった。何よそれ、と顔を歪める霊夢に対し、彼女は甘く見てると痛い目見るぜと余裕の表情を浮かべる。

 じゃあその痛い目を見せてみなさい。そう言うと霊夢は『暴れ玉石』をその胞子の中へと突っ込ませた。巨体から繰り出す豪腕はあっさりと胞子を吹き飛ばし、魔理沙の周りは何も無くなる。ハッタリか、と彼女が声を出そうとしたその直後、ダメージを何も受けていないはずの『暴れ玉石』はその場に倒れ伏した。

 

「え!? 何これ?」

「あーあ、胞子を吸っちまったみたいだな。こりゃ暫く目覚めんぜ」

 

 ニヤリと笑う魔理沙の顔を見てようやく意図に気付いた霊夢は歯噛みする。まさか魔理沙がこんな搦め手を使ってくるなんて。そんなことを言いながら別のカードにマナを込めた。対面している相手からどういう意味だという文句が聞こえたが無視した。

 

「行くわよ、『炎の精霊』!」

 

 名の通り全身が炎に覆われた精霊を傍らに召喚すると、こないだの天狗みたいにぶっ飛ばしてやると霊夢は拳を握り腕を振り回す。やれるもんならやってみなと帽子を一回転させると、魔理沙もカードを取り出しマナを込めた。

 『炎の精霊』の拳が迫る。それを紙一重で躱した魔理沙は、持っていたカードを二枚、精霊に投げ付けた。

 

「『弱体化』!」

 

 精霊の動きが止まり、そしてその身が縮んでいく。吹き消される寸前の炎のように揺らめくと、そのままあっけなく消滅してしまった。あっさりと倒されてしまったことに霊夢が目を見開いているうちに、魔理沙は次の一手にマナを込める。怒りで攻撃が単調になってるぞ、そんなことを言いながらそのカードを前に放った。

 

「ま、私に負けたことを悔しがりながら頭を冷やすんだな。『堕落』!」

 

 巨大な黒い手が霊夢を掴み、そして握り潰した。ドサリと地面に落ちた彼女はそのまま動かず、プルプルと肩を震わせている。そんな彼女を見ながら、魔理沙は腰に手を当て高笑いを上げた。

 あらら、とそんな二人を見ていたアリスは声を挙げる。珍しい戦い方をしたのね。そんなことを呟きながら、彼女も見学していた神社の階段から腰を上げ、二人の所へと歩いていった。

 神社では魔理沙の高笑いが響き渡り、そして霊夢の歯軋りの音が遠くまで響いたとか響かなかったとか。

 

 

 

 

 

 

「やはり未熟だと思うのです」

「何でまた来るのよ」

 

 二日後、再びやって来た三人組に辟易しながら霊夢はそう述べた。対する相手はしょうがないでしょうと一言返し、そして手に持っていた新聞を彼女に差し出す。

 そこには、「博麗の巫女、普通の魔法使いに敗北!」という見出しの記事が書かれていた。無論「文々。新聞」である。

 

「あのバカラスぅぅぅぅ!」

 

 新聞を縦に引き裂きながら霊夢は叫び、そしてもう一度相手を睨んだ。それで何だっていうのよ。そう言うと、用件はこの間と同じですよと微笑む。

 この豊聡耳神子と蘇我屠自古、そして物部布都の三人に、異変解決の任を譲って欲しい。そう告げると、笏で口元を隠しクスクスと笑った。

 

「出来るわけないでしょ。寝言は寝てから言いなさい」

「生憎と、もう充分睡眠は取らせてもらいましたから」

「その割にはまだ寝惚けたこと言ってるじゃない」

「そう思いますか? でも、実際はどうなのでしょうか」

 

 異変解決の任を託されたからには、普通の魔法使い程度に負けることは許されないのではないですか。笑みを崩さずそう続ける神子を見て、霊夢の表情が変わる。何よそれ、そんなことを言いながら、一歩前に踏み出した。

 

「だったらあんたは誰にも負けないって言うの? どんな相手にも負けないって言うの?」

「さて、それはどうでしょうか。まあ、少なくとも君よりは負けないと思いますが」

「――言ってくれるじゃない」

 

 だったら試してもらうか。そう言いながら霊夢は取り出したカードを即座に展開する。稲妻が走り、その光は目の前の神子を貫かんと真っ直ぐ進む。

 甘い、とそれを腰に差していた剣を抜き放ち切り裂くと、同じように一枚のカードを取り出した。では、試させてもらいますよ。そう言いながら彼女はカードにマナを込める。

 

「『稲妻』」

「っ! 『稲妻』!」

 

 解き放たれた呪文は先程霊夢が放ったものと同じ呪文。すかさず彼女も再び同呪文を展開し相殺するが、相手は余裕の表情で佇んでいる。その程度は出来て当然、そんな風に思っているのが窺えた。

 

「では次です」

 

 言葉と同時に彼女の周りに数個の印章が浮かび上がる。赤い印章と青い印章、それらを背後に携えながら、一枚のカードを取り出した。

 

「『ショック』」

 

 先程よりも小さな雷光が霊夢に走る。嘗めるな、と彼女は吼えるとそれを躱し、お返しとばかりにカードを放った。バチバチと音を立て、『火花の精霊』が神子へと向かう。だが、彼女はそれを避けることもせずに見詰めていた。

 瞬間、彼女の背後にあった赤い印章が砕け散る。そこから生まれた炎が『火花の精霊』を飲み込み、そしてそのまま掻き消してしまった。え、と声を挙げた霊夢の隙を突き、神子は再び呪文を放つ。小さな雷光は今度こそ彼女を貫いた。

 

「ったぁ」

「おやおや。もうお仕舞いですか?」

「そんなわけないでしょうが!」

 

 膝を着いた霊夢は掛けられた言葉に反応して素早く立ち上がる。距離を取るように二・三歩下がると、どうしたものかと思考を巡らせた。悔しいが、自分は未熟だ。それを勢いと機転で覆してきたが、それを織り込み済みであるならば状況は途端に不利になる。まるで自身の師と戦っている錯覚に陥った霊夢は、ブンブンと頭を振ってそれを散らした。

 落ち着きなさい、という声が聞こえた。振り向くと、やれやれといった顔で自身を見ているアリスの姿がある。相手の挑発に乗っちゃ駄目よ。そう彼女が述べるのに頷くと、霊夢はもう一度ライブラリーを漁った。相手がある程度織り込み済みならば、こちらもそれを理解した上で乗り越えればいい。そう考え、一枚のカードを取り出す。取り出そうとする。

 

「おおっと。ここで魔理沙様の乱入だー!」

 

 そんな彼女の決意をぶち壊すかのごとく、アリスの横で見ていたはずの魔理沙が突っ込んできた。どうやら観戦では我慢出来なくなったらしく、腕組みをして仁王立ちしながらさあ勝負だと叫んでいる。

 

「何やってるのよ」

「乱入だ。見て分かるだろ」

「理由を聞いてるのよ。顔を見れば分かるでしょ」

「いや、何だ。後ろの奴等が暇そうにしてたからな」

 

 お客さんをもてなしてやらなきゃまずいだろう。そう言って帽子をクルクル回す魔理沙を見て、霊夢は思わず吹き出してしまう。成程、それは確かにそうだ。笑いながらそう言うと、お互いにカードを取り出した。

 

「三対二だが、いいのか?」

 

 屠自古はそんな二人を見ながらそう訊ねる。そういやそうだ、と魔理沙は頷くと、後ろで見ているアリスに声を掛けた。その誘いに手を横に振ることで答えると、精々頑張りなさいと彼女はいつの間にか用意していたお茶を啜る。薄情な奴だな、と毒づいた魔理沙は、神社の階段を登ってくる人影があることに気が付いた。

 その人影は、ついこの間友人になった新参者で、悪名高い家名の子孫の少女。

 

「あ、こんにちは霊夢さん魔理沙さん! 遊びに来ちゃいまし――」

「これで三人、丁度いいぜ」

「――え?」

 

 走り寄ってきた少女、早苗を無理矢理自分の隣に立たせると、さあ続きをやろうぜと箒を三人に向かって突きつけた。

 

 

 

 

「えっと、とりえずスペルカードで勝負してるんですね」

「そうそう、で、早苗も参加するってわけだ」

「分かりました。任せてください!」

 

 相変わらずノリのいい娘だこと。後ろで見ていたアリスはそんなことを思う。まあこれで数の上では対等だし、何とかなるでしょう。心配など欠片もしていない様子の彼女は、空になっていた湯飲みにお茶を入れた。

 

「では改めて、豊聡耳神子、行きます」

「では改めて、博麗霊夢、受けて立つわ!」

「太子様の重鎮が一人、蘇我屠自古、行くぞ」

「普通のウィザード、霧雨魔理沙、望むところだぜ!」

「新参者に負けてなるものか! 物部布都、参る!」

「胸を借りるつもりで行きますよ。東風谷早苗、お遊びの時間です!」

 

 計六人がカードを取り出し、そしてその呪文を放つ。普段のスペルカードルールでは類を見ない光景が博麗神社で繰り広げられることとなった。

 どうやら三対三とはいえ、それぞれ分散して勝負をするらしく、霊夢は神子と、魔理沙は屠自古と、早苗は布都と相対しながら距離を広げた。

 

「行くぞ新参者。『噛みつきドレイク』!」

 

 布都が召喚したのは翼を持った小型の竜のようなクリーチャー。それでも充分人間からすれば巨体であり、その牙は容易く肉を切り裂く鋭さを持っている。だが早苗はそれを見ても動じることなくカードにマナを込めた。

 

「ではこちらも、『トゲ尾のドレイク』!」

 

 彼女が召喚したのも同じくドレイク。名前の通り尻尾が棘になっているらしく、その鋭い尾先を威嚇するように振り回す。

 やってしまえ、と布都は『噛みつきドレイク』に指示を出す。早苗は相手の動きを見ながら迎撃ではなく回避命令を出した。向こうのドレイクの突進を躱すと、背中を向けたそこに『トゲ尾のドレイク』が急降下する。

 

「甘いな。『認識不能』!」

 

 『ドゲ尾のドレイク』の頭上に輪が現れる。それがグルグルと回ると、途端にドレイクは目標を見失い見当違いの場所へと落下していった。そこを狙い、『噛みつきドレイク』が反撃を行う。喉笛を食い千切られた『トゲ尾のドレイク』は地面に倒れ伏しその姿を散らした。

 

「うぇ!?」

「巫女に輪を掛けて未熟なようだな。さあ、やってしまえぃ!」

「わ、わわわ!」

 

 ギロリとドレイクが早苗を睨む。その顎を開き、鋭い牙で彼女に向かって襲い掛かる。焦った早苗はどうしようどうしようとライブラリーを適当に探り、出てきたカードにとにかくマナを込めた。何でもいいから発動して、とそれをドレイクに投げ付ける。瞬時に無数の蔦がドレイクに絡み付き、その動きを完全に封じていた。

 

「……あ、『絡みつき』!」

「そんな偶然があってたまるか!」

 

 出来過ぎだ、と叫ぶ布都に向かい、早苗はいいえ違いますと立ち上がる。真っ直ぐに相手を見、その手に持っていた十手を突きつけ、こう叫んだ。

 これが、奇跡の力です、と。

 

「納得出来ん、出来んぞ!」

「まあ、運も実力の内ってやつですね」

 

 ギャーギャーと文句を言う布都とそれを躱す早苗の二人は、どうやらこれ以上戦う様子はないようである。

 そんな呑気な二人とは裏腹に、残りの二組は真剣な表情でお互いの呪文を潰し合っていた。屠自古は赤マナに長けているらしく、普段霊夢が使っている『稲妻』や『ボール・ライトニング』を使い魔理沙にダメージを与えんと迫る。だが彼女は彼女で普段見ている呪文である為に上手く捌いていた。

 とはいえ、では魔理沙が有利かというとそうでもない。彼女の召喚したクリーチャーはことごとく火力呪文で焼き払われるのだ。相手の攻撃でもびくともしない相手を喚び出したくとも、向こうの呪文を掻い潜りながらマナを大量に込めることは上手くいっていなかった。

 

「ちぃ、めんどくさい奴だ」

「それはこちらのセリフだ。力任せかと思えば搦め手も使ってきやがって。大人しく雷に打たれろ!」

「やなこった! そっちこそ降参しちまえよ大根足!」

「……人が気にしてることを!」

 

 吼える。と同時に彼女のマナが膨れ上がった。しまった、と思った時にはもう遅い。屠自古は持っているカードにそのマナを注ぎ、一体のクリーチャーを召喚した。羊のような頭を持ち、しかしその体は雷雲で出来た巨大な精霊。竜と狼を思わせる顔がその体から生えており、それらも全て魔理沙へと目を向けていた。

 

「『雷叫び』! そいつをぶっ飛ばせ!」

「ちょ、ま、タンマ!」

 

 無論彼女の言葉など聞いてもらえるはずもなく。その巨体に激突された魔理沙は面白いように宙を舞った。数度バウンドし地面に倒れこむと、そのままうつ伏せの状態で動かなくなる。勝負あったな、と屠自古が述べると、まだ終わってないぜと体を動かさずに返した。

 そんな状態でどうする気だ。そう彼女は鼻を鳴らしたが、魔理沙は答えない。ただ、右手に持っているカードにマナを込める。切り札ってのは限界まで取っておきたかったんだけどな。そんなことを呟きながら、ゆっくりとその呪文を解き放った。

 その前に、と顔だけを動かして魔理沙は屠自古に言い聞かせる。

 

「これ、他の奴に言いふらすなよ。特に天狗」

「……? 何を――」

「『魂売り』」

 

 現れたそれは、思わず彼女が後ずさりしてしまうほどの威圧感を放っていた。体のいたるところに角を持ち、腹部にも口を思わせる牙のようなものが並んでいる。偶然にも彼女が召喚したものと同じく羊を思わせる角を頭部に携えたそれは、屈強な体躯と大顎を持ち、ゆっくりと前に歩いてきた。

 だからどうした、と屠自古は『雷叫び』をけしかける。正面から激突したそれらは、相打ちの様相を帯びていた。『魂売り』は倒れ、『雷叫び』は消滅してしまった。その光景を見た彼女は安堵の溜息を吐き、所詮ただのハッタリかと笑みを浮かべた。

 

「生憎だが、私の『雷叫び』は少々弱体化するが復活するぞ。今度こそ――」

 

 彼女の言葉は途中で止まる。何事も無かったかのように立ち上がる『魂売り』を見たからだ。再び形を成した『雷叫び』にもう一度命令を下すと、何度でも倒せばいいと叫んだ。先程と同じ光景を繰り返せばいい。そう思っていた。

 それは、今度は倒れることなく『雷叫び』を打ち倒したことで覆される。霧散した『雷叫び』を一瞥すると、『魂売り』はゆっくりと屠自古へと近付いた。何故だ、一体どうして。そんなことが彼女の頭をグルグルと回る。答えは出ず、その巨大な腕が振り上げられたことで敗北を確信した。

 

「あ、やばい、限界だ」

 

 その直前、魔理沙のそんな間抜けな声を共に『魂売り』はその姿を霞ませていく。どうやら召喚者である魔理沙のマナが尽きたらしい。目の前にあった威圧感が消え去った屠自古は力の抜けたようにその場にへたり込んだ。

 

「……身の丈に合わないスペルを使うんじゃない」

「いやまったく、その通り。でもなぁ、やっぱこう、スペルはパワーだぜってのがやりたくてなぁ」

 

 お互いに動けなくなったまま、どこか気の抜けたようなそんな会話を二人は続けた。

 

 

 

 

「成程、あんな隠し玉が」

「使いこなせてないのは隠し玉って言わないと思うわ」

 

 魔理沙の『魂売り』を見てそんな感想を持った二人は、暫し手を止める。そして、ならば君も当然あるんですよねと神子は霊夢に微笑みかけた。

 まああるけど、見たいの? そう問い掛けた霊夢を見て、勿論ですよと神子は返す。そうでなくては、わざわざこんな三文芝居を打った甲斐がない。そう続けてクスクスと笑った。

 

「そんなことだろうと思ったわ」

「おや、本気で怒っていたようですが」

「芝居だろうが何だろうが、気に入らないのは気に入らない。当たり前でしょ?」

「成程、確かにその通りです」

「そう、だから」

 

 だから、その余裕の顔を焦らせてやる。そう一言述べ、霊夢は一枚のカードを取り出した。そこに込めるのは緑マナ、普段の彼女があまり使わない、彼女の持つもう一つの色。

 出番よ、と喚び出されたのは一匹の獣。立派な体躯を持った鹿であった。だが、それを見た神子は首を傾げる。それが一体どうしたというのだ、と。

 

「ま、問題は次、よ」

 

 もう一枚のカードを取り出す。再びそこに緑マナを込めると、それを鹿に向かって放った。呪文が展開され、鹿の凶暴性とその体躯が大きくなる。急激に増した威圧感に少し気圧されつつ、だがまだまだと神子は微笑んだ。

 

「ふぅん。じゃあ行くわよ。『大貂皮鹿』」

 

 その背に飛び乗った霊夢の声と共にけたたましい鳴き声を発した鹿は、弾丸もかくやというスピードで神子へと迫る。これは少々まずいかもしれませんね、と呟くと、彼女は一枚のカードを取り出した。『ショック』を詠唱し小さな雷光が鹿を貫くが、全く動じることはなかった。寸前で初撃を躱した神子は、少しだけ眉を顰めて背後の印章を砕く。

 

「『炎の印章』、燃やしなさい」

 

 炎の渦が鹿を焦がしたが、しかしそれでも倒れない。体に纏わりつく炎を鬱陶しげに払うと、もう一度とその四肢に力を込めていた。再び弾丸の如く疾駆する鹿の突進を何とか回避した神子は、苦い顔でその背に乗っている霊夢を睨む。どうだとばかりに勝ち誇っている霊夢の顔を見て、少しだけ彼女の心に焦りが生まれた。

 

「『樫変化』。炎程度じゃビクともしないわよ」

「……成程。確かに炎では駄目なようですね」

 

 ならばこれなら、と青い印章を砕いた。そこから青く淡い光が生まれ、そして霊夢と鹿を包み込む。相手を押し戻すようなその光は、やがて眩いばかりの明るさへと変わっていった。

 

「『退去の印章』。燃やせないならば、還してしまえばいい」

 

 少しひやりとしましたが、まあそのくらいですね。そんなことを言いながら微笑んでいた彼女は、その光が収まった時に笑みを凍らせた。送還が完了しているはずのそれは、全くの効果も見せず、『大貂皮鹿』はなんら変わることなくその場に立っていた。

 何故、と思わず言葉が漏れた。霊夢はそんな彼女の顔を見て満足そうに笑うと、勿論こいつが青の呪文に耐性を持っているからよと続ける。

 それを聞いた神子はしまったと舌打ちし、そしてトドメだと突っ込んでくる霊夢と鹿を見て降参したように目を閉じた。

 

「やれやれ。一手上をいかれましたね」

 

 弾き飛ばされて仰向けに転がりながら、彼女はそう言って口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

「お見事。博麗の巫女としての実力は充分備わっているみたいですね」

「当たり前じゃない。何よ今更」

 

 全員が全員大小の差はあれどボロボロになりながらも、皆どこか満足そうに微笑んでいた。特に神子は良い物を見せてもらったとご満悦である。

 霊夢は相手に合わせて呪文を選択する能力に長け、魔理沙はまだ不完全ながらも強力な呪文を使いこなし、そして早苗は底知れない可能性を秘めている。若人のそんな力をこの身で確認出来たと神子は微笑み、そしてでは帰りましょうかと傍らの二人に声を掛けた。

 でも三人共未熟なのは変わりないのだから、ちゃんと修行をするように。そんな余計な一言を残して去っていく彼女の背中に余計なお世話よと返した霊夢は、疲れた、と神社の社殿の階段に腰を下ろした。私の方が疲れたぜ、と魔理沙も力無くその隣に腰掛け、早苗は私はそこまでですねと苦笑する。

 

「まあ、とりあえずお疲れ様かしらね」

 

 そんな三人にお茶を差し出し、アリスは微笑んだ。普段は全然冴えないのに、こういう時はしっかりと決める彼女達を見ていると、自然に笑みが浮かんでくるのだ。まだまだ一人前には程遠いが、しかしそれも遠い話ではない。自分を追い抜いていくのもすぐだろう。そう思うと、嬉しい反面、どこか寂しい気持ちが湧いてきた。

 どうしたんだよアリス、という魔理沙の言葉に何でもないわと返した彼女は、その気持ちを心の奥底に封じ込める。どのみち、それは今ではない。たとえ近い話だとしても、今すぐではないのだ。

 それに、とアリスは霊夢でも魔理沙でもないもう一人を見やる。

 

「まだ貴女は修行を始めたばかりだしね」

「え?」

「ううん、こっちの話よ」

 

 まだ当分自分がスペルの師であることは終わりそうに無いな。そんなことを思いつつ、アリスは自分の湯飲みのお茶をゆっくりと飲み干すのだった。

 幻想郷の博麗神社。そこから見える空は、今日も青い。

 




負け狐はプロフェシーの復権を応援しております。
多分無理だろうけど。

スペル説明
『暴れ玉石』…クリーチャー:エレメンタル パワー5 タフネス2。
『意識混濁の胞子』…クリーチャー:ファンガス・壁 パワー0 タフネス1。自分から攻撃は不可。相手の攻撃を防御すると暫く意識を奪う胞子を纏わりつかせる。
『弱体化』…相手のパワーとタフネスを2下げるエンチャント。
『堕落』…詠唱者の恒久的に出せる基本黒マナを基準にドレインする攻撃呪文。
『ショック』…相手にダメージを与える呪文。稲妻より弱い。
『噛みつきドレイク』…クリーチャー:ドレイク パワー3 タフネス2。飛行能力持ち。
『トゲ尾のドレイク』…クリーチャー:ドレイク パワータフネス共に3。飛行能力持ち。もう一つの能力未使用。
『認識不能』…目標を見失わせ、相手の攻撃力を激減させる呪文。
『絡みつき』…詠唱者が防げなかったクリーチャーの動きを止める呪文。効果は短い。
『雷叫び』…クリーチャー:エレメンタル パワー7 タフネス2。素早く行動に移れる能力と、一度やられても少し弱体化して復活する能力を持つ。
『魂売り』…クリーチャー:ビースト パワータフネス共に6。再生能力、自身の色を変える能力、そして攻撃を当てるたびに強くなる能力と色々持ち過ぎな感のあるクリーチャー。
『大貂皮鹿』…クリーチャー:大鹿 パワータフネス共に3。召喚を打ち消されず、青と黒の呪文を受け付けない。
『炎の印章』…砕くとダメージを与える呪文になるエンチャント。
『樫変化』…パワーとタフネスを3上げるエンチャント。
『退去の印章』…砕くと対象を送還するエンチャント。

しっかりとした説明はMTGWikiとかがいいですよね。
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