So Am I   作:伊織

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閑話
閑話


 

東京、渋谷駅前のスクランブル交差点は各国から来る外国人観光客にとって観光スポットとも言える場所だ。理由は一回の青信号でおよそ3000人もの人が渡るからである。

だが例えこれが渋谷駅のスポットであったとしても、利用者にとってはただむさ苦しく避けて通りたい場所であるのもまた事実だ。

 

そんな事を今しがた通って来た少女は思いながら待ち合わせ場所であるもう一つのスポット、ハチ公前にたどり着いた。キョロキョロと目を向け、ふと止めて手を振る先には着物を着た美少女が手を振り返しこちらに近寄って来る。

 

「真砂子!待たせちゃった?」

「私も今来た所ですわ。気になさらないで、」

「ありがとう。じゃあ行こっか。」

 

そう言って少女、美桜が手を真砂子に差し出し、真砂子はキョトンとして美桜を見上げた。

 

「人が多くてはぐれたらダメだから、手を繋ご?」

 

微笑む美桜に真砂子は戸惑いながらも手を差し出して繋いだ。幼い頃から霊能者としてテレビに引っ張りだこだった真砂子にとってこういう【友達らしい】行動は始めてであり、自分が相手に友達だと認識されている事が嬉しかった。

 

「まずはお昼済ましちゃおうか。」

「なら行きつけのお店が近くにありますの。」

「真砂子のオススメならきっと美味しいね!」

「和食はお好きかしら?」

「うん!」

 

たわいない話をしながら人の波の中を歩いて行く。春に美桜の学校で出会った二人は、事件が終わった後も直々連絡を取り合っていた。学校が違う為中々会えなかったのだが、何とか都合を合わせて遂に今日約束を取り付ける事が出来たのだ。

 

「ここですわ。」

「趣あるお店ね。真砂子らしい。」

「ふふっ」

 

中に入れば個室が並んでおり、芸能人御用達なのがわかる。店員に人数を告げ案内された部屋は座敷で、靴を脱いで上がった。その後は真砂子がオススメだと言うメニューをいくつか頼み、やっと一息吐いた。

 

「美桜とこうして仕事以外で会えて嬉しいですわ。」

「私も嬉しい。まぁ今はナルの事務所で働いてるし、また会えるよ。」

「そうですわね。谷山さんもなのでしょう?」

 

少し不満気な雰囲気を出す真砂子。美桜はそれに気づかず「うん」と言った。

 

「まぁ主に雑用なんだけどね。私は今資料整理をしてるの。でもその資料が英語だから私一人なのよね。」

「ナルは随分美桜を酷使してますのね。」

「使われてるだけマシよ。別に地味な作業は嫌いじゃないし。」

「美桜が生徒会役員に選ばれた理由、なんとなくわかりますわ。」

「そう?」

 

クスクスと口元に袖を持っていって笑う真砂子に美桜も微笑む。そうしている内に一品到着してご飯を食べ始めた。

 

 

 

_____

__________

 

 

 

「お腹いっぱい!本当に美味しかったあ。」

「よかったですわね。」

「じゃあ次は私のオススメに連れて行くね。」

「本当?それは楽しみですわ。」

 

お店を出てまた人通りの多い場所を歩く。何分か歩き続けた二人が入ったのはお茶とコーヒーの専門店であった。

 

「美桜は自分でよくお茶をいれますの?」

「うん。イギリスでは息抜きの度に紅茶を飲んでたの。でも実言うと、私紅茶よりコーヒー派なのよね。」

「そうですの?意外ですわ。」

「よく言われる。イギリス人の血が入ってるのにって。」

 

そう言いながら美桜は茶葉を見て行く。真砂子も緑茶の葉を買いたいらしく吟味していた。

 

「あら?でも何故紅茶を見てらっしゃるの?」

「ん?あぁこれは事務所の為。ナルは紅茶派だから、美味しいのを買って行こうと思って。」

「そうですの。」

「そうだ、ここって好きなお茶入れてもらえるんだけど、フィナンシェがすごく美味しいの。よかったら食べていかない?」

「まあ、ぜひとも食べてみたいですわ。」

 

二人で好きなお茶を選び席に座る。そして美桜はお茶を美味しそうに飲んでいる真砂子をカシャリ、と写真に収めた。

 

「ふふっ。真砂子は本当に大和撫子って言葉が似合うわね。」

「褒めても何も出ませんわよ?」

「あら、私そんな風に見えた?」

 

と笑いながら美桜は携帯のアルバムを見る。それを真砂子が覗いた。

 

「いっぱい撮ってらっしゃるのね。」

「うん。写真撮るの好きなんだ。」

「そうですの?」

「だって一番思い出を残しやすいでしょう?」

 

それに真砂子が目を見開く。純粋に嬉しかった。自分とのこの時間を思い出だと言ってくれた彼女の言葉に胸が暖かくなった。

 

「…ありがとう。」

「え?なんで?」

 

綺麗に微笑む真砂子に美桜は首を傾げる。そんな美桜を真砂子も携帯を取り出してかシャリ、とアルバムに収めた。

 

「あ、突然なんてずるい!」

「美桜だって撮ったでしょう?」

「真砂子は美人だからいいの!」

「美桜も十分美人ですわよ?」

 

そう言っても「そんな事ないっ!」と否定する彼女に、真砂子は思わず笑いが止まらなくなってしまった。

この目の前にいる彼女が美人でないなら、この世の殆どの女性は美人と言えなくなってしまうのに、と。

 

「美桜はもっと自覚して下さいませ。じゃないと変な男の方に付き纏われてしまいますわよ?」

「そっくりそのまま真砂子にお返しするわ。」

「私は自覚してますもの。」

 

微笑む真砂子にクスクスと笑う美桜。そしてふと携帯の時間を見て勢いよく立ち上がった。

 

「いけないっ!事務所に行く時間だわ!」

「そうですの?残念ですわ。」

「また遊ぼうね!」

「…はい。また遊びましょうね。」

 

そう言ってまた手を繋いで外に出た。【また】と言い合える友人がいる。それは真砂子の人を警戒する心をいとも簡単に溶かしてしまった。

それはまるで二人を優しく照らす夕日のようで、真砂子はそっと美桜の手を強く握り返した。


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