So Am I 作:伊織
明朝、私はいつもより早く家を出て学校へ向かった。そして校舎ではなく旧校舎の横に向かえば、バンのトランクの前にナルと入院していたリンがいた。
「リン!」
「…美桜!?」
リンが珍しく驚きを表情に表し私を見る。私がいること言ってなかったなナル。
「久しぶり。怪我大丈夫?」
「お久しぶりです。ですが何故桜がここに…?」
「…ナル。」
「言う時間がなかった。」
そんな彼に溜息を吐き、洗いざらいリンに説明する。最初は驚きを示したものの、話終わった頃には少し微笑んで頭を撫でてくれた。
「あ、あとナルにあのことは絶対言っちゃだめよ?」
「はい、わかってます。」
リンにだけ聞こえる声でそう念を押せば、リンはクスクスと笑って承諾した。なんだか信用ならないんですけど。
「あっ!美桜ーっ!」
そんな声が背後から聞こえ振り向けば麻衣が校門から走って来た。それに手を振り返す。
「おはよう麻衣。早いわね?」
「うんっ!昨日の結果が気になって気になって…」
と近づいて来るが段々その速度が遅くなる。そして青ざめた顔で見つめる先には麻衣を睨んでいるリン。ああ、なるほど。
「まーい?」
「…え?なに?」
「彼に言う事があるんじゃない?」
ニコニコと微笑んで顔を傾ける。すれば麻衣がザザッと後ろずさった後ゆっくりとリンを上目で見やり、
「…あのー…あの時はすみませんでした…」
と謝罪を述べた。すればリンは一瞥した後麻衣をほってナルの所へ向かった。麻衣は更に青ざめる。
「どうしよ…絶対怒ってるよ……」
「そんなに気にしなくても大丈夫だと思うわよ?」
「え?」
「彼は表情こそ読みにくいけど、あんな事でいつまでもネチネチ怒るほどケチな性格じゃないわ。…まぁ、麻衣は悪くないの。あんまり気にしないで、ね?」
そう言って頭を撫でればハテナを頭に浮かべながらも「うん…」と言った。それに微笑んで、ナルの方を見やる。
「他の方々は?」
「時期に来る。…麻衣は口が硬い方か?」
「言うなと言われたら絶対言わない。」
ナルは暫く考える素振りを見せ、「ここで待ってろ」とだけ言ってまた作業を続ける。もう授業をサボるのは決定事項らしかった。
______
____________
「ちょっと!なんであの子がいるのよ。」
「あー…ナルはね教室に戻れって言ったんだけど、校長室のあれがなんだったか教えるまでは…って。」
「まぁいいじゃないですか。彼女も一応関係者なんですし。」
霊能者一行が到着したので旧校舎に入った。そこで黒田さんも来て、一緒に着いて来てるのだ。
「んで?今日はなにを見せてくれるって?またハジかく前にやめといたほうがいんじゃねぇか?」
また大人らしくない事を言う、と滝川さんを横目で見る。しかしナルは気にする素振りも見せず「実験の証人になってほしいだけです」と言った。
「麻衣、ジョン。昨日サインした紙が破れてないか確認してくれ。」
「う、うん。」
目の前には完全に塞がれた実験室の扉に二人のサイン。見た所破った後などはない。二人も大丈夫だとナルに伝えた。そしてナルは画鋲抜きの大きい版で板を勢いよく剥がし始める。もしかしたら案外イライラ溜まってた?
「うわっなんじゃこりゃ!」
初めて見た滝川さん達は予想通り驚いている。私はそんなのを気にせずイスのあるだろう場所を見た。そこにはチョークで丸が書かれているだけで何もない。
「…渋谷さんイスが動いてまっせです。」
「そうだな。」
ナルが口角を上げる。これでこのポルターガイストの原因はわかった。あとはその犯人をどうするかだ。
「ちょっと何よそれ。」
「おいナルちゃん。」
皆訳がわからず混乱している。それもそのはず。密閉空間で椅子が動いたのだから。
「…ご協力ありがとうございました。僕は本日中に撤退します。」
ナルは、本当の犯人を言わないつもりだ。それは自分もかつてそういう事を経験してるからか…妥協なんてしない癖に変な所優しい。
「まさか事件は解決したとか言うんじゃないでしょうね!?」
「そのつもりですが。」
「地盤沈下?」
「そう。校長から依頼を受けた件については、地盤沈下で全て説明できたと考えている。」
その通り、【校長】が依頼して来た時は地盤沈下だけだった。ポルターガイストが起きたのは、【彼等が来た後】からなのだから。
「は!そんじゃ実験室やおとといの騒ぎはどう説明するよ?」
「あれはポルターガイストだ。」
「ほらみろ。お前さんは除霊できないんだろ?調査だけして帰るつもりだな。」
「除霊の必要はないと考えているんだが。ご覧になりますか?」
皆がカメラに注目する。ゴトッと音がしてイスが揺れ始めた。麻衣が私の腕にしがみつく。イスはどんどん揺れを激しくさせ、壁にぶつかって止まった。
「今の…」
「立派なポルターガイストじゃねぇか!除霊しないと…「その必要はありません」」
ナルはイスの所まで行き立てた。そうしながら説明を始める。
「昨日全員に暗示をかけた。夜このイスが動くと。その上でここにイスを置く。窓とドアには内側から鍵をかけた。更に板を張って封をした。すると人は通れないしムリに入れば絶対にわかる。」
「だよね。板が破れちゃうし、あたしとジョンが名前書いてるからとっかえらんないもん。」
「そうだ…」
ナルが言葉を止める。言うか迷っているのだろう
「いいんじゃないですか、渋谷さん。じゃないと皆納得しないと思いますよ?」
大丈夫、と視線を送ればナルはしばらく私を見つめた後説明を再開した。
「ーーポルターガイストの半分は人間が犯人である場合だ。」
「イタズラってこと?」
「…それポルターガイストじゃないじゃない。」
と突っ込めば「えへっ?」と笑った。
「一種の超能力だ。本人も無意識のうちにやってる事が多い。何かの原因でストレスが溜まった者が注目してほしい、構ってほしいという無意識の欲求でやる。そういう場合暗示をかけるとその通りの事が起こるんだ。」
「じゃあイスが動いたのは人間のせいだってのか?」
「恐らくは。少なくとも僕は今迄この方法で失敗したことはない。」
「…誰が…?」
と皆が考え、少しずつ視線が一つ…黒田さんの方へ向いた。
「…わ…たし…?そんな…わたしがやったっていうの!?」
黒田さんがヒステリックに声を張り上げる。
「他の誰より君がやったと考える方が自然なんだ。君には最初っからひっかかりを覚えていた。例えば君はここで戦争中の霊や看護婦の霊を見たと言った。
だが戦争中この辺りが空襲を受けたことや学校が病院として使用されたという話━━━ここに病院が建っていたという事実もなかった。」
ひしひしと伝わる彼女の否定したい気持ちが桜を襲う。桜は目を伏せて耐えた。彼女は、知る必要があるから。だから今は、何も口に出さない。
「そんなこと…」
「━━すると君の勘違い、もしくは故意の嘘ということになる。」
「う、ウソなんかじゃないわ!」
泣く黒田さんを麻衣が心配そうに見つめる。ナルはビデオを取り出しながら続けた。
「…最初はただの霊感ごっこだと思っていた。だからポルターガイストととしか考えられない現象が起こった時、正直困ったんだ。機材の測定でも原さんの判断でも霊はいないという結果だったのに、だ。」
そこでナルが私を見る。私は「?」と顔を傾げた。
「そこで美桜が、僕達がこの校舎に来るまでポルターガイストなんてなかった、と言ったんだ。ならば原因は人間。この旧校舎の存在を必要としている人という事になる。原因になる人間の大抵はローティーンの子ども…霊感の強い女性の場合もある。極端にストレスがたまった者が無意識でやるんだ」
ポルターガイストは起こしている人が一番体力を使う。それはポルターガイストを起こしているからではなく、ストレスが自分の超過量を越しているからだ。
「だから犯人である人物がポルターガイストの標的になる事が多い。ケガをすれば同情してもらえる、構ってもらえるという無意識のせいだ。普通家なら住人の中に犯人がいる。しかし、ここには住人はいない。ではこの中でポルターガイストによって注目を浴びた者は?
該当するのは黒田さんと…麻衣だけになる」
「あたしぃ!?なら美桜もでしょ!」
「ポルターガイストは美桜が来る前から起きていただろう。第一美桜が旧校舎に来ているのを知っているのは校長と僕らだけだ。」
あ、そっか、と言った麻衣の頭をコツンと叩いた。麻衣がごめんね!と抱きつく。
「君は中学の頃から霊感が強いので有名で、それで周囲の注目を浴びる存在だった。だが、もし旧校舎には霊などいず、全ては地盤沈下のせいだったとみんながわかってしまったら…?」
「権威の失墜…つまり信用をなくす、と。」
黒田さんは押し黙って下に俯いている。そこには自分でも自覚があったのだろう。
「このままでは自分の立場がなくなる。黒田さんは猛烈な不安に襲われる。彼女の無意識は大きなプレッシャーがかかり、無意識は考える。」
自分の地位を確立するために、霊が必要だと。いなくてはならないんだと。そのために何かが起こらなければならない、起こさないと、と。
「そして…無意識はそれを行う、か。なるへそ。」
「でもテスト前とか学校が壊れないかって真剣に思うけどできないよ?」
そんなんで叶ったら全国の学校がテストの前に壊れるでしょ、と美桜は苦笑した。
「麻衣ちゃんはそう思わないようにしっかり勉強しようね?」
「美桜は頭良いからそんな事言えるんだよっ!」
うわぁん!と滝川さんに抱きつく麻衣を彼がポンポンと撫でる。なんだか妬けるなぁ。
「…才能の問題だな。彼女は滞在的なサイキックだと思う。本人も意識していないが、恐らくある程度のPKを持ってる。」
「サイキックってのは超能力者でPKってのは念力ね。」
と一般人の麻衣の為に説明すれば、ふむふむと頷いた。
「黒田さんにとって旧校舎の悪霊は必要な存在だったんだ。周囲の注目を集め続けるため、彼女の為に。」
学生にとって学校とは自分の小さな小さな世界で。その世界が全てって言っても過言ではない。
彼女にとって霊感は自分の存在意義を確立させる為に絶対的に必要だった。だから求めた。
「…なんか、そういう心理わかっちゃうな。」
ポツリ、と麻衣がそう漏らす。黒田さんがパッと麻衣を見た。
「ほんとは、誰だって【特別】になりたいって思ってる…と思うんだ。」
スポーツが得意な人、勉強が得意な人、相談に乗るのがうまい人、皆を纏められる人。皆が皆、誰かを見て羨ましいという気持ちを抱く。それは時に尊敬を持って、時に嫉妬を持って。
なれないから、悔しい。自分に足りないと思ってしまうから自分が嫌いになってしまう。でも、本当は
「…みんなね、特別で、特別じゃないのよ。人はそれぞれ色を持ってる。キャンパスを持っているって言ってもいい。それで色んな人を尊敬して、憧れて、どんどん自分のキャンパスを染めていく。でも絶対に自分のキャンパスは他の誰かと一緒になったりはしないの。
目指すものは、自分の持っているものはそれぞれ違うから」
黒田さんに近づいてその手をぎゅっと握る。彼女を真っ直ぐ見つめて、諭すように、ゆっくりと続けた。
「焦らなくてもいいの。なれなくてもいいの。絶対に、この広い世界の何処かに黒田さんだけが持っているものに憧れる人がいるから。だから、拒絶しないで?自分の存在を、他人の存在を。
この世界は、私たちが思っている以上に大きく、そして私達の存在を包み込んでいるという事を、忘れないで。」
そう告げれば黒田さんが、小さな声でありがとう、とやっと解放されたように微笑んだ。
「じゃあ彼女のストレスが高まったのは地盤沈下説が出てからってことよね。じゃあアタシが閉じ込められたり彼女が襲われたり、あ、あとビデオが消えてたのは?」
そんなことがあったのか、と美桜が麻衣に尋ねれば、まだ美桜がいない時にね、と言った。
「…説明しようか?」
ナルが黒田さんに問う。彼女はコクリと頷いた。
「巫女さんの件についてはこれが敷居にささってた。それでドアが引っかかったんだろう。」
そうしてナルが出したのは、釘だった。あら随分古典的。てかドアの感触とかで気付こうよ巫女さん、と苦笑した。
「このことにははやく気づいていたんだがあえて言う必要はないと思っていた。」
「誰かがワザとやったってわけ!?誰が…あんたね!」
松崎さんが黒田さんにキツくあたる。
「…彼女、若いですね。」
「お嬢ちゃんの方が大人って感じはするな。」
若いっていいですねぇ、と言うと、婆ちゃんみたいだぞ、と滝川さんに笑われた。私はまだピチピチの高校生なのに。
「ちょっとしたイタズラのつもりだったんだろう。あの直前巫女さんにイヤミを言われてたようだし。」
「自業自得ですね。」
「だな。」
ふむふむ、と傍観者三人で頷けばキッと睨まれた。美人さんなのに勿体無い。
「じ、じゃあビデオの故障は?」
「あれは霊障じゃなく故意に消されたものだ。」
「それも彼女?」
「麻衣が実験室に着いた時黒田さんは既にいたそうだから多分そうだろう。」
またまた松崎さんが睨めば黒田さんの肩に麻衣がポンと手を置く。ナイスフォローだ。
「━━以上で納得できましたか?」
「一応ね。でもどうするの?校長の依頼は【工事できるようにしてくれ】よ?」
「…校長にはこう報告するつもりだ。旧校舎には戦争中に死んだ人々の霊が憑いていた。除霊をしたので工事してもかまわない。」
ナルが黒田さんに同意を求める中、黒田さんには少し申し訳ないが私からナルに提案をした。
「でもこのままだと地盤沈下を知らない工事現場員達が怪我をする恐れもあるし、次に建てる建物も不安が残るわ。だから調査のついで地盤沈下が起こる可能性の事も報告してもらえない?」
ごめんね、と黒田さんに謝れば、ブンブンと頭を横に振った。
「わかった。」
「━━で、誰が除霊した事になるの?」
それにはシーン…となる。確かに全員のモラルと生活に関わってくるもんね。
「全員が協力してやった、それで構わないでしょう?麻衣、美桜。この件は他言無用だぞ。」
「わかってるって。」
私も頷いて、「よかったね」と黒田さんに声を掛ければ、またポロポロと泣き出してしまった。
「…ふぅん。ナルって結構フェミニストなのね」
松崎さんがさっきとは違う声の質でそう言った。私はそれに疑問を持つ。
「え?なんでナルがフェミニズムを主張する人なの?」
「なに、あんた高校生なのにフェミニストも知らないの?」
と逆に驚かれてしまった。だからフェミニストは女性解放を唱える人でしょ?と言えば、ナルはそんな私に溜息を吐く。
「…巫女さんが言ったフェミニストは日本語の方だ、美桜。」
「あ、そっか!美桜は英語の意味でしか知らないんだね!フェミニストって簡単に言えば女の人を特別扱いするみたいな感じ。」
「…タラシ、みたいな?」
純粋に言えば滝川さんが吹き出した。ナルに関しては私を睨んでいる。
「まぁそんな感じだな。てか美桜ちゃんは外国育ち?」
「えと、中2まで4年間イギリスに住んでて。」
「美桜はおばあちゃんがイギリス人なんだって!」
まぁ所為私はクオーターなのだ。滝川さんは、「だから髪の毛と目の色が日本人離れしてるのかー」とぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる
そんな風に盛り上がってるのを他所に、松崎さんがナルに近づいた。
「ナルって彼女はいるの?」
「…質問の主旨をはかりかねますが。」
「あたしガマンしてあげてもいいわよ年下でも。」
その言葉に私はバッと二人を見てその後下に俯く。ああ、いたくないな、聞きたくない。
「…お言葉はありがたいのですが。」
その言葉にそっとナルの方を見る。その顔にはあのシニカルな笑み。
「残念です。僕は鏡を見慣れてるもので」
…つまり、鏡の自分の方がよっぽど惚れる顔だ、と人前で言いのけた。それに麻衣と滝川さんが盛大に吹き出す。私に関しては呆れ顔で彼を見た。こいつに心配するだけ無駄だったな。
「リン、撤収を始める」
それにピタリと爆笑を止めた。
「引き上げないんですか?」
「あ、そっか。なーんかたいした事件じゃなかったわねぇ。」
「…のワリにゃビビってなかったか?」
「冗談!やめてよね。」
私も手伝おうと教室を出ようとしたが、麻衣がぼーっとしてる事に気づき声を掛けた。
「麻衣?行くよ?」
「…えっ…あ、うん…」
麻衣の少し寂しそうの顔の理由を、私は聞くことができなかった。
_________
______________
麻衣side
「…麻衣は、授業に出なくてもいいのか?」
「んー?…うん、今日はもういいや。」
というかなんで美桜は手伝う事前提なんだ、と麻衣は眉を釣り上げた。前々から少し不思議に思っていたが、ナルと美桜は以前出会っているかのような雰囲気だった。
いや、まるでお互いをよく知っているかのように見えた。それにチクリ、と痛みを覚える。
美桜を、とられてしまいそうで嫌だな。
高校生から入って来て凄く緊張していた自分に最初に声を掛けてくれた美桜。自分と同じ一人暮らしで、優しくて、何でもできて。
なのにこの事件が起こった後からナルや真砂子にとられたように感じていた。
「もう少し利口になる努力をした方がいいんじゃないか?」
そんな事を考えていたからか、この言葉に余計ムカッとしてしまった。確かに自分の成績は決して褒められたものじゃないのは自覚しているが、わざわざ言わなくてもいいじゃないか。
「授業に出ないなら撤収を手伝ってくれ。」
自分の醜い感情がイヤで、撤収に力を入れた。美桜が誰を好きになろうが、仲良くしようがそれは美桜の自由なのだ。自分が口を出すようなことじゃない。わかってる。わかってるけど…寂しい。
「それで最後?」
「あぁ。もう授業に戻ってもいいぞ。」
そう言われた瞬間、更に焦燥感に襲われた。いやだ、まだここにいたい。
あれ?私、あれほどこの仕事嫌がってたじゃん。なんで今まだここにいたいなんて思ってるんだろう?
あぁ、そうか。とふと麻衣は納得した。
私、この仕事が。ナルが、真砂子がイヤだった訳じゃない。寧ろ逆だった。美桜が羨ましかったんだ。私より後に来たのに私よりメンバーとして役に立って、慕われて。羨ましかったんだ。
ずっとこれが続いて欲しいって思ってるんだ。
でもそれを言うのはなんだか恥ずかしかった。もういつまでも寂しいと泣いている幼稚園児じゃないんだから、と自分を叱責する。
「あ、見送りしようか!やっぱさ短い間とはいえボスだったし…」
「必要ない。それより授業に戻ったらどうだ?それ以上バカになったら手がつけられない。」
それにブチン、と麻衣の決して寛大とは言えない堪忍袋の緒が切れた。
「あーそーですか!わかりました!せいぜいオリコウになる努力をします!そんじゃさよならっ!」
と走って旧校舎を出て教室に戻る。そして自分の席に着いて、ふと何かが足りないことに気がついた。
「…あ、美桜おいて来ちゃった……」
バカだ、と麻衣の頭が机に沈んだ。
________
______________
「…素直じゃないんだから。」
そう言ってクスリ、と笑いながら今しがた麻衣が出て行った扉から美桜が入って来た。
「あの子、きっともう終わっちゃうから寂しいのよ。人一倍人懐っこいのに、人一倍甘えるのが苦手だから。」
「散々怖がっていただろう。」
「そんな事吹っ飛んじゃうくらい楽しかったってことよ。」
「…理解できないな。」
そう言ったナルに美桜は苦笑した。そして少し哀愁帯びた目でナルを見る。
「…あの子ね、孤児なの。」
その言葉にナルが目を見開いて美桜を見る美桜は立ち上がってナルの前に立った。
「だから、嬉しかったんだと思う。自分の必要とされる場所が出来て心地良かったんでしょうね。…わかるでしょう?ナル。」
そう言えば、考える様に顎に手を当てる。
「しかも私やナルは引き取ってくれる人がいたけど、麻衣にはいなかった。中学生の間は先生の家に下宿していたらしいけど、今は自活しているみたい。」
「…全然、そうは見えないな。」
「でしょう?私も聞いてびっくりしちゃった。まぁでもそこが麻衣の良い所なんだろうね。」
未だ何かを考えてるナルの名前を呼んでこっちを向かせる。無意識に、ギュッとナルの服の裾を掴んでいた。
「…私は、ジーンの代わりになれないけど、少しでもナルの理解者になりたい。ナルが私にしてくれたように、私もナルを助けたい。…無理しないでね。」
そうはっきりと告げれば、ナルがまた少し目を見開いて私を見て、ふいにぷいっと目を逸らす。
「お前が、ジーンの代わりになるのは無理だ。お前はジーンじゃない。」
「…うん。」
「美桜がそこまで気にする必要はない。僕は助手として博士としての美桜の能力は買っている。だから側に置くだけだ。代わりだなんて思ってるわけじゃない。」
だから、お前が気負うな。そう言って頭を撫でてくれたナルに美桜は泣きそうな笑みを見せた。温かいナルの不器用な優しさが懐かしくて、嬉しかった。
「うん。じゃあまた事務所に行く時に電話するね。」
「頼む。」
そう言って校舎を出て、ふと振り返った。これから始まる新たな生活に胸を馳せて、そっとその始まりの場所であるこの校舎を目に焼き付けた。