あんまり話が進まない上に短くてすみません。
追記 11/26
こちらは前回投稿した内容の文末に4,000字ほどの加筆を行ったものです。
紛らわしくて申し訳ありません。
“敗北者”じゃけェ……!!
――螺旋の暴風が祝の右半身を削り飛ばす。
――鈍色の曲刃が王馬の右脇腹に突き立てられる。
――瞬く間に祝の総身が血霧となって消え失せる。
――刃から伝う衝撃が体内で暴れ狂い、傷口を含む王馬のあらゆる穴から鮮血が噴出する。
――そして祝がこの世に存在した痕跡すら残さず、《月輪割り断つ天龍の大爪》はその全てを破壊し尽くした。
――全ての臓器が血と肉の破片を混ぜた柔らかい何かに変じ、王馬の肉体は人体としての機能を完全に停止させた。
相討ち――それが二人の修羅の行き着いた結末だった。
(……ふ、…………はは……)
ぐらりと王馬の身体が傾ぐ。
右手から滑り落ちた《龍爪》が、地面に届く前にただの魔力へと解けて消える。
このまま地面に身を横たえた時こそ、自分が生者から死体になる時なのだろうと王馬はぼんやり思う。
それでも、だ。
(……充実した、
自分は間もなく死す。
しかしそのことに悔いなどなかった。
たとえ余人に狂気の沙汰と呆れられようとも、この最期を迎えられたことに一片の悔いすら抱きようがない。
(嗚呼……やはり闘いはいい……)
重力に引かれ、背中が地面へと吸い込まれていく。
その僅かな時間。
王馬の胸には嘗てない爽快感と充足感が満ちていた。粉々となったためもう残ってすらいないが、声を出すのに必要な器官が無事だったのならば歌でも歌いたいほどには良い気分だ。
限界を極め、踏破し、仇敵と相見える。
それがこれほどまでの充足感を与えてくれるとは。初めて手にした勝利の記憶を塗り潰して尚余りあるその多幸感は、言葉で語るにはあまりに大きすぎた。
《暴君》に打ち克つ前にこうして力尽きてしまったことだけが残念だったが……
(だが、まぁ……最後の闘争としては悪くない……)
そう不承不承ながらも認めざるを得ないほどに、祝との闘いは素晴らしいものだった。
敵は強かった。恐らくは己よりも。
しかし己はそれを追いつくほどに闘いの中で強くなった。
その代償として命を落としたことを惜しむことはあれど、その結果に後悔の念は一切ない。
故に王馬はその鉄面皮を僅かに綻ばせ、雲の散った蒼天をその瞳に映しながら意識を闇に沈めたのだった。
◆ ◆ ◆
「ぐ…………ぅ……」
深く、暗く、沼のような粘性が意識に絡みつく。
そのから引き摺り上げられるような感覚と共に王馬はゆっくりとその瞼を押し上げた。
視界に入ったのは見知らぬ……いや、よく観察してみればそこそこに見知った天井だった。ただこれまでここまでまじまじと観察したことがなかったために一瞬だけ理解が追い付かなかった。
「ここは……暁学園か……」
腕を支えに上体を起こせば、そこは暁学園で生活するに当たり、王馬たちが学園側から支給されている医務室であった。とはいっても、王馬がこれまでこの部屋を利用したことは一度としてなかったが。これまで他の暁学園の生徒たちの力を以ってしても、王馬に傷一つすら入れられなかったのだから。
時刻は夜だろうか。電気の点いていない部屋は薄暗く、月明かりだけが光源だった。
そんな見慣れぬ部屋へグルリと視線を巡らせながら、同時に王馬の脳裏を一つの疑問が過る。
――俺はなぜ生きている?
王馬の最後の記憶は、不倶戴天の敵である祝と刺し違えたその瞬間で途切れている。
あの瞬間、確かに王馬は《月輪割り断つ天龍の大爪》で祝の全身を消し飛ばし、同時に自分も彼女の奇怪な技によって肉体を内側から破壊され尽くしたはず。あの時、確かに王馬は激痛と同時に、ヘドロのように魂へと何かがこびり付き、その重さによって地の底へと誘われるような感覚を味わったのだ。
あれこそが“死”の感覚であることは疑いようがない。
つまり王馬はあの瞬間、確かに死んだはずなのだ。
だというのに、自分はこうして呼吸をし、心臓を鼓動させ、魂を現し世に留まらせ続けている。これは一体……
「どういうことだ……?」
「それは《血塗れのダ・ヴィンチ》の功績ですよ」
部屋の暗がりから響く
そしてひょっこりと顔を出したのは、道化師姿の平賀であった。登場と同時に「あっ、電気点けますね」と勝手に点灯させた明かりに眉を顰める。
「いや~、ご無事そうで何より……いえいえ、そういえば一回死んでいましたよねぇ、アナタ。《血塗れのダ・ヴィンチ》の能力による蘇生が間に合わなければ、王馬くんも三途の川の向こう側の住人でしたよ」
「……そういうことか」
「ハッハッハ」と愉快そうに笑う平賀を他所に、王馬は大まかに状況を察していた。
サラは能力によって他の伐刀者の魔術を模倣できる。これは暁学園内でしか知らされていない極秘事項の一つであるが、王馬にも共有されている情報であるだけに驚きはしない。恐らくは彼女がストックする数ある能力を用い、王馬を地獄のそこから引き摺り出したのだろう。
ただ、一つだけ王馬の胸の内に浮かぶ感情があるとすれば、……それは燻るような怒りの感情だった。
「余計なことを……ッ」
祝との生死をかけた果たし合い。
あれの決着は相打ちであり、両者が共に死すことで全てが終わった闘争だったのだ。
しかしその結末は彼らによって覆され、王馬だけがおめおめと生き残ってしまった。闘争の末に命を拾ったのではなく、外野の茶々によって王馬は死に損なってしまった。これほどまでに屈辱的な幕引きなど、王馬にとっては当然赦されることではない。
だが、それはあくまで武人として生きる王馬一個人の意見に過ぎない。
「いやいやいやいや余計も何も、勝手に死なれるのはこちらとしても困るものでして。貴方の役目はあくまで七星剣武祭。裏切り者の《黒の凶手》ならばともかく、前夜祭で生徒に欠員が出るのは困りますからねぇ」
「チィッ……!」
盛大に舌打ちをするが、言っていることは理に適っている。
王馬としては暁学園の思惑を利用している形ではあるが、あくまでも組織の一員。挑発的な物言いをしてはいても、一体どちらに理があるのかと聞かれればそれが平賀にあるということは子供でもわかることだ。
「まぁ、何はともあれ、無事に目が覚めてくれてボクとしては一安心ですよ。あっ、一応今の状況を説明しておきますね?」
「……勝手にしろ」
「では僭越ながら、ワタクシ平賀玲泉がご説明させていただきましょう。現在は《前夜祭》より28時間が経過しています。戦果としてはほぼ成功と言えるでしょうねぇ。破軍学園の代表選手は軒並みこちらの戦力が圧倒。無事だったのは暁学園に突入してきた王馬くんの妹さんくらいのものです。ああッ、実は面白い報告がありましてね! その妹さんがヴァレンシュタイン先生を――」
饒舌に状況報告をする平賀の声に耳を貸しながらも、王馬の心はここにはなかった。
ベッドの上に再び身を横たえ、王馬は半ば呆然とした面持ちで天井を見やる。
先程は怒りによって身が打ち震える思いを味わったが、しかし冷静さを取り戻してみればどうにも実感がわかなかった。
……本当に、俺たちの闘争は終わってしまったのか?
ただただ現実味がなかった。
胸元の傷に手を添えれば、まだあの時の闘争の残り火のような感情が燻っている。あれは断じて夢などではなく、紛れもない現実だったことは間違いがない。
だというのに、あれほどまでに充実した時間がもう終わってしまったのだと、そして思いもよらぬ横やりによって死に損ねてしまい、自分が今ここにいるのだということが王馬にはイマイチ信じられなかった。
「いやぁ、傑作でしたよ! まさか《隻腕の剣聖》とまで呼ばれた《解放軍》の猛者がBランクの小娘に為す術もなく……ヒャッハハハハハハッッ!」
腹を抱えながら耳障りな哄笑を撒き散らす平賀に、王馬は不快気な視線を向ける。
それに気付いてか、平賀はすぐに「おっと失礼」とその笑い声を引っ込めた。
「しかし意外といえば、
俄に、本当に僅かながら、平賀の言葉の端に悪意がこもったことを王馬は敏感に察知した。
故に「また下らないことでも言い出すのか」と平賀を一瞥し……
「まさか貴方ともあろうものが――紙一重とはいえ疼木祝に
「…………何?」
その言葉に、王馬は文字通り呼吸を止められた。
敗北?
敗北と言ったのか、この男は。一体、誰が誰に?
「貴様、今、何と言った?」
「おやおやぁ? ひょっとして気に障っちゃいましたかね? いえねぇ? ボクもこういう言い方は心苦しいのですが、現実として命を落としたのは王馬くん
含み笑いを漏らす平賀に、しかし王馬は気に障るなどという以前に呆然と彼を見返すことしかできなかった。
その内容が荒唐無稽過ぎて理解できなかったのだ。
「……貴様、俺を謀っているのか?」
「はい? それはどういう意味です?」
「どうもこうもない。お前の言い方では、まるで《告死の兇刃》が生きているかのようだぞ。
「……ッ、これは」
空間が歪んだ――そう平賀が錯覚するほどの殺気。その手に《龍爪》を顕現させ、微風すらその身に纏いながら王馬はベッドから降り立った。
平賀の――正確には平賀を操る傀儡使い――も海千山千の伐刀者だ。殺気を向けられたことは数知れず、何ならそのまま殺されかけたことだって数え切れない。しかしその中でも上位に食い込むほど、今の王馬の殺気は“特別”だった。
そう、
これはまるで……
「……まさか、《前夜祭》で
小さく、それも仮面からも漏れ出ぬほど小さく平賀は呟く。
その事実に驚きながらも、平賀はすぐに「ククッ」と笑みを漏らす程度には心に平静を取り戻していた。
いや、それどころか今の彼の機嫌は最高と言っても過言ではない。何せ彼の操り主にとってはとても喜ばしいことなのだから。
これでまた、世界に新たな火種が生まれた。
「いえいえ、謀るだなんてとんでもないですよ! ボクは真実しか口にしていないのですから!」
だからこそ平賀は今まで言葉の端に滲ませていた悪意を取り払い、今だけは王馬のご機嫌取りに終止することを決めていた。
本当ならばあれだけ大口を叩いて《告死の兇刃》を仕留めると息巻いていた王馬をコケにしてやるくらいは考えていたのだが、自分をここまで楽しませてくれた褒美のようなものだ。
「真実だと? 戯けたことを」
「別にボクは戯けたつもりはないんですけどねぇ。何せ情報源は新聞とニュースの報道ですから」
「……なん、だと…………」
瞠目する王馬に、平賀は嫌がらせ目的で持ってきていた新聞の夕刊を王馬へと放る。
それを宙空で掴み取った王馬は、血走った目で記事へと目を通し始めた。
そして記事を読み進めること数十秒、絞り出すような声で「馬鹿な……」と王馬は言葉を漏らした。それはあまりにも信じがたい内容だったのだ。
生存。
重傷だが命に別状はない。
《七星剣部祭》には出場可能。
そんな文字が紙面には踊っている。
どれも王馬にとっては悪夢でも見ているかのような内容だった。
「王馬くんの口ぶりから察するに、君は今際の際で《告死の兇刃》を仕留めきったと確信していたのですか? しかしどうやら向こうも大概しぶといようで。この通り、死に損なったみたいで――」
「違う」
「はい?」
なるべく王馬の神経を逆撫でしないよう言葉を選んでいた平賀だったが、その言葉は王馬に否定される。
しかし怒りを誘発したのではないようだった。
なぜなら王馬は新聞に皺ができるほど握り締めながらも、その鋭い眼光はすでに彼へと向けていなかったためだ。
「あの瞬間……俺は確かに、間違いなくあの女を鏖殺した。肉片も残さず血霧へと変えた」
王馬の言葉には確信が宿っていた。
当然だ。あれが幻覚などであるはずがない。
目が、耳が――王馬の五感全てと超直感的な感覚がそれを主張し続けている。あれで死なない人間が……いないと言い切れないのが伐刀者の妙だろうが、しかし祝の能力では天地がひっくり返っても死を逃れることなどできはしない。
「だというのに……奴が……生きているはずがない……」
そう、そのはずなのだ。
どう考えても祝があの状況で生き残るのは不可能。
ならばこの記事は何だ。
事態を収めるために破軍学園か連盟辺りがこのような偽りを発表した? 馬鹿な、時間稼ぎにもならない。こんな姑息な真似をする意味がないだろう。
ならば自分と同じように、他者の能力によって運良く蘇生された? いいや、《世界時計》以外にそんなことができる伐刀者は破軍にはいないはず。そして彼女の能力的にも、祝を生き返らせるほどの時間的な余裕があったとは思えない。
(ならば……本当に奴は生きて……?)
「平賀、この記事の確度はどの程度だ? 本当にこの内容は正しいと、《解放軍》の名に誓って保証できるか?」
「えぇ~? 流石にそこまでは無理ですけど。でも
「…………そう、か」
それだけ呟くと王馬は力が抜けたかのように壁へと背を預け、ズルズルと床へ座り込む。
そのまま黙り込んでしまった王馬に平賀は「もしも~し?」と二言三言話しかけるも、最早彼は何の反応も示すことはなかった。
一応、学園から任されている王馬への報告も終わっていることから、平賀としてもそれ以上話すことはない。故に平賀は、王馬にこれ以上語りかけることが無意味と悟ると早々に医務室を退出していった。
それを気配で感じ取りながらも、王馬の意識は今や別のことに集中している。
そう、全ては“どうやって祝が生き残ったのか”だ。
そして王馬の脳裏には、既に認めるわけにはいかず、しかしある程度の確信を持たざるを得ない可能性があった。
だが、それを認めることだけは王馬には断じてできない。
なぜならばその可能性は、王馬が信じるあの闘争の結末すらも否定することになりかねないのだから。あの充実が、あの滾りが、あの高揚が全て無意味で無価値な、それこそ唾棄すべき存在に貶められてしまう。
そんな可能性など、絶対に認めるわけにはいかない。
祝がまだ力を隠し持っていて、自分との闘いに手を抜いていた可能性など。
◆ ◆ ◆
駅員さんにお金を借りて(なぜか幽霊でも見るような目だったが)電車で破軍学園に戻った私を出迎えたのは、エヴァでお馴染みの司令官のポーズでこちらを睨みつける黒乃先生だった。
……まぁ、そりゃそうですよね。
先生の立場からすれば、「学園が襲撃されました」ってとんぼ返りしたら生徒の大半は重軽傷、しかも私に至っては行方知れずだ。これで心配するなと言う方が無理があるだろう。
それがまさか無傷で二、三個市を飛び越えた辺りまで吹っ飛ばされていたなど予想できるはずもない。
「……え~と」
さてさてさて、どうしましょうかこの状況。
まずは何から話したものか。
そうして私が苦慮していると、先生が「はぁ」と大きな溜息を吐きながら口を開いた。
「……まず、無事に戻ってきたことだけは評価しよう。だが、私としてはお前に聞きたいことがいくつかある」
「アッハイ」
ですよね~。
そりゃ、「ただいま」と「おかえり」で済ますのは無理があるよね~。
きっと先生も残った生徒とかから事情を聞いているはずだ。つまり私が王馬くんと闘っていたことは知っているのだろう。あるいは先生の時間操作の能力である程度の状況を把握できるのかもしれない。
私は一応《七星剣王》として学生騎士最強の称号を持ってはいるけど、それでも王馬くんを相手に無傷で帰還というのは無理がある設定だろう。
…………最悪、私が《月輪割り断つ天龍の大爪》に削り飛ばされた光景まで把握されていれば最悪だ。
その時は――この人を殺してでも“私の能力”を隠し通す必要が出てくるのだから。
見たところ、黒乃先生は連日の事件への対処や校舎の復旧作業で疲弊している。――
しかし私の思惑を知ってか知らずか、次の瞬間には先生が動いていた。
ゆっくりと私に向かって手を突き出し、私へ待ったをかけたのだ。
「お前の考えていることは大体わかる。お前は常人とはかけ離れた思考回路を持ってこそいるが、しかしある程度理解してしまえば考えを読むのは容易い。……お前のことだ、私の口を封じる算段を立てていたのだろう?」
刹那、脊髄反射の領域で私の身体は動き始めていた。
0.1秒と間を置かず《三日月》を顕現。魔力放出によって爆発的な加速を得た私は、先生が言葉を終えたその瞬間には執務机へと足をかけその首筋へと黒刃を突き立てていた。
「――《
忽然。
そう言い様がないほど唐突に黒乃先生の姿が掻き消える。
そして次の瞬間、《三日月》を空振らせた私の後頭部に白銀の拳銃型霊装《エンノイア》が突きつけられていた。
「……へぇ。そういえば使われる側になるのは初めてですね、これ」
「そうだ。自身の固有時間を加速させる魔術《時間加速》、大会中は審判として何度となくお前に見せたものだ。だが侮るなよ? 貴様の《既危感》は所詮未来の経験をカンニングしているに過ぎない。……ならば
「なるほど。……それで? まさかですけど、
「……なってもらわなければ困る」
それだけ告げると、黒乃先生は徐に銃を下ろす。
てっきりこのままズドンと来ると思っていただけに、私としては拍子抜けだ。
「あれ? てっきりこのまま撃ってくると思っていたのに」
「この程度で生徒を撃つか、馬鹿者。言っただろう、お前の思考を見切ることくらい私にもできる。いきなり殺しにかかってくるだろうことくらい予想できた」
「むしろ大人しく話を聞くものかと思っていたよ」と呟き、先生は再び椅子へと腰を下ろした。
バレテーラ。
先生に促され、私も机から降ろされる。
「だからこそ、大人しくさせるために二、三発は撃ち込んでおくべきだったのでは? 自分で言うのも何ですけど、今でも隙あらば先生のこと殺そうと思っていますし」
「ふん、らしくない挑発だな。
「…………」
この人、本当にどこまで知っているんだろうね。
マジで洒落にならないぞ。
隙を見せたら絶対に殺さないと。たとえ百倍速だろうと逃しはしない。
「そう睨むな。しかしこのままでは埒が明かんな。……わかった、先に私が持っている情報と、今の状況を教えよう。話はそれからだ」
そうして先生が語ったのは、思いの外大事になっている破軍学園の状況だった。
原作の通り、既に月影総理は暁学園の存在と自分がそのバックにいること公表したらしい。その一方、破軍学園を彼らが強襲したことについては報道関係で一斉に取り上げられたものの、警察や司法はこれに我関せずと不干渉を貫いたらしい。つまり政府が暁学園の後ろ盾だということが世間に明るみとなり、同時にこれが日本国家から連盟に対して突きつけられた果たし状にして開戦の狼煙であることを国民は理解させられたのだった。
……う〜ん、随分と豪いことになっているなぁ。
原作はキャラ関係と大まかな時系列は覚えているんだけど、ここまで細かい内容までは覚えていないんだよねぇ。これが原作通りなのか私には判断できない。
そうそう。それで私についてだが、現段階では『暁学園の襲撃によって行方不明』というところまで情報が回ってしまっているらしい。
その情報を回したのは何を隠そう黒乃先生で、内心で「死んでいるだろうな」と思いながらも捜索中と言ってマスコミを黙らせたのだとか。
「ちなみにですけど、私が死んだと思った根拠は何ですか?」
「私の能力ならばごく短期間だが過去視を行うこともできる。そこでお前が黒鉄王馬の《月輪割り断つ天龍の大爪》に全身を消し飛ばされる瞬間を
「なるほど」
いかんですよ。
この人マジで過去視なんてできるのか。時間操作マジパネェ。つまり逆説的に、この人私みたいに未来視とかもできちゃうんじゃないの? 万能すぎない? ここまで便利な時間操作能力者とか、漫画でもドラえもんくらいしか見たことないよ。
いや、そんなことよりもだ。
つまりこの人は、私があの闘いで確かに
流石に《
「これが私の知り得る情報だ。……さぁ、次はお前の番だぞ疼木」
「む……」
……………………ダメだな。
やっぱり上手く誤魔化す方法は、ない
ここまで状況証拠を揃えられたら流石に言い逃れできない。
ということは、だ。
残念だけど、やっぱりこの人には死んでもらうしか――
「だから落ち着けと言っているだろうが」
呆れたように先生が溜息を再び。
そんなことを言われても、私としてはもう語ることなどないのが現状なのだが……
「もういい。お前の反応から、何を聞こうともこの先は殺し合いにしか発展しないことが充分にわかった。だからこれ以上は何も聞かん。というか、聞かなくても大凡の察しはつく。その理由もな」
「えっ?」
聞かない?
今、聞かないって言ったの、この人?
「悪いが一服するぞ」と煙草に火を点けた先生は、フィルムが一気に半分ほど焼け落ちるまで煙を吸い込み、天井へ向けて紫煙を吐き出した。
「ここからはあくまで私の想像が多分に含まれた独り言だが……お前のことだ。どうせ『強すぎる能力があっては大鎌が相対的に地味になる』とか、そういうことを考えていたんだろう。そう考えれば得心が行く。因果干渉系の能力者の中でも生命蘇生の域にまで達している者は極稀だ。疼木祝=蘇生能力者となっては、お前の目標である大鎌の啓蒙に支障が出かねん」
「…………」
「別に答える必要はない。マスコミの方にも『重傷だったが再生槽のおかげで大会の参加に支障はない』という内容で報せる。……ただ、これだけは聞かせろ」
天井を向いていた先生の視線が私に戻る。
真剣味を帯びているその目にとうとう何か聞かれると感じた私は、反射的に魔力を練り上げるが……
「その能力に副作用の類はないか? 強すぎる能力は往々にしてリスクや制限が付き物だ。七星剣舞祭を前にそういったことは見逃せん。これだけは隠し立てせず正直に申告しろ。今すぐにだ」
そう語る先生の目は真剣そのもので、疲労の色に塗れながらもその奥には僅かな偽りすらも見逃さんとする鋭さがあった。
「…………先生が何を仰っているのかわかりませんけど、体調は健康そのものですよ。むしろ絶好調です」
「……そうか、ならばいい。もう帰っていいぞ。寮の方はもう復元が終わっているからな。……あぁ、そうそう。寧音の方には私が上手く言っておく。今のお前とあいつでは売り言葉に買い言葉で殺し合いに発展しかねん」
それだけ言うと、先生は椅子を回転させて私に背を向けた。どうやらこれ以上の問答は必要ないと判断したらしい。
だが、私としては一つ聞くことができたのでこのまま「バイナラ」というわけにはいかない。
「なぜです? 貴女にとっては私はただの一生徒でしょう? しかも少々ではありますが騒動も起こしましたし、自分が問題児の端くれであると自覚しています」
「少々ではないがな。しかも端くれでもないがな。お前が
「真面目な話なのでツッコミやめてください。……だというのに、そんな私にどうしてそこまで気を遣ってくださるのですか?」
「聞くまでもないだろう、それが教師というものだ。生徒が間違ったことは糺す。だがそれ以外の、夢や目標があるのならば背を押し、道を示すのが教師の仕事だ。去年のお前の蛮行はともかく、今のお前はまだ何も間違った真似はしていない。そうだろう?」
それだけ言うと先生は黙したまま次の一服を始めてしまったので、一礼だけして私は理事長室を後にした。
……借り、作ってしまったなぁ。あの人に。
これはしばらく頭が上がらなさそう。
書きたいシーンはいくつかあるので、後はそこを繋ぎ合わせていく作業に終止していく予定です。
あと、次回か次々回に《七星剣舞祭》のトーナメント表を載せたいと思います。たぶんわかりにくいと思うので、自分の整理も兼ねて。