今回も少し短めです。
闘争とは人間が持つ最も原始的な欲求の一つが発露したものである。
他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
そうして人はお互いに憎み、争い、時には命さえ奪い合ってきた。故に闘争が野蛮であることは誰にも否定することはできないだろう。
では、闘争とは“悪”なのか。
それは否である。
闘争の根源である感情たちは、しかし人類の発展に貢献してきた重要なファクターであることもまた疑いようがないことだからである。
血を流すことで、悪感情を増幅させることで人は成長してきた。他者より先へと進まんがために、歯を食い縛って進化を続けてきたのだ。
だからこそ人は闘争を求め、日々血を流さなくとも誰かと争い、競い、闘い続けている。
そして人は闘争を求めるからこそ、そこから野蛮さを取り除いた『
“強さ”で競い、“ルール”で縛る。
人間の根源的な欲求と、それを戒める強靭な理性を統合した――七星剣舞祭とは、そんな人々の欲望と願いが結集された舞台。
集いしは北の空に燦然と輝く七星の名を与えられた七つの学園――北海道『禄存学園』、東北地方『巨門学園』、北関東『貪狼学園』、南関東『破軍学園』、近畿中部地方『武曲学園』、中国四国地方『廉貞学園』、九州沖縄地方『分曲学園』、そして新たにその七星へと挑戦状を叩きつけた国立『暁学園』の八校。
参加選手は三十二人。
今日から五日間をかけ、彼らはその頂に立つべく激闘を繰り広げることとなる。
ある者は圧倒的な強さを以って敵を捩じ伏せるだろう。
ある者は計略の糸を以って敵を絡め取るだろう。
またある者は極めし技巧を以って敵を斬り伏せるだろう。
その果てに誰が生き残るのか。
それはまだ誰にもわからない。
わからないが……ただ一つ確かなことは、五日後にはその頂点の名が歴史に刻まれるということである。
そして恐らく日本で最も多くの人々に注目される中、開会式は無事に終了し――第六十二回七星剣舞祭はその幕を上げた。
◆ ◆ ◆
「おー、やってますねー」
観客席の一角から眼下を見下ろせば、既にBブロックの第一試合――総試合数で言うと五組目の試合が開始されている。
試合の順番は無難にAブロック――トーナメント表の左上から左下、右上、右下の順に試合が行われていく感じだ。つまりBブロックは武曲の城ヶ崎さんのものから始まることとなり、大会進行的にはステラさんの一戦目は既に終了していることになっているのだが……
「来ていないんだなぁ、これが」
そう、実は原作と同じように、ステラさんはまだ試合会場入りをしていないのだ。
どうやら試合会場に向かう途中の鉄道が遅れているらしく、彼女はまだ現地に到着していない。
よって彼女は不戦敗により失格……とはならないのが七星剣舞祭で。大会運営側はかなり柔軟な性質を持っているらしく、彼女の試合を後回しにすることで大会の進行を図ることにしたのだ。
よってステラさんの試合は彼女が到着し次第行われることとなっており、そのまま大会はBブロックに突入。現在は城ヶ崎さんの試合が始まっている。
それで今の話に出た城ヶ崎さんの試合の方なのだが……
あの眼鏡くん、試合だと無類の強さを誇るんだよなぁ。
城ヶ崎さんの戦法は《
加えて彼は黒鉄を超えるほどの観察眼を持ち合わせており、試合前にはどう試合が転ぶのかを完全に予測してきてしまうため逃げ場がない。要は未来予知に匹敵する未来予測で敵を追い詰めてしまうため、それ故に彼は《天眼》の二つ名で呼ばれている。
まぁ、去年はゆーくんとぶつかったせいで、その一撃すら入れられず敗退していたけど。同じ予知系の技能を持っているからわかるけど、予知できても回避するすべがない未来が出てしまうのは予知能力者あるあるなのだ。
「……あら? 奇遇じゃない」
そうして試合をぽけーっと眺めていると、不意に背中から声をかけられた。
振り返ってみれば、そこにいたのは白衣を着込んだ女性だった。というか廉貞の薬師さんだ。その後ろにはアリスさんと珠雫さんもいる。
あぁ、そういえば原作でもこの人たちは三人で黒鉄の試合を読者に解説していたなぁ……。
「お久しぶりです、薬師さん。パーティで少し見かけて以来ですか」
「そうね。あの時は諸星くんとお取り込み中だったから話せなかったけど、今ならちょうどいいかも。これから彼女たちと黒鉄くんの試合を見物するんだけど、一緒にどうかしら?」
「構いませんよ。私の試合は後半の中頃ですし、それまでは暇ですから」
「それは重畳。……ついでに言っておくけど、貴女が妙なことをしようとしたら全身の関節を逆向きに圧し折るとだけ警告しておくわ」
「い、いきなりご挨拶ですねぇ……」
「当然でしょ。貴女が何をしだすかわからないのはこの数年で身に沁みたわ。貴女が除名処分になりかけているなんて聞いた時には、『遂に来たか』と思ったものだけど」
「失礼なっ! あの件は私も騙されていたんですよ、まさか除名相当の案件だとわかっていなければあんな仕事受けませんでしたって」
「どうだか。貴女は大鎌のためなら平気で
この人、まだ何年も前のことを根に持っているのか。
いいじゃん、もう過ぎたことなんだし。
それに道場破りをした際に向こうの人間を一人残らず手足をぶった斬って病院送りにしたのだって、最後に最終奥義『全員で始末しろ』をしてきたあっちが悪いんだし。
というか会話の内容にアリスさんと珠雫さんが引いているんだけど。こんなバイオレンスドクターに付いてきてしまったことを後悔しているのだろう、可哀想に。
まぁ、何はともあれ私の試合はDブロック第一試合。つまり後半の後半だ。それまでだいぶ時間があるので、ご一緒することは吝かではない。
ちなみになぜ私がこうも律儀に試合を見に来ているのかというと、それはトーナメント表が原作からはだいぶ変化してしまっているからに他ならない。
例えば黒鉄の試合なんかが顕著だ。
原作において黒鉄の第一試合の相手はゆーくんであり、断じて貪狼の倉敷さんなどではなかった。しかもゆーくん戦で黒鉄は剣術の新たな境地に達することとなり今後の戦闘力が爆発的に向上することとなるのだが……
果たして倉敷さんとの試合でそれがどうなるのかは私にもわからない。
案外黒鉄が倉敷さんに負けて初戦敗退という結果になる可能性もゼロではないわけだし、他にも何だかんだの変化があるかもしれないので今日は監視に努めようという所存なのである。
とりあえずトーナメント表で今日気になっている試合はそれくらいかな?
ステラさんは原作と変わらない感じの試合になっているし、他もそこまで違和感のある試合の流れではない。
唯一原作と乖離が酷いのは私とゆーくんの試合だが……まぁ、そちらは私には勝つ以外に選択肢がないので除外とする。
……って、あっ!
そうこうしている間に城ヶ崎さんの《強制転移》が炸裂した!
もうこれで試合は終了だ。相手選手がカウント内に戻ってくる可能性はない。たぶんドームの外にまで相手選手は跳ばされているのだろう。南無三。
「あら、これでもう試合は終了ね。黒鉄くんの試合が始まる前に席を確保できて良かったわ。……まぁ、私とこの子の試合もこの後すぐだから、最悪立ち見でも構わなかったのだけれど」
「ああ、そういえば二人の試合もBブロックでしたね。良かったんですか、控室にいなくても? 別に間に合いさえすれば大会の方も文句はないでしょうけど」
「私も珠雫さんも、彼の様子で少し気になることがあってね。映像越しではわからないことも多いから」
それだけ言うと薬師さんは「失礼」と断って私の隣に座り、その隣に珠雫さん、アリスさんの順で座る。
アリスさんは親しげな笑みを浮かべてこちらにヒラヒラと手を振ってくれて、珠雫さんは軽く目礼して席に着いた。こういう辺り、アリスさんのコミュ力というものを感じさせられる。
何にせよ、しばらくはこのメンバーで試合を鑑賞することになりそうだ。
「そういえば、薬師さんはお二人と知り合いだったんですね。初めて知りました」
「えぇ、まぁね。昨日、外食した時に黒鉄くんたちと偶然会って」
「へぇ~」
これも歴史の修正力というやつなのかね。
原作ではゆーくんのお店で黒鉄たちと薬師さんは知り合うはずだったのだが、実際昨日は薬師さんは疎か黒鉄たちすら店には来ていない。よって彼女たちが知り合うこともないだろうと思っていたのだが……
ちなみに、この世界ではゆーくんの脚がミンチになっていないことから薬師さんとゆーくんは特に知り合いでも何でもない。これも私が引き起こした原作ブレイクの一つだ。
「次は一輝と貪狼の《
するとアリスさんがこちらに話題を投げかけてきた。
あれ、そういえばこの二人は倉敷さんと会ったことがないんだっけ?
原作初期の方だからちょっと内容が曖昧なんだけど……そういえば彼と会っていた主要メンバーは黒鉄とステラさんくらいだった気がする。
「はい、存じていますよ。《剣士殺し》とか名乗っているのに剣を使う不届きな野郎がいると聞きまして。去年、何度か貪狼学園に殴り込みをかけた時にぶちのめしてやろうと思って情報を漁っていましたから。運の悪いことに彼は学校をサボっていて全然会えなかったんですけどね」
「……あ、あら……そうなの? 思ったよりずっとバイオレンスな理由だったけれど……何にしてもちょうど良かったのかもね。一番のリピーターがここにいるんだから」
「理由なんてどうでもいいです。疼木さんはこの試合をどう見ますか? 相手がどういった選手なのかは知りませんが、《剣士殺し》の異名を持つからには剣士に対するアドバンテージがあるのだと思いますが」
おおっと、流石はブラコンの珠雫さん。
今まで黙り込んでいたのに、黒鉄の話題が出た途端に饒舌に喋り出した。
本当にこの人はお兄ちゃんが大好きなんだなぁ。
「どうでしょうね~? ぶっちゃけ、彼が《剣士殺し》と呼ばれる所以はその“間合い”にありますから、それを攻略できるかどうかが肝だと思いますけど」
倉敷さんの能力は『剣の伸縮』だ。
彼の霊装《大蛇丸》はその刃渡りを自在に変えることが可能で、しかも物理的に曲がって相手を追跡することまでできるという優れものだ。これによって武器を戦闘の主体とする騎士は彼の間合いの広さに対応しきれず、
これによって彼につけられた二つ名が《剣士殺し》なのである。
「それに加えて、彼には《
「《神速反射》……? 何ですか、それは?」
《神速反射》とは、倉敷さんの真髄その二と言っても過言ではない彼の“特性”である。
人間は反応速度の限界として、理論上は0.1秒を上回ることができないという。しかし彼はどういった原理なのかは知らないがその速度を0.05秒以下にまで短縮できる体質だというのだ。
これにより倉敷さんは反応してから行動に移すまでの過程を常人の倍速以上で行うことが可能となっており、つまり常人の二倍から三倍の量の動きを繰り出すことができるということになる。天才的というか、まさにチート能力だよなぁ。私も欲しい。
「というか、噂だと倉敷さんには黒鉄は一度勝利しているんですよね? だったら攻略法は本人が一番わかっていると思いますし、向こうもそれは把握していると思います。初戦ならともかく再戦であるのならば、外野からは試合がどういう流れになるのかなんて易々とは想定できません。とりあえず、まったりと観戦するしかないと思いますよ?」
「……それは……そうですが……」
「それでも心配になってしまうものなのよ。ましてや珠雫は身内なんだから」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
そう言いながらウインクしてくるアリスさん。
相変わらずのイケメンである。
……と、そんな話を珠雫さんたちとしている間に試合の準備が整ったようで、アナウンスが倉敷さんと黒鉄を呼び出す。
その声に応えるように、二人がゆっくりと入退場のゲートから姿を現した。
片や獰猛な笑みを浮かべながら、片や真剣な面持ちの中に微かな笑みを浮かべながら。
全く正反対の性質の笑みを浮かべる二人からは、しかし同様にこの試合が楽しみで仕方がないという空気が感じられる。
そんな二人を紹介するように、実況のアナウンスが会場へと鳴り響いた。
『まずは赤ゲートより現れましたのは、貪狼学園三年・倉敷蔵人選手です! 常人には届き得ぬ天性の反応速度《神速反射》を持ち、さらに伸縮自在の刃を兼ね備えたその圧巻の強さはまさに《剣士殺し》の名が相応しい! そんな彼の初回の対戦相手はァ――!』
その実況に釣られるように、観客たちの視線が一斉に逆側のゲートに向く。
『青ゲートより姿を見せた、破軍学園一年・黒鉄一輝選手ですッッ! 七星剣舞祭どころか公式試合には初参加の彼ですが、その顔をご存知の方も多いはず! 同学年の《紅蓮の皇女》を下し、昨年の七星剣舞祭におけるベスト4こと《雷切》東堂刀華を一刀の下に斬り伏せたその実力は伊達ではない! さぁ、今日は一体どんな試合を彼は見せてくれるのかァ!』
実況の勢いに押されるように、会場中から歓声と応援が二人に送られる。
しかしそんな大音量かつ大熱量の歓声に押し潰されることなく、二人とも相手選手を見据えながら歩を進めるのだった。
「キリコさん、お兄様の具合はどうですか?」
「ちょっと待って、今から“視る”わ」
珠雫さんに何やら耳打ちされた薬師さんは、右眼に魔力を集めると黒鉄のことを凝視する。
この魔力の流れには覚えがある。
恐らく、彼女お得意の《
「……んふふ、大丈夫よ。さっきみたいな不自然なリラックス状態はどこにもない。私が保証するわ、今の彼は間違いなく絶好調よ」
「良かった……」
薬師さんの話を聞き、珠雫さんは安堵したように胸を撫で下ろした。
しかし私にはどうにも話が見えてこない。
「リラックス、ですか?」
何の話だろう?
すると首を傾げる私に気付き、薬師さんが苦笑まじりに口を開く。
「さっき黒鉄くんとすれ違った時にね、彼が少しリラックスしすぎているように感じたのよ。貴女だって、試合前には大なり小なり程よい緊張感を維持しようと心を落ち着けるでしょう? さっきの彼はそれを過度にやりすぎて本調子になり切れていないようだったから、何か不安でもあるんじゃないかって少し心配だったのよ」
「きんちょうかん……?」
よくわからないが、そういうものなのだろうか?
個人的には試合や実戦などの前には「大鎌を活躍させるぞー!」というやる気に満ち溢れた状態であるため、別に緊張感やそれをリラックスさせようという感じを抱いたことはない。
いや、むしろ私は生きている限り大鎌の活躍について考え続けているような状態であるため、むしろ闘いの中でも普通に平常心だ。こう、気持ちが昂ぶったり緊張したりという感覚はあまり思い浮かばないのだが……。
そんな感じのことを薬師さんに話すと、まるで頭痛がするかのように頭を抑えた。
どうかしたんですか?
「……いいえ、ごめんなさい。貴女に普通の人間の感覚をわかれと言う方が無理だったわね。そうよ、コイツは心臓に毛が生えたどころかもはや鋼鉄製みたいな奴だってことを忘れていたわ。緊張感なんて無縁な人間だったわね」
「失敬な」
リアルブラックジャックとして闇医者みたいなことをやっていたこの人にだけは言われたくない。
医師免許もなく自分のセンスと我流の医術で人間を治すとか、それこそ鋼の心臓がなければできないことだと思う。
……まぁ、そんなことよりもだ。
薬師さんの話を聞いていて私も少しだけ記憶が蘇ってきた。
黒鉄が何かを不安に思っているということだが、恐らくそれは原作と同じく
彼女の剣技は少々特殊で、脳から身体へと送られる信号が常人のそれとは異なっているのだという。それを黒鉄は《
原作では昨夜王馬くんとのやり取りの中でその不調を自覚するはずだったのだが……うん、王馬くんは私の方に来てしまったからなぁ……まぁ、何だかんだでこっちの世界線でもその不調を感じ取れたのだろう。詳しい事情は知らない。興味もないし。
ただ私は、歴史の修正力の偉大さを噛み締めるだけである。
などとそんなことを考えていると。
二人は既にフィールドの開始線の位置に佇み、その霊装を顕現させていた。
しかしそこで明らかになった異常な光景に、会場の一部からは
◆ ◆ ◆
「ッ、その霊装は……!?」
観客席から驚きの声が上がる中、一輝もまたその光景に驚愕から息を呑まされた一人であった。
蔵人の霊装は一輝もよく知っている。何せ一度は剣を交えた関係なのだから。
その時の彼の霊装は白骨を削り出したかのよう無骨な形状の野太刀一つであったが、今の彼はどうだ。まるで日本刀のように洗練された刃の霊装が“二振り”――即ち二刀流だ。仮に剣が二本あり前回は片方を使わなかっただけだとしても、霊装の形状までもが変化している点は流石の一輝にも見逃せない。
(霊装が……魂の形が変わったというのかッ?)
通常、魂の具現化である《霊装》がその形状を変貌させることはまずない。
なぜなら魂とはその人間の意識そのものであり、意識が変わるということは即ち人間としての在り方が変わってしまったということなのだから。
よって記憶喪失となった伐刀者の霊装の形状が変化したというような例外を除けば、基本的にこのようなことはあり得ない……はずなのだ。
「……よぉ? まずはテメェの驚く顔が見れて嬉しいぜ、クロガネェ」
そんな一輝を眺めやり、蔵人はニィと笑みを深める。
だが、蔵人からしてみれば一輝を驚かせるのはまだまだこれからが本番だというのが胸の内だった。たかが武器の形が変わった程度で腰を抜かされては蔵人としても興醒めである。
「ずっと待っていたぜ、この
そう、蔵人は今日まで己を鍛え、痛めつけ、そして高め続けてきた。
嘗て己が叩きのめした剣術道場の主へと土下座し、その剣術を学ぶことで自分の限界へと挑戦し、その果てに今の霊装を手に入れたのだ。つまりそれは、彼が自分の魂が変質するほどに鍛えてきた証拠に他ならない。
よってこの魂の変質とは、即ち進化であり昇華であった。
最早彼は以前の蔵人ではなく、同じと思い闘えばまともに剣を合わせることもできず一輝は敗北することになるだろう。
それを一輝も感じ取ったのか、驚愕の表情を剥ぎ取ると、一転して真剣のような鋭さをその面貌に携えた。
「望むところだよ、倉敷くん。……ただ、あれから強くなったのは君だけじゃない。それを僕も証明させてもらう」
「ハッハァ! 上等だ! そうでなけりゃ殺し甲斐がねぇ!」
そして剣を構えた二人が睨み合い、その瞬間に会場を静寂が包み込んだ。
二人から発せられる闘気が会場の喧騒を押し退け、今この場が戦場であることを観客たちに思い知らせたのである。
その空気を解説と実況も感じ取ったらしく、最早待ち切れないとばかりにアナウンスが場内に鳴り響く。
『両選手とも開始位置に着きましたことで、これよりAブロック第二組の試合――倉敷蔵人選手 対 黒鉄一輝選手の試合を開始させていただきたいと思います!
――LET’S GO AHEAD!!』