「ここが、ユーエン街か、、」
空を滑って3時間ほどで、僕たちは目的地であるユーエン街へとたどり着いた。
そりを袋に無理矢理詰め込んで街の入り口をくぐると、入り口にいても分かるほどの温泉特有の硫黄のにおいが鼻をくすぐり、そして所々に湯煙が上がっているのが見える。
正面を見ると街の中心にあるコロッセオのような大きな丸い建物へと続く道が開けていて、その道の途中の建物は和風な建物と洋風の建物がそれぞれ景観を壊すことなく、喧嘩せずに並んでいて、ある意味芸術的といえる。
街を歩く人々は普通の人から良い服を着た金持ち、鎧を着た人など様々だが、中でも浴衣のような着物を着ている人々がほとんどだ。
「よし、それじゃあ早速、宿を探そうぜ!」
「宿が決まったら温泉行きましょうね、サンタさんっ!」
「あ、ああ」
街に見とれているとラストとマイが後ろから声をかけてきて、僕を引っ張る。
元の世界にもあるような浴衣を着た人がたくさんいるおかげで、僕のパーカーにジーンズというこの服装も目立たない気がするが、やはりこの赤い帽子は今日も調子が良いのか、すれ違う人が何人か振り向いてこっちを見る。
加えて女の子に腕を引っ張られているので、少し子どもみたいで恥ずかしい。
「わかったから、自分で歩けるって。ひっぱるな」
「ほら、早くしろよ!さっさと宿決めて遊ぼうぜ!」
「温泉温泉おんせーん♪」
テンションの高い二人に連れられて、僕たちは宿を探して温泉街を廻った。
のだが。
「えー!ここもいっぱいなんですか!?」
もう5つの宿を回っているというのに、どこも空き部屋が一つもない。
「悪いねえ、近々闘技場でやる大会のおかげで、うちも満室なんだよ」
どこも決まってこの返事をして断ってくる。
観光地だし当たり前といえば当たり前なんだろうけど、時期が悪かったな。
「どうする?もうあきらめて日帰りにする?」
予約がないとやっぱり無理か。
それにしても、長期休みなんてないこの世界でも宿が埋まるなんてことあるんだな。
「何言ってんだ!1週間は満喫するつもりで来たんだぞ!日帰りにしてたまるか!」
「じゃあどうするんだよ。宿ないよ?」
「ぐぬぬ…」
ただ無力に唸るラストの横で、マイが僕の手を引いて歩き出す。
「仕方がないですね…最終手段です!二人とも、あそこに行きましょうっ!」
「あそこ?」
マイに連れられてたどり着いた建物。
和風の造りで赤い壁のそれは、先ほどまでめぐっていた建物とは格の違う、豪華な旅館だった。
ドラゴンのような金色の像が、旅館の入り口に立っていて、その旅館の壮大さを表しているように見える。
「おい、マイ、ここ高いんじゃないのか?」
ラストが恐る恐る聞くと、マイが平然と答える。
「この街じゃ結構上の方の旅館ですからね。それはもう、さっきまでの宿とは比較にならないほど高いです」
「へえ、因みにいくら?」
「一人あたり50000ユインです!」
まだこの世界に来て日の浅い僕でも、この額が示す数値の大きさはその単位だけでわかった。
「高いな…しかも全額ラストのおごり…ラスト、お前大丈夫か?」
「ははは、さよなら。俺の貯金たち…」
ラストが遠い目をしている。
一週間泊まるつもりなら、3人で大体100万ユインといったところか。
それだけあれば、家がリフォームできるんじゃないか?
なんてことを見上げながら考えていた時、遠い目をしていたラストがいきなり吹っ切れたかと思うと、僕たちにドヤ顔を決める。
「ははは、もういい、いいんだ!金なんてまた稼げばいい!俺は今この瞬間を楽しむぜ!さあ、入ろう!」
「サンタさん、楽しい旅行にしましょうね♪」
「あ、ああ、そうだな」
受付に声をかけると、すぐに部屋を案内された。高いうえに巨大なこともあってか、部屋はまだまだ空きがあるようだ。
因みにペットは無償だったので、ルドルフはラストの貯蓄にダメージを与えることなく泊まることができた。
部屋への案内の途中、右にいるマイはそんなことは知らず軽やかにスキップをしながら機嫌よく僕に話しかけてきて、外から見るととても楽し気に見えただろう。しかし、左のラストは笑ってはいるものの目が潤んでいて、この時全員が楽しんでいるとは、僕にはとてもじゃないが断言できそうになかった。
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