「…決まったか。それじゃあ、今日の2人の倍率だが…」
「倍率はいわなくていい。聞いたって変わらないから。答えは出た。サンタクロース。つまり僕に100万ユインだ」
普段なら自分に賭けるのは少しだけ気が引けていたが、今回はそんなことは一切思う余地は無かった。
「サンタ。お前、決めたんだな?」
「ああ、僕の役割を思い出したよ。僕はサンタクロース」
白い袋を担ぎ、赤い帽子を深くかぶる。
「今までいろいろありすぎて僕の仕事を忘れてたよ。自己満足なプレゼントを、あの子にもプレゼントしてあげないとね」
「へへ、んじゃ、俺も解説、頑張らなきゃな。サンタ、勝てよ!」
「任せとけ。それじゃ、先行ってる」
試合までの時間はもう残り少ない。
僕はラストをおいて先に、試合会場へと走った。
『さあさあ、ついにきました準決勝!この戦いに勝った時点で、入賞が決定、そして、決勝への片道切符を手に入れられます!それでは参りましょう!』
まだ選手紹介もしていないというのに、会場から熱い声援が飛んでくる。
準決勝からか、これまでよりも客の入りは多く、立ってみなければならないものもいるほどに、観客席は人でごった返していた。
『まずはこちらの女の子!華奢な体に、纏うは強烈炎魔法!生きる炎、リィナ選手!』
会場から黄色い声が上がる。
女の子に人気がある様だ。
野太い声も結構前の席から聞こえてくるが、きっと親衛隊みたいなもんだろうな。
そして説明がいつもよりも短い。
多分前の試合で言いすぎてネタがなくなってきたんだろう。
お疲れ様です。
『続いてはこの男!真っ赤な帽子と白い袋、そこから飛び出す数多の戦術!今日は私たちに、どんな夢を見せてくれるのか!サンタクロース選手!』
黄色い声はないが歓声が上がる。
ファンサービスが功をなしたか?
『それでは参りましょう!試合、スタートです!』
試合が始まると同時に、リィナの体はふわりと宙に上がる。
「手加減、しないよ」
「大会だからね。気にすんな」
『おおっと、リィナ選手。宙を舞った!お得意の空からの攻撃かあ!』
僕も指を鳴らしてスキルを念じる。
やがていつもの見慣れた雪景色が会場を真っ白に染め上げる。
『こちらも動きだしました。いつ見ても綺麗ですねえ』
『ああ、そうだな』
『しかし今回、私はリィナ選手を応援しています。サンタクロース選手にはここで負けて欲しいところです!』
公平な立場であるはずの実況がいきなり僕を否定し始めた。
「ええ…?」
『さすがにそれはひどいだろ…そんなにリィナが好きなのか?』
『いいえ。私は選手のことは公平な目で見ています。ですが!先日、飛んでもない味の飲み物を飲まされましてね。あんな苦いもの。人に渡せるものじゃありません!それを渡すなんて、まさに鬼畜!私は絶対許しませんよ!』
『…』
「ああ、忘れてた…」
昨日、普通のポーションと間違えて、ラスト特製死ねるポーションビリジアンという劇薬を渡してしまったんだった。
「ずいぶんと嫌われたものね」
リィナがくすりと笑ってこちらを見る。
『お、俺は応援してるぞ!サンタ、頑張れ!』
ラストの応援につづいて、そうだといわんばかりの声援が飛んできて、嬉しくて少し泣きそうになる。
「全員に嫌われたわけじゃないさ。まだましだよ」
「そう。それじゃあ、そろそろいくよ!」
気づくとリィナの周りを炎が渦巻いている。
さっきのやり取りの間に準備していたのか。
「来るか…」
「ええい!」
突如、リィナの体を隠すくらいの火の玉が現れた。
「ええ、技名は!?」
技名、詠唱共になし!?
タイミングのずれに動揺して、躱しきれずに、火の玉を全身で受ける。
「どう、私の炎は?前の試合なんかとは比べ物にならないんじゃないかしら?」
「あっついなあ…氷タイプに炎は弱点って感じか?」
確かに威力、速さともに、中々のものだ。
だが生憎、僕もステータスがある。
直撃こそしたが、大したダメージを負わずに耐えることができた。
お気に入りのパーカーが焦げたのが残念だが…
「…やっぱりおじさんの言った通り、魔法は効かないのかな…」
少しだけうつむいて気弱になるリィナ。
なんだよその仕草。
かわいすぎるだろ。
「い、いや。効かないってことは無いぞ!一応受けてるしな!どんどん撃てよ!」
なんだ今の発言。ドMじゃねえか…!
「本当?じゃあ、どんどんいくよ!」
「またノーディレイかよ…!」
レーザーのような一直線に来る炎は、先ほどよりもスピードが速くて、反応しきれない。
両手で覆ってダメージを防ぐ。
「うううう、あっつ…」
「それでも耐えるんだ」
『あいつ、本当にどうなってるんだろうな』
『ええ、一応、今まではこの攻撃でリィナ選手は勝ち上がってきたのですが…』
「一応ソロ充ともなると、一人で一つのパーティを形成しないといけないからな。ステータスも自己完結型だ。特に防御に関しては徹底しないと」
「そろじゅう?よくわかんないけど、まあ強いってことね。それじゃ、もっと強い魔法で攻撃しなくちゃ、ね!」
再び炎が渦巻きだす。
「あの子、技名無しで呪文が打てるのか?」
レディオや昨日のクソガキはいちいち技名を言っていた気がするが、言わなくても打てるのだろうか。
確かに僕も、言わずにいろいろやってるが。
「っと、こっちもやられてばっかじゃいけねえな。友達を呼ぶぜ!」
地面に手を当てて念じる。
来い、スノウマン。
しかしどれだけ待ってもスノウマンがやってくることはない。
「なんでだ…?」
違和感を感じてふと地面を見つめる。
そして気づく。
「雪が、ねえ…!」
先ほどの炎のおかげで、僕の周りの雪はすべて溶けて水になっていた。おかげでこの周辺にいるかぎり、雪だるまを出すことも、モミの木を出すこともできない。
「もしかして、雪がないと何もできないの?」
「そ、そんなことない。雪が無くても、僕、普通に戦える」
見え見えの嘘をつく。
「そう、じゃあ、雪はいらないね」
リィナの周りを渦巻いていた炎が突然はじけて雨のように降り注ぐ。
僕にも飛んでくるが先ほどのような塊ではないので、せいぜい熱風が来たようなものだ。
「これは…痛くはないな。でも…」
満遍なく降り注ぐ炎の雨に、別の意図を悟る。
『何ということでしょう!フィールドが水たまりでいっぱいです!』
「雨上がりの水たまりってやっぱりいいものよね?」
「火の雨の後なのになあ…」
僕が呼び出した雪はすべて溶かされて、すべて水たまりになってしまった。
「やるじゃねえか…」
「これでお得意の雪での戦いはできないね」
得意げな女の子。
しかしこっちにもまだ策はある。
「ま、これで終わりじゃないさ。もう一回使えばいいんだよ」
再び鳴らすと、銀世界がもう一度現れる。
「どうよ、これで振り出しだな」
「何度やっても変わらないよ。また溶かすんだから!」
再び炎の雨が降ってくる。
そしてまた、水たまりがところどころにできる。
「まだまだ…」
めげることなく、さらに追加の銀世界。
「しぶといわね…」
そしてリィナが再び溶かす。
「…これは長期戦になりそうだ」
袋から赤い液体の入った瓶を取り出して、空を舞う女の子を見つめるなかで、僕は耐久戦を悟った。
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