「ぜえ、ぜえ、まだまだ…」
「はあ、はあ、んん…こっちだって…」
『…』
『いつまでやってるんだこいつら』
雪を出しては炎で溶かすという張り合いを、僕たちは何度も繰り返した。
その結果、リィナはポーションをすべて使い尽くし、僕はあのくそまずいポーションを2回も飲む羽目になった。
「ぜえ…へへ、そっちはもうポーションはないだろ。こっちはまだまだ…あるんだぜ?」
そう、これが僕の策。どうやら魔力の回復には体力が伴うらしく、おっさんが言っていた短期決戦という情報と息切れと共にポーションを飲んでいたことから想像がついた。そのため、ポーションを使わせて、疲れるまで我慢比べをするというふりをしていたのだ。
何も考えずにただ張り合いを続けていたわけではない。決して。
袋から緑色の液体を取り出して口にする。
3度目のまずさに、もう舌が馬鹿になってくるように思えてきた。
「ん、ん…はあ。うええぇえあああ…」
「はあ、はあ…ちょっとそれ…本当にポーションなの?さっきからすごく顔が青いけど…」
吐き気を催して顔色が最悪な状態を見て、リィナは対戦相手である僕の心配をしてくれる。
『あの薬…もしかして私に渡した薬じゃ…』
『そう、レディオ戦でも飲んでたよな』
「サンタさん、あんなに飲んで…」
実況席でも、観客席からも、僕を心配する声が囁かれる。
『あんなに飲んで大丈夫なんですか?サンタクロース選手の顔色がすごいのですが…』
『…一応くそまずいだけでただのポーションなんだが…大丈夫、だよな?』
大丈夫であってほしい。
苦味はありえないほど残るが、それでもやはり、この薬は一級品だろう。
その証拠に。
「…一応は全快だ」
口の中以外は最高の状態。
何度目か数えるのをやめてしまったが、再び一面が雪に染まる。
「私だって…こんなところで…負けてられない…!」
少しだけ遅れて炎の雨が降ってくる。
その隙を逃さずに、僕は雪に手を当てて念じる。
直後、見慣れた二頭身が飛び出す。
「ノ―――ウ!」
「流石に守るなら一匹が限界か。あぶねえぞ」
出てきた雪だるまに覆いかぶさって、炎を受ける。
流石に向こうも体力は落ちてるようだが、それでもまわりの雪は溶かされた。
僕は雪だるまの体を触って、どこも溶けていないことを確認する。
「大丈夫か?」
「ノ―」
「へ、つくづくわかりにくい返事だな。ルドルフー!」
その名を呼ぶと、すぐそこの客席から飛び出して、甲高い鈴の音とともに僕の近くまでやってくる我が相棒。
「ユキ、あの子を地面におろしてくれ」
そりに雪だるまをのせると、ルドルフは空を舞い、リィナめがけて飛んでいく。
「ここでビーストテイマーのコンビネーション…?くっ、その手には乗らないわよ!」
彼女の周りを炎が渦巻く。
ルドルフが彼女の周りをぐるぐる回って空中で気を引いているうちに、再び雪を積もらせる。
「こっちはいいのか?」
そして地面に手を当てて、念じる。
「い、いつの間に!?」
「準備はいいな?みんな、雪合戦の時間だ」
「ノ―!!」
『サンタクロース選手、おとりで雪だるまとトナカイを空中に行かせ、その隙に下の方で陣を張った模様ですね!これでは空中と地上、どちらを攻撃すればいいのか、なかなかに難しいところです!』
『ルドルフがリィナの上にいるおかげで、さっきの雪を解かす攻撃じゃ空中の方には当たらないな』
「ちょっと…どっちを攻撃すればいいの…?」
戸惑うリィナに、下からは無数の雪玉がリィナめがけて飛んでいく。
「ちょ…きゃあ!」
渦巻く炎で溶かされたものがほとんどだったが、うまく炎をかいくぐって溶けずに残った雪玉がその華奢な体に直撃する。
バランスを失ったリィナは、力なく地面に落ちる。
勝負、あったか。
「おおっと」
落下地点まで駆け込んで抱きとめる。
とてとてと雪だるまたちが僕たちを囲う。
「んん…」
「ごめんな。上のやつらはフェイクで、あくまでおとりだったんだよ」
「もう…おじさんの言った通り。こんなの反則だよ」
「とりあえずさ、負けだけ認めてくれないかな。残念だけど、もう逆転は無理だろう」
ささやくように言うと、少女は諦めたように目を閉じる。
目を閉じたリィナを抱える僕と、静かにその場で立ち尽くす雪だるまたち。
まるでおとぎ話の、眠りにつく姫を見守る7人の小人のようだ
そして、少ししてから、リィナの手から杖が滑り落ち、またあの寂しい笑顔を見せる。
「ああ、もう…仕方がないか。これじゃあもう、勝てる気がしないものね」
少女の頬を一筋の涙が伝う。
「私の負けよ。サンタ」
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