ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第3章:異世界のクリスマス
第60話:変わらない日常


「はあ、暇」

 

旅行から帰ってきて早一か月。

バレンタインなどはこの世界にないために、14日にチョコだの告白だのというイベントは皆無でうれしかったが、そんな感じで特に何もなく変わらない日常が続いている。

 

温泉旅行から帰ってきたときは、今日こそはやってるだろうという風に店の前にそこそこの人だかりができていて、地上に降りたときにはまるで神様が降臨したのと同じように拍手喝采が起こり、続いてすぐに店を開けることをせがまれた。

 

因みにリィナは店の中で新しいメニューとして、魔法にかかわる道具を販売している。

最初の日は僕と一緒に店の準備として買い出しに行き、翌日から新しいメニューとして魔力を込めた道具やラストのポーションを加工して魔力を込めて作ったマナポーションなるものを売りに出したのだが、これが意外に魔法使い職の連中に人気らしく、人気メニューの一つとして、うちの店の目玉となっている。

 

ユーエン街の大会の賞金はまだ届かないので、リィナの材料は賭けで儲けた手元の200万で用意したが、これが使いきれずに余ったので、服やら家具やら、女の子らしい生活をするための娯楽費と、家の改築費用へと変わった。

おかげで、風呂に入れるようになったことについては良かったけどな。

 

準優勝の賞金は499万が僕の手元に、1万ユインがラストへ当てられることになっている。

届いたら何をしようかと胸を躍らせるが、実際に手元に金がないとそれもむなしいので、先週あたりから考えることをやめた。

 

 

 

店の中ではラストとマイに挟まれて、リィナは今日も客に笑顔を振りまく。

販売員が一人増えたおかげで僕がいた席はなくなってしまい、僕は一人、こうして外の入り口そばで、マイに作ってもらった椅子に座っておじいさんのようにきーこきーこと前後に揺れながらルドルフと戯れ、たまにカラアレオンのコメットが出す奇声に肩をびくっとさせるくらいしかすることがない。

 

日中僕が仕事をするなんてことはほとんどなく、去りゆく客にいつも決まって、

 

「いつもありがとう。また来てよ」

 

という挨拶をするくらい。

 

正直ここまで暇で許されるのか不安になるが、僕は僕で一応の仕事を果たしている。

 

大抵、この店の材料はスライムのゼリーがほとんどなのだが、これは僕がとっている。

そして3人には秘密だが、みんなが寝静まったころ夜な夜な外に出てスライムと戯れ、材料をこっそりと採集しているのだ。

だから一応、何もしていないわけではない。

時間外労働というやつだ。

 

 

 

「ああ、売れたなあ」

「相変わらずの売れ行き順調だね!」

「ですね!今日も注文が入っていい感じです♪」

 

客足の途絶えた店内で我が店の職人たちがにぎわっている。

職人たちはやはり自分の仕事が評価されることをうれしく思うのだろうか。

 

「ま、楽しそうでいいじゃねえか」

「ギエエエアアアアア」

 

僕の独り言にも、親切に受け答えしてくれる人外のコメット。

おそらく、こんなことを言っているのだと、脳内で適当にアフレコする。

 

「ギエエエアアアアア」

『あんたも飼いならされてるっていう意味では俺たちペットと一緒だな』

「♪〜」

『シングルベル♪シングルベル♪』

 

すごく悲しくなってきた。

どうしてこうも後ろ向きなのだろうか。

ルドルフとコメットと僕の組み合わせは平常運転だが、中と比べてその温度差に、僕だけが弾かれているような感覚を覚えてしまう。

 

「サンタさん、お昼休みですっ!外に食べに行きましょう?」

 

スマホを取り出すと時間はすでに昼休みの時間。

マイがいつものように店から出てきて僕に手を差し出す。

 

「ああ、わかった。んじゃあ、留守番頼むわ」

 

毎度思うがこの手は何なのだろうか。

僕の伸ばした手はその手を取ることなく、そばで寝転がるコメットの頭を撫でる。

 

「グエエアア」

 

マイに続いて出てきたリィナとラストの後ろを歩いて、賑わう街の中心部へ向かった。

 

 

 

「いただきます」

 

最近よく通う店で、4人で丸いテーブルを囲んで食事をとる。

店は武装した客が多いが、内装は元いた世界だったら洒落たカフェのような椅子やテーブルや食器が使われていて、窓が多く開放感が半端じゃないせいか、まるで外で食事をしているかのような感覚を覚える。

 

「やっぱうまい」

 

相変わらず3人で盛り上がる会話の中で、謎の料理を飲み込んで独り言のようにつぶやく。

リィナもこのところ2人と仲良くなれたようで、浮くこともなく溶け込めてよかったじゃないかと、兄のような目で見る。

 

「ごちそうさま。先に帰ってる」

 

全く会話に入れない僕は何も話さないから当然飯を食い終わるのも早いので、全員の会計を済ませて店を出ようと立ち上がるが、何故か肩を掴まれて座らされる。

 

「なんだよ」

「いやあ、何も一人で行くことはないだろ?」

「3人で盛り上がってたじゃないっすか。邪魔しちゃ悪いでしょ」

 

最近は入り込む余地がないほど仲が良すぎて、僕はすっかりソロ充として一人で充実した毎日を送ることが多い。

 

「そんなことねえけど…なんか最近あまりお前と話してない気がしてさあ。お前も話に入ろうぜ?」

「そうですよ。みんなで話しましょうよ」

 

よくわからないが話がしたいらしい。

 

「つってもなあ、そっちは職人の話題があるけど、こっちはそういうの一切ないんだぜ?」

「そんなの、気にすることねえよ」

「でも考えてみろよ。そっちが色々とそういう仕事の話してるときにさ、いきなり割って入って今日の晩飯なんすか!なんて言おうものなら、そいつは相当空気が読めないやつだと思わない?」

「ふ、なにそれ。別に、好きなこと話したっていいじゃない」

 

鼻で笑われた。

この世界のやつらはフレンドリーすぎるからな。

あまりそういう空気読める読めないの問題は気にしないのか?

 

まあ、ここは前いたとことは違うからな。

そろそろ慣れないといけないのに、どうも向こうの尺度で物を見てしまう癖がある。

 

「ま、そのうち話すよ。今はあいつらに、餌あげてこなきゃ」

 

ラストの制止を振り切って一人席を立ち、外へ出た。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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