ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第77話:帰り道を

「うふふ~」

「ご機嫌みたいですね」

 

最初に渡した10枚の金貨の入った小さな袋は、バトルハウスの賞金とチップとルウシェルから巻き上げた金により収まらなくなり、気が付くとユウリッドさんが持って着ていたエコバックのような袋にずっしりと詰まっていた。

 

「そりゃあもう。しばらくは子どもたちにいいものを食べさせてあげられるわ」

「いい母親っすねえ…」

 

稼ぎ方が不純だが。

しかしそこは口にはしない。

 

「そんで、どうします?」

 

スマホを見ると、時刻は16:50という数字を浮かび上がらせる。

 

「そうねえ。もう夕方だし、そろそろ広場へ行きましょうか」

「おっけーっす」

 

僕たちは集合場所である広場への道を歩く。

冒険帰りの冒険者らしい人が痛そうにどこかをおさえてすれ違っていく。

 

「思ったより冒険ってのは危ないもんなんですかね?」

「それはそうよ。命をかけて戦うんだから」

「へえ」

 

進めていた足を緩める。

 

「ちょっとだけ、お時間いただきますよ」

「え?」

 

冒険者に声をかけて呼び止める。

 

「どうぞ、これでも飲んでください」

 

その場で袋にあるポーションを取り出して、道行く傷ついた人に配りながら歩く。

 

「うちの自慢の一品です。これ飲んで明日も頑張ってください」

「これ死ぬほど苦いけどその傷なんて一発で治りますよ。よかったら」

「お、いつもうちの店に来てくれてる方ですね。感謝の気持ちもかねて、これを」

 

夕暮れの街で冒険者と思われる人を見かけては、次々と声をかけてポーションを配る。

 

「それ、あなたたちの店の売り物じゃないの?」

 

ユウリッドさんは僕の背の夕日がまぶしいのか、少し眉をしかめて僕に尋ねる。

 

「ええ、そうですよ」

「それじゃあ、お金もなしでそんなタダで配ってたら、もったいないじゃない」

「まあ、そうなんですけど」

「じゃあ、どうしてそんなことするの?」

「うーん、こればっかりは冒険者の方はどう思ってるかはわかりませんが」

 

少し考えてから、返事をする。

 

「僕たちが街で平和に遊んでいるのに、その平和を命をかけて守っている人たちから巻き上げてばかりなんて、それはあんまりでしょう。たまには贈り物の一つくらい、用意しないと失礼じゃないですか」

「…少し、ううん、かなり変わった考え方ね」

「ま、今日はお代はすでにいただいてるんで。こんなの、全然わりに合わないくらいに」

「お代?」

「ええ、結構なものを」

 

片目を瞑って、ユウリッドさんの手にある袋へと目をやる。

それを見て察したユウリッドさんが、僕に歩み寄ってくる。

そして優しく僕の手を握って、手にもつポーションを僕から取り上げる。

 

「ふふ、そういうのって、素敵な考えね。私も配るわ」

「はは、すいませんね。おっと、お疲れ様です。これをどうぞ」

 

すれ違う人々に瓶を配りながら、ゆっくりと広場へと向かう。

今のままだと少し帰るのが早くなってしまうだろう。

それと今日はクリスマスパーティ。

僕らにとってのクリスマスなら、プレゼントを配るのもクリスマスの仕事だ。

 

「お疲れ様です。明日もがんばです」

 

真っ赤な夕日は、街を赤く染め、僕の影を長く伸ばし、一日の終わりを告げようとしていた。

 

 

 

 

 

「あー、お兄ちゃんとお母さん!やっときた~」

 

広場では子どもたちが集まって何やら話し合っていて、僕たちを見つけるとわらわらと駆け寄ってきた。

ゆっくりと道行く人にポーションを配り歩いていたおかげで時間がかかってしまった。

 

「おー、待たせたな。それで、プレゼントは用意できたか?」

「うん、この通り!」

 

全員がそれぞれ袋をもって誇らしげに見せてくる。

どうやら普通に買えたみたいだ。

 

時刻はすでに17時40分。いい時間だ。

そろそろ向こうも準備ができてるだろうか。

 

「よし、それじゃあ今日は帰ろうか」

「はーい!」

 

 

 

 

帰る途中、孤児院の女の子が駆け寄ってきて僕の右手を握る。

 

「ん?どうした?」

「おかあさんのてがあいてないの…」

 

後ろを振り返ると、ユウリッドさんの両手は他の子ですでに埋まっており、周りにいる小さな子どもは少しだけ悲しそうな顔をしている。

 

「なるほどね。ま、ユウリッドさんがいるから誘拐とは間違われないだろ。僕の手なら好きなだけ握っていいよ」

「えへへ、ありがとう」

「あ、ぼくも!」

「わたしも!」

 

うらやましいと思ったのか、他の子が僕の袋を持った左手を狙って駆け寄ってきた。

 

「おいおい…仕方がねえな」

 

一人を肩に乗せて、袋を持ちながら左手で他の子の手を握る。

 

「ふふ、サンタくん、この子たちのお兄さんみたいね」

 

後ろを歩くユウリッドさんがにこにこしながら僕に言う。

 

「いつの間になつかれたんですかね」

「このままいっしょにすんで、おにいちゃんになってくれればいいのになぁ」

 

右手の女の子が独り言のように言う。

そうか、みんな子どもだし、歳の離れた兄貴というやつにあこがれはあるんだろうな。

 

「うーん、血はつながってないから、本当の兄ちゃんにはなれないけど、義理の兄ちゃんにだったら、なってやるよ」

「本当!やった~」

「じゃあ、これからうちで暮らすの?」

 

肩に乗る子が帽子を精一杯つかみながら聞いてくる。

 

「んー、僕も仕事があるから、一緒には暮らせないなあ」

「えー、それじゃあいみないじゃん!いっしょにくらそうよ~」

 

子どもたちのブーイングの嵐。

なんだよ、お前ら、いつから僕になつき始めたんだ?

 

「えーと」

「ほらみんな。サンタ君も困ってるから、やめなさい」

「えー」

 

ユウリッドさんが助け舟を出してくれたおかげで、子どもたちは言葉を飲み込む。

相変わらず不満げな様子だが。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

後ろを振り返って礼を言う。

 

「…私としても、サンタ君が一緒に暮らしてくれたら嬉しいんだけどね」

「ま、あいつらが僕がいなくてもいいよって言ったら、こっちでお世話になりましょうかね」

 

見えてきた孤児院を顎で指しながら、僕は冗談交じりにそういって、孤児院の入り口で子どもたちを下した。

 

「あ、やべ。コメットの飯の用意忘れた!ちょっと一回家に戻ってくるんで、先に入っててください!」

「え、サンタ君?」

 

話す間も与えずに迫真の演技で焦りっぷりを見せて、子どもたちを振り切って風よりも速く駆ける気持ちで家へと向かう。

その途中、ニヤニヤが抑えられずに、空を見上げて一人つぶやく。

 

「やっぱサプライズってのは、いいもんだ」

 

見上げた空には、綺麗な満月が、今日も街を見守っていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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