Fate/DARK Order   作:えんま

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前回からの連続投稿です。
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第七章:絶対魔獣戦線メソポタミアII

立ち昇った大火と、それを背に立つ人影を見つめながら、マーリンは語った。

 

「火の時代を、そしてその時代に生きていた全ての人類を、不死人(人類)が逃れられぬ因果からの解放を願い、その人類愛によって終焉(おわり)に導いた火の時代の第七の獣(・・・・・・・・・)。それこそが彼、自身の燃え滓と、歴代の薪の王の燃え滓を最初の火の炉で打ち倒し、合一した『王たちの化身』という英雄だ」

 

マーリンの言葉が終わると同時に、ビーストⅡが叫び声を上げながら王たちの化身に突撃する。

恐怖に駆られた行いであったとしても、事実彼を打倒しなければ霧は晴れないのだからその行動は正しかった。

正しかったが、しかし、相手は神霊すら超える獣の英雄である。

彼の体から、鎧の隙間から炎が溢れる。

そして、呟いた。

 

ー権能発動『王たちに(ザ・ローヅ・ゴー・)玉座なし(ウィズアウト・スローンズ)

 

体から迸る炎が、形を成す。

それは、偉大なる巨人の王。

巨大な盾と、巨大な鉈を手に、民を守る戦いをし続け、そして突如民を失った悲しき王。

彼こそ薪の王が一人、罪の都のヨームである。

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

咆哮を上げ、その巨人の王を象った炎は突進してくるビーストⅡと激突した。

咄嗟に彼、王たちの化身を味方と判断したエレシュキガルが、冥界の加護を施す。

中空を踏みしめた巨人型の炎は、片手に持ったーそれはかつて捨て去られたものであるー大盾で以ってビーストⅡの鼻っ柱を叩き潰す。

体躯は明らかにビーストⅡの方が大きいというのに、ビーストⅡの突進がなす術もなく押しとどめられる。

 

「AAAAAaaaaaaaaaaa!!」

 

ビーストⅡが巨人を押し返そうと四肢を強張らせる。

……が、動かない。

まるで幼子が巨木を押すかのようにビクともしない。

再び巨人が咆哮を上げる。

それは、まるで歓喜の叫びのようであった。

かつての薪の王のソウルを元にその薪の王を顕現させるその権能。

それは自我なき炎の像を産むのみであるはずである。

王たちの化身の身に統合された薪の王たちの、主なきソウルが元なのだから、意思があるあるはずもない。

だというのに、その巨人の王はまるで歓喜しているかのようだった。

守るべき民を失い盾を捨て去った彼が、再び守るべき全人類()のために戦うことができる。

それに、彼は歓喜しているのだろうか。

 

 

 

「さあ■■君、マシュ、ティアマト神の元に向かおうか。この戦いの決着の場にキミがいないなんてよくないからね」

 

炎の巨人がビーストⅡを押しとどめている中、マーリンの発した言葉に彼女は強く頷いた。

ことここに至って、彼女は自分ができることが多くないことは気づいていた。

それでも、彼女は前に進むことに決めた。

その気持ちがリンカーとの縁を結んだのだ。

ならば、今もなおその決意は固かった。

彼女は彼を迎えに行く。自らの最も頼りになるサーヴァントの一人のもとに。

そんな彼女らに向かって多くのラフムたちが襲いかかってきた。

目の前の薪の王の集合体、あるいは火の時代最後の英雄を相手取るにあたって、カルデアの一行の邪魔立てを彼らは何としても阻止しなければならなかった。

しかし

 

「汝らにその輝きを消すこと能わず。首を出せい」

 

誰もが知覚不能であった一瞬、迫ってきていたラフムたちの首が次々と滑り落ちた。

気づけば彼女の目の前には甲冑姿の暗殺者。

その姿を見て彼女は思った。

 

リンカーの生きた時代から生きてるって言われても信じられちゃいそう…!

 

「否、我が生は火潰えた時代より始まっている」

 

「キング!!」

 

ナチュラルに思考を読んできたことを華麗にスルーして彼女は声を弾ませた。

 

「カルデアの魔術師よ。暗殺者の手助けは必要か?」

 

「もっちろん!是非お願いします!!」

 

「承諾した。角一本砕いただけでは今なお奮戦する偉大なる王たちに申し訳も立たん。

これより我が名、我が剣は汝との縁を繋ごう。冠位の銘は原初の海への手向けとしたが、

我が暗殺術に些かの衰えもなし。契約者よ。告死の剣、存分に使うがよい。

願わくば、末長くな」

 

 

 

マスターの彼女が山の翁と合流し、襲い来るラフムたちを蹴散らしながら進軍し始めた頃、王たちの化身にもまたラフムが襲いかかっていた。

一体一体が魔神柱を超える魔力量を持つ飛行能力に特化した11体のそれらは、高速で巨人の王の大元である王たちの化身を殺さんと急襲する。

しかし再び王たちの化身の身が炎に包まれたかと思えば、彼の目前に特徴的な兜を被った数十人の騎士団が現れた。

鉄帽子を被り、大剣と短剣の変則的な二刀流の彼らは、かつて狼騎士と呼ばれた偉大な英雄に憧れ、王足る狼血の元に集った深淵の監視者たち。

ファランの不死隊とも呼ばれた彼らは、深淵の気配あれば一国すら落として見せた薪の王。

彼ら皆が、右手の大剣の切っ先を迫り来るベル・ラフムに向け、その手首に短剣を握った左手の手首を重ねる独特の姿勢を取った。

不死隊の儀礼と呼ばれるそのポーズは、開戦への号砲の代わりである。

深淵の監視者たちが、虚数の海より生まれたベル・ラフムたちを迎え撃つ。

 

「なんだ!?なんだこいつらは!?」

 

高度に知能が発達したが故に、彼らティアマト神の真の11の子供たちである彼らは、その不死隊への恐怖を知覚した。

縦横無尽に、炎の軌跡を残して空を駆け、空を舞い、ベル・ラフムらを蹂躙する。

ケイオスタイドを生みだした新たな深淵の兆しとも取れるビーストⅡとその子供達。

彼ら不死隊皆が、それらを狩ることに使命の炎をその目に燃やす。

ベル・ラフムらは彼らの動きに付いていくことすらできない。

自らの腹部をえぐり飛ばしながら駆け抜けていった不死隊の一人を追って踵を返せば、すでに目前にもう一人の不死隊がマントと炎をたなびかせながら飛来している。

頭部から股下まで両断されたベル・ラフムが花咲く冥界の底へと落下してゆく。

形勢は明らかであった。

大量にただのラフムたちが量産され、不死隊の殲滅に対抗する。

果てにはケイオスタイドが飲み込んだメソポタミアの民、彼らが姿形はそのままに、泥に侵されながら排出される。

彼らにすでに意思は無く、ただただビーストⅡの命令を実行するだけの木偶の坊である。

 

ー彼女や、マシュたちにこれらが向かわなくてよかった

 

火の時代、この世にあり得る悪辣をいくつも経験してきた王たちの化身にとってしてみれば、それはビーストⅡのただの悪あがきだった。

たとえその肉の人形の中にウルク市で出会い、言葉を交わしたことのある者の姿があったとしても、彼は躊躇することなく彼らを殺すことができた。

 

否。

 

ー殺してやることこそが、手向けとなろう

 

かつて言葉を交わし、そして亡者に堕ちた者たちを思い起こし、彼はそう断じた。

それが彼の業であったとしても、彼はその意思を曲げるつもりはなかった。

あるいはそれが、火の時代に終焉をもたらした人類愛の片鱗か。

 

再び彼の体より炎が迸り、そしてそれは不定形の醜悪な肉の塊となった。

人食いの聖者、エルドリッチ。

人を食い、食い、喰らった先に薪の王となったものであり、そして深海の時代を予見した王でもある。

その肉の塊を象った炎が、人型の泥を貪り食らう。

炎に溶かされ、食われ、その炎の一部となっていく。

瞬く間に人型の泥は殲滅され、しかしさらに生み出される。

ラフムたちもまた、巨人と戦いを繰り広げるビーストⅡの体より大量に現れる。

 

ー深海の時代…原初の海…深淵……深海の時代を予見し神喰らいを始めたエルドリッチよ……まさか貴方は、火潰えたその先の世界で、ティアマト神に、原初の母になることを望んだのか……?

 

そう言葉をこぼすも、かぶりを振って戦いの場にふさわしくない考えを振り払う。

 

ーいや…今となってはわかるまい……ん?

 

一人言葉を紡ぐ王たちの化身は、ふと自身の背後に炎が何かを象ったのを感じ取った。

それはとても矮小で、儚く、しかし慈愛に満ちた気配だった。

 

ー貴公か……小さくも偉大な王

 

小人の王が、そこにいた。

王たちの化身が、不死人最初にして最後の薪の王が、思うに最も偉大な薪の王が、そこにいた。

 

『ああ、私だとも。久しぶりだね、王狩り……いや、偉大なる先人にして後輩、と言うべきかな』

 

意思は、ないはずである。

では、その言葉は幻聴であろうか。

彼には、判別ができなかった。

 

『私は彼らのように戦う力はないのでね、君に言葉を送ろう』

 

かつてと同じように、小さな王は穏やかに語る。

 

『どうやら、君はしっかりと自分の意志で選んだようだ、私が自ら薪の王になったように。その選択は、確かに酷い裏切りだったのだろうが……』

 

王たちの化身は、拳を固く握った。

わずかにその拳は震えていた。

 

『他の誰が何を言おうと、私はその選択を尊重しよう。そして、僭越ながら不死人を代表して、言わせてもらおう』

 

 

 

『感謝を、偉大な王。すべての不死は、君によって解放された』

 

 

 

不覚にも、彼は火の滾る肉体で、涙を流した。

それが、自身の願望が生みだした都合のよい幻聴でもよかった。

もちろん、彼は自らの行いに誇りを持っている。

それでも、彼は、小さな王の言葉に救われた。

彼の選択が、すべての薪の王の犠牲への裏切りであるという自覚があったが故に。

己が生に、使命に囚われ続けた生に意味があったのだと確信できて。

 

ー死したのちに、救いがあるとは……ああ、やはり彼女に喚ばれてよかった

 

彼は前を向く。

その身から、自身と全く同じ背丈の騎士を象った炎が現れた。

サーコートを纏った騎士甲冑姿のそれは、かつて巡礼の地、ロードランを巡った彼自身だった。

彼は少し、王たちの化身を振り返り、言った。

 

ーついて来れるか?

 

くっ、と王たちの化身から笑いがこぼれた。

ロードランを巡った時、自分はこんなにユーモラスだっただろうか?

そんな下らない思考を振り払って、王たちの化身は一歩踏み出して、言った。

 

ー否、貴様がついて来い

 

火の時代の第七の獣が、ついに前進する。

彼は自分に追いつき、一体の薪となり、さらに加速して前進した。

薪の王たちの殲滅をくぐり抜けたラフムたちがミサイルのように王たちの化身へと襲い掛かる。

 

しかし、それらは螺旋の剣の一振りで蒸発した。

 

そこに在るは正真正銘本物の王たちの化身、終焉の獣。

ラフムごとき、歯牙にもかけぬ。

手に持つ螺旋の剣が、杖へと変化した。

一呼吸で終えられた詠唱により、彼の体の周囲にいくつものソウルの結晶塊が浮かぶ。

それらは自動的に近づくラフムへ射出され、撃ちぬき、そして再び彼の周囲に発生する。

彼はそのまま奇跡の詠唱を行い、左手に輝かしい雷が顕れた。

上空に向かって放たれたそれは雷雲を呼び、いくつもの落雷となって大量のラフムを撃墜する。

ファランの不死隊が、神喰らいエルドリッチが、彼の進軍する道を切り開く。

 

向かうはビーストⅡ、ティアマト神の霊核たる頭部。

いつしかドームのように大穴を覆っていた霧は、大穴の壁を延長するように切り立った崖のように上へ伸び、メソポタミアの空が顔を出していた。

その天頂に、火に縁取られた闇色の太陽が昇っていた。

 

決着(終焉)の時は近い。

 

 




もう1話続きます。
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