葉山隼人のようじょな日常 作:ペン豪ジェネラル☆★ZAIMOKU★☆
「隼人ー、また明日ー」
いつものように授業をこなし、優美子たちとの談笑も終えた放課後。
俺は部活に出るため渡り廊下を歩いていた。そろそろ戸部は先に行って後輩への指示出しをしている頃だろう。
コンクリートからリノリウムの床へと足を踏み入れる。その校舎への入口の曲がり角を曲がると肉の塊、もとい誰かとぶつかった。
両者の荷物は散乱し、肉の塊はリノリウムの床に突っ伏している。
こいつは確か……材、材──なんとか君だ。
散らばった教科書やら筆記用具を這いずって拾い集める肉塊の後ろに、俺は目を奪われた。
……漫画だろうか。いやそれにしては本が薄い。文集か?
幼女のイラストが描かれた表紙を手にとって、パラパラとめくる。
──はぁうッ。
こ、こ、こ、これは。
そこに描かれていたのは、幼女がタコかイカか、とにかく軟体生物の触手に全身を弄られるという素晴らしき光景。思わず前屈みになってしまうほどの破壊力だッ。
たまらずしゃがみ込んで、食い入る様に幼女と触手の接触を見つめる。
「は、は、葉山どのっ。それを返してくださらぬか。武士の情け、後生である」
土下座で懇願する彼と俺に、周囲の視線が刺さる。
とりあえずここから離れて彼に詰問、いや尋問しよう。
× × ×
購買の裏に肉塊、もとい彼を引き摺り込む。例の薄い冊子は未だ俺の手の中だ。
「で、君はこれをどこで──」
「ごめんなさいごめんなさい。もう持って来ませんから」
彼にはプライドが無いのだろうか。
教師でも生徒会でも無い俺に対して迷うことなく土下座を選択している。
「いや、そういうことじゃなくて。こ、こ、こ……」
「──ニワトリ?」
土下座から顔だけ上げた彼の弱いツッコミが耳に届く。
こほん。咳払いをひとつ、気を落ち着かせて彼に笑顔を向ける。
「だめじゃないか、こんな本を持ってきては。参考までに聞くけど、こんな本は何処に売ってるんだい」
よしッ、決まった。
あくまで人に優しく。これぞ葉山隼人の在り方だ。
「き、興味……ある、の?」
「無いッ。断じて無いッ。参考までに、と言ったろう」
「ごごご、ごめんなさい」
うん。話が進まないな。ここは交換条件の提示が必要か。
「先生には内緒にしとくから安心してくれ。で、何処で──」
「そそそ、その様なこと、リア充である貴様には関係なかろう」
リア充……だと?
この何も選べない俺を、ただ遠くから幼女を愛でるしか出来ない俺を、リア充だと!?
ふざけるなッ。何も充実なんかしちゃいないんだよッ。
「いいから。どこで手に入れた」
つい俺は、いつに無く低い声を発していた。
後で師匠に聞いた話だが、この時の俺は恐ろしく冷たい声だったそうだ。
「な、夏コミである。もうよいであろ──はぁ!?」
夏コミという場所に行けば、この素晴らしい冊子を購入出来るんだな。
そして目の前に土下座する彼は、その夏コミへの道標なのだッ。
そう考えた時には、もう彼の手を握っていた。
「その夏コミ、俺も連れて行って貰えないかな」
「そ、それは叶えられぬ。我の力を超える願いであるからな」
どういうことだ。もう閉店してしまった店なのか。ならamaz○nでポチるしかないのか。
どうなんだッ!
「な、夏コミとは、夏休みに開催される二次元の祭典であり、即売会の名称なのだっ」
所謂、自費出版というものだのだろう。そしてその内容は、幼女がふんだんに描かれた冊子。
知らなかった。そんな素晴らしい世界があったなんてッ。
気がつけば俺は涙を浮かべ、彼に頭を下げていた。
もう「みんなの葉山隼人」の仮面は剥がれている。そこに居る俺は、ただの探求者でしかない。
「た、頼むッ。その本……貸してくれ」
「ほ、ほむん?」
沈黙が辛い。だが、俺がその夏コミに至る為には彼の協力が必要なのだ。
「まさかお主──隠れオタクか?」
「違う、ただ幼女が好きなだけ……あッ」
しまったッ。
「ほほう、お主、ペドフィリアであったのか」
「違うッ。ただの幼女好きだッ」
「だからそれをね、ペドフィリアと──」
「違う違う違う違う違うッ」
既に俺の優位性は失われていた。
おもむろに立ち上がった彼は、俺を見下している。
「ならば問う。葉山何某、貴様にとって幼女とはなんぞや!」
「知れたことッ、世界の中心だッ」
禅問答の如く快活に答えるも、彼の反応は良くない。
ズレた眼鏡を直し、口角を上げた彼は言い放つ。
「甘い、いや若いな」
「何をッ!?」
否定されて苛立つと同時に、彼の知る真理を求める俺がいる。縋る様に見上げると、彼は柔らかな笑顔で諭してくれた。
「我々にとっての幼女とは、夜空を彩る花火なのだ」
それ程までに美しく素晴らしい、という意味なのだろうか。
「夜空に打ち上げられた花火とは、決して我々凡人では手が届かぬ儚い存在。凡人たる我々はその存在に触れることすら叶わない、ただ輝きを見上げることしか……出来ぬのだ」
人の夢と書いて「儚い」と読む。
つまり幼女である時期は限られていて、我々はそれを、その成長過程を眺めるしか出来ないと。
幼女を愛でるという行為には、その儚さも含有されると。
彼は教えてくれたのだッ。
「し、師匠……」
自然と言葉に出していた。
「隼人殿。幼女の道は厳しいぞい」
「──胸に刻みます」
深く頭を下げる俺に彼、いや師匠は薄い冊子を差し出していた。
「ふっ、ならば我にもう教えることは無い。免許皆伝であるっ」
「し、師匠」
「もう師匠ではない。そう、我々は決──」
目と目が合い、頷き合う。
「ぺっ」
「ペッ」
俺も師匠も、示し合わせたかの如く右の手の平に唾を吹きかける。そしてその手は二人の中央でガシリとぶつかった。
固く握られた互いの手の中、にちゃりと音がした。
「同志よ」
「同志ッ」
固い握手を離した手の平、その間に延びる唾液の糸の煌めきは、今までのどんな汗よりも輝いてみえた。
握手した右手は、しばらく臭かった。
海老名姫菜も反応しないだろうな……この二人には
てか主旨ブレブレ(汗)