女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
もう頑張らなくていいよね……?
明日は日曜日だよ……?
バイトだよ……?
とりあえず書きました
多分誤字脱字多くなります(報告ヨロシク)
ハリネズミ…。
昔、ゲームやら漫画やアニメにまだ興味がなかった頃、親に買い与えられた動物図鑑で見たことがある。
確か『ネズミ』がついているがネズミでは無くモグラの仲間だった気がする。
可愛らしい見た目とは裏腹に昆虫やミミズ、陸貝、両生類、爬虫類を捕食するらしい。しかし、例外もいて果物を食べるものもいる。
意外にも体内に抗毒物質があり、毒蛇も食すことが出来る。
最大の特徴といえる背中の針は、危険を感じると丸くなって全面的に防御するのに使用することから、「全身武器の塊」というキャラクターや「全方位を射撃している図」の比喩としても用いられる。
最後のはまぁ、某サイトの情報だ。あれだなハンターのスティンガーミサイルとか。ってこれわかる人いんのかな。
とりあえず、ネズミではないし音速で飛ばないし最後の切り札でスーパーハリネズミなんかになったりしない。
ひふみ先輩のスマートフォンの画面に映るのは『宗次郎』と名付けられたハリネズミ。あいにく、ハリネズミの種類にはあまり詳しくないのでこのハリネズミの習性などはわからんが、写真を見るに飼い主に似て引っ込み思案というか臆病な性格のようだ。努力値と覚える技によっては育てる楽しみがありそうだが…ってそれはハリマロンの話か。
まぁ、とにかく人間の男でなくてよかったのは幸いである。
……人間だったらマジでどうなってたんだろ。
「なんだ、宗次郎っていうからてっきり彼氏さんかと」
「かれ……し……?」
涼風の言葉に首を傾げるひふみ先輩はスマホを机に置く。
「男の人がいると気が休まらないから……」
え、そうなの?俺の疑問も他所に涼風もひふみ先輩と同意見らしく、首肯する。
「あ、ちょっとわかります。ちょっと緊張しますよね」
あーわかるわー別に好きでなくても他の異性と一緒にいるとか付き合うとかってしんどいよね。
「いや……想像だけど……」
「ごめんなさい。私も想像でした……」
あぁ、俺も想像だった。
気を取り直して宗次郎鑑賞タイムだ。
ひふみ先輩のしなやかな指がスッスッと携帯の画面を滑り、いろんな宗次郎を映し出す。
「可愛いですね」
あれだよ?ひふみ先輩も可愛いけど今回はハリネズミの宗次郎がだよ?という意味を表すように画面を指差しながら言うと
「でしょ」
とひふみ先輩がなにか自慢げに言う。まぁ、ペットは飼い主に似るらしいからね。当たり前だね!
「ハリネズミって懐くんですか?」
「ううん、いつも巣穴に……隠れてる……凄く……臆病……」
可愛くて臆病とかマジでひふみ先輩じゃねぇか。
まぁ、うちのカマクラも誰に似たのか小町にべったりだからな。俺にはエサしかねだりにこない。全く誰に似たんだか。親父か?
「でも…素手で触れるくらいには…慣らしたよ……?」
写るのは宗次郎の背中をつまみ上げるひふみ先輩の画像。
飼育用だから針は痛くないのだろうか。にしても、やわらかそうだな。決して、ひふみ先輩のことじゃないからな!勘違いしないでよね!
そんなことを考えていた次の瞬間である。ある美少女がハリネズミと笑顔でツーショットをしている画像が現れる。
「あ、ひふみ先輩が笑顔…」
涼風がポツリとつぶやくとひふみ先輩は顔を紅潮させポケットから財布を取り出すと英世さんを取り出す。
そして、頭を下げながら涼風に差し出すと震えた声でいう。
「忘れて……」
「お金!?」
「いや…だって…こんな顔…」
何言ってんだこの人。こんな素敵で可愛くてエレガントでスペシャルでCutie Pantherな笑顔を持っているというのに。
「そんな!笑顔も素敵じゃないですか!」
俺が言うよりも早く涼風がセリフを横取りされた上に涼風はなおも続ける。
「だって凄く優しそうでこれなら話しかけやすそうなのに」
言われたひふみ先輩は先ほどとは違った感じで顔を赤らめる。
あぁ、これはおそらく嬉しい時の赤らめ方だ。高校の時、由比ヶ浜とか雪ノ下とかが百合百合してる時となんか似てる。
「……比企谷君もそう思う…?」
「もちろん」
「答えるの早っ!」
いや、何を言っているこの中学生が。
あんな笑顔を見たら即アイドルにプロデュースしちゃうぞ!俺なら童貞を殺すアイドルとして売り込むのに…。そんなことしたらひふみ先輩逃げ出しそうだな。
「じゃあ……」
意を決したかのようなそんな声を出すと、ひふみ先輩はぎこちない笑顔をこちらに向ける。
それを見た俺の顔はどうだったのだろうか。少なくても涼風のように口を開けてポカーンとはしていないだろう。
「う〜〜」
どうやらひふみ先輩に自然な笑顔を作るのは無理そうだ。
俺も無理だし。あ、だけど愛想笑いならできるよ!それもごく自然に!ただし、する相手もいなければする機会もないという。なにこの悲しい境遇。
「無理…」
とうとう本人も口に出しちゃったよ。
無理とか言ってたらその人の周りだけ夏になる男が来ちゃいますよ。
できるできるとうるさい男が。
ウィンブルドンに夢を馳せていると涼風がうーん、うーんと女の子らしい唸り声をあげる。
「じゃあ……私を見ずに宗次郎君を見ましょう!スマイル〜スマイル〜」
「スマイル……」
それでもひふみ先輩には難しいらしく、涼風が頬をつりあげる。
それをたまたまやってきた八神さんに見られたのは別の話。
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昼休みも終わり、はじめ先輩が差し入れで買ってきてくれたMAXコーヒーを飲みながら仕事を進めていく。
やはり、疲れた脳には糖分。特にMAXコーヒーが一番だぜ。
マジでこれ全国の会社と学校で販売するべきだろ。
「よし…」
八神さんに頼まれた最後の敵役の微調整を終わらせると急に力が抜けてきた。さて、俺もこれでいいか確認に行くか。ゆん先輩でもいいが、全部終わったら八神さんの所に行くように言われたからなー。
「うーむ……」
360°のあらゆる方向から俺の作った敵キャラを見る八神さんはプロの目つきそのもので俺が見られているようでなんだか緊張する。
「OK!じゃあ次は一体キャラデザお願いね」
や っ た ぜ
OKとかこれで俺の仕事はとりあえず終わりってことだろ。
……は?キャラデザ?
「……?」
俺が機能停止に陥ったように首を捻ると、八神さんも首を傾げる。
「今からですか?」
「今からだよ。はい、仕様書」
軽く手渡されたその紙には紙本来の薄さや軽さ白さ以外の何か感じる。あれか、この箱の中には世界の希望と絶望の両方が詰まってる的な。
自分の席に座るなり、そのパンドラの箱とも呼べる紙に書かれた内容をまじまじと見てみる。
要約すると敵だけどたまに味方についてくれるやつらしい。
なんだよ、めちゃくちゃ心躍るじゃねぇか。
「なんや、比企谷君もキャラデザやるんか?」
不意に声をかけられビクッとしてしまった。
あれですよ?女子の何気ない言動や行動は多くの男子を勘違いさせ、結果、死地に送り込むことになるんですよ?
「ボディタッチはしない」、「忘れ物をしても物を借りない」、「むやみに男子の席に座らない」「後ろから声をかけない」
以上のことに気をつけてくださいねゆん先輩。
「えぇ。……もしかしてゆん先輩もやるんですか?」
「いや、うちやなくて青葉ちゃんがやるんや」
へー。と思いながら涼風を見るとあちらはあちらで紙をじーっと見つめている。
「どんなキャラなの?」
はじめ先輩が尋ねると涼風は読み上げていく。
「えっと、『サーカス団に入団したばかりの18歳の女の子』『明るい色の髪のツインテールが特徴。真面目で元気だが少し天然なところがある』」
そこまで呼び上げると涼風は「あれ?どこかで……」とつぶやくが、聞いていた俺達3人の意見はおそらく一致している。
(青葉ちゃんのことやん)(青葉ちゃんのことじゃん)(お前じゃねぇか)
そんな思いも届かず、本人は理解せぬまま読み進める。
「『主人公一行を次のダンジョンへ案内する途中に…』盗賊に襲われて死んじゃうみたいです」
「難儀やなぁ…」
ホントに難儀だな…自分の作るキャラが死ぬとか。
俺も少し不安になって見てみるが…
「八幡のは?」
「え、あぁ…」
言ってしまっていいのだろうか…これ結構なネタバレな気がするんだが…。
「『主人公一行を襲う盗賊のリーダー、18歳。』『暗めの緑の髪とボサボサで真ん中にぴょこんと跳ねたくせ毛が特徴。目が細く、言動がひねくれている』……ん?誰だよこいつ」
「「「お前だよ」」」
どうやら、満場一致でこのキャラは俺らしい。おかしいな盗賊もしてないし髪も黒いのに。
「八幡が青葉ちゃんを襲うのか……」
「ほんま難儀やなぁ……」
あんたら先輩2人は何言ってんだ。そんなことあるわけないだろ。
涼風もこっちを遠慮がちに見るな。襲わねぇよバカ。
ひと段落して全員それぞれの仕事に戻る。俺はふと言わなかった設定に目を落とす。
『2度に渡り主人公達と戦う。1度目は主人公達を追い詰めるが2度目は強くなった主人公達に敗北する』
『3度目の対決に挑むが、ある洞窟で主人公とサーカス団の女の子を守るのに協力する』
『ルートによってこのキャラかサーカス団の女の子が死亡する』
……つまり、俺は踏み台ということである。
しかし、俺の戦い方によっては涼風のキャラが生きるというわけか。
まぁ、誰かのために死ねるというのならそれはそれで良いことなのであろう。
本当に難儀だなぁ。
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コレジャナイコレジャナイ。
これは俺じゃないというのに、周りに「お前だよ」とか言われたせいで何故か妙に意識してしまう。だが、こんなところで止まっているわけにはいかないらしく。はじめ先輩曰く、時々だがコンペがあるらしくそれの練習と思って気楽にやればいいと言われたが。むしろ、プレッシャーである。
「……どう?」
ひふみ先輩が心配になったのか珍しくあちらから声をかけてくれる。
まぁ、いつもかけてくれるんだが直接は珍しいということである。
「まだまだですね」
とりあえず書いたイラストを見せるとひふみ先輩は眉を寄せる。
「うん、まだまだだね」
キッパリと言われてしまった。
「なんかこれだ!ってのが書けなくてですね…」
「……わからなくもないけど、書かなきゃダメ」
それはわかっている。だが、書けないのだ。手は動くし、紙もある。
そして、キャラクターとしての設定も充分にある。
なのに、手は思うように動かないし、インスピレーションは湧いてこない。聞けば、八神さんは俺の年でメインをやっていたという。
それに劣等感を感じてはいない。純粋にすごいと思った。あの人は才能がある。でも、ただあるだけではない。あの人はその才能を延ばしてきたのだ。おそらく、メインを張るには才能だけでなく、相当な努力が必要だろう。それに、他の先輩からの圧力もあっただろう。それでも、キャラクターを書いたのだ。メインの、ゲームのパッケージを飾るキャラクター達を。
そうだ、俺とあの人は違うのだ。
いつもそうだ。憧れた人はいつも俺とは違う場所にいる。
生まれた世界は同じなのに持っているものは違う。
人間は生まれながらに平等ではないのだ。
それでも、それでも。
俺は自分のキャラクターを作りたい。俺のキャラを見て誰もがかっこいいと思って良いとか嬉しい言葉を漏らしてくれるようなそんなキャラを。
書くんじゃない。描くんだ。
「えっと、ごめんね……でも」
「いや、大丈夫です」
申し訳なさそうな顔をしたひふみ先輩に俺は優しく微笑んでいた。
いつものぎこちない笑顔でもなく、愛想笑いでもない。
俺に描くきっかけを与えてくれたこの人にそんな無粋な笑顔は向けられない。
「このキャラができたら、また今度ご飯でも行きましょう」
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それから俺は3日もかかってしまったが自分のキャラを完成させた。
キャラを作るにあたってどんな動きをするか、盗賊の前は何をしていたのか、など自分で勝手にキャラの想像を広げて「これだ!」と言えるものを描きあげた。
もし、この作品のパッケージに出ても恥ずかしくない。むしろ誇らしいものを。
黒に近い緑色の髪の色で寝癖のようなボサボサな髪型の真ん中にアンテナのようなこれまたくせ毛が立ち、目は腐っており口はへの字になっている。服装は青と黒をベースにアクセントカラーに靴とてぶくろに赤を加えている。
「うん、いいんじゃないかな。名前は考えてきた?」
八神さんに見せると意外にも即OKがもらえた。まぁ、ゆん先輩やひふみ先輩にも即OKをもらえたから少し期待していたが。
名前は掘り下げる時に考えはしたが。正直俺には合わない気がする。でも、こいつは俺であって俺じゃないのだ。まぁ、理想の俺ではあるが。
「レラジェ……ですかね」
「レラジェ?…ふーん」
八神さんは俺とレラジェを見比べ優しく微笑む。
「OK。じゃ、これで通しておくよ。今日はもういいから明日からモデリング作業お願いね」
「うっす」
自分の
レラジェ。
俺が好きなソロモン72柱の神の1人の名前だ。
狩人で敵を腐敗させるという伝説がある。しかし、俺のは盗賊で腐敗しているが。
八神さんは気付いたのだろうか。こいつの武器は仕様書では剣なのだが弓になっていることを。
……まぁ怖くて弓と剣の両方を持ってるんですけどね。