女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
人の趣味とは人それぞれだ。
俺のように人間観察が趣味のやつもいれば、乗馬やらカラオケ、料理鑑賞、テニス、ドライブ、原稿執筆とかも本人らが趣味といえばそれは趣味なのだ。
俺はどんな趣味も否定したりしない。それは自分の趣味も否定することに繋がる。……だから、全然否定したりしない。自分のこれまでの生き方も行動も。後悔はしても否定はしない。したくない…。
してはいけない。否定してはいけない。今のこの状況を受け入れ、肯定しなければいけない。
肌が茶色に焼けていて、綺麗な黒髪を長く伸ばし、ぱちっとしていて尚且つキリッとした目の女性にモデルガンを突きつけられているこの状況を。
どうしてこうなった。
「さすがのあなたでもこの間合いならよけれませんね」
「……降参です。うみこさん」
俺は持っていたロングライフル(モデルガン)を地面に置いて手を上げる。するとうみこさんはふっと微笑んで突きつけていた銃を引く。
暇なはずだった休日。イレギュラーな平日休み。こういう日は何をすればいいかわからなくて困る。土日なら朝方はアニメがやってるし録り溜めたアニメを見ることが出来るが、平日だと中途半端にしか消化できないのだ。誰かに「ねぇ、次は何をすればいい?」とか聞いてしまいそうになる。まぁ、聞く相手がいないのが現実なのだが。
日程表を見てため息をついていたそんな時だった。最近知り合った人にサバゲーに誘われたのは。
きっかけは涼風が重要NPCを作っていた時のことだ。俺はその時は少し休憩していながらコーヒーを飲んでいた。なにやら、涼風がエラーを出しまくっていたらしく、それの注意にプログラムチームの人がわざわざこちらまで来たのだ。
まぁ、ミスに気づいていなかった八神さんがモデルガンで撃たれて、それに涼風とひふみ先輩が驚いている中、俺は目を見開いていた。
涼風と八神さんに数点注意するとグラフィッカーのブースをあとにしようとするがちょうど俺と目が合う。
「……阿波根うみこといいます」
「比企谷八幡っす…変わった苗字ですね」
「沖縄出身なので。でも、「うみこ」と呼んでください。いいですね?」
そんなに鬼気迫る顔で言わなくても…まぁ、本人が呼んでくださいと言ってるし、別にいいよね?
「わ、わかりました」
それが俺とうみこさんとのファーストコンタクトというやつだ。
それだけでもう特に何もないはずだった。ただの社交辞令の挨拶。それだけで終わりだと思っていたのだが、人生とはやはりよくわからないものだ。
うみこさんは涼風に言いすぎたと思ったのかしばらくするとまたこちらのブースに来たのだ。その時、うみこさんが涼風に渡したものが俺の目にとまった。
「私の宝物のひとつなんですが、ぜひ受け取って頂けると嬉しいです」
「え!?そんな、悪いのは私ですし申し訳ないです!」
「いえ、数個持っている物なので気にしないでください。どうぞ」
うみこさんの開かれた右手から出てきたのは先端に穴が空いた小さな筒のようなもの。普通の人から見れば何かよくわからないものだが、中学時代にサバゲーやらミリタリーをかじっていた俺にはわかる。
案の定もらった涼風は「な…なに、これ…」と言いたげな顔だ。それを見て俺は自然に口を開いていた。
「弾丸の薬莢だろ。ほら、マシンガンとか撃ったら出てくる抜け殻みたいなの」
その説明でわかったのかはよくわからんが涼風は「へー」と興味深そうに薬莢を見ている。しかし、涼風よりも興味を示したのはうみこさんだった。しかも、薬莢でも涼風でもなく俺に興味を示したようだ。
「…!! よくご存知ですね。沖縄のアメリカの兵隊さんにいただいたもので貴重ってほどでもないんですが、火薬の香りも少し残っていて興奮してしまいます」
な、なるほど…確かに沖縄なら自衛隊やらアメリカ軍基地やらもあるからあってもおかしくはない気がする。てか、たくさん持ってるってどんだけもらったんだよ。
「私のデスクに他にもいろいろあるので興味があれば是非いらしてください。といっても本物の銃は持ってないですが」
「持ってたら犯罪ですよ」
涼風の意見は最もだ。だが、男の子としては是非とも見てみたい。
まぁ、俺は散弾銃やらスナイパーライフルよりもリボルバーやらマグナムの方が好きだったりする。……次元大介かっこいいよね。
「そういえば、比企谷さんは何故これが薬莢だと?」
「あぁ、昔にちょっとそのへんのジャンルをかじってたことがあって…」
言うとバッとうみこさんが俺に1歩詰め寄ってくる。近い近い!しかも、なんかさっきと違って怖いっていうより新しいものを興味深そうに見る女の子の表情してて、目を逸らしてしまう。
「では、もしかしてサバゲーなども?」
「えぇ、中2の夏休みにしょっちゅう行ってました」
仲間はいなかった。ずっとバトルロワイヤルしてたよ……味方は自分だけなのはいつものことだから慣れていたからやりやすかった。チーム戦は……うん。
「なら、今度サバゲーに参加しませんか!?」
「え、でも、俺の次の休み平日…」
「それは偶然ですね、私も平日です。ちなみに何曜日ですか?」
「えっと……」
と、涼風をほったらかしてそのまま話は進んで今に至るというわけだ。断ろうと思ったのだが、結局暇だし別にそういうのも悪くないと思ったのだ。
「それにしても比企谷さんは避けたり隠れたりするのが上手ですね。見つけるのに手間取ってしまいました」
まさかステルスヒッキーが褒められる日が来るとは思わなかった。高校時代はどこにいるかわからなくて困るだの、存在感を消すのだけは得意だものね、とか言われてきたからな。
「いや、そんなことないですよ」
「謙遜なさらなくても今までやった人の中で一番時間がかかってしまいました」
「それは相手が隠れたり逃げたりしなかったからじゃないですかね…」
「いえ、逃げるのも戦略です。逃げずに立ち向かうのは立派といえば立派ではありますが、逃げたり隠れたりして勝利を掴もうとする方が私は好きです」
まぁ、勝てばよかろうなのだ主義はわからないこともない。いや、この人の場合は自分の個性をうまく活かしている人の方が好きという解釈の方が正しそうだな。
……そういえば、なんかのアニメで言ってたな。生きるための逃げはありです。ありありです……だとかなんとか。
「さて、もう1戦いきましょうか」
「まだやるんすか…まぁ、今度は本気でやりますよ」
「おや、さっきは本気ではなかったのですか?それは楽しみです」
いやいやただの負け惜しみってやつですよ。そんな生意気なことを言うとうみこさんは楽しそうに笑ってくれた。まぁ、俺はライフルよりマグナムの方が使い慣れているのは事実だからあながち間違いじゃないんだけどな。
こうして俺の平日休みはいつもより楽しく、そして他の人にとっては当たり前のように過ぎていった。