女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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どうでもいい情報が本編のあとにあとがきにあるのでどうぞ

あと観察眼の持ち主同士の会話ってよくわかんないよね


夏だ!海か!?いや!コミケだ!

 

人には生きていく中で運命があり、生まれ持った宿命があるという。

そんなのは幻想だ。運命も奇跡も魔法も俺は信じない。信じられるのは自分だけ。いつもそうだ。何事においても最後は自分なのだ。決めるのは自分。他人に流されて選ぶと言っても、選んだのは自分だ。

 

友人も受験も恋人も仕事も、全部自分が決めるのだ。運命ではない。そうなる運命だった?赤い糸で結ばれていた?そんなわけない。

それは運命ではない、宿命だ。人間が生まれ持って与えられた使命ともいえる。というか、運命より宿命の方がなんかかっこいいだろ?

 

つまり、俺が夏休み最終日にコミケに行くのも宿命。はっきりわかんだね。

 

俺の僅かな夏休みも終盤。

夏休みとは休むためにあり、その過ごし方は人それぞれである。睡眠をとる、運動してリフレッシュ、誰かと過ごすのもよし。本人が仕事から離れて気持ちを切り替えることが大切なのだ。

逆にいえば、休みが終わればまた仕事に向けて気持ちを切り替えなければならないのだが、それは今は置いておこう。

 

今はそんなことより。

俺を見つけて急いで駆けてくる美少女のエスコートをするとしよう。

長い髪を水色のシュシュで束ねて、ラフな上着に短めの赤いスカート、さらに黒のオーバーソックスという服装は俺や童貞を殺しにきている。これは青眼の白龍好きな社長さんもふつくしい……と漏らすレベル。

 

「……おま…たせ」

 

全然待ってなどいない。この程度待つとは言わない。心の準備、そう!俺が待ってもらっていたのだ!俺はそんな童貞丸出しな表情を出さぬように心がけて淡白にいう。

 

「全然待ってませんよ、じゃ、行きましょうか」

 

「…うん」

 

夏といえば海やプール開き、夏祭りに旅行やら色々あるだろうが、俺にとっての夏のビッグイベントとはやはり夏のコミックマーケットである。公式の出す本気グッズ、限定品、同人作家による薄い本やアンソロジーや、いわばオタクのオタクのためのイベントと言える。

 

コミックマーケットと聞くと「え、マンガの即売会じゃないの?」となる人がいるのかいないのかは知らんが、以前まではそうだった。しかし、時の流れとは現代に新しい風を吹かせる。人々はそれを黄金の風と呼ぶらしいが知らんからいい。

 

現代のコミックマーケットはコスプレイヤーにとっては自分達のコスプレ力を見せつける場でもある。コスプレには大まかにガチ、ネタ、旬、定番などのジャンルがあり、コミケに参加する人々の中には同人誌や限定グッズよりもコスプレを楽しみに来ている人も現れるくらいだ。

 

このコミケでどれだけウケるか、キャラになりきれるかでTwitterのフォロワー数や今後の活動に大きく関わってくるため、コミックマーケットはコスプレイヤーには「コミケ夏の陣、冬の陣」といわれていたりなかったりする。

 

そして、『コミケ 夏の陣』に今回出陣することになった俺は現在ひふみ先輩から渡されたアタッシュケースを持って電車に揺られている。

集合場所は会社の駅前がお互いに近かったのでそこで待ち合わせ、そのまま電車に乗るのだ。この駅は会場から離れているのだが、近付けば近付くほど電車の中には人が入り込んでくる。

 

まぁ、別に俺とひふみ先輩は座っているから問題ないのだが。だが、この状況で立っていたら人混みに紛れて痴漢するヤツとか俺を痴漢呼ばわりする人間などが現れるかもしれない。そういう意味ではあの集合場所は大正解だったと言える。

 

にしても、全く会話がない。もともと無口なのはお互い様だからいいのだが、ただのモテない男なら無理やり会話を紡ごうとするのだろうが、プロのぼっちの俺は一味違う。相手が話して欲しそうな顔をすれば会話を、携帯を触っていたり窓の外を見ていれば俺も同じようにするのがベスト。まさに完璧。もう人類全員がぼっちになればいいのに。でも、顔色ばかり窺うのもなんだか気が引けるがこれが俺の最善策なので仕方がない。

 

気付かれないようにひふみ先輩の様子を窺うが、携帯も触っておらず窓の外も見ていない。車内の広告でも見てるのかと思えば、見られているのは俺だった。

 

 

「……比企谷…君……」

 

「……なんでしょう」

 

「面白い…話……して……」

 

「面白い話…ですか」

 

……ひふみ先輩笑わないじゃないですか。そんなセリフが飛び出そうになったが押し殺す。いや、まぁ、事実なんだけどね。

『ただのぼっちと笑わない針鼠』っていう新刊の同人誌が書けるくらい笑わない。いや、ペットの前では笑うのか。あ、そういえば、かまくらの写真見せても笑ってたような。よし、これだな。

 

 

「うちの猫の話なんですけどね、俺が高校2年の夏休み……まぁだいたい今の季節頃の話ですよ。知り合いが旅行に行くとかでペットの犬を預かって欲しいと妹が頼まれまして。それで預かったんですが、うちのかまくらが無愛想で、だけど預かったサブレ…あ、預かった犬は『サブレ』って言うんです。で、サブレはかまくらと仲良くしたいわけでして。それで2匹の追いかけっこが始まりました」

 

そこで一旦話を切って、ひふみ先輩の反応を窺う。

見ればえらく真剣な顔をされていた。

 

「……それで……?」

 

あ、これはクリーンヒットですね。まるでコーヒーゼリーに食いつく斉木君のようだ。これは多分面白くなくてもいいやつかもしれない。とりあえずこの調子で続けてみよう。

 

「うちのかまくらは家の地形に慣れているので冷蔵庫の上に逃げ込んだのですが、サブレは上がれないから素直に諦めたんですよ。まぁ、それでもかまくらが降りてきたらサブレが追いかけに行くんです。そんなのが毎日続きました」

 

「ま……毎日……」

 

「で、ある日に妹に携帯のアプリで『イヌリンガル』っていう犬の言葉の翻訳アプリを入れてくれと言われまして、入れたんですよ。その後すぐにサブレに向けてみたらずっと『遊んで!遊んで!』しか言わなくて、妹が『それ壊れてるんじゃないの?』って言うんで俺がゔぁう!ゔぁう!って吠えたら『働きたくないでござる!』って通訳されました」

 

「……そうなんだ…」

 

あれ、おかしいな。さっきより表情が暗い。結構面白いと思ったんだが、俺よりかまくらとサブレの話の方がいいのだろうか。

 

「……で、ですね!まぁ、知り合いが旅行から帰ってきてサブレを引き取りに来たんですが、一週間くらいいたんで俺に懐いちゃって。なかなか離れなかったんですよ。で、飼い主に返したらクゥーンって鳴くんでイヌリンガル使ってみたら『この人だれー?』って」

 

「プッ!!……あっ」

 

うむ…これは予想以上期待以上の反応だ。ひふみ先輩が口を抑えて吹き出すなんてめったに見れるもんじゃない。ぜひとも写真か動画にして全国にアップしたいくらいだ。

 

「……えっと、あの……その…サブレ………可愛いね……」

 

そのさっきの笑いを誤魔化すかのような言い方、絶望的に可愛いぜ!

てか、誰か。俺の代わりに可愛いのはあんただよ。って言ってくれないだろうか。

 

 

 

###

 

 

ひふみ先輩の珍しい笑顔を見れたことだし元気が出てきた。

会場についた俺達は早速着替えに向かうのだが。

 

「あの、ひふみ先輩」

 

「……?」

 

「どこで着替えれば…?」

 

尋ねるとスッと人差し指をある方向に指す。どうやら、更衣所があるようだ。ありがたい。

 

「じゃ、後で…」

 

「…うん……」

 

なんだよ、この感じ。ラブホに始めてきたカップルかよ。いや、知らねぇよ。って!何自分で自問自答してんだよ。っていつもしてるな。うん。

 

中に入ろうと扉を開けるといきなり予想外のモノがすれ違う。立ち止まって道を開けて、呆然と眺めてみると9人の戦士達だった。まさにあの体格は全員ナッパかゴリラ。全員髪の色は違うのに体格と衣装は同じだ……あれが噂に聞くゴリライブ……

 

気を取り直して中に進むと思ったより、混んでおらず場所もあったが、これは覚えてないとマズイな。それに貴重品もあるし…てか、ここに来るまでに衣装も見てなかったな。

 

『一緒にコミケにコスプレで参加してくれないかなっ?晩御飯代もだすから(>人<;)』

 

っていうメールを見て2秒で

 

『行きます(๑•̀ㅂ•́)و✧』

 

って返信したから内容までは聞いていないのだ。

 

パカッと箱を開けるとそれはパンドラの箱だった。災厄と希望の箱、この箱の中には人類の希望と絶望、両方が詰まっているそんな箱だった。入っていたのは厨二病全開衣装と剣と頭髪の指示書だ。うん、これもフェアリーズストーリーのキャラなんだろうな。なにか、わからんけど。さらに銀髪のカツラと鏡も入っていた。

 

まぁ、なんのキャラかは検討はついた。1の敵キャラにして最恐キャラ。その名も『ディストピア』どうでもいいが、言うと人気投票1位。最恐キャラと言われるのはモンハンで例えるならミラバルカン、ポケモンで言うとガブリアスくらいの強さやつだからだ。実を言うとラスボスよりも強かったりする。そんなやつだ。しかし、炎系魔法で連打しながら回復してたら倒せたりする。

 

こんなキャラを俺がやって大丈夫なのかと思ったが、ひふみ先輩のためだ少しは頑張ろう。

着替えて髪を整えて剣を背中に背負い込むと、鏡で確認する。よしっ、前髪セットおっけー!いっくよー!あ、ちょっと待ってもっと眺めてたーい。いや、そんなことしてたらひふみ先輩を待たせることになる。

そう思って更衣室を出ると、広場は大盛況だった。さらにその盛況は俺の登場でさらに膨れ上がる。なんで?人混みの群れが道を作る。その道の先にいたのは…

 

「待っていた…!」

 

同じく1の最恐キャラ『ユートピア』人気投票女キャラ部門1位に扮したノリノリなひふみ先輩だった。いつもの小さく無表情な声ではなく、その声は強く、そのキャラのような覇気がある。……これは俺も本気で行かねばならんようだな。

 

「……フッ、待たせたな。我が友!我が宿命!」

 

俺がそのセリフを口にすると『ウォォォォ!!!』と歓声と拍手が上がる。

 

「あの、二人並んで貰っていいですか!」

 

「よかろう…… 」

 

俺はマントを翻すとそれだけでも歓声に似た悲鳴が上がる。ひふみ先輩の隣に立つとカシャカシャとシャッター音が無数に鳴り響く。フェアリーズストーリーってこんなに人気なんだな。知ってたけど。

 

しばらくシャッターの波に当てられたり、突然湧いてきた役者心でポーズを取って遊んでいたりするとそれも写真に撮られ、それが終わると近くのベンチに腰掛ける。

 

「ディストピア…」

 

ユートピアに渡されたものは冷たく見てみるとパピコのようだ。ありがたく飲んでいるとあることに気づく。

ひふみ先輩ってコスプレしてる時は人目とか気にしないんだな…

 

この場面も写真に撮られているのかと不安になるがまあいいか。

 

「あ、見てあおっち!あれユートピアとディストピアのコスプレだよ!」

 

「ほんとだ!」

 

「「!?」」

 

声がするほうを恐る恐る見ると、予想通り回避不能、俺とひふみ先輩と同じ会社に務める涼風とその友達の桜だった。

 

「な……な……!」

 

ひふみ先輩は突然の出来事に戸惑い、硬直している。先ほどまで量を減らしていたパピコも今はただ溶けるだけである。

ここは俺がなんとかするしかないようだ。

 

俺はパピコを天高く放り投げると、剣を抜刀しゲームの必殺モーション通りの動きをすると2人は「おお〜!」と感嘆の声を上げて写真を撮り始める。とりあえず、先ほど要望のあったポーズやらは全て取って相手を満足させる。

 

……が。

 

「あの、ディストピアさんと並んで貰っていいですか…?」

 

涼風が遠慮がちに言うとひふみ先輩はピクッと硬直状態が解除され、現実に引き戻される。顔を下げたままゆっくり立ち上がって俺のところに来ると、見えないように俺の裾を引っ張る。……これは非常体制の合図。

 

一枚パシャッとシャッター音が鳴ったのを合図に俺達は走り出す。

更衣室という名の幻想郷へ。

 

「はぁ……はぁ……まぁ、ここまでくればこっちのもんですよ」

 

「……う……ん……」

 

お互いに走って逃げてきたから息を弾ませており、夏の炎天下の中での全力疾走だったため汗を拭っている。あんな無様な最恐キャラは見せたくなかった。

 

「……ねぇ……比企谷……君」

 

ユートピアさんは息が整ったのか俺の名を呼ぶ。振り向けばそこには笑顔のひふみ先輩がいた。その笑顔にドキッとしているとひふみ先輩が口を開く。

 

「今日は……ありがと……」

 

「全然…いいっすよ……俺も楽しかったですし」

 

これは良いムードなのではないだろうか。普通の男子がこれで告れば必ず付き合えると言った状況だ。いや、告白はダメだな。多分、振られるのがいつものオチだ。ぼっちは振られるたびに強くなる。なんだよ、この種族。泣きたくなるわ。

 

「あぁっー!みつけたぁぁーー!」

 

「「!?」」

 

「あおっち!いたよー!」

 

「待ってよ〜ねねっち〜!」

 

チッ、これはまるで追い詰められたルパン三世の気分だ。ここをどう切り抜けるか。……そういえば2人はまだ子供みたいなもんだったな!よし。

 

俺はバッとひふみ先輩…ユートピアの方に振り向くとなるべく優しく抱き寄せる。そこにちょうど涼風がやってきてそれを見た2人は「「ひゃっ!?」」とみてはいけないものを見てしまったような声を出すと「「ごめんなさいー!!」」とどこかへ走り去って行った。

 

「行きましたよ…大丈夫です…」

 

か?…と続けようとしたのだが抱き寄せたことに気づき、手を離して1歩下がる。

 

「すみません……急に……」

 

恥ずかしさと申し訳なさで一杯になっていると、不意に手を握られる。

 

「……冬も……一緒に……来て……くれたら…いい……よ……」

 

そう言う顔はいつもより赤く、汗をかいていて服が透けていて下着が露わになっている。そんなひふみ先輩を直視できるはずもなく、俺は顔を逸らして言う。

 

「……そういうことなら」

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにだが、その後着替えてからも涼風達から逃げてとても疲れて晩御飯はまた後日ということになった。





【あくまで作者のオリ設定です】
フェアリーズストーリーは主人公は人間ですが、妖精の話
なので精霊もいるわけで『死の精霊』というのが1のラスボスとします。

彼らはそれぞれ別の場所、ユートピアは荒れ果てたスラム地、ディストピアは平和な国で生まれます。ユートピアは希望を、ディストピアは絶望を持って育ち、それぞれの目標達成のために故郷を離れます。
ユートピアとディストピア世界を良くするために動き、己を磨いて強くなります。途中で2人は出会い、それぞれの理想の違いに反発しますが、最終的な目的は一緒なので協力関係を築きます。さらにその後、旅に出たばかりの主人公に会って自分達の目的を再確認して、世界の乱れの元凶を倒すことを決意します。
ついに2人は死の精霊と対決。だが、圧倒的な力の差で敗北しますが、死の精霊に認められ一度殺されてそれぞれの目標達成のための力を与えられます。が、闇堕ちします。

そして、主人公達が死の精霊に辿り着く前に敵として現れます。

「待っていた……!!」

「……フッ!待たせたな。我が友!我が宿命!今ここで!貴様らの命!絶やしてくれる!」



イメージとしてはディストピアは銀髪、赤眼の少年。CVイメージは緑川光さん。ユートピアは黒髪ロング、肌は白くひふみ先輩そのもの。CVイメージは喜多村英梨さん。
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