女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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感想欄が賑わってきて返信が大変だぜ……前に返さないとか言ったけど、適当に返してます(何人か返してない人はいるけど、その人達はすまない……)


ちなみにタイトルは孤独のグルメのをアーチャーの詠唱に合わせてみました


心は製鉄所で、胃は溶鉱炉。

 

 

2日間の休みの終わりを告げるかのように、休み明けに出勤した朝。

俺の机にはびっくりするくらいにたくさんの仕様書が積まれていた。それにその上にはご丁寧に八神さん直筆のメモ書きまで置いてあった。

 

 

『1週間で仕上げてね~ by コウ』

 

 

最初見た時な殺意を覚えたものだ。この量を1人で?はい?と思ったが2日も経てば…あれ?楽勝じゃねとか思えてきた。

 

 

とある都内のビルの5階にあるイーグルジャンプは今日も大忙し。特に2日も休んでいた俺は尚更だろう。もちろん、会社から指定された休日である。

しかし、休みが開ければたくさん仕事が用意されてる始末。こんなはずじゃないのにー!

 

 

余裕だと思って調子に乗っていたがなかなか無くならない紙の山に泣きそうになりながらも、仕様書を一つ一つ丁寧に処理していく。やってもやっても、山は崩れることなく、むしろ増えている気がする。

どうやら、俺がいない間に積まれていっているらしい。

別に、モデリング作業なら散々やったから出来るしいいんだよ。

そう、出来る~出来る~君なら出来る~と熱いあの人が応援してくれてる気がする。気がするだけで実際そうじゃないんだけどね。頼めば意外にしてくれそうだな。

 

 

「ふげ~疲れた~」

 

 

人が集中してパソコンに向かってる時に変な声を出しやがって。そう思って涼風の方を見ると積まれたプリントを見て「へへ」と笑顔を浮かべていた。とうとう末期症状でも現れたのか…。

 

 

「青葉ちゃんたくさん描いたなぁ」

 

 

「はい、気づいたらこんなに…溜まるものですね」

 

 

溜まってるだけでナニを想像するかはその人次第だが、涼風の溜まってるものというのはキャラクターデザインのことである。真面目にやってきたおかげでキャラがこんなに増えちゃった。本人は気にしてないけど、胸とか身長も増えればいいのにね。そしたら、中学生に間違われなくて済むのに。

 

 

「八幡は、どのキャラが好きなの?」

 

 

涼風の可哀想……もとい幼くて可愛いらしい姿を想像していたら、不意にご本人に声をかけられた。焦ってキョドりそうになったが、そこは幾千の戦いを乗り越え腐敗してきた俺には平常心を保つくらいどうってことない。て、腐敗してんのかよ。

 

 

「まぁ、やっぱり自分で作ったやつだな」

 

 

勘のいいガキは嫌い系博士は葉月さんにも好評で『犬とかレッツ混ぜ混ぜしてみようか!』とか言ってた。シャレにならないからやめとけと言っておいたが…しそうだなぁ……。

 

 

今頃、仕様変更を申しに行ったらデコピンでも喰らってそうな人のことを考えていると、はじめさんが首を傾げながら言う。

 

 

「そういえば、青葉ちゃんっていつから八幡のこと名前呼びになったの?」

 

 

「あ、最近ですよ。みんな呼んでるのに自分だけ苗字って堅苦しいかなーって」

 

 

「確かに同い年やしな。でも、八幡は青葉ちゃんのこと苗字呼びやんな?」

 

 

「はい。俺は同い年だから下の名前で呼ぶとかないんで」

 

 

なんなら、高校の知り合いも全員苗字呼びである。先輩で呼んでる人はいるが、陽乃さんくらいだしな。

呼んでくれと言われたら呼ぶかもしれないがおそらくないだろう。ほら、気安く呼ばないでくれる?とか言われたら困るし。

 

 

それ以上は触れまいと話題は変わり、はじめさんが手につけてるボクシンググローブの話になった。俺は聞き耳を立てるだけで会話には入らなかった。だって、手動かしてないとこの仕事終わらないもん。

 

 

「青葉、会議」

 

 

「あ、はい!」

 

 

はじめさんが肩からグローブをかけてカッコつけたり、また手に嵌めて紐をゆん先輩に結んでもらったりしてると奥から八神さんが出てくる。

 

 

「では、行ってきます!」

 

 

「「行ってらっしゃい~」」

 

 

書類を持って元気に挨拶をした涼風は会議室へと向かっていった。涼風がフロアからいなくなるとはじめさんはシャドゥを撃ちながら呟いた。

 

 

「青葉ちゃんってまだ10代でしょ?すごいよね」

 

 

「そやな~」

 

 

「高卒で入社の応募してきたんやもん…私ならそんな勇気でぇへん…」

 

 

「覚悟が違うよね…」

 

 

一応、俺も同い年なのだが涼風と俺は比べられることがない。理由としては、やはり比べる意味が無いことを誰もが分かっているからだ。

俺には涼風のように八神さんのようになりたいという目標もないし、あいつのように『今日も1日がんばるぞい』とポジティブに仕事をする力がない。

俺はただ、与えられた仕事を黙々とこなしているだけなのだ。

 

 

「八幡もすごいよね。1年目でさ、遅れほとんど無かったし、エフェクト班の仕事とかもやっちゃうし」

 

 

まさか俺にも矛先が向くとは思わず、手が止まってしまう。が、すぐにその手を無理やりに動かした。単に少し人より器用なだけだ。絵も指定があれば描けるし、プログラムもマニュアルさえあればできる。それはおそらく、ずっと1人でやってきたから自然に身についたスキルとも言える。

誰に頼ることもなく、飢えることもなく培われたそれなりに仕事をこなすという人から見れば羨まれるかもしれない技能だが、俺としては理由が悲しくて嫌になる。

 

 

「ゲームも順調に面白くなってるし。青葉ちゃん有名になるかもね。いつか、青葉さんって言わないといけないのかな……なんてね、あはは」

 

 

「はじめ最悪。青葉ちゃん真っ直ぐ頑張っとるやろ?バカにしたらあかん」

 

 

「別にそんなつもりじゃ……」

 

 

確かに高卒だから重役になれないという訳は無い。それはうちの会社に限った話ではない。可能性としてはゼロではないのだ。だから、もしかしたら涼風が俺の上司になる時が来るかもしれない。

すごく嫌だけど。

 

 

「でも…3人とも頑張ってると…思うよ?…はじめちゃんはいくつか企画も…通してるし…ゆんちゃんには…女王さまのモデリングお願いすることになる…よ?」

 

 

ひふみリーダーからラスボスのモデリングを託されたゆん先輩は大喜び。それにひふみ先輩からはエールがはじめさんからも「やったじゃん!」と喜びを分かちあっていた。で、俺は?

 

 

「はぁ、頑張っとるとええことあるな~お茶にしよか~」

 

 

「さっそく油断かい」

 

 

「あ、お菓子…あるよ」

 

 

「わ、おおきに~食べよ食べよ~」

 

 

何故だろうか、俺が空気になってる。

いや、空気を吸って吐くだけならそこらへんのエアコンの方が優秀だとか言われた気がする。最近のは空気を読む機能とか付いてるらしいしね。俺は空気清浄機にでもなろうかしら。

 

 

「八幡も……食べない…?」

 

 

食べます食べます。なんなら、お持ち帰りしたい。やな仕事はゴミ箱に捨てちゃお~う。ということで、俺もお茶会に参加。今日も煎餅が美味い!

3人でもぐもぐごくごくしてるとグローブを付けて何も掴めないはじめさんが一言。

 

 

「食べさせて!」

 

 

「やっぱり紐は不便やろ」

 

 

ゆん先輩が優しく餅やら紅茶をはじめさんの口に運ぶ中、俺とひふみ先輩はバリバリと煎餅を咀嚼し続けていた。うぉん、俺達はまるで人間火力発電所だ。

 

 

 

 

###

 

 

煎餅を食べ終えて仕事に戻った頃にピリついた雰囲気で八神さんと涼風が戻ってきたので自然と周りにもそれが伝播した。最も、涼風への配慮への視線がほとんどで誰も何があったとは聞かなかった。

 

 

そして、やっとやってきた昼休み。ずっとパソコンと向かい合っていたから目が疲れたし、何よりあのブースに何か良くないものが取り付いていた気がしたので俺は屋上までやってきた。屋上はいいね、心を穏やかにしてくれる。

 

 

鉄柵に寄りかかっておにぎりを頬張っていると、ガチャりと屋上の扉が開かれる。誰かと思うと八神さんがマッ缶を2本持ってこちらにやってきた。

 

 

「ひふみんに聞いたら多分ここだろうって、はいこれ」

 

 

どうもと言ってマッ缶を受け取るとタブを開く。ひふみ先輩に居場所を尋ねたということは俺に何か用があるのだろうと口を開くのを待つ。

 

 

「……八幡さ、もし、自分を慕ってる後輩と全力で勝負しろって言われたらどうする?」

 

 

突拍子もない質問だが、八神さんには何かしらの意味があるのだろう。さて、自分を慕ってる後輩か……。そんなのいた事ねぇから分かんねぇなおい。先輩を顎で使うのはいたけど。

 

 

八神さんを慕う後輩とは確定で涼風だろう。おそらく、葉月さん辺りに先ほどの会議で涼風と絵で勝負しろとでも言われたのだろう。

 

 

「俺なら、先輩として負けられないから本気で叩き潰しますね」

 

 

俺の答えに八神さんは苦笑する。

 

 

「八幡には無理じゃないかな。多分、なんだかんだ言って手抜きそう」

 

 

確かに多少は加減をするだろう。でも、ほんの少しだ。まぁ、相手が戸塚とか小町なら全力で負けに行く。俺に勝って喜ぶ姿とかみたいじゃない?見たくない?

 

 

「でも、俺は勝てない勝負はしない主義なんで勝てると思わない限りしませんよ」

 

 

「うわぁ、清々しいまでのクズだね」

 

 

うん、自分で言ってて思った。けど、人間そんなもんだろ。だが、時には勝てないと分かってても戦わなければいけないこともある。それが世界の真実だ。

おそらく、涼風からしたら八神さんに挑むということは超サイヤ人4ゴジータに挑むようなものに違いない。

憧れに挑戦できる昂りと勝てる可能性が限りなくないという焦燥。それでもあいつは勝とうと足掻くだろう。それが涼風青葉の往生際の悪さであり、長所だ。

 

 

コーヒーを飲み干して、手で握りつぶそうとしたが……この缶……固いッ!やっぱり、握力落ちてるのかもなーと思いつつ、俺はもたれていた鉄柵から身を起こす。さっきのかっこ悪いところは空を見る八神さんには見られていないらしく、ホッとする。

 

 

「まぁ、どういうわけでそんな質問したのかは知りませんが、八神さんは手を抜かないであげてくださいね」

 

 

ーーーーーじゃないと、もし勝ってもあいつが本気で喜べないから。

 

 

 

「うん、やるからには全力でやるよ」

 

 

強い意志を感じさせる顔でそう言った八神さんとすれ違うように俺は屋上の扉のドアノブに手を伸ばす。そして、扉を開けた時、風と共に八神さんがこちらも向かずに独り言のように呟いた。

 

 

 

「……私が勝ったら何か奢ってよね」

 

その願いは俺に言ったのか、あるいはここにいない涼風か遠山さんに言ったのか。単なる独り言かはわからない。

ただ、もし俺が奢らされることになるなら、涼風には勝ってもらわないとな。





その後


八幡「涼風が勝ったら俺の仕事減らしてください」

コウ「ダメ」


八幡「……さいですか」
(ああああああああ!!!!!ブリュ(自主規制)!!!!)


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