女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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ほとんど地の文になってしまった。まぁ、後半は会話シーンなんだけど。
今回は比較的年長組(それでも26歳っていうね)との絡みが多いです(遠山さんは後書きにちらっと)


比企谷八幡は敗北をも肯定する

日本は平和主義を謳ってる国だが、政治の問題、気が合わない、同族嫌悪やらでわりとどうでもいい事で争ってることが多い。

 

 

昨今の争いでは手は出さないが、相手の個人情報や弱味を逆手にとったりと卑劣極まりない手段で心を蝕んでくる。ネットが社会的にも世間的にも普及してきた代償である。

 

 

争いが無益だと分かっていながらも人は争う愚かな生き物である。そんなに口論がしたいのなら弁護士にでもなればいい。ついでに髪を横分けにすれば気持ち的に多少は良くなるかもしれない。

 

 

まぁ、無益でない清き争いがあるのも事実だ。スポーツとかが顕著だろう。自分と相手の全力のぶつけ合い。それから得られるのは勝利か敗北か。

 

勝利すれば栄光が、賞賛が、名誉と誇りが。

 

敗北してもそれを受け入れ、次に向かう足があればそれはいつか勝利へと繋がるだろう。

 

 

たとえカッコ悪くても、情けなくても。強者に挑む弱者は不細工なものだ。それはそうだ。

なぜなら、一生懸命な時はどんな人もダサくてかっこ悪いのだから。

 

 

 

###

 

 

涼風と八神さんが勝負することになったという話を聞いてから3日が経った。勝負の内容は、今作ってるゲームのキービジュアルをどちらが描くかというものだ。

 

 

今回のゲームのメインイラストレーターは涼風だから、キービジュアルは涼風が担当するのが当然であろう。しかし、会社がそれを良しとしなかった。

 

 

『フェアリーズ・ストーリー』シリーズを手掛けた葉月しずくディレクターと天才イラストレーター八神コウ。その2人がパッケージを飾ることを上層部は望んだのだ。

 

 

それを葉月さんは了承した。遠山さんもゲームを売るためだから仕方が無いと苦い顔をしながらそう言った。だけど、八神さんは真っ向から否定したのだ。このゲームは涼風がいなければ出来なかったと。

 

 

事実だが、それだけでまかり通るほど現実は甘くない。上は決して決定事項を変えることはないと。だから、涼風は八神さんとの勝負を選んだのだそうだ。

 

 

「同席していたのに、何も言えませんでした。……ホント自分が情けないです」

 

 

勝負することになった経緯はプログラマー班のリーダーのうみこさんから聞いた。こちらから聞いた訳では無いのだが、会社から出たところを待ち伏せされていたのだ。そして、そのまま近くの焼き鳥屋に連行された。

 

 

「うみこさんが気にすることじゃないと思いますよ」

 

 

「いえ、ですが…」

 

 

苦虫を噛み潰しめるような顔でうみこさんは否定する。自分にも何か言えることがあったはずだと。

 

 

「…比企谷さんならどうしましたか?」

 

 

「別に何も」

 

 

「……そうですか」

 

 

おそらく、俺も八神さんと涼風を勝負させる案で話を終わらせるだろう。その方が本人達も納得できるだろうし、会社のためになる。

99%、八神さんが勝つだろうが、残りの1%で涼風が勝つかもしれない。

 

 

勝負はいつだって実力とほんの少しの運で決まるのだ。だから、傍観者である俺に出来るのは文字通りただ見るか応援することだけだ。

 

 

「まぁ、こちらとしては涼風に勝ってほしいですね」

 

 

「……え?」

 

 

ポカンと口を開けたうみこさんに対して俺はつくねを人齧りしそれを炭酸飲料で飲み下す。

 

 

「ほら、せっかく頼んだんですし。暗い話はナシにして食べちゃいましょう」

 

 

柄にもない事を言って話を逸らしてまたつくねを口に入れる。音を立てないように咀嚼していると、うみこさんにしては珍しく恐る恐るといった感じで尋ねてきた。

 

 

「なぜ、涼風さんに勝ってほしいのですか?」

 

 

それに俺は堂々と言ってやった。

 

 

「八神さんが勝ったら八神さんに何か奢らなきゃいけないからですよ!」

 

 

どうだ、とばかりに威勢よく言ったがそんなに大したことじゃないし、なんなら自分が損したくないだけじゃないかと思われそうだ。実際、そうなんだけどね。そんな俺の発言にうみこさんは「なるほど」と言いつつ笑っていた。

 

 

###

 

 

キャラデザとイラストの仕事はかなり違う。どう違うかと言うと、キャラデザというのはゲームで動かすキャラの基礎を作っていく。正面を書いたら横、後ろから見た姿も書く。これにより、3Dモデリングができるようになる。

 

 

イラストというのは1枚絵で誰に何を伝えるか、ということである。今回でいえば、このゲームの良さをいかに伝えるか…なのだがキービジュアルが載る雑誌にはゲームの内容が書かれるので「あーこんな感じかー」と解釈させるのが本来の目的かもしれない。

 

 

キービジュアル提出の前日まで俺は涼風に声をかけなかった。お前が負けたら奢らさせるから勝ってねとか変なプレッシャー、もしくは殺意を芽生えさせるわけにはいかなかったので俺は黙ってることにした。自分の仕事もあったからね!

 

 

『青葉ちゃん、大丈夫かな(´・ω・`)』

 

 

『結構進んでますし大丈夫ですよ(⌒ ͜ ⌒)』

 

 

『そうだね!(●´ω`●)』

 

 

涼風を心配するひふみ先輩からのメッセージを返信して仕事に戻る。誰1人として涼風に助言を送らない。最近の会話は挨拶くらいしか聞いていない。それ以外では涼風がパソコンに向かいっきりで話すに話せないのだろう。

 

 

全員が見守ることに決めた。

どんな結果になっても涼風なら大丈夫だろうと。

 

 

 

 

 

 

そしてーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハハハハ!やっぱり勝っちゃったね!」

 

 

 

「ほんと容赦なかったですね…」

 

 

勝ち誇ったような笑みでビールを飲み込む八神さんに俺は悪態をつく。

結果は八神さんの勝利に終わった。おそらく、涼風がどんなものを出してきても八神さんを採用することは決定していたのだろう。まず、8年間の積み上げがあった八神さんにデザイナー2年生の涼風に勝てる要素など無かっただろう。

 

 

「私めちゃくちゃ頑張ったからね。お酒も我慢してずっと描いてたよ」

 

 

「そんなに俺に奢らせたかったんですか…」

 

 

「うん、やっぱり人のお金で焼肉はいいね!」

 

 

そう、八神さんが勝てば何か奢る約束になっていたのだがまさかの焼肉である。貯金も貯まり始めた頃の後輩に焼肉である。食べ放題ではあるが、俺の金と考えるとなんか食欲失せるなこれ。

 

 

「いや~青葉に計画力があれば分からなかったんだけどね」

 

 

「計画力?」

 

 

「そうそう、青葉のやつ自分の絵の描くスピード把握してなかったから下書きと線引きだけで6日使ってそれでちょいちょい付けたししてるから色塗り遅れててさ」

 

 

あー、だから最終日に白黒だったのね。

 

 

「まぁ、あと2、3年くらいしたら化けるかもね」

 

 

「そんなもんすか」

 

 

「そうだよ。てか、八幡もカッコつけて青葉に言ってたじゃん」

 

 

「いや、あれはマンガの受け売りで…」

 

 

「『ここで負けたということがいつか大きな財産になる』……だっけ?あれなんのマンガのセリフ?」

 

 

え、知らないのかよ…。でも、アニメあそこまで行ってないから知らない人は知らないのかもな。

 

 

「ほら、『諦めたら試合終了ですよ』のやつですよ」

 

 

俺が言うと、肉を噛みながら「あ~!あれね!天才バスケットマンのやつね」と指と箸を振る。動作がイマイチ理解できないがなんのマンガかが伝わってよかった。

 

 

「気になってたんですけど、なんで俺が奢らされてるんですか?」

 

 

「え、なんでだろ……」

 

 

そこで考えるのかよ。

 

 

「りんと行くなら自分も払って高いとこ2人で行くし。ひふみんとゆんとはじめはプライベートでご飯は行かないし…阿波根は酔っ払うと面倒だし…青葉は誘ったら来るだろうけど行ったことないなぁ」

 

 

聞いてたら、そうでしょうね。という感想しか出てこなかった。いや、他にも出てきたけど。八神さんってプライベートで食事に行くとかそんなにしないんだな。だいたいわかってたんだけど。

 

 

「そもそも私、プライベートでご飯行くの好きじゃないんだよねー。家でダラダラしながら食べたい時に冷凍食品チンして食べたい」

 

 

うわぁ、この人からなんか平塚先生と同じ匂いが……ん?でも、平塚先生は外食多いよな。わりと男が食べそうなものとか。少し人種が違うのか?

 

 

「だったら、なんで俺とは来るんですか」

 

 

「……まぁ、そういう気分だったんだよ」

 

 

少し間が空いて返ってきた答えがそういう気分ってなんだそれ。

 

 

「…あ、ほら、そこの肉焼けてるよ。お皿出しなよ」

 

 

「あぁ、どうも」

 

 

なんだかはぐらかされた気がするが、肉が美味かったので気にしないことにした。あれだな、争いのあとに残ったのは肉しみだけだったな。ははっ、染みてねぇけど。

 

 

 

 

「よぉし、はちまんかえるどー!」

 

 

「この人、めちゃくちゃ酔っ払ってやがる」

 

 

キービジュアル描いてる間禁酒してたらしいし、たくさん飲むのは分からなくもないが……

 

 

「はちまんおぶってー」

 

 

呂律も回ってない、自分で歩けなくなるまで飲むとかどうなってんだこの人。まぁ、俺は水のように優しいから運んであげるんですけどね。いや、放っておいたら何するかわからないからこの人。

八神さんのあやふやなナビに従って歩き出すと、八神さんが何か思いついたように声をあげる。

 

 

「そっかー!べつに自分の家に帰らなくてもはちまんのところに泊まればいいじゃん!わたひてんさーい」

 

 

「どこがだよ」

 

 

俺、明日も仕事だっつーの。それに女性用の着替えなんて……あー小町のがあるか。多分、おぶった感じそんなに当たってないから大きさは同じくらいだろ……あれ?もしかして、八神さんて…。

 

 

「おい、何か失礼なこと考えたろ」

 

 

「いえ、何も」

 

 

なんだよ、この人酔っ払ったらエスパーにでもなるのかよ。怖い。あと超怖い。

別に嫌じゃないんだよ?柔らかいし、髪からはいい匂いするし。でも、酒と店の匂いがすごいんだよなぁ。

 

 

「八神さん明日仕事あるんですか?」

 

 

「あぁぁぁ、そうだよぉぉぉ」

 

 

「じゃ、帰宅してください。それで明日の朝にでもシャワー浴びてください」

 

 

「えぇぇ、でもぉぉ」

 

 

「浴びろ。でないと、置いて帰るぞ」

 

 

「……はちまんってたまにドSだよね」

 

 

そんなことないです。普通です。ノーマルです。

この後、1時間かけて八神さんを家まで送り届けて、帰宅した後「あれ?タクシーで送った方が早かったんじゃね?」と思ったのは別の話だ。




後日談


コウ「ふわぁぁぁ(なんか昨日のこと全然覚えてないや…。なんか八幡に変なこと言ってないといいけど……)」


|ョω´)りん(コウちゃんから男の匂いがする……!!)


コウ「あ~頭ガンガンする……りんー、お水持ってきて」


りん「……え?別にいいけど…コウちゃん昨日どこか行ったの?」


コウ「あ、うん。八幡と焼肉」


ひふみ、青葉(ガタッ)


りん「へぇ……そうなの……(ギロり)」


八幡(スッキリ……って、えええ!!?怖ぇぇぇぇ!!!)←トイレから帰ってきたら3人に睨みつけられる人



明日の投稿はおやすみです。ではでは
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