女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
異世界オルガ、友人に見せたら「細谷さんええわぁ」と返ってきて「いや、そうなんだけど違う」となりました。あと、空前のオルガブームすごくいい。リゼシャロもっと流行れ。
マスターアップを終えてから数日。クオリティアップ調整を終えて俺達、グラフィック班は幕張まで来ていた。2年目の俺は特にはしゃぐことも無く、イベントブースの最前列の席であくびをしていた。
「「東京ゲーム展だーーー!!」」
「騒がない!」
奥のほうで、来るのは初めてなのかおおはしゃぎの桜と鳴海はうみこさんに叱られて「ひぃ!ごめんなさい!!」と息ぴったりに謝る。怒ったうみこさん怖いなぁ怖いなぁ。多分、稲川淳二の怖い話にも出てくる。
「しかし、なんやこの人の多さは…疲れる…」
「八神さん達のトークイベントは一般日だけとはいえ、確かにこの多さは…」
ゆん先輩がイラついた様子で言うとそれを宥めるように涼風が笑う。一般日に来たのは初めてだが、こんなに人が多いと帰りたくなるな。でも、ここまで来たからには帰りたくないみたいなのあるよね。
「もうゆん達は企業日来なかったくせに体力ないな~。私なんか今日で3日目だよ!」
「マスターが明けたとはいえ元気すぎやろ」
ドヤっと大きな胸を張るはじめさんに呆れ顔のゆん先輩。まぁ、自分の好きなことなら疲れないだろう。
「あれ?ひふみ先輩と八幡もなんだか疲れてるみたいですけど大丈夫ですか?」
「え?ううん、大丈夫!」
そう答えるひふみ先輩だが実際そんなに疲れてはないと思うが、寝不足なのは間違いないだろう。さっき俺は「よう5年ぶりだな…」的なことをいっていたが来るのは2日目なんですよね!なんでかって!察しろ。
「関係者席って素晴らしいな。並ばずに座れるとは」
「ほんまありがたいな」
俺の独り言に同意するようにゆん先輩が話しかけてくる。うーん、誰かに話してるのに反応されないと困るように独り言に反応されると困るんだよな。とりあえず、笑っとこ。笑う門には福来たるとかいうし、愛想笑いでもしていればいいことがあるかもしれない。
「あんなことがなければ青葉ちゃんもステージにたっていたかもしれないのにもったいない」
「えー?わたしはいいですよ。それにやっぱり八神さんだからこれだけの人が集まったんですよ。きっと……」
涼風に関しては酷く卑屈だな。そうなるのも分からなくないが、PECOの出来から考えれば涼風がメインをやってもこれくらい集まるだろうに。ゆん先輩にデリカシーがないとでも言われたのか、手を合わせて謝るはじめさんに気にしないでくださいと手を振る涼風。
それを見ているとポケットに入れているケータイが揺れる。またAmazonか?そう思ってスマホを出すと隣で座っている望月からだった。隣にいるんだから話しかければいいのに…。開くと
『青葉さん 昔 なにかあったんですか?』
というメッセージが来ていた。どう返そうか。ライバルのことだし、知っておきたいことだろう。それにいつの日かわかることだし。
広告やボックスアート、キービジュアルなどのイラストを八神さんが描いてるのは売れ行きを伸ばしたい上からの命令で、本来は涼風が任されるはずだったこと。でも、八神さんはそれに反対して、コンペでどちらがキービジュアルを描くかを争って、八神さんが勝ったことを長いメッセージで伝えると望月は涼風を見る。
「あ、始まりますよ!」
当の本人は見られてることに気付かず、目の前のステージに集中している。望月がそれで何を思ったのかは知らないが、おそらく涼風青葉という人物を再認識できただろう。敵を知って己を知る。それができる人間はきっと大成する。そう信じてやりたい。
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「……といったゲームです」
「面白い話ありがとうございました」
葉月さんによるPECOのゲーム制作秘話やら誕生秘話が終わり、大きな拍手が起こる。
「というわけで先日マスターアップを迎えた 『PECO』次にそのメインビジュアルを担当した八神コウにお話を聞きたいと思います」
「八神コウです。さきほど流れたゲームの映像はご満足いただけたでしょうか?」
遠山さんの流れるような司会で次に進み、葉月さんの話す後ろで座っていた八神さんが葉月さんと代わるように前に出てマイクを取る。
「では今回フェアリーズシリーズとは違う世界観である『PECO』 メインビジュアルアートディレクターとしてこだわった部分はどこでしょうか?」
「そうですね『PECO』もファンタジーではあるんですが、おとぎの国のような世界観を強く持っているのが特徴です。その中で生きているぬいぐるみ達のほとんどが着脱可能でどのぬいぐるみにも入ってみたくなるような特徴ができるよう頑張りました。クレジットにもあるんですがそのほとんどのデザインを頑張ってくれた人間がいるんですよ」
打ち合わせにはなかった話なのか葉月さんと遠山さんがあからさまに驚いたような顔になる。それが目に入っていないのか八神さんは客席を見渡す。
「この会場にいるかな………あ、いた。青葉」
そう言って八神さんは手を伸ばす。
「ここまで上っておいで」
「え、えっと……きゃ!」
行こうかと戸惑ってる涼風の背中を無理矢理押し出すと八神さんのところを親指で指差す。
「行ってこいよ。今ならあの人と同じ土俵に立てるぞ」
おそらく、しばらくはないステージだ。だから、行くべきだ。その意図を汲み取ってくれたかはわからないが、涼風は頷くとステージへと上がっていく。
「おいおいアドリブかい?涼風が戸惑ってるじゃないか?」
茶化すように葉月さんが声をかける。それに八神さんは笑い返すと涼風にマイクを手渡す。
「ほら、自己紹介」
「あ、は、はい!あーあー!」
「声入ってる!」
涼風の天然さに頭を抑える八神さんとそれを見て笑いが起きる観客席。身内は赤面ですけどね。
「す、涼風青葉と申します!キャラクターデザインを担当させて頂きました!」
「私の管理のもと涼風には『PECO』のキャラクターのほとんどを担当してもらいました。弊社のこれから期待の若手です」
八神さんにそう言われて照れたのか「えへへ」と頭を摩る涼風。それを見て微笑むと八神さんがすぅと息を吸う。
「こうしたフレッシュな人間と私達ベテランの人間の力がいいバランスで上手く力を出し合えた開発環境だったと思います。なので、きっとご満足いただけるゲームになっていると自負しています。来月発売の『PECO』是非ご期待ください」
言い終えて、今日一番の拍手と喝采が生まれる。望月もあそこに立つために決意を固めたのか俯いていた顔は上へと上がっていた。
そして、登壇した葉月さんと八神さん、遠山さんにお疲れ様の言葉を言うために楽屋へと向かっていた涼風達の背中を俺はただ止まって見ていた。
「あ、あれ?……は、八幡……行かないの……?」
ひふみ先輩に尋ねられて、俺は短く今行きますと答えて歩き出した。ここから先は地獄でなくとも、それなりに嫌な気分になるのは目に見えていた。だけど、行かないといけないと訴えかけらていた。
「はぁぁぁぁ!?フランスの会社へ行ってくるー!?」
イーグルジャンプの楽屋に入るなり聞こえてきた葉月さんの驚く声にこの場にいる八神さん以外の人は顔を曇らせたり、葉月さんのように叫ばなくとも多種多様な驚き方をしていた。
「すみません。ステージで勝手なことをしたばかりでなく突然」
ある程度、予想はついていたから俺へのショックやらは少ない。というか、こういう事が初めてなのでどう反応すればいいか分からないのだが。 違和感は前々からあった。桜や望月と話していた時に呟いた言葉やラーメン屋での冗談。確定的だったのは俺にあの2人を任せると言ってきたこと。
「遠山くんは?遠山くんは知ってたの!?」
「私もしっかり聞いたのはついさっきで」
だけど、1人だけ大丈夫じゃないやつがいる。あいつの心境としては、やっと同じ土俵まで上がれたと思ったら離れていく八神さんに対する怒りでも悲しみでもない。ただ、この状況が理解出来てない。そんな顔をしている。
「突然で迷惑を掛けるのはわかってます。この会社も好きです。でも……数年後のことを考えた時に。今の皆の上司のままで私は成長できるのかって考えるんです」
八神さんの言うことは正しい。今のイーグルジャンプにも、これからのイーグルジャンプにも八神さんは必要な人なのは違いない。だから、スキルアップしてくればこの会社はもっと羽ばたくことが出来るだろう。社長でもない俺が何を言ってるんだか。
「青葉」
「は、はい!」
「キービジュアルコンペ前日の夜…頑張ってる青葉を見て私も負けてられないって思ったんだ。今に満足していた私に青葉がその気持ちを思い出させてくれた。だから、私はまだ知らない環境で海外でたくさん勉強してもっと上に行くよ」
多分、八神さんは立ち止まっていたのだろう。孤高ゆえに、1度の理解もされず、ただひたすら止まることなく頑張ってきた。しかし、いつの間にか立ち止まっていた。道はあるのに、そこまで行く足が動かない。だが、涼風のなんらかの言葉や行動を見て、さらなる道を歩むための決意をしたのだろう。涼風にとって目標の八神さんがどこに行ってしまうのは嫌だろう。だが、涼風はそれで八神さんの歩く道を止めていいのかと迷っているのだろう。
「応援……してます」
涼風から出たのは確実に本心ではない言葉だ。八神さんに迷惑をかけまいと当たり障りのないものを選んだのだろう。
思ってもないこと言うのはやめたほうがいい。ほんとは行って欲しくないんだろう。が、あの人の取り繕ったような笑顔の裏側の苦しそうなその表情の前では言うことは出来ないだろう。
……多分、八神さんはわかってるはずなんだ。ここにいる誰もが行って欲しくないことくらいは。それでも行くと決めたんだ。一番辛いのは、八神さんなのだろう。
そう考えると目の前の音が何も聞こえなくなった。正確に言えば、耳に入れたくなかった。残念そうに笑う葉月さんの言葉も、張り詰めた笑顔を決壊させて泣きじゃくる遠山さんの想いも。何も。何も。
「八幡、みんなをよろしくね」
ただ、最後の言葉だけがハッキリと届いて、今のこの景色から目を背けたくなった。
漫画でこの話を読む「うわぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」
これ書いてる時「う、う、うわぁぁぁぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!」
となっていたので書いた時には前書きとあとがきは真っ白でした(マジで)
書き終えたのが9月3日当たりでしたので今読むと結構楽な気持ちです。拙い文章ですけどね!ペッ!
本編は次でラストです