女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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こーとりのーつばさがついにーお、お、きくなーってー
旅立ちの日だよ!


今回はあとがきが無いので前書き多めでお送りします。
まずは団長1位おめでとうございます!1作品しか出てないのに1位はすげぇよ...。まぁネタで入れた人の方が多そうですが、年齢層を見るにキッズが少なかったのでもしかしたら本当に掴み取った1位なのかなって。ちなみに自分は投票してません。


続いてFate。衛宮さんちの今日のごはんが尊くてheaven'sfeelが見れない!まぁ見たんですけどね。2章早く来ないかなー。
ゲームの方は何やってんだよアキレウスが出ないので種火とサボってた強化クエ回ってます。ほんとがチャの排出率狂ってんじゃねぇの…。


ほかは特にないです。ほら、長くなると怒られるしね!
社員旅行編ファイナルどうぞ〜。


(2018/05/14 追記
言い忘れてたけどよォ...!今、テスト期間中でよォ...!欠点取ったら俺の人生終わるからよォ...勉強したくないけどしなきゃ詰むからよォ...!!
だからよォ...今週と来週の投稿はねぇからよォ...お気に入り外すんじゃねぇぞ...)


ツバメの翼が大きくなって。

 

「わざわざ送って頂いてありがとうございました」

 

 

車から降りて涼風がそう言うと望月ママは上機嫌そうに首を振った。

 

 

「なーにお安い御用だよ」

 

 

ふふっと娘と違い柔らかな笑みを浮かべると目付きが温かいものに変わり、その目は俺と望月に向けられる。

 

 

「ツンツンしてる娘だけどホントはいい子だから今後もよろしくしてやってな〜」

 

 

「もうはやく帰って!!」

 

 

楽しそうに笑う母に対して娘はご立腹らしく声を荒らげた。それを見守っている涼風は「あはは」と苦笑いをこぼした。

車が走り去って、その姿が見えなくなると俺たちは後ろを振り返る。神妙な面持ちで拳を握る望月は戸に手をかけると少し躊躇ったのか立ち止まった。中々決心がつかないのか、それとも何かを待っているのか。何にせよ、俺はその背中に何かしらの言葉をかけたのだろう。

 

 

「...行くのか」

 

 

「はい。伝えずに後悔するよりはいいので」

 

 

現に気づけば俺は声をかけていて、俺の問いかけに間もなくきっぱりと答えた望月は顔上げて引き戸を開けて中へと入っていく。各々、「頑張って」やら「ふぁいと」「応援してる!」と声はかけたもののそこから会話はなく。しばらくして宿に入り、自分たちの部屋へと戻っていく。

俺は...なんか腹減ったし食堂でも行くかと足を進めた。

その途中でふと顔見知りの声がしたので立ち止まった。

 

 

「はぁ〜年甲斐もなく一日中スキーなんかしてたらさすがにヘトヘトだよ〜」

 

 

「だらしないですね」

 

 

どうやら葉月さんとうみこさんが休んでいるらしい。年甲斐もなく...か。やはり葉月さんの年齢は平塚先生くらいなのだろうか。合わせてみたらめんどくさそうだが、意外に息が合うのではないだろうか。そう考えていると背後から人の気配がし、振り向いた。

 

 

「あ、比企谷先輩、お戻りになったんですか」

 

 

「あぁ、ついさっきな」

 

 

可愛らしく八重歯を覗かせながら鳴海はそう声をかけてきた。それに軽く答えると、鳴海はどうだったかと尋ねてきた。

 

 

「そうだな。搾りたての牛乳は美味かった。くらいか」

 

 

正直な感想だ。俺は搾ってないんですけどね。ひふみ先輩と涼風の搾りたてミルク...あらやだなにこの背徳感。牛乳パックに2人の写真貼れば売れるのでは?と悪徳商法を考えていると鳴海は俺をしげしげと眺める。

 

 

「...へぇ、そうなんですか。あ、何か食べます?夕御飯は終わっちゃいましたけど何か作りますよ?」

 

 

「お、そうか」

 

 

ならばお言葉に甘えて何か貰うとしよう。鳴海の作る飯は美味いというのは過去に食べさせてもらったこともあるので実証済みだ。とりあえず、テーブルへと通されて向かった先にいるのはさっき愚痴をこぼしていた葉月さんとそれに付き合わされているのであろううみこさんの席だ。

 

 

「おや、比企谷くんに鳴海くんじゃないか」

 

 

だるそうに項垂れながらもそう挨拶してきた葉月さんにぺこりと会釈する。うみこさんは通路側から壁際へと席を移すと俺が座る席を用意してくれ。ありがてえ。これで「おめぇの席ねぇから!」って言われたら裸足で東京に帰るところだった。帰ったとしても、多分青函トンネル辺りで発見されるだろう。帰れてないじゃないですか...。と、自らに悪態ついているとひょいと鳴海が顔を覗かせた。

 

 

「お疲れ様です。夕御飯は終わってしまいましたけど...何か食べますか?お出しできますよ」

 

 

その言葉は俺ではなく、2人に向けられたものなのだろう。俺は俺で壁にかけられた木札に書かれたメニューを眺めながら何を頼もうかと思案していた。

 

 

「あぁ、ご飯はお店で食べてきたので。日本酒となにか軽くおつまみはありますか?」

 

 

 

「私はビールで〜」

 

 

「かしこまりました!いくつか用意しますね」

 

 

元気そうなうみこさんとは対照的にだらしない態度の葉月さんに鳴海は営業スマイルをで応対する。

 

 

「比企谷先輩はどうします?」

 

 

「あ、俺?...そうだな」

 

 

酒を飲む気分ではなかったし、ここで飲んで何かあると困るのでソーダと適当に2、3品ほどツマミになりそうなものを指差して頼むと鳴海は奥へと下がっていく。

ボーッとすることもなく、スマホをいじろうとポケットに手をかけたところでうみこさんが口を開いた。

 

 

「そういえば、牧場はどうでしたか」

 

 

「楽しかったというよりは貴重な体験させて貰ったかなって感じですね」

 

 

前述の通り、俺は特に何もしてないんですけどね!強いて言うなら望月ママと話したり、望月兄にいじられたりしたくらい。親バカでありシスコンである2人は強烈でしたはい。机の下にあった手を上に置き、俺も本日のうみこさんについて聞くことにした。

 

 

「そっちはどうだったんですか?...葉月さんの様子見てれば察しはつきますけど」

 

 

「見ての通り私はまだまだ滑れますが、葉月さんは明日明後日は筋肉痛に襲われるのではないのでしょうか」

 

 

「やだよ〜!!」

 

 

ちょっと!もう歳なんだからそんな声出さないでくださいよ。うみこさんがめちゃくちゃ蔑んでますから。ウサミン星にでも行って身も心も17歳になればいい。あと、17歳っていや...田村ゆかり、井上喜久子辺りか...。いつまで言うつもりなのだろうか。

 

 

「お待たせしました〜」

 

 

ガラガラと台車を押してやってきた鳴海は机の上に4本の瓶と俺が頼んだツマミを置くと説明を始めた。

 

 

「まず、比企谷先輩のご注文です」

 

 

「どうも」

 

 

「次に日本酒。オススメなのを持ってきました。右から甘口、甘口、中口、辛口。右のは少しフルーティです」

 

 

淡々と説明する鳴海にうみこさんは驚いたような顔をする。

 

 

「凄いですね。鳴海さんはもうお酒の味が分かるんですか?」

 

 

「いやいや、そのまえにまだ飲んだこともないです!」

 

 

手を振って否定する鳴海に「ならばどうして」と首を傾げるうみこさんに鳴海はすかさず答えた。

 

 

「母から教えられているので。あと飲んでる時のお客さんの反応も見ておけーって」

 

 

「なるほど」

 

 

 

納得して頷いたうみこさんの隣で俺もへぇ、と軽く感心してた。これがプロの人間観察術か。俺とは違って仕事用であって自衛の手段として使われてないあたりちゃんとしっかりしてるようだ。

 

 

「では私は左の辛口のを」

 

 

「私も飲みたくなった!右のフルーティなの頂戴」

 

 

「はい、お注ぎしますね」

 

 

白い湯呑みに注がれた透明な液体は溢れかえるがそれをそこの皿が受け止める。注ぎ終わった湯呑みを手に取り掲げると2人はカチンと淵を合わせる。

 

 

「お疲れ様です」

 

 

「お疲れ様」

 

 

コクコクと飲み下す2人は満足そうに息を吐く。俺はソーダをグラスに移してもらい「どぞどぞ」と鳴海に笑顔を向けられた。

 

 

「とても美味しいです」

 

 

「こっちのはジュースみたいだ。すごいね」

 

 

「よかった!」

 

 

各々口々に感想を述べるのを見て俺もこの都内でも飲めそうなソーダについて何か言及すべきか悩んだがやめておいた。焼き鳥や冷やしきゅうりを口に運び咀嚼しているとうみこさんが湯呑みの中を見つめながらポツリと零した。

 

 

「鳴海さんは親御さんから大切に育てられていますね…」

 

 

「いや...母が厳しいだけですよ」

 

 

苦笑しながらそう答えた鳴海はさらに続けた。

 

 

「小さい頃からあーだこーだってずっと言われてきたのでこれくらいできて当たり前です」

 

 

当たり前か。それは個人の価値観だ。出来て当然なことはあるだろうが、少なからずできない人間もいる。幼い頃から教わっていてもできないことは必ず1つくらいはあるはずだろう。だが、鳴海ツバメにそれがないということは。

 

 

「それでもこうして期待に応えられるのは鳴海さんが頑張ったからでしょう?」

 

 

俺と同じような事を感じたのだろう。憂いはなく、優しく見守るような目でうみこさんはそう言った。

 

 

「鳴海さんもお母さんのことを大切にしていることがよくわかりますよ」

 

 

言ってうみこさんは2杯目のお酒に口をつける。言われた鳴海はどこか嬉しそうに口を開けていた。

 

 

「なる!」

 

 

固まっていた鳴海が動いたのは親友の声を聞いてからだった。今までずっと探していたのだろう。望月は息を切らしながらその場に立っていた。息を整えながら鳴海に一歩一歩近づく。

 

 

「私の気持ち...言うね」

 

 

「もも?」

 

 

「私...なるにはお母さんのことを大切にして欲しい。だからどうなってもなるの選択を応援してる...」

 

 

でも、とそこで区切ってまた一歩踏み出す。鳴海の手を取り強く握ると心の底からの気持ちをぶちまける。

 

 

「これからもなると一緒にゲームが作りたい!それが私の一番の気持ちだから!!」

 

 

矛盾だな、なんて口に出すと危ないことを思ってしまった。鳴海に母親を大切にして欲しいが共にゲームを作りたい。それは母親の気持ちを踏みにじることになるのだろう。旅館を継いでほしい。さしては共に働きたい。これからの生活でももっと娘といたい。そんな気持ちがきっと鳴海の母親にはあるはずだ。

しかし、彼女は母親だ。自分の気持ちがあっても、結局は娘が本当にしたいことなら分かってくれるのかもしれない。あくまで可能性の話だ。なんとも言えない。けど、親は子供に生き抜けって言うもんだ。どんなに暗く険しい荒野でも切り開いて辿り着いた先に待ってるものを見させてあげたい気持ちがあるに違いない。

 

 

「あと...ねねっちさんが諦めないでって」

 

 

モジモジと突然声の小さくなった望月に鳴海はじっと見つめると「ふっ」と吹き出した。

 

 

「もう、なに?ねねっちさんって」

 

 

「え?おかしかった...?」

 

 

当惑する望月に鳴海は目を閉じて首を振る。

 

 

「ううん、ありがとう。私...もう一度行ってくるね!」

 

 

タタッと駆け出していった鳴海の背中を見つめながら佇む望月にほいとよく頑張りましたの意を込めて焼き鳥を一本渡してやると望月は呟いた。

 

 

「...これで良かったんですかね」

 

 

「さぁな。それは鳴海と鳴海の母親次第だろ」

 

 

冷たく突き放すような言い方に望月は俯きがちに「そう、ですよね」と串を握る。

 

 

「まぁ...お前が後悔してないならひとまずはいいんじゃねぇの?」

 

 

俺は言ってグイッとグラスを上げて喉にソーダを流し込む。望月はやれることをやった。というか、伝えるべきこと、伝えたいことを伝えたのだ。これで望月のオリジン、原初の願いは鳴海に伝わった。それに、鳴海の夢は望月と共に夢を叶えること...だったはずだ。

だとしたら...ハッピーエンドに近づくためのピースは揃った。ここからは鳴海ツバメ本人の戦いだ。これより傍観者は立ち入らず、どうなったかも知らずにただ2人に幸せがあることを望むばかりだ。

 

 

「...なんかずるいですね」

 

 

そう漏らして望月は頭を軽く下げるとこの場をあとにした。何が、とは聞けずに意味もわからず首を傾げているとそれを見ていた葉月さんは目を細めた。

 

 

「青春だねぇ」

 

 

 

###

 

 

翌日、三日間という短い時間ではあったが午後にはイーグルジャンプの社員旅行は終わりを迎えた。されど、過去来歴から言う通り帰るまでが社員旅行であり、俺達の社員旅行はまだまだこれからだ状態である。まぁそれも数時間で終わるし、飛行機に乗ればもう東京についてしまうわけだが。

 

 

「短い間でしたがありがとうございました」

 

 

「こちらこそありがとうございました!是非またのお越しをお待ちしております!」

 

 

荷物をまとめて玄関に集まり、遠山さんが代表して仲居さんに謝辞を述べた。それに答えた仲居さんは旅館の女将である鳴海の母親でなかったことに少し驚いた。

昨日の夜、望月が伝えた言葉で鳴海がどう動いたのかは分からない。けれど、本人の晴れた表情を見るに言うべきことを言えたのだろうか。

 

 

「なるっちのお母さんいないね〜」

 

 

「そうだね...なにかあったのかな...」

 

 

鳴海家の事情を知り、気にかけていた桜と涼風はそう口々に心配そうに呟くがそれを鳴海は背中を押して2人の隣に並んだ。

 

 

「なんにもないっすよ!さっ、皆帰りましょ!」

 

 

ハツラツとした顔の割にはなんだか無理して振舞っている。そんな違和感に囚われたが、一瞬だけ見せた暗い表情から察するにまだちゃんと話し合えていないのではないだろうか。皆が荷物を持って歩き始める中、俺だけが軋んだ音を立てる廊下に目を向けていた。

 

 

「ツバメ!!」

 

 

やはりというか、鳴海の母親は血相を変えて現れた。仕事時とは違い眼鏡をかけており、目元は潤んでいていた。大声で呼ばれたからか鳴海は驚きしおらしい顔で振り向いた。

 

 

「お母さん...」

 

 

「...まだお母さん、ツバメにここの跡を継いで欲しいって気持ちを変えることはできない...それがお母さんの夢だから...。...あなた少し痩せたでしょう?ごめんね、そんなことも気づかないお母さんで...。だからこんなことを言う資格はないのかもしれないけど...」

 

 

一言一言に我が子を想う大切さ、愛しさ、旅館の跡を継いでくれないことの悲しさを含ませながらも鳴海の母親は真剣に声を出した。言葉を紡いだ。今しか、感情を爆発させた今でしか言えない言葉を。

 

 

「頑張ったわね...ツバメ」

 

 

それをどれだけ待ちわびたのだろう。鳴海は溜めていた涙を溢れさせると目をつぶり歯を噛み締めて母の胸元へと飛び込んだ。

 

 

「わあああ!お母さぁぁんっ!!」

 

 

「ツバメ...ツバメ...」

 

 

鳥の燕は確か、親離れをすると自らの翼で空を飛び新しく家族を作るとかそんな話を聞いた。鳴海ツバメ、とはよく言ったものだ。旅館の跡取りから翼を広げて、これからの電脳世界を作る一人として羽ばたいていくのだ。

我が子を抱きしめその名を呼ぶ母親の姿に俺は何故か帰ったら実家に顔を出してみようかなんて、柄にもなくそんなことを思ってしまった。

 

 

 




母と娘の抱擁を目にした後、全員で鳴海の母親に感謝を伝えて鳴海旅館をあとにした。迎えのバスで空港に向かい、今は飛行機の中で空の旅を優雅に楽しんでいた。


「いや〜いろいろ大変だったけど一件落着!よかったよかった〜」


「...でも跡を継がなくてもよくなったわけではないんじゃ...」


「あれ?落着してない?」


行きのうるささから最初の席とは変わり、前の席へと移動した俺は、俺が移動する原因となった2人の会話に耳を傾けていた。
口を挟みたい気持ちはあったが、そうするとここに移った意味がなくなるので窓を眺めながらその会話を俯瞰することしていた。なので静かにコーヒーを啜っていると通路を挟んで涼風の隣に座っていた鳴海が口を開いた。


「ううん、今はお母さんと向き合って話せるようになれただけでも十分です。これから時間をかけてわかり合えればなって。きっとできます」



「え!?じゃあいつかは旅館継いじゃうってことも?」



「今は考えられないよ」


桜の問いに鳴海は苦笑がちに答えた。



「同業の中には家業を継ぎながらフリーとしてこの仕事を続ける人間もいますよ」


「ほんとですか!?」


そんな2人の会話に聞き耳を立てていたのは俺だけではなく、桜の前に座っているうみこさんがそんなことを言った。てか、結構声大きいから機内の半分くらいの人には聞こえてるのではないだろうか。ごめんなさいね、遠山さんかうみこさんが注意するまでの辛抱だから。


「まぁそれ相応の実力も必要ですが...これからも頑張ることですね」


「じゃあなるっちもスーパープログラマーだ!」


「えーなにそれ安易すぎるよ」


女の子だらけの微笑ましい会話にはははと笑いの花が咲いた。こんなところに俺がいてもいいのだろうか。今からスーパープログラマーの勉強をして家でフリーになる方がいいのかもしれない。と、真面目に思っていると隣に座っている遠山さんがこちらを見ていた。


「なんですか?」


周りに聞こえないように小声で尋ねると遠山さんはふふっとからかうように笑った。


「いや、出発の時間早くしてよかったなって」


「あぁ...その件はありがとうございました」


鳴海が母親に対して何も言えてないという可能性は無きしにもあらずだったので、保険をかけて宿を出る時間を遠山さんに言って30分ほど早くしてもらっていた。おかげで親子のドラマティックシーンにより飛行機に乗り遅れることもなく無事に時間通りに搭乗することが出来たというわけだ。バス会社の人が気兼ねいい人で助かったのも一応付け加えておこう。
俺が一言言って頭を軽く下げると遠山は笑みを絶やさない。


「どういたしまして」


にっこりと笑ってカバンからチョコレートを取り出すと俺の手に1つ置いてきた。くれるということだろうか。


「君はすごいよね。そうして周りを変えていく」


「…...そんなことないですよ」

以前同じようなことを誰かに言われたなと思い返していて、言葉を返すのに間が空いてしまった。


「いやあるわよ。現にコウちゃんも私も、ツバメちゃんも。もしかしたらここにいるみんなが君に変えられたかもしれない」



「...例えそうだとしても変わったのは本人達で俺は関係ないですよ」


人間変わるきっかけは他人が知らず知らずのうちに与えるものかもしれないが、結局変わるのは本人の行動や意思次第で第三者は全く関係ない。変わる過程で関わったのだとしても、それはあくまできっかけに過ぎず結果的には何も残らないのだ。それに俺が彼女たちを変えたという実績も結果も何も残ってはいない。つまり、遠山さんの言ってることは本人の思い込みなのだ。


「...まぁ比企谷くんがそう思うならこれ以上は言わないわ」


そう言うと、小さく可愛らしい欠伸をして椅子を倒すと瞳を閉じた。どうやらおやすみモードらしい。その寝顔を何の躊躇もなく男性に見せるのはいけないですよ!と見ないように窓の外に目を向けた。機体は空の上を滑空していて雲は見えず僅かな月明かりで群青色となった空と所々光るビルの灯りが日本を包んでいた。
2日間の休日を挟んだらまたこのビルの光の一つになるのかとため息をついて、俺もまたゆっくりと瞼を閉じた。


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