女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
ホワイトというか社員が女性ばかりなのでピンクな気がしますがね!ハハッ。
遠山さんからありがたいお言葉を頂いてから各々やるべき事をやるために自分達の場所へと向かう。それは俺も例外ではなく、うみこさんと共にプログラマーブースへと足を運ぶ。一応、言っておくと俺はキャラクターデザイナー班である。
「厳しいことを言いますが、ここで終わるゲームかもしれません」
「はい」
腕組みしてうみこさんは椅子に座ってちゃんと話を聞く鳴海に注意事項を告げる。
「ただそうでもないかもしれない。その時は皆で引き継ぐことになるのでコードは逐一私に見せてください。その都度ここのルールを指示します」
コクコクと頷く鳴海を見てから俺を一瞥すると「比企谷さんもよろしいですね?」と目で問うてきたので無言で肯定した。要するにコード修正したら鳴海に任せりゃいいんだろ。まぁあっちは本業で俺はアシストだからそこまですることはないだろう。
「あと...鳴海さんは1人で抱えて無理するところがあるので困ったら素直に頼ってください」
少し諌めるような言い方でうみこさんは眉を寄せて言い放つ。だが、またも俺に目を向けるとため息混じりな声になる。
「決してあのような素人ではなく、プロである我々に声をかけてください。もっと新人らしく振舞っていいんです」
そう言ってぽんと鳴海の頭に手を載せるうみこさんは穏やかな表情で呟く。それに鳴海は照れくさいように片目を閉じる。なんだその照れ方。
「じゃあ俺は一旦、グラフィッカーブースの方に戻りますね」
「えぇ」
一声かけてクールに立ち去ろうとすると、そうだと思い出したようにうみこさんに肩を掴まれた。なんですかと振り向くとずいっと目と鼻の先がくっつくのではないかという距離にうみこさんの顔が迫る。何事!?と驚いている俺に対してうみこさんは真剣な面持ちで口を開く。
「篠田さんたちの方へ行ったら、あなたは仕事をせずに今日は寝てください。りんさんの言う通りに」
じゃないと...と何か小声でその後は聞こえなかったが、まぁ寝ないと後が怖いから寝る。けど、これ寝たら給料発生しないんじゃ...?
そんな不安に駆られているとうみこさんは俺の肩から手を下ろす。
「会議室を使っても構いませんので倒れる前に寝てください。でないと、他の方々が集中して取り組めないので」
うわぁ心配するから仕事に支障を来すようなら壁にかかってるコルトパイソンで脳を撃ち抜くって顔してらっしゃる。怖いなぁ怖いなぁ...。精一杯の苦笑いを浮かべていると今まで傍観していた鳴海も立ち上がり俺の手を握る。やだ何この子。
「先輩のおかげで私の負担は減りましたし、今日くらいは私一人でも大丈夫です!先輩よりも寝てるので!だから、先輩は今日はやすんでてください!」
「お、おう...」
やさしさが 痛み染み入る 不眠の目
比企谷八幡 心の一句。
ほんとありがとな鳴海...とか思ったけどお前が寝れてるのははじめさんとの打ち合わせの時寝てたからだな。Skypeで寝落ちして可愛らしい寝息が聞こえてたのは俺は知ってるぞ!
「まぁ先程もウトウト寝てましたもんね」
「ははは...」
うみこさんのジト目が鳴海に刺さり誤魔化すような消え入る笑いを浮かべる。おや?パワハラかな。大丈夫、イーグルジャンプにパワハラは存在しない。
「では」
軽く手を振ってプログラマーブースから離れて自分の席のあるグラフィッカーブースへと歩き出す。どれくらい進んでるかなーっとひょっこり顔を出すと、管理部から借りてきたのであろう開発機をプレイしていた。いわゆるテストプレイというやつだろう。ベータテストとはまた異なるものなので、ここではイキリトは生まれないだろう。
「あ、八幡おかえり!」
「どーも」
どうですか進捗は?とはじめさんのパソコンを見るとボールをキャッチするタイミングを調整しているらしい。この辺りは鳴海がやるべきだと思うけど、はじめさんが出来るならそれに越したことはないか。
「ちょ、ちょっと、八幡近い...」
「...え?...あーすみません」
眠くて視界がぼやけてるのかパソコンにかなり身を近づけていたらそれが結果的にはじめさんの方にも接近していたらしい。パワハラはないけどセクハラはあるのかもね!主に俺からだけど。しかし、これは不可抗力なので許していただきたい。ということで涼風やひふみ先輩からの視線が痛い痛い。
「比企谷さん大丈夫ですか?」
「...ん、まぁ、程ほどにな。でも、遠山さんに寝ろって言われた」
この場で唯一俺の身を案じてくれる望月まじえんじぇー。望月は俺が死んでいく様をこの数日見ていたから信じてくれているが涼風とはじめさん、ゆんさんは「遠山さんが...?」と疑心暗鬼の目を向けていた。遠山さんって信用ないのか?いや、これは俺の信頼ですかね。
目を擦りながら迫る睡魔と戦っているとひふみ先輩があわあわと席から腰をあげる。
「あ、うん...八幡、寝てないからりんちゃんが...会議室で寝ていいって...」
「そうなんですか」
「それならしゃーないな」
意外そうに涼風が呟くとゆんさんも首を縦に振る。俺の言葉だと信用しないのにひふみ先輩のだと信じるのかよ。おかげで俺に対する信頼がないのは分かったけどよ。知らずのうちに訝しげな目を送っていたのだろうか、それに気付いたゆんさんと目が合う。
「あ、勘違いせんといてな。いくら八幡が頑張ってるからってそれは会社外での勝手なことでのことやろ?それやのに遠山さんが寝ていいっていうのは不思議やなぁって」
あ、そういうことですか。それなら納得...できるのか?ダメだ。まともな思考ができん。これはもう寝るしかないな。別に早く寝たいからとかそういうわけじゃないんだからね!ユメノトビラを開きたいとそういうわけじゃないんだからねッ!
「というわけで、少しだけ寝てきます」
「うん!ゆっくり休んでね!」
「寝る前にトイレは行くんやで」
「いや、ゆんの弟達じゃないんだから」
「...が、がんばって!」
「頑張るのは私達では...?」
背中に熱いエールというか寵愛を受け取って俺はブースから廊下へと歩みを進める。この先に遥か遠き理想郷(会議室)があるというのだ。そう言えば、布団とかは用意されているのだろうか。せめて、毛布の1枚でもあればいいのだがと会議室の前まで辿りつきドアノブへと手をかける。ドアを開くと中央の大きなテーブルの上に毛布と枕が置いてあった。どうやら杞憂だったらしくこれを使えということだろう。
「やっと、寝れる...」
床に枕を起き寝転がって毛布をかぶる。その時、どこかで嗅いだことのあるような安心感というか懐かしい匂いに包まれるかのような中で俺は急速に眠りの世界へと落ちていった。
###
どれくらいの時間寝ていたのかはさておき、十分な睡眠をとったのか俺の瞼はゆっくりと開いていった。足に若干のだるさを感じたのはここしばらく寝ていなかったせいだろうか。
自分の部屋ではなく会議室で寝ていたことを思い出すのにはいつも目覚ましにしているスマホがないことを確認するまで気づかなかった。
いや、気づく要因はそこではなかった。手探りでスマホを探している時に、何度か布やら柔らかいものに指が触れたのだ。どうせ、寝てる際に移動した枕や布団だと思っていたが、枕は俺の頭の下にあるし毛布は俺の腰付近にかかっている。
ムクリと起き上がって真っ暗な部屋を見渡すがやはり目が慣れていないため何も視認することができなかったが、顔を上げると机の上にパソコンらしきものがあることが確認できた。
そして、足のだるさの正体を確かめようとポケットからスマホを取り出してライトをつける。
「.........ん...」
どういうわけか俺の足を枕にしている涼風がいた。さらに周囲に光を向けると、右にはひふみ先輩、その先には顔にはじめさんの手を乗っけられているゆんさんがいた。左には鳴海と望月が肩を寄せあって壁にもたれて寝ている。もしや、俺はスマホを探している時に.....うん、考えるのはやめよう。
どういうことだってばよとライトを消してスマホの時計を見ると深夜の3時。俺が寝たのは朝の10時頃だとすると...信じられないくらいに寝ていてしまったらしい。寝すぎた故の頭痛に頭を抑える。なにか飲みたいが足を動かすと涼風が起きる可能性がある。慎重に起こさないように足を動かして、俺の足と枕をすり替える。これで涼風が違和感を感じて起きることはないだろう。
ちゃんと足を直立に立たせて俺は身体を伸ばす。寝てなかったとはいえ寝すぎてしまった。さてと、俺が寝てる時にはじめさんらは何をしてたのかとパソコンを起動する。
ログを見ると細かな修正や必殺技の追加、また葉月さん達に説明する際に使うスライドも作られていた。
3人だとこれくらい進めるのに3日はかかったというのに、相変わらず数の力はすごいと思わざるを得ない。いや、数だけじゃない。彼女たちはプロだ。熱意と本気を注ぎ込めばこれくらいは造作もないのだろう。
それに比べて、俺はなんて無駄な時間を...。溜息をつきながら適当な椅子に腰掛けると徐々に慣れてきた目が机の上に置かれた袋を視野に入れる。
手に取って袋から箱とぬるくなったMAXコーヒーであんぱんには何やらメモ書きが貼られているがこればかりはよく目凝らさねばよく見えない。
『比企谷くんへ 目が覚めたら食べてください りん』
どうやら遠山さんが何か作ってくれたらしい。ありがたやーと手を合わせてから箱の中身を開ける。しかし。
「うわ、見えねえ」
折角作ってもらったのに口に入れるまで何かわからないなんてそんなのは嫌だ。ライトをつけようにもその光で起こしてしまうのも面目ない。かと言って暗闇のままご飯を食べるのは遠山さんに失礼だし、食べる音でも起こしてしまう可能性がある。静かに会議室の鍵を解除し廊下に出て自分の席へと向かうと机の上の電灯をつけて席につく。
「いただきます」
改めて箱の蓋を開けると中には梅干しご飯と玉子焼き、それにほうれん草とごまの炒めものだろうか。栄養バランスとこの時間でも腹に収まりそうなものが入っていた。それに遠山さんの作った料理は美味いと風邪を引いた時から知ってるので問題は無い。
ぱくぱくもぐもぐ、ガツガツムシャムシャと無理せずそれでいて勢いよく口の中にかき込むとパソコンを起動して、咀嚼している間に体験機を操作する。行儀は悪いが今はどうこう言ってられない。適当な裏紙に自分の思ったことを書いていく。
タイミング調整はもっと精密に、それでいてバラツキがあった方がリアリティ(面白み)がある。
キャラも男性女性で利点を出してみてもいいかもしれない。僅かばかりだが単調に感じる。
それとエフェクトは派手さばかりでギラギラしているイメージがある。あとは......と、やりながらしていると飯を食い終わり、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
そう言って箸をしまい、弁当箱を給湯室で軽く洗って仕舞うと作業に戻る。BGMとかやっぱり欲しいなーとボヤきながら修正点を書き出して自分で修正できそうなところはその場で修正していく。
普段なら嫌になる作業がこの時ばかりは何故か楽しく思えて、朝日が昇ってることも気付かずある人に目を手で覆い塞がられるまで俺はとてつもない集中力を発揮していた。
「だーれだ?」
「...遠山さん」
口に出すと手がどけられ、後ろを振り向くと「正解!」とにこやかに微笑む遠山さんがいた。
「早いっすね。出社時間の2時間前ですよ」
「うん、皆がんばってるし、私も頑張らなくちゃって」
「そうですね」
そうだ。はじめさんと鳴海がやってきたことは全部無駄じゃなかった。これからも作業が終わらない限り道は......と詠唱を開始していたら遠山さんが目をそらして尋ねてくる。
「その、お弁当。ちゃんと食べてくれた?」
「えぇ、はい。美味しかったですよ」
「そう...ならよかったわ」
袋に入れた弁当箱を渡すと遠山さんは肩をすくめる。
「急いで作ったから味が心配だったけどよかったわ」
左手で耳にかかった髪に触れながら、遠山さんは右手で袋を受けとると満足そうな顔で踵を返し、ある方向に目を向ける。
「...今度は私の番ね」
自分に喝を入れるように呟いて、カバンを机に置くと会議室の方へと歩き出す。みんなを起こしてくるから朝ごはんにしようと微笑みながらそう言って遠山さんはその姿を消す。
「...食えるかな」
すっと脱力感に見舞われた俺は昇った朝日を見つめながら頬をついた。
ちなみに八幡が使った枕と毛布は八神さんのだゾ。
Twitterの方で大晦日に遠山さんが八神さんとパリで過ごす話があるんだけど、どう八幡を絡ませたらいい?というアンケートをとった結果。
①遠山さんに誘われて3人でフランス観光する
②遠山さんが来る前日に八神さんに呼ばれて八神さんと2人で観光する
③遠山さんに抹殺される。現実は非情である
のうち②になりました。途中③が優位だったので焦りましたが良かったです。
次回はプロトタイプ完成
その月が大晦日に八神さんと会う話
それで8月に入るとしばらく投稿出来なくなるので見納めミルキィとして何か特別回でもやれたらなと思うので残り3話(特別話によっては4話?)になります。
稚拙で矮小で短絡的な文章ですが、これからも御付き合い下さいませ。
特別回に関しては水着回、八幡の誕生日、時系列合わせで忘年会のどれかになると思います。ではでは。