女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
心体共に無邪気さを存分に解放している後輩達といるのが辛くなってスイミングの時間ですと水中に入ったのはいいのだが、人が多くてろくに泳げやしない。浮き輪に身を預けるキッズや貸し出しボートで楽しむ者。その他には小さいバスケットゴールに向けてビーチボールをシューティングしたり、水に浸かった状態でビーチバレーをしてる者もいる。そいつらは全員誰かといて、1人で虚しく寂しく泳いでいるのは俺だけであった。
それにしてもこうして泳いだのはいつぶりだろうか。高校の水泳の授業は2年までで終わりだったから3年ぶりくらいだろうか。しかし、人間は陸上生物なので水中にいなくてはならないということは無いが、ヒキガエルのくせに泳ぐの下手だなぁと小学校の頃に言われたのは今でも覚えてる。まぁそいつらには翌年のタイム測定で勝ったし、それでもその後にやっぱりヒキガエルじゃないかと言われたのは解せなかった。
以降、俺が本気で泳ぐことは無かった…。てか中学校時代に俺にヒキガエルというやつは愚かヒキタニとしか言われなかったしな。誰も俺が泳ぐことに興味なんてなかったのだろうが。大体、その頃の男子中学生は女子の水着を見るのに夢中で俺のことなんてどうでもよかったのだろう。
「ぶふっ」
過去の記憶を抹消するかのようにクハハハハハハハ!!とホップステップグレートオーシャンとクロールしていたら誰かのお尻に顔が追突してしまう。見れば水玉のビキニ。つまり女性とぶつかったということだ。やばいと急いで水から出て頭を下げた。
「前見てなくてすんません」
額が水面につく。すると、俺のぶつかった子からの返事がない。もしやこんな男にぶつかられて屍と化したのだろうか。顔を上げるとそこにはポカンとビーチボールを手に持ち立ちすくむ桜がいた。
「いや、別にいいけど…」
「あ、そう...」
なんだよ結構優しいじゃねぇか。邪魔して悪いなと涼風にぎこちない笑顔を送ると若干引き気味な顔で返された。悲しいなと笑顔を崩すと桜に声をかけられた。
「てか、さっきからずっと泳いでるの?」
「まぁな」
どこでもそうだが俺はふらつくばかりで目的意識があって動くことはほとんど少ない。与えられた仕事があればそれをやるが、外やプライベートでは意味もなく足を動かすだけだ。
「他にやることないしな」
「え?ウォータースライダーとか流れるプールとか色々あるじゃん」
「確かに桜の言う通り遊び場はたくさんある。けどな、それではしゃいで遊ぶほど俺は子供じゃない。子供の頃に滑り台は滑りまくったし、俺の吐くイチオシのギャグもツルツルと。流れるプールなんて時の流れに身をまかせてる俺には無用である。よって、この場での俺の最適解はただ泳ぐ。以上。」
その旨を語り終える頃には桜は涼風とのトスリターンを再開していた。そして黙った俺を不審に思ったのか桜は振り向きもせず「終わった?」と尋ねてくる。
「あ、うん...終わったよ...」
「そ」
同い年でも望月や鳴海とは大違いだな。やっぱり後輩ってのが魅力的なのだろうか。いや、一応こいつも後輩なんだったな。ただ出会った時期が早かったのだ。こいつとの出会いがもう少し遅かったなら......なんて、らしくないことを考えてしまう。
「...何笑ってんのハッチー」
まさか顔に出ていたのかと慌てて口元を抑える。また引かれたかなとチラリと見て見たら桜の顔はどこかぎこちない。それについて尋ねると桜は唇を尖らせた。
「さっきよりいい笑顔だったから...かな」
「なんだそれ」
引かれなくてホッとはしたが少しばかり気恥しい。思い返してみればこいつには色々と付き合わされたり、話を聞かされたばかりだな。お返しにとからかってやろうかと思ったが、そういった経験がないので上手いこと思いつかない。いじらないで長瀞さんでも見てきたらよかったと思案していると「なんで笑ったの?」と聞かれた。
「多分お前の水着が良かったからじゃねぇの」
「.........へ?」
咄嗟に答えてまたもしまったと思ったが、これは意外に意表を突く言葉になったのではないだろうか。それに嘘は言っていない。普通の水玉のビキニは童顔で子供らしい性格には背伸びしすぎでないかと思うが、身体は19歳、20歳に相応で同い歳の涼風と比べれば太ももや腰つきは幾分か大人に見える。
だが神経はまだ子供なのか、これくらいで間抜け面を晒して嬉しそうにするとは...。
「八幡?」
む、殺気が。振り向けば奴がいた。桜を庇うようにして俺を睨みつける涼風が。
「違う、俺じゃない」
「ねねっち、八幡に何言われたの?」
「水着似合ってるって...」
「はぁ!!?」
怒りの形相を再び強める涼風に思わずたじろいでしまう。怖いなぁ青葉ちゃんは...。これ以上見つめられると殺されるからここは。
「あっ!逃げた!!」
大きな水しぶきをあげて俺は108の特技のひとつ『攻めのバタフライ』を使って人に当たらぬように涼風達から離れていく。ちなみにバタフライは腰に効く。病院の先生が言うんだから間違いない。
「殺されるかと思った...」
ひとまず距離を取って温泉プールへと逃げ込んだ。温泉かプールなのかはっきりしやがれと思うが今はあってよかったと思う。こうして一息つけるのだ。
「いい湯だね、八幡」
「そっすね」
あまりに気持ちよくて声をかけられても反応できたが、誰だこの人と隣を見ると湯の中で足を伸ばしてくつろぐはじめさんがいた。さらに控えめにちょこんと端っこにゆんさんもいた。
「いやー温泉はいいよね...ゆんもそんなとこいないでこっち来なよー」
「......なんやおばはんみたいに。あとここでええ」
こちらに聞こえる声ではあるがどことなくいつもの元気さがない。時折、俺の方を見ては目から上だけ出してぶくぶくと泡を立てている。
「なんかあったんすか」
「さぁ?でも、八幡が来てからかな。あっちに行ったのは」
なにかしたの?と聞かれて俺は特に何もと答えればゆんさんからの視線が強くなる。
「やっぱりなにかしたんじゃない?」
「心当たりがあると言えばないような...」
具体的には水着を褒めたことだろうか。ゆんさんには水着どうとか聞かれてなかったし。それが嫌だったのだろうか。小町のやつめ、何が女の子は褒められたら喜ぶだよ。むしろ、怒ってるじゃねぇか。
「やっぱり女子って褒められたら嬉しいんですか」
「うーん、どうだろ」
伸ばしていた手足を丸めて真面目に考えるとはじめさんはぽんと手を打った。
「好きな人に褒められると嬉しいんじゃない?」
それはそうだ。好きな人に褒めてもらったり励ましてもらえれば嬉しいものだ。
「てか、はじめさんってそういう水着着るんですね。てっきり、競泳水着とかだと思ってました」
「私も最初はそのつもりだったけどこっちの方がいいって言われたからさ」
その視線の先には未だにこちらを見ては泡を立てるゆんさんがいた。何してんだろあの人。関西人ってしょげたらみんなあんな感じなのだろうか。
「でも、周りの視線がね…気になるかな…」
頬を掻き苦笑いしながらはじめさんは目線を落とす。確かに大きく、男からしたら万乳引力の法則によって目は自然と引き寄せられてしまう。それは決して悪くない不可抗力なのだが、やはり見られる側としてはかなりの不快感やフラストレーションが溜まるに違いない。
「やっぱり男の子って好きなのかな...?」
そんな上目遣いで聞かないで下さいよ。うんとイエスとouiしか言えないじゃねぇか。無言は肯定と捉えられる世の中なので「人それぞれじゃないですかね」と答えるとはじめさんは目を瞬かせる。
「じゃ、八幡は何が好きなの?」
「え、それは...」
太ももとか?脇腹のくびれとか?鎖骨とか?脇とか?うなじとか?結局全部好きなんじゃない?そう思いたくなるくらいに色々と出てくるもんだなと感慨深い気持ちに浸って逃げようとしてる。
「まぁあれっすね!やっぱり女性は愛嬌っすね!」
そして男は度胸。そんな世の中も悪くは無いさ。そう高らかに言ってみるとはじめさんは目を細めて朗らかに微笑んだ。
「そっか、じゃあ八幡なら安心だね」
はじめさんの表情に魅入られ、少し遅れてからどういう意味かを考える。だが、程なくして思考はシャットダウンされる。
「あーいた!!」
ずっと俺を探していたのか涼風が指を指して大声をあげる。つかまえちゃう!と走ってくる涼風に走ると危ないぞと心で思いつつも身体は逃げの姿勢を取っていた。
「あおっち危ないよ!」
後ろから桜がゆっくりとやってくるが涼風はそんな桜の忠告を聞くこともなく俺めがけて走ってくる。そろそろ逃げないと捕まるなと思って1歩目を踏み出そうとした時、その足は涼風の方へ向いた。
「あおっち!」
「「青葉ちゃん!!」」
足を滑らせて後頭部から転びそうになる涼風へ桜、ゆんさん、はじめさんが名を呼ぶ。涼風は頭を打つことを覚悟したのか目を閉じた。
「.........え?」
そして目を開けたのは俺に抱き抱えられてだったのでかなり驚いていた。目を何度もパチパチと瞬きをすると自分の状態が把握出来たのか小さく呟く。
「お、下ろしてよ...」
言われるがままにゆっくりと下ろしてやる。にしても、転ばなくてよかった。咄嗟に方向転換して濡れた床を利用して滑り込んでよかった。これでウォータースライダーと流れるプールは体験出来たも同然。違うか?違うな。
「大丈夫か?足とか」
「あ、うん、大丈夫だから!ありがとね!」
そう言うと涼風は顔を抑えてまた走り出す。おいバカと言おうとしたらまたコケそうになったので先程と同じく受け止めるが今度はうつ伏せに倒れ込み、しかも僅かに布に触れてしまった。
「...ったく、ちょっとは考えろよ」
もしこれでこけていたら大惨事だぞ。咎めるように言うと涼風は恨めしいものを見るように俺を見上げた。
「ねぇ、今触ったでしょ...」
「はい?」
「今、胸と...その...触ったでしょ!!」
「触ってねぇよ。当たったんだよ」
「触った!!」
「お前がコケるからだろ!」
「やっぱり触ったんじゃん!!」
どうしても俺に痴漢の罪をきせようとする涼風に俺は悪くない社会が悪いと言うが、俺が悪いと言われる。そう騒いでいると俺と涼風の間にある人が入ってくる。
「2人ともその辺に......ね?」
穏やかな表情と宥めるような口調ながらもその辺にしとけという圧がすごい遠山さんに言われ涼風も押し黙る。俺はよかったと胸を撫で下ろしたが涼風の視線は相変わらずだった。
「いい加減機嫌治せよ...」
そう言ってはみるが涼風はぷいっと目を背ける。どうすりゃいいんだと近くにいた八神さんに目を向けると「知らないよ」と呆れられてしまった。
「てか、カップルかよ」
ついでにからかうように吐き捨てると八神さんは温泉に浸かった。先程の涼風との言い合いでかなり人が集まっており、遠目ではあるが望月と鳴海、さらに逆方向からはうみこさんとひふみさんもやって来ている。
過去の経験則から言って涼風の機嫌を直すのにはかなり時間がかかる。しかも怒っている理由を言わない分余計にだ。
さて、今日の涼風と俺を振り返ってみよう。まず更衣室から出たら出会う。それでなんか言われかけるけど結局言わない。次に八神さん達と合流。で、その後に水着を褒めろと...なるほどこれかな?適当に言ったからかな。
「似合ってるぞ」
「...何が?」
「水着だよ」
「......どんな風に?」
「普通に可愛くて涼風に似合ってるよ。...ただ...」
「...ただ?」
「そのズボンみたいなのは無くてもいいんじゃねぇの...」
「...エッチ」
履いてるのお前じゃんと言えばまた涼風は怒るのだろう。それでまた遠山さんに咎められて、八神さんに笑われる。それでやって来たうみこさん達ははじめさんに事情を聞いて呆れて見つめてくるのだろうか。
「そうだな。でも、その方がいいと思うぜ。俺は」
普通に、当たり前のように涼風に世間話をするかのように告げてみると「そっか」と恥ずかしがることもなく、帰り道に友達と話すように涼風は微笑む。
「じゃ、脱いじゃっおかな」
「ここではやめとけよ」
「うん、また今度ね」
そのまた今度がいつなのかは分からないが、きっとその日は来ると涼風はそう言ってる気がした。その誘いをするのが涼風なのか、俺なのか、あるいは今日のように誰かが発案して多人数で行くのかもしれない。だからその時までその姿は待つとしよう。
昔ならまた今度なんてないと決めつけて期待せずに記憶の海へと忘却していたが、こいつなら少しくらいなら期待してもいいかとそう思えた。
【その日の夜】
八幡のスマホに一通のメールと写真が。
青葉
『八幡の言う通り脱いでみたよ!どうかな?』
八幡『まさか自宅で撮ったのを送ってくるとは思わなかったです』
(保存はせず、メールをロック)
これにて完結ありがとうございました。
活動報告の方を昨日にあげてるので見てない人は見てね。
ダイナモ感覚☆ダイナモ感覚☆YO! YO! YO! YEAH!の方は長いのでサクッと見たい方は今日投稿した方を見てください。
追加事項
各ヒロインルートですが活動再開した時に書き直すため、1度作品削除しようと思います。具体的には特に決めてませんが青葉からちゃんと順番にやっていこうと思います。シチュも八幡と幼馴染だとか既に付き合ってる状態から始めるとか色々してみたいですね。R18?やろうと思えば。
その件でR18でもいいと思うか、否か。まぁ八神さんとイチャラブとかいうの書き始めてるんですけどね。ハッハッハッハー!
ではでは
また逢う日まで