女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
「お前誰に話してんだ」
おのれディケイドォォォォ!!!
「くどい」(ファイナルフォームライド、ディディディケイド!)
キボウノハナー。
電車は混み合うだろうと自転車をチョイスしたのが吉と出て、思ったよりは早く自宅へと参ることが出来た。ここに来るまでに着物姿の子供や大人の主に女性を見かけたが、1月2日でもこのはしゃぎ様だ。やはり日本人はお祭り大好きフリスキーなのだろう。そういう俺も小町にお年玉を渡したくてうずうずしてる。それはついででホントは小町に会いたいだけ。あ、これ八幡的にポイント高いっ!
しかし、突然押しかけて家に誰もいませんよってオチはないだろうか。一応小町には三賀日のどこかには帰ると伝えておいたのだが、詳しい日までは言ってない。だが、いつものケースだと親父達は家でダラダラ。小町はお友達と初詣だろうが、昨日に行ってるだろうし家にはいるはず。それに中学の時と違って今は既に受かっている。いいなぁ羨ましなぁと思ったけど、俺もこの時期までには入社決まってたわ。
「たでーま」
ということは、全員いるんだろうと家の鍵を開けて中に入る。ここに来るのはクリスマス辺りに帰った時以来だが、この挨拶は間違っていないと俺は信じてる。家を出ても実家は帰る場所だし何よりも温かいものなのだ。
「かあちゃん、小町ー…...いないのか」
地味に親父をハブっているのはお約束である。いても寝てるだろうし。リビングまで行くとカマクラがダラりとコタツの中に顔だけ入れて寝ていた。こらこらそんな格好で寝てたら風邪ひくわよと遠山さんみたく腰に手を当てて怒ってみるが返事はない。仕方ないので引きずり出して顔を出して身体を入れてやる。これでよし。
「にしてもカマクラしかいないとは...」
時計を見れば針は12時を指している。まさかあのぐうたら家族は外食にでも行っているのだろうか。ありえないと思いつつも、小町が提案したならあの二人は嬉嬉として着いていく。俺を置いて旅行に行くような家族だ。やりかねん。まぁそれは俺が1度断わったからなのだが。
いないのであれば書き置きだけして立ち去るとしよう。お年玉はまた今度渡してやればいいさ。
昼飯をもらってなさそうだったカマクラに餌を与えて家を出る。この前は雪ノ下達が来ていてあまり構ってやれなかったから少しだけ戯れようと思ったが拒否されてしまった。餌をやればちょっとは感謝の意を表すかと思いきや相変わらず不遜な態度だった。
さて、これからどうしようか。初詣は国外で済ませてきたが、日本の仏様にもちゃんと挨拶はしておいた方がいいのだろうか。
となるとここから近いのは俺がいつも行ってるとこか、少し足を伸ばして浅間神社辺りだろうか。けど、休みが5日まであるんだし厳島神社に行ってもいいかもしれない。が、そこまでして願う頼みも、必要性も感じない。
結局帰宅という選択肢に行き着いて俺は自転車のペダルを漕ぎ出した。
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千葉から離れて都内に入り、最近になってようやく親しみを感じるようになった街並みを通って自宅へと向かう。公園で凧揚げする子供がいたり、隅っこのベンチでゲームを楽しんでる子供がいたりと時代の流れを感じる風景だ。俺が子供の頃は皆親戚の家とかに行ってて我が家みたいに親戚への挨拶を年賀状と電話で済ませる家族は稀だったのかもしれない。
おかげであの辺で街をウロウロしてる子供は俺だけだった。それはそれで街の支配者になった気分だったのだが、寒いので自宅が1番となった覚えがある。
「ん?」
そんな過去の思い出に浸っているとオロオロしてる着物美人を見かけた。持っている縦に長い紙、おそらく御籤を何度も見てはため息をついていた。
新年早々に着飾って神社に行ったのに『凶』でも引いて落ち込んでいるのかもしれない。例えば悪い男に引っかかるだの、落し物は見つからないだの、商売は上手くいかないだの。この辺はまだマシだが、たまに調べないと意味がわからない単語が飛び出してくることがある。まぁ御籤はかもしれないね、くらいの気持ちで取っとくのが1番いいと思う。たまたま選んだ紙切れでその1年の運勢が決まるなんてことは無い。
「はぁ.........」
だからそんなに気を落とさなくてもいいと思うんですよ俺は。後ろ姿だけでも分かってしまう落胆具合。これで涙でも流していたら、エリスに声をかける豊太郎のようなことをしていただろう。高い時計なんてないけど。今の所持品で1番高いのが乗ってる自転車なので手放す訳にはいかない。ごめんね見知らぬお姉さん。心で詫びて通り過ぎようとすると、そのお姉さんが俺を見て何か呟いた。
「は、ち......まん...?」
その声を俺は知っていた。見目麗しい顔立ちにナチュラルメイクにより際立った美しい目尻、長い髪を黄色の大きなリボンで纏めてポニーテールにしているその御仁の姿も俺は知っている。
「ひふみ先輩...」
傍から見れば『これは運命だ』そう言ってしまいたくなるシチュエーションだが、俺と彼女は前世で恋人同士だったわけでもなければ、赤い運命の糸で繋がれているわけでもない。
しかし、妙だ。こんなひふみ先輩の自宅はここから離れているし、逆方向だ。ここで一般的な男性なら『も、もしかしてわ、我のことを!?』とか言いそうだ。いや、材木座は一般男性じゃねぇな。
ともかく、俺は変な勘違いを起こさない。けど、御籤見ながらあわあわしていた理由は気になる。お互いにあけましておめでとうの挨拶を交わして俺はそれよりと前置きしてから尋ねた。
「どうしたんですこんな所で」
「あ、うん......実はね...」
聴けばひふみ先輩の親戚がこの近くに住んでおり新年の挨拶に参ったそうなのだが、昨日ひふみ先輩の着物姿が全国ネットに晒されてそれを偶然見た親戚に着物で家に来て欲しいと頼まれたのだそうだ。
「それで今は帰り......なんだけど」
「......なんかあったんですか」
「うん......これ」
見せられたのは『末吉』と書かれた御籤。渡して見せてもらうと大したことは書いてない。特筆すべきも写真映りに気をつけてくらいだ。コスプレイヤーのひふみ先輩にはこれがショックだったのだろうか。ひふみ先輩に返すと今度は足元に目を落とす。
「あー......」
「末吉じゃなくて、凶かもしれない...」
見れば草履の紐が切れていた。新年から不吉である。それで動けずにため息を吐いていたのか。なるほどと理解した俺だが、眉を顰める。一体俺にどうしろと。
「親戚の家に戻って靴貸して貰おうと思って、戻ろうと思ったんだけど...」
また見れば草履の切れた足が靴擦れしたのか、右足の靴下がほんのりと朱に染まっている。やだ不吉怖い。誰が一体ひふみ先輩にこんなことを。
にしても、こっから親戚の家に戻るのか。どれくらいの距離か聞くと遠くはないがこの足では難しいと首をふるふると振る。可愛い。
「だったらウチ来ます?近くなんで」
もう10メートルもしない距離だし、絆創膏もあるので怪我の治療もできる。草履の紐は直せるか分からんが最悪、俺のサンダルくらいなら貸してあげれるだろう。
「え、えと......は、八幡の、お家...?」
「え、えぇ。ほらあそこなんすけど」
母ちゃんが1歳から貯めてくれてたお年玉を頭金に借りた賃貸なのだが、エレベーターもあるし管理人もいる。それに俺のフロアの住人は会社員ばかりなので近所付き合いもしなくていい。それに仕事場に遠くもなく近くもない。なんだこれ最高の物件じゃねぇか。
とは俺が思ってるだけで、足を踏み入れる側はそうでは無いかもしれない。それに一人暮らしの男の家に入るなど、ひふみ先輩も嫌だろう。ここで『嫌なら大丈夫ですよ』と言うとひふみ先輩は罪悪感で『じゃあ行きます』と来てしまう。ここは断りやすく、かつ来てもいいよって感じをアピる言葉を...。
「......」
「.........」
ダメだ思いつかん。友達とか恋人を家に招待したことないからこういう時どう言えばいいかわからん。氣志團みたいに『俺んちこないか』とカッコよくワンナイトカーニバルする感じに誘うのがよかったか。いや俺のキャラじゃねぇな。どう言うべきかと悩んでいると、ひふみ先輩が大きく息を吸う。
「うん......わかった。いく」
草履を手に持ち俺の自転車の後ろに立つ。ぽかんとそれを見てると「の、乗らないの?」と紅い顔で首を傾げられる。
「乗ります」
即答である。そうだよね、足怪我してるから歩かせるわけにもいかないよね。これだから八幡はダメだよね。でも経った10メートルの距離を二人乗りする意味はあるのか。否、意味など必要ない。後ろから香るお香をたいたようないい匂いに、女の子らしい細い手が俺の腰に回される。さらに後ろから加わる柔らかい感触。
冬の寒い日だというのに身体は熱く、顔から熱が出ていくのが容易に分かる。それはひふみ先輩も同じかもしれない。けど、後ろは振り向けない。いつもはすぐに終わる10メートルという距離が、とても長くそして幸せに感じられた。
駐輪場に自転車を止めてエレベーターで俺のフロアに上がる。降りて俺の部屋まで行く際にひふみ先輩は怪我してない方の足だけで跳ぶ。その際におそらく着物に締め付けられたアレが揺れてるのかは定かではないが、先頭を歩いてて見れないのが残念である。
「お、お邪魔します......」
「はいどうぞ」
消毒と応急処置、靴の履き替えだけでいいから玄関まででいいとひふみ先輩は立ち止まり座る。俺は消毒液とティッシュ、絆創膏を手に戻る。
「あ、ありがとう」
「いえいえ。じゃ脱いでもらっていいですか」
「...え!?」
「え」
何をそんなに驚くことがあるのだろうか。消毒するのに靴下履いてると出来ないし、絆創膏も貼れないから脱いで欲しいのだが。早くしないとウィルスが入って細胞さん達が働く前に大変なことになっちゃうよ!
「え、えと脱ぐってここで...?」
「ひふみ先輩がここでいいって...」
「そ、そうだけど......」
「靴下だけ脱ぐのにそんなに恥ずかしがることないと思いますよ」
「.........あ、うん...そ、そうだよね......」
納得すると若干涙目で靴下を脱ぎ始めるひふみ先輩。そんなに玄関で靴下を脱ぎたくなかったのだろうか。よくわからない人だが可愛いからいいや。
「じゃ消毒しますね」
「...うん」
消毒液でティッシュを濡らして靴擦れで出来た傷口に当てる。その際にひふみ先輩が「んッ!」とか「ひゃっ、痛い...」とかちょっとゲフンゲフンな声を出したが気にしない。あとは絆創膏貼って、草履は素人には直すの難しいからサンダルを貸すことにした。
「あ、ありがとね...」
「会社で助けて貰ってるんでこれくらいは全然」
「そっか......」
そうこれくらい大したことは無い。誰にでもできることだ。けど、やらない人が多い。傷ついている人や助けを必要としてる人を、見て見ないふりをするのは人間誰しもそうだろう。ましてや赤の他人なら尚更だろう。
ひふみ先輩に可愛くても、どういう理由で泣いてるかわからない以上、助けても得があるかわからない。
それに助けられる方も下心ありきで助けられても嬉しくはないだろう。やっぱりこういうのは人助けを生業としてる公務員関係の人に任せるのが1番ですね。
それでも俺が知ってる人なら、世話になったことがある人なら、助けるのは当然なのだ。
「じゃ下まで送ります。歩けそうですか?」
「うん、大丈夫、ありがと」
そう言って笑顔を見せるひふみ先輩。サンダルのサイズが大きいから傷口に当たることもないし、左足も履いてもらったので靴擦れはもう大丈夫だろう。
草履は持って帰って直すからと袋に入れて渡しておく。直せるのかすげえなと感嘆して、家を出てまたエレベーターに乗る。
「そういえば八幡って今年成人式だよね」
「え? あぁそういえば…」
「忘れてたんだ...」
記憶の片隅にも残らないくらいには興味のないイベントだった。てか、絶対に行かなきゃならねぇのかなぁ。アレって袴じゃないとダメなのか? スーツなら入社式用に買ったのがあるが、袴は実家にもなかったと思うんだが。
「まぁ行けたら行くってことで...」
「それ行かない人のセリフじゃ...」
そんな話をしてる間にエレベーターが1階へとつき、レディーファーストでひふみ先輩を先に降ろして後ろから続く。エントランスを出てひふみ先輩が口を開く。
「その、本当にありがとね。......八幡がいてくれて助かった」
「いやまぁ」
「本当にありがとね。じゃ」
気にしなくていいと言おうとしたら可愛らしい笑顔とバイバイと手を振る姿に思考も視線も奪われてしまった。俺が小さく手を振り返すと、ひふみ先輩は前向いて帰路を辿る。その後ろ姿が見えなくなるのを待って、自宅へと戻る。新年早々ひふみ先輩に会えたのはラッキーだったなとベッドにダイブして時計を見る。そして、時間を見て俺はあることに気づいた。
昼飯を食えていないと。
......けど、まぁそんなことはどうだっていいことかもしれない。一食抜いたくらいで人は死なないし、現に朝飯を何度か食わずともやっていけた。朝と昼の違いはあれど食べていなくても生きてはいけるのだ。それに夜食えばいいし、と俺は瞼を閉じた。やっぱり正月はダラダラと1人で過ごすのが一番だと思って深い眠りの底へと入って行った。
やっぱり二次創作でも小説書くのって難しいですね。ワイの表現力のなさを痛感したよ...!
次回は同年代組による成人式のための着付けの時間です。
専門外のことは描写に困るんば。