賢者の力が消える時   作:湯たぽん

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一話

 

私には、特別な力がある。

 

この力があって良かったと思う事もあった。

でも、自分の意思とは無関係に働くこの力を憎く思った時期もあった。

そもそも、この力は自分のものではない。

授けられたものであるこの力は、早く使い切るべきもの。

早く力を使い切って、普通に生活できる日々を夢見ていた。

 

本来、力が無くなる事は私にとって喜ばしい。

 

 

 

そう、昨日までは思っていた。

 

 

 

「おーい、スズナ。おかゆだよ」

 

家の方からレイの声がする。

良き夫である彼のお手製おかゆが、

庭のリンゴの木に吊るされたハンモックへと運ばれてきた。

 

「・・・・梅干し入ってる?」

 

「あぁ、しっかり入れてあるよ。スズナって風邪引くと急に好みが渋くなるよな」

 

わけ知り顔で、レイ。彼と付き合いはじめてから今まで、

私は風邪をひいた事はないはずだ。

とある劇団で女優をしていた私を公演のたびに口説きに来ていた時も、

今と同じように私の事を誰よりも知っているようにふるまっていた。

 

そんなレイの愛情に満ちた視線を浴びながら、私はいまだに迷っていた。

 

 

 

私の力が無くなった事を、打ち上けるべきか否か。

 

 

 

物心ついた頃から、自分の意思とは関係なく常に働いてきたこの力。

それが働かなくなった時、本来喜ばしいはずの事を

私はレイに伝える事ができなかった。

 

常に自分と共にあったものが失われた。

何より、私にこの力を授けてくれたのは私の両親だ。

その虚無感は想像していたよりもはるかに重かった。

 

そして、レイ。

私は特別な力を使う事で、劇団の主役をやらせてもらっていた。

おかげで、劇団のファンだった彼と結婚できたのだ。

 

 

 

それが無くなった時、彼はまだ私を愛してくれるだろうか・・・・?

 

 

 

そんな、私の心配をよそに

レイは着々と出かける準備をしていた。

冷えないように暖かいコートとマフラーを持って、再びこちらに近づいてきた。

あぁ、やっぱり靴は用意していない。

 

「さぁ、医者に行くよスズナ」

 

「・・・・」

 

コートを着せマフラーをかけると

ハンモックから私を抱きあげ、当然のように地面へ下ろそうとするレイ。

私は靴を履いていないのに・・・・。

 

 

 

「・・・・何?スズナ」

 

無意識に腕に力をこめていたようだ。

中途半端なお姫様だっこのような形で私たちは静止していた。

リンゴの木の下で、背の高いレイに抱かれた私は、

傍から見ればさぞかし絵になっていただろう。

 

とはいえ今はそれどころではない。

不思議そうに私を見つめるレイに向かって、私は顔を真っ赤にしながら

 

「おんぶ・・・・おんぶして病院連れてって」

 

子供のような要求をした。

 

一瞬、ぽかんと口を開けて間の抜けた顔をしたレイだったが。

 

がばっ

 

すぐさま要求通り私をおんぶすると、何故か嬉しそうに駆け出した。

 

「わ、ちょ、レイ!ゆっくりでいいから・・・・!」

 

しかしレイは速度を落とすどころか、

スキップするように大きく身体を揺らしながら走っている。

 

自宅の庭を出ると、さすがに人目を気にしたのか

足をゆるめ歩き始めたレイだったが相変わらず機嫌は絶好調のようだ。

 

「・・・・愛する妻が風邪ひいてるってのに。」

 

「ん?何か言った?」

 

背中をにらまれても何も動じないようだ。この・・・・!

 

 

 

「スズナさ」

 

「・・・・何」

 

 

「たまには、風邪ひいても良いよ?」

 

「もう二度とひかない!」

 

リゼンブールのリンゴ並木を、周りの視線をすべて集めながら

私たちは、病院へ・・・・

 

「え?レイ、道違うよ。病院は左」

 

病院への分かれ道を、違う方向に行きながらもレイは足を止めなかった。

さっきまでにやけっぱなしだった顔がいつの間にか緊張したように引き締まっている。

この道の先は、まさか・・・・!

 

「嫌!レイ、そっちじゃない・・・・!」

 

「良いんだ、こっちで」

 

泣き叫びながら背中から降りようとする私。

だが、レイはそれもさせず早足で病院から遠ざかる道を歩いて行った。

 

 

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