賢者の力が消える時   作:湯たぽん

2 / 3
二話

 

「入るよ、スズナ」

 

「・・・・」

 

予想通り、たどりついたのはリゼンブールの市立学校だった。

 

日曜日だったので門は開いていなかったが、

顔なじみの私たちはすんなり中へ通された。

無言のまま誰もいない廊下を進むと、窓の外まではみ出そうなほど

本が積み上げられた研究室が見えてきた。

 

研究室の表札には、

「錬金術研究室

 室長:シノ・グラン」と書かれていた。

 

 

 

「・・・・ん?」

 

中に入ると、分厚い眼鏡にぼさぼさの短髪頭、

そしてこれだけは清潔にと気を遣っているであろうシワ一つない白衣。

誰が見ても学者だと分かるシノさんが机にかじりついていた。

 

「こんにちは、シノさ・・・・」

 

「あーーー!もうこれだから!」

 

突然、こちらの挨拶をさえぎると、

シノさんは机の上で発狂したように頭をかきむしり始めた。

 

 

 

「これだから!これだから新婚は!

 なーにおんぶされていちゃいちゃと人の研究室に遊びに来ちゃってるんだ!」

 

やおら立ち上がると、横にあった本の山を崩し

山の下から出てきた椅子を二脚、私たちの方に出してきた。

 

「仲が良くて何よりだね!まったく。」

 

同じく本の山から発掘されたコップにポットのコーヒーを入れ、差し出してくれた。

歓迎してくれてはいるんだろうけれど・・・・、

30代も後半にさしかかって独り者のシノさんには

私たちの姿は若干不愉快だったようだ。

 

「で?どうしたの突然に」

 

いつの間にかちょっと心配そうな顔に切り替わったシノさんが、

レイにおんぶされたままの私を覗きこんできた。

 

「ほら・・・・スズナ」

 

背中を降りるようにうながすレイ。

 

「気づいてたのね・・・・」

 

床に降りて、椅子につくと

 

 

 

「え・・・・?」

 

信じられないものを見たかのように私を見つめ

 

「スズナちゃん・・・・まさか・・・・」

 力が・・・・無くなったのかい?」

 

シノさんはすぐに私の異変に気がついたようだ。

 

そう、私の力は特異ではあるが、錬金術の一種だったのだ。

伝説の、巨大な錬金術の力を内包しているとされる賢者の石を、

私は両親によってこの身に受けて産まれてきた。

 

そして、このシノさんは錬金術師。自分では大した力ではないと言ってはいるが、

学校の教職を得て思う存分研究に没頭し、

いくつか出した論文も高評価を得ているやり手だ。

私の力を詳しく解析し、錬金術と賢者の石の関係を私に教えてくれたのもシノさんだ。

 

 

 

「そうなんです。昨日の夜あたりから体調を崩して、今朝になって・・・・」

 

私の代わりに、レイが答えた。

 

「シノさんなら、何か分かりませんか?力が無くなるのは喜ばしい事だけれど

 それがスズナの身体にさわるようだったら・・・・と思って」

 

私の心配をあっさりと打ち崩すと、

レイは私の肩を強く抱きながらシノさんに詰め寄った。

 

「そうか・・・・。確かに、力がなくなるのは良い事だらけとは限らないね

 伝説の賢者の石に関する力となると役に立てるかどうか全く自信はないが・・・・」

 

そう言うと、シノさんは机の周りをぐるりと回り、私と膝合わせで向かい合った。

 

「今期から錬金術と医学の連携について研究していてね。

 人の身体を少しだが診れるようになったんだ。ちょうど良かった」

 

なんだか頼もしく見えるようになったシノさんは、私の脈を取ったり眼を剥いたり

患者というよりは実験対象を見るような目で私の身体を調べ始めた。

 

 

 

「これは・・・・確かあっちの棚に・・・・」

 

分厚い医学書を何故か足元から拾い上げ、しばらく唸りながら見入った後・・・・

 

 

 

「・・・・やっぱりそうか!」

 

シノさんがあまり真剣に調べてくれるので、

せっかくのコーヒーにも口をつける事無く私たちは見守っていた。

そこへバン!と勢いよく医学書を閉じたシノさんがようやくこちらへ向き直った。

 

「スズナちゃん、レイ君・・・・」

 

向き直ったシノさんの顔は、何かを必死に我慢しているように見えた。

 

「スズナちゃんの体調の事は、私の手には負いかねる」

 

顔の筋肉を緊張させたまま、シノさんは手元にあったメモにペンを走らせた。

 

「今すぐ、この住所の医者へ行きたまえ。

 ここでならうまく・・・・うん、大丈夫だろう」

 

最後の言葉を濁し、メモをレイへ差し出す手は震えていた。

 

「だ・・・・大丈夫なんでしょうか、スズナは」

 

ただならぬシノさんの気配に、レイがたまらず声を上げる。

 

「・・・・あぁ、すまない。大丈夫だ。絶対大丈夫。だから早く行きなさい」

 

シノさんは顔をそむけ手で隠し、手の平を返して急げと合図している。

 

 

 

あいさつもそこそこに、私達は研究室を飛び出した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。