「急ぐよ!スズナ」
再び私を背負うと、レイは必死の形相で走り出した。
私自身もさっきのシノさんの表情が頭から離れない。
あんなに、必死に何かに耐える表情をする人を私は見た事がない。
何か・・・・あるのだ。やはり、私の身体に・・・・
「1番街・・・・タルカス通り・・・・!」
レイがシノさんが書いてくれたメモを見ている。
朝、はじめに行こうとした大病院と方面は同じだが、違う場所のようだ。
来た道をいったん戻り、私が騒ぎだした分かれ道まで来たところで、
レイはいったん立ち止まった。
「・・・・まさか、この住所って・・・・」
「何?知ってるお医者さんなの?」
背中から乗り出して、メモとレイの顔を交互に見比べていると
「・・・・!?」
レイの顔つきも変わっていた。
さっきの・・・・シノさんと同じ表情だ!!
無理矢理顔中の筋肉を収縮させたように・・・何かに耐えている!
「ねぇ!この住所どこなの!?私どこに連れて行かれるの!?」
突然無言になって走り出したレイの背中で、私は叫んだ。
「大丈夫!絶対大丈夫だから!暴れないで!」
シノさんと全く同じ言葉をレイも繰り返している。
彼らは一体私の何を知ったのだろう・・・・!
「・・・・・・・・あ」
頭上の看板を見て、私が我ながら間抜けな声を出したのと
レイが足を止めたのはまったくの同時だった。
「はぁ・・・・はぁ・・・・ここだよ。スズナ」
さっきまでとは全く違う表情で、レイ。
笑っていた。今まで見た事もないほど嬉しそうに。
再び私が上を見上げると、そこには
「産婦人科」、と書かれていた。
「赤ちゃんだよ!僕らの子供ができたんだ!」
大きな通りのど真ん中であるにも関わらず、レイは私を背負ったまま大声で叫んだ。
「そっか・・・・そうだったんだ・・・・」
体調を崩したのも、急に食べ物の好みが変わったのも、
新しい命が私の中にできたからだったのだ。
「うわー、シノさんの気持ち今分かったわ。
こりゃ我慢するの大変だっただろうにな!」
シノさんとレイは、2人とも喜びが顔に出るのを必死で耐えていたのだった。
レイは相変わらず私を背負ったまま、通りをとび跳ねまわった。
人通りが多少ある時間なので、恥ずかしいったらないけれど・・・・
私は私で、一生懸命子供の名前を考えていた。
エドワード・・・・ちょっと強すぎな名前かしら。
賢者の力が宿っているからさぞかし強い子ではあるんだろうけれど・・・・
シンプルにリン。悪くないかも。
・・・・あ、男の子とは限らないか。
ん・・・・ミラ。いやもうちょっと暖かい名前がいいな。
病院の受付にも行かずに2人ではしゃいでいるうちに、
通りの向こうからシノさんもやってきていた。
「やっぱり、賢者の力が赤ちゃんの方に宿ったようだね」
私の力は賢者の石によって引き起こされていたのだが
それが私の中の子供にうつった事で、力が消えたのだ。
賢者達にとっては孫にあたるのだから・・・・
「これから、忙しくなるね」
満面の笑みを浮かべながら、ようやくレイが私を下ろした。
生まれて初めて、”普通に”地面に立てた。
その事すら忘れるほどの幸福感が私を包んでいた。
錬金術よりも、賢者の力よりも。
家族の絆って、何よりも強いのかもしれない。
おしまい。