つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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雨降って地固まる

NO SIDE

 

 闘いが終わってから数十分後、気絶から目を覚ました乙女の姿はシャワー室に在った。

 

「負けてしまったか…………」

 

 シャワーから流れ出る水が傷に染みる度に負けを実感してしまう。

 

「昔のままだと思って慢心した報いか……アハハ」

 

 自嘲気味に笑みを零す。しかしその表情は儚く、悲壮感溢れるものだった。

 

「くっ……うぅ…………」

 

 自嘲的な笑いが次第に嗚咽に変わる。

 

「畜生…………畜生っ………………!!」

 

 声を押し殺しながら乙女は敗北の悔しさに涙を流す。

しかしせめてもの抵抗で叫んだりしない。あくまで声を押し殺しながら咽び泣く。

 

「……このまま終わりはしない、私はもっと強くなる!!」

 

 思いっきり泣いた後、乙女は強い意志を孕んだ瞳を取り戻す。

ただ泣くだけでは終わらない。負けの中にも好敵手を得たと言う喜びを見出す、それが彼女、鉄乙女の強さなのだ。

 

 

 

レオSIDE

 

 試合の後、カニたちは先に帰り俺も一休みした後帰る支度をする。

 

「痛てて……う〜〜こりゃ明日全身筋肉痛決定だな」

 

 勝利の代償は結構重い…………でもまぁ、長年の悲願が達成できた訳だし、よしとするか。

 

「まだ居たのか?」

 

 不意に後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには私服に着替えた乙女さんが居た。

泣いた直後なのか真っ赤に充血した眼や顔中に貼った絆創膏や湿布を見るとさすがに悪い事をしてしまったと思ってしまう。

「何心配そうな顔してるんだ、お前は私に勝ったんだ、もっと胸を張ったらどうだ?」

 そう言って俺を叱咤してくる。立ち直りが早いというか器が大きいと言うか、何だかんだ言ってそこら辺はまだまだこの人には敵わないと思う。

 

「今回は私の負けだが、次は負けんぞ」

 

 やや挑発的な笑みを浮かべて俺に手を差し出してくる。

 

「上等、ただし怪我が完治してからだけどね」

 

 そう言って苦笑いしながら俺は差し出された手を握った。

 

 

 

「あ、そういえば、結局俺ん家に住むって話どうすんの?」

 

 いつの間にか勝負云々になっていたのですっかり忘れていた。

 

「ん?そういえばそうだったな、まぁ、どっち道勝負に勝ったのはお前だし、お前が決めれば良いさ」

 

 う〜ん、一人暮らしを取るか、乙女さんを取るか……正直気楽な一人暮らしを捨てるのは惜しい、だけど……。

 

「一緒に暮らす、かな?そっちがそれで良いならだけど」

 

「……」

 

 驚いたように目を見開く乙女さん。え、何?そんなに意外?

 

「意外だな、てっきり断るとばかり思っていたが」

 

「ズタボロにしといて言うのも変だけど、別に乙女さんが嫌いって訳じゃないから、勝負(リベンジ)と家族愛は別物ってね」

 

「そうだな、私もそれは同じだ、これからよろしくな、レオ」

 

 そう言って乙女さんは俺の方を向いて満面の笑顔をみせてきた。


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