つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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歓迎会

レオSIDE

 

 乙女さんとの壮絶な試合の後、流石にズタボロになったその日は無理なのでその翌日の日曜日、全身筋肉痛の体に鞭打って引越しの作業を終え、その日の夜はスバルが作った豪勢な飯を5人で囲みながら乙女さんの歓迎会となった。

 

「よし、宴もたけなわということで隠し芸行こうぜ」

 

「はーい! 1番蟹沢きぬ、モノマネいきまーす」

 

 ?……カニの奴誰のモノマネする気だ?

 

「テンションに身を任せるなんて俺はゴメンだぜ……」

 

 ……オイ。

 

「次ぎ戦(や)るときはキッチリ腕磨いて来い、新人潰しなんてセコイ真似せずにな」

 

「それが、この俺だというのか?ええ、オイ」

 

 ムカついたのでカニの頬を引っ張りあげる。

 

「ふは、はひほふるははへ(うわ、何をする離せ)」

 

「いや、コレ似てるぜ」

 

「っていうかそっくりで面白」

 

「特徴を良く捉えているな」

 

 え?俺ってこんなんなの?流石に凹むぞ。

 

「よし、次は私がやろう」

 

 2番手は乙女さんか、それじゃ、コレ渡さないと。

 

「はい、コレ」

 

 そう言って俺は乙女さんにリンゴを手渡した。

 

「?なんだこのリンゴは」

 

「片手で握りつぶすんでしょ?」

 

「『乙女』がそんなことできるか!」

 

 怒鳴り声と同時に乙女さんの手の中にあるリンゴはグシャリと粉々に砕け散った。

結局してるじゃん……。

 

「うわ、スッゲェ……」

 

「……まぁ、これは置いといてだな」

 

 リンゴの欠片を食べながら乙女さんはこちらに向き直る。

 

「私がやるのは手品だ、この10円玉が2つに増える」

 

(手品?乙女さんて昔から不器用だったはずじゃ……)

 

 手の平に10円玉を握り締める乙女さん。

 

「ワン、ツー、スリー!」

 

 手を開く。中からは1枚だけの10円玉が……。

 

「1枚のままだけど」

 

「く……また失敗か……何故だ!?」

 

 無念そうに乙女さんは10円玉を握り締め、10円玉は見事に2つにへし曲がった。

 

「うわぁ、二つに折れた!?」

 

「底知れない人だな、こんな芸レオや館長以外で出来る人が居るとはな」

 

 っていうか…………。

 

「手先が不器用なのに手品なんて何故?」

 

「む……それは秘密だ、それよりレオお前も何かやったらどうだ?」

 

 え、俺?

 

「お、そりゃ良いぜ、その次はスバル、そして締めは俺が格好よく決めてやるよ」

 

 さりげなく取りを手に入れて格好付けようとしてるよコイツ…………。

 

「おいレオ、ちょっと耳貸せ」

 

 カニが俺に何か耳打ちしてくる…………………成る程、そりゃ良い。

 

「主(ぬし)も悪よのぅ」

 

「オメェ程じゃないぜ、へっへっへ…………」

 

 さてと、それじゃやるか。

手の平サイズのゴムボールを5個持ってきて準備に入る。

 

「フカヒレ、ちょっと来てくれ、お前の力が必要だ」

 

「ん、何々?俺の力が必要?しょうがないなぁレオは」

 

 網に掛かった馬鹿が一匹。チョロイもんだぜ。

 

「対馬レオ、ジャグリングしながらフカヒレを屈服させます」

 

「ちょっ、お前何言って!?」

 

「レオ、お前ジャグリングなんて出来たのか?」

 

 乙女さんはジャグリングの方に目が行ってフカヒレの事はガン無視だ。

 

「ちょっ、無視しないでよ乙女さん!」

 

 逃げようとするフカヒレを抑えながら俺は5つのボールを使ってジャグリングを始める。

 

「姉ちゃんが帰ってくるぞ、今すぐお前の所に戻ってくるぞ」

 

「ちょ、何言ってんだよ、やめろよ…………」

 

 フカヒレに聞こえるように『姉ちゃん』という言葉を連呼する。

 

「ほぅ、コレは中々大したものだな、今度私にも教えてくれ」

 

「うわーん!やめてよお姉ちゃん!飲尿健康法なんて僕で試さないでよぅ!しかもそれ犬のオシッコだよぅ!!」

 

 馬鹿の声が聞こえた気がするが、気のせい気のせい(笑)。

 

 

 

 一通り騒いで宴も終わりとなり、後片付けの時間となった。

 

「ところでレオ、お前は彼女とかいないのか?」

 

 乙女さんが唐突にそんな事を訊ねてきた。

 

「いませんよ」

 

 何故かフカヒレが嬉しそうに答えた。

 

「坊主もモテないって事は無いんだがな……女性ファンも何人かいるんだが、何だかんだでコイツ奥手だからな」

 

 え!?

 

「おい、女性ファンって……初耳だぞそんなの」

 

 いや本当にマジで。

 

「は?知らなかったのかよ!?お前闘技場の女性客に結構人気なんだぞ」

 

「何ぃいい!?本当かよスバル、俺も知らなかったぜ」

 

「どーいう事かじっくり教えろや、レオテメェ!!」

 

 なんでフカヒレとカニまで反応するんだ?つーか、俺も全然知らないから。

 

「お前この前の試合の後、女の客に花貰ってたろ」

 

「は?アレそういう意味なのか?」

 

 知らなかった……。

 

「成る程、奥手に加えて鈍感か、コレなら彼女が出来るのに時間が掛かるというものだ」

 

 乙女さんは乙女さんでなんか納得しちゃってるし。

その傍らでフカヒレは血の涙を流し、カニは不機嫌オーラを醸し出していた。

 

「しかし、お前たちは何だかんだで仲が良くていいな……明日の放課後、ちょっと連れて行きたい所があるんだが、教室で待っててくれないか?」

 

「どこスか?」

 

 興味深々な様子でフカヒレが訊ねる。

 

「それは行ってのお楽しみだ」

 

 何か微妙に気になるな。

 

…………こうしてそれなりに楽しい歓迎会は終わった。

 

 

 

「所で、伊達は何故あんなに料理が得意なんだ?」

 

 家事の役割分担の話の途中でふと思いついたのだろうか、乙女さんが聞いてきた。

 

「嫌な家庭の事情だよ、母親が家出てるし、父親とも仲が悪いから」

 

 それを聞いて乙女さんは何か言いたげな顔になるが俺はそれより先に話を続ける。

 

「俺達みたいにまともな親が居る人間には完全には理解できないけど、世の中どうしようもない親っているから、中学の時の先輩にもそういう人いたし……そういう人の心の傷ってさ、乙女さんや俺が考えてるよりずっと深刻なんだよ」

 

「だが……いや、やめよういくら親しい人間でもそいつの家庭環境に口を出す権利は無いしな」

 

 確かに……。こればっかりは当事者で解決しなきゃいけない問題だ。

 

 

 

 

 

現在の対馬家におけるヒエラルキー

 

乙女(一応年功序列で)≧レオ=スバル>>>冷蔵庫>>>カニ>>>ボディーソープ>>>>越えられない壁>>>>>断崖絶壁>>>>>>フカヒレ


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