つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

15 / 61
年下のあの娘は色んな意味で辛口だ

レオSIDE

 

 さて、フカヒレのアホが暴走した所為でこれ以上のナンパ作戦は無理と判断し、俺達は生徒会室へ戻った。

 

「あらあら」

 

 何故かそこには寛いでいる祈先生の姿があった。

 

「なんで俺の祈先生がここにいるの?」

 

「さりげなく大胆な発言ね」

 

 フカヒレの妄言に姫が突っ込む。あの姫に突っ込ませるとは……。

 

「私、フカヒレさんみたいな人は仕事でない限り声もかけたくありませんの。ごめんなさいね」

 

 相変わらず笑顔できつい事をさらっと言うなぁ……

 

「ま、こんな状態で始まる愛もあるさ」

 

 しかしフカヒレはとてつもなくポジティブだった。

 

「祈センセイは生徒会執行部の顧問なの」

 

「顧問といっても運営方針に口出しはしませんわ、生徒は自主性を尊重し、すべてをお任せします」

 

 祈先生の性格からしてその言葉は単なる建前。実際は丸投げの放任主義……。

 

「誰かいい人見つかったの?」

 

「残念ながら」

 

「まぁ初日だしね。ちょっと気が早かったかな」

 

 相変わらず佐藤さんは優しいなぁ、癒されるぜ。

とりあえず俺のほうも新しい作戦を開始するか。

 

「佐藤さん、一年生の名簿とかある?」

 

「あるよ……はいこれ。この棚にあるのが資料だから、好きに見ていいよ……読み終わったら元の場所に戻しておいてね」

 

「ありがとう」

 

 佐藤さんに礼を言って、名簿を開く。

当然の事ながら一年生の名前、住所、所属する部活まで全部書いている。

 

「一年の名簿見て適当に決めようぜ、作戦か?」

 

 俺が名簿を開いたのを皮切りに皆が俺の周りに集まる。

 

「ああ、まず文化系か帰宅部を狙わんと、体育会系とヤンキーっぽい名前を避ける。単純な消去法だけど少しは効率が上がるだろ」

 

 忙しい運動部とかじゃ執行部を手伝う余裕はない。ヤンキーなんか論外。

 

「でも、いい作戦だね、ちょっと知識ひけらかして悪いけど、名は体を露にするって言うじゃない?大人しそうで、かつ可愛くて、先輩の命令だったら何でもしてくれそうな名前の子を選ぼうよ」

 

 名前だけでそこまで分かれば苦労はせん。

 

「オイ、面白い名前があったぞ。これどうよ?北海道牛子。所属は手芸部」

 

「おぉ、いいねぇ。でっかそうだねぇ。胸なんかきっとホルスタインだぜ」

 

 ま、とりあえず見に行ってみるか。

 

 

 

数十分後

 

 偵察を終えた俺達の顔はきっと今凄く疲れた表情をしている事だろう。

 

「オージーザズ、胸どころか顔までホルスタインじゃねぇか」

 

「人ってのは目鼻の配置の気まぐれであんな風になっちまうものなのか……」

 

 何か黄昏たい気分だ……。

 

「もうすぐ陽が落ちるね……ね、ね、せっかく四階にいるんだし屋上いかない?こっから見える夕陽キレイだからさ」

 

 グッドアイデア、たまにはカニも良い事を言う。

 

 

「うわぁ!キレイキレイ」

 

 本当に良い眺めだ、カニがはしゃぐのも解る。

何だかんだでカニって結構センスあるんだよな。

 

「ロマンチックだねぇ、夕陽見てるとギター弾きたくなるんだよな俺」

 

 フカヒレも感慨深い表情で夕日を眺める。

 

「あれ?ボクたち以外に誰かいるよ」

 

 カニが指差した方を見てみると確かに人がいた。端正な顔つきでやや釣り目の女だ

ん……?あの女どっかで…………。

 

「あれも一年の女子だね」

 

「……」

 

 視線を感じたのか、一年生は一瞬ちらりとこっちを向いたが俺達に興味は無いらしくすぐに目を逸らした。

 

「あ!?あれカレー屋を荒らしてくれた女だ……ボクたちと同じ学校だったんだ」

 

「あー、オアシスの」

 

 漸く思い出した。彼女はカニのバイト先のカレー屋で俺が7口でギブアップした超辛カレーを平らげたあの辛口キング(女だからクイーンか?)だ。

 

「気に入らないヤツだけど、同じ学校だったとはね。これは楽しくなってきたなぁ」

 

 カニは嫌な笑顔で、指関節をバキボキと鳴らす。

 

「先輩として色々教えてあげたい気分だねぇ」

 

 ……絶対喧嘩売る気満々だよ。全くこの甲殻類は……。

 

「しかし、あれで一年か……なんか貫禄ねー?」

 

「ああ、大物っぽいな」

 

 背は女にしちゃかなり高い、170cmぐらいか?

しかも鋭い目つきで結構威圧感がある。フカヒレ程度の人間なら簡単に怯ませることも出来るだろう。

 

「よーし、決めた!あいつを生徒会にスカウトだ!!」

 

「おいおい正気ですか?」

 

 やめとけフカヒレ、お前じゃ120%無理だ。

 

「一年だし、美人じゃん。胸大きそうだし」

 

「オメー外見しか見てねーだろ」

 

「今、神が俺に囁いたんだよ、この娘にしろとっ!」

 

「それ邪神?」

 

 どっちかって言うと低級霊だろ。コイツじゃ邪神でさえ囁くのを面倒臭がる気がするぞ。

 

「だってあの後ろ姿見てみろよ、なんか寂しいから誰か私を抱いて光線を放ってると思わない?」

 

「えー? そうかぁ? オレには逆、他人は近づくな光線に見えるんだがなぁ」

 

 たぶんスバルの方が全面的に正しい。 

なんというか、人を寄せ付けない嫌気オーラが漂ってるもん。

 

「大丈夫!なんたって俺は彼女にセイロンティーをおごったんだからさ、面識はある。余裕だぜ」

 

 一回コイツのこの頭の中をのぞいてみたい…………いや、やっぱり嫌だ。こちまで脳みそが腐る。

 

「400円から始まる恋もあったっていい!お前たちはここで待機、キスまで行っても指をくわえて見てるんだぞ」

 

「どこをどう計算したらキスまで行くんだよ」

 

「俺もとうとう彼女持ちかぁ……おいカニ、帰ってきたら俺の顔、携帯で撮影してくれよな、一仕事やり終えた男の顔だからさ」

 

 いや、戦いに敗れてしょぼくれた男の顔だよきっと。

 

「ねぇ、ちょっといいかい」

 

 フレンドリーに話し掛けるフカヒレにキングは無言で、そして面倒臭そうに振り向いた。

 

 

 

フカヒレSIDE

 

「パワー計測!」

 

 俺の身体に内蔵されたおっぱいスカウターを起動する。

75……76……78……何ぃ!!まだ上がるだと!?

 

「は、87……だと」

 

 バスト87……最近の1年生は化け物か!?

やってやる、やってやるぞ!!必ずこの女を俺の手に!!

 

 

 

レオSIDE

 

「俺は2−Cの鮫氷新一。シャークって呼んでくれ、趣味は天体観測。わりと自然好きなんだ、好きな昆虫はコーカサスオオカブト、あの威風堂々とした角になんか親近感」

 

 勝手に自己紹介してるよ。この時点で失敗フラグだな。

 

「見苦しいよなぁ……」

 

 スバルが溜息混じりに呟く。いや、本当に見苦しいよ。

 

「あのさ、君、生徒会って興味ある?」

 

「ありません」

 

 あ、即答だ。

こりゃダメだ、諦めて戻って来いフカヒレ。今ならまだ軽傷で済むぞ。

 

「実は生徒会では明日の学校を担うフレッシュな人材を募集しているんだ。カリスマ生徒会長、霧夜エリカの下でがんばってみる気はない?」

 

 諦めの悪い奴だ……。どうなっても知らんぞ……。

 

「ありません」

 

 冷淡な返答だ。思いっきり拒絶してるよ。

フカヒレは一瞬たじろぐがそれでも諦めきれない様子だ。

 

「でもほら、生徒会の名簿見たけど部活無所属なんでしょ?青春を有意義に使う意味でも、生徒会どうかな?」

 

「仕事内容は簡単だよ、難しく考えないでいい」

 

「消えてください、興味ないです」

 

「ぐ……だ……だったらさぁ!俺と付き合ってみればいいじゃない!」

 

 カッと目を剥き、フカヒレは叫んだ。あーあ、やっちゃったよ……。

 

「新たな世界が生まれるかもしれないじゃない!」

 

「……」

 

「俺についてこい!」

 

 誰もついて行こうと思わないよ、お前じゃ……。

 

「テンパって前後不覚になってるな」

 

 それでもなおフカヒレは食い下がる。そして遂に辛口キングが口を開いた。

 

「気持ち悪い」

 

「キモ……?ちょっと待って、俺のどこが気持ち悪いんだよ!」

 

 どこがって……行動、言動、性癖etc…………挙げればキリが無い。

 

「しつこい」

 

「ひっ」

 

 キングの一睨みにフカヒレは小さく悲鳴を上げた。さっきまでの威勢は何処へやら……。

 

「潰すぞ」

 

「ひぃぃいっ!」

 

 キングの威圧にフカヒレは小走りで逃げ帰ってきた。

 

「うっ、うわぁああああぁあんっ!チクショー!」

 

「♪〜〜」

 

 カシャカシャと電子音を鳴らしながらカニはフカヒレの無様な姿を携帯写真に収めていた。

 

「なぁに写真撮ってんだよ、このメス豚がぁ!」

 

「んだよ、そっちが撮れっつったんだろっ!」

 

 コレばかりはカニの言うことが全面的に正しい。

 

「スバルゥ!あいつシめてくれよ!」

 

 あーあ、フカヒレの奴、いつものことながら錯乱しちゃったよ。

 

「落ち着け」

 

「おやおや精神的に参っちゃいましたかこのゴミは。ほんっと使えないクズだよね」

 

「女の子に厳しい事言われると、姉へのトラウマが発動してしまうからな……本当に難儀なヤツだ」

 

 仕方ないからフカヒレは放置だ。

 

「ちょっとボク行ってくるよ」

 

 お?今度はカニか?

 

「説得?」

 

 無理だろ、カニじゃ……フカヒレよりはマシだろうけど。

 

「まさか、あんな胸デカそーな女いらねーよ」

 

「それ私怨入ってるだろ……どうする気だ?」

 

「フカヒレはカスだけど、一応二年だよ?目上の者に対するハウトゥーを語ってあげるのさ、平たく言えばヤキ入れ」

 

 カニはテクテクと歩いていった。

 

「揉め事になったら止めるぞ」

 

「ほぼ確実に揉めるぜ、カニは」

 

 あの性格だからな……

 

「よっ、辛口キング、ボクのことは当然覚えてるよね」

 

「あぁ……鈴木さん」

 

「誰それ?ねぇ誰?」

 

 わざとらしく間違えるキング。あーこりゃ完全に挑発してるな。

 

「ボクだよ、カレーハウス“オアシス”の可愛いウェイトレス!」

 

「あぁ……」

 

「こ、言葉遣いには気をつけなさいよ、ボク二年だから」

 

 年齢で自分を上に見せようとしているかにだが、容姿も言動もそれをマイナスしてしまっている。

 

「縦社会とか嫌いなんだけどね? それでも先輩に対する最低限の“敬い”は社会でやっていく上でとても必要だと思うんだよね、そこをいくとキミはまだまだそういうところが欠如してると思うんだよな〜ボクは」

 

 お前が言うなお前が。

 

「……」

 

「いや、これは心配してるんだよ先輩として」

 

「……」

 

「まぁ、ここは一つボクがキミの淀み腐った精神を叩き直してあげるよ」

 

 淀み腐ってるのはお前だろ。

 

「だからとりあえず大学食でジュースでも買ってき――」

 

「うるさいな」

 

 キングがカニの量頬を掴んで引っ張りあげる。

 

「んは!?」

 

「お似合い」

 

「ははへははへ!」

 

「聞こえない、しっかりしゃべって『先輩』」

 

「ぐおおおおおお!」

 

 あーあ、ダメだこりゃ。

それから少ししてキングはカニを解放した。

カニは涙腺がもろいので、もう涙目だ。

 

「うくっ……う……めぇ……夕陽の中で死ねるとはなかなかオツだなぁ、オイ!」

 

「結構いい性格してるぜ、あの女……思ったより結構子供だなあいつも」

 

 このままじゃ面倒な事になりそうなのでスバルと共に今にも飛び掛らんとしているカニを取り押さえる。

 

「そこまでにしとけや鈴木さん」

 

「そうだぜ鈴木さん」

 

「だーれが鈴木さんじゃボケェ! いいから放せ!こいつの命(タマ)だけは殺(と)ったる!」

 

 じたばたと暴れるカニ、まさに荒ぶる獣だな。

 

「騒がしいので、失礼します『先輩』」

 

 『先輩』の部分を強調している。あからさまに嫌味を込めた呼び方だ。

 

「取り付く島がないな」

 

「ああ……」

 

 世の中ああいう人間もいるんだな……。

 

「ボクが……ボクがコケにされたままなんてぇ!」

 

 怒り冷めやらぬカニは、ポケットから手帳を取り出して何か書き込みはじめる。

なぜかそのページには俺の名前があり、今その下に『一年のクソ生意気な女』と追記された。

 

「それ何?」

 

「ボク的、殺したるリスト」

 

 げげ…………こいつ俺に殺意まで抱いてたのかよ?恐ろしい奴だ。

 

「殺すというより屈服させるっていうのが目的かな、乙女さんは良い人だったけど、アレは絶対悪だね、いずれボクの子分にしてイジメまくってやる!」

 

 無理だと思うのは俺だけだろうか?

 

「次回!ボクのものすごい復讐!」

 

 …………なんか今遥か遠くから『勝手に次回予告するな!!』っていう声が聞こえたような気が…………誰の声だ?(←作者の声だ)

 

 

 ってな訳で今回の生徒会人材発掘作業……失敗。

 

 

 

NO SIDE

 

 今日もまた夜が来る。さて本日の対馬家の晩飯は……。

 

「……握り飯だ」

 

「……頂きます」

 

 本日の晩飯担当は乙女だが、また料理が上手くいかなかったらしい。

もはやレオは呆れる事さえ忘れてしまう。

 

「そういえば、副生徒会長の仕事ってどんなの?」

 

「あぁ、基本的に姫のサポートだ」

 

「……姫のサポート」

 

 あの姫にサポートが必要かといわれると非常に微妙なのだが。

 

「ただ姫はあの通り仕事が完璧だから、副会長は飾りのようなものだな、だから私は風紀委員と掛け持ちできるんだ」

 

 要するにレオも重要な仕事をする必要は全く無いということだ。

 

(何かカニやフカヒレと同列っぽくて少しショック)

 

 実際はそんな事は無いのだが(少なくともかにやフカヒレよりは仕事は多い)話だけ聞くとそんな風に思えてしまう。

 

「姫の言うことを聞いておけば問題ないが……まぁ、わからないことがあれば、その都度私に聞け」

 

「うん」

 

「で、いい人材は見つかったか?」

 

「収穫ナシ。六月からは本気を出すよ」

 

「そうか、まぁ頑張れ」

 

 何だかんだ言っても乙女は激励の言葉を忘れない人である。

 

(しかし、人材登用か……思っていたよりずっと厄介な仕事だぜ)

 

 握り飯を食べながらレオはふとそんな事を考えていた。

 

 

 そして食後はしばしの休憩の後、レオと乙女によるスパーリングだ。

といっても自宅を壊すわけにも行かないので軽い打ち合い程度なのだが。

 

「破!!」

 

「っ!!」

 

 乙女の繰り出す蹴りを上半身を反らしながら何度も回避する。

 

「でぁっ!!」

 

「甘い!!」

 

「チィッ!!」

 

 すかさず反撃に移るレオ。目にも留まらぬ速さの蹴りが薙ぐ様に乙女を襲うが乙女はそれをガードし、直後にそれを掴みレオを投げ飛ばそうとする。

しかしレオも負けてはいない。空いた足で再び蹴りを繰り出し自らの足を掴む乙女の腕を蹴飛ばし投げから脱出する。

とても軽いとは言えない内容ではあるが二人にはコレで軽い方らしく、お互いに山道を散歩した程度の汗しか掻いていない。

 

「明日はエキシビジョンマッチだったな、差し支えるのもなんだ、コレぐらいにしておくか」

 

「そうだね」

 

 普段は大雑把だが何だかんだ言って乙女さんは気配り上手だなと思うレオであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。