つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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レオの勧誘奮闘記 その2

レオSIDE

 

さて、前回相撲取りには力でねじ伏せて勝ち、後輩の女との舌戦で惨敗したわけだが、今回はそのリベンジと相成りました。

 

「ンマー驚き、昨日こてんぱんにやられて懲りたんじゃないの?」

 

 わざとらしくあきれたような声を上げるカニ。

 

「スタンプ3つを諦めるにゃ惜しいだろ」

 

「はっ、これだから物欲主義者はやだやだ、オメー達もうちょっとボクみたいに無欲な人間になろうよ」

 

 どの口がそんな世迷い言を言えるんだ?お前とフカヒレが一番の物欲主義者だろうが。

まぁいいや、取り敢えず、物で釣ってみよう。

 

 

 しかし勢い良く生徒会室を出たのはいいが誰もついてこなかった。しょうがない、また俺一人で行こう。

べ、別に寂しくなんかないぞ!……なんか空しくなってきた。

 

 

 

NO SIDE

 

攻撃フェイズ

 

「よう、また会ったね」

 

「誰?」

 

 なごみは速攻で拒絶の意思を顕にしている。しかしそんな事でへこたれるレオではない。

 

「大学食で話さない?あそこのほうが眺めいいよ」

 

「結構です、消えてください」

 

「そう言わず話ぐらい聞いてくれ、ジュースおごってやるから」

 

「奢って貰う理由がありません」

 

「この前の侘びと先輩の顔立てるということで納得してくれや」

 

「そこまで言うならセンパイの顔を立てます」

 

 ようやく交渉の席に着いた。台詞だけで9行も使わせやがって……ゲフンゲフン。

 

「ま、単刀直入に言うけど……そのタフネスな精神を見込んで頼む、生徒会入ってくれ」

 

「嫌ですね、つまらなそうですし」

 

 再び拒否である。切れ味の鋭いナイフのような眼光でなごみはレオを睨み付ける。

しかしなごみにも誤算はあった。目の前にいる対馬レオという男は殺気云々に対する免疫が非常に強いのだ。

故にレオは全く怯まない淡々となごみの顔を凝視する。

 

「見学ぐらいはしてほしいもんだけどね、何もしない内から逃げられちゃ交渉もはかどらないでしょ」

 

「…………いい加減消えてください、ウザイです」

 

「俺のウザったさなんてフカヒレに比べりゃ可愛いもんだ」

 

 あくまで飄々として態度で返すレオ。原作より強くなってるのは肉体だけでなく精神面も同様である。

 

「潰すぞ」

 

 堪忍袋の緒が切れたのか遂に敬語すら使わなくなるなごみ。

 

「君に潰されるほどやわじゃないけど」

 

 無言のまま睨み合いが続く。そんな空気が数分間続き、やがてなごみが先に動いた。

 

「不愉快です、失礼します」

 

 そのまま屋上を後にする。どうやら今回の舌戦はレオに軍配が上がったらしい。

 

「勝った……!」

 

 なんとも言えない優越感にレオは小さくガッツポーズをする。妙なところで小物である。

 

「いやお前、生徒会に勧誘するんじゃなかったのかよ?」

 

 いつの間にかカニと共にやって来ていたスバルが突っ込みを入れる。

 

「あ、スマン」

 

「いやいやスバル、ココはレオを褒めるべきっしょ!見た?ココナッツのあの悔しそうなしみったれた顔!!」

 

 カニはカニで心底うれしそうな表情だ。

 

「そのとばっちりで俺は思いっきりガンつけられたけどな、ありゃフカヒレだったら絶対トラウマ発動間違いないぜ」

 

 どうにも今回は苦労人なスバルであった。

 

 

 

なごみSIDE

 

 ムカつく、本気でムカつく……。

今までムカつく男なんて山ほど見てきた。

その中でもあの対馬とかいう奴は群を抜いてムカつく。

こっちが何を言っても飄々としたふざけた態度で返して、その上しつこく食い下がって馴れ馴れしくしてくる。

アタシに馴れ馴れしくしていいのは母さんだけだ!

ムカつく、本当にムカつく!

 

 

 

レオSIDE

 

 時間を飛ばしてその日の夜。

再び勧誘に失敗した俺だが、別にまだ諦めたわけではない。

現在俺は乙女さんと一緒にジョギングしながら明日の作戦を練っている。

 

「しかし、お前は本当に速いな、ここまでスピードを出してもまだ本気ではなかろう」

 

「まぁね、身軽さが俺の取り柄だし、その為に軽業とかも覚えたんだから」

 

 筋力(パワー)に恵まれない俺は身軽さに磨きをかけるしかないわけですよ。

 

「女の私より身軽とは、女としてはある意味羨ましいな」

 

「それ言ったら俺だってそのパワーが羨ましい」

 

 お互い苦笑いする。考えても見れば俺達って正反対だよな。

俺はスピードタイプで乙女さんはパワータイプ、性格も俺は軟派で乙女さんは硬派、ついでに言えば性別も違う。

うん、どっからどう見ても正反対…………ん?

 

「椰子?」

 

 おいおい、また見つけちゃったよ。

アイツいつもこんな時間に出歩いてんの?

 

「どうしたレオ?」

 

「いや、知り合い見つけてさ」

 

 あ、椰子と目が合った。

 

「………………」

 

 おもっくそ俺を睨み付けてくる、絶対威嚇してるよ。

 

「知り合いの割には険悪だな?」

 

「まぁ、色々あってね」

 

「何なら会ってくるか?私は先に帰っていても良いが」

 

「いいよ、どうせ明日学校で会うし」

 

 向こうは嫌だろうけど……。

 

「そうか、では続けるぞ。今日は県境まで行くぞ」

 

「OK」

 

 ってな訳でジョギング再開。

 

 

 

NO SIDE

 

 そしてまた翌日の屋上。

レオVSなごみの勧誘舌戦の第3ラウンドが始まる。

 

「懲りないですね、センパイも」

 

「悪いな、生徒会長直々のご命令ですから、文句はそっちに言ってくれい」

 

「生徒会の犬……」

 

「せめて狂犬と呼んでくれ」

 

 再び毒舌と飄々とした対応の応酬。

 

「ま、このままグダグダ雑談を続けるのも何だし今日も単刀直入に言おう、生徒会……」

 

「入りません、センパイが死んでくれれば考えないこともないですけど」

 

「ずいぶん嫌われてるな俺」

 

「そりゃあもう、あの駄眼鏡以上にウザイです」

 

「その言葉はキツイぞ」

 

「それは良かった」

 

 最早なごみは嫌悪を隠すつもりもないらしい。

 

「それに俺が死んだら考えないこともないって、考えるだけだろ?」

 

「よくお解りで」

 

 冷笑を浮かべながらレオを眺めるなごみ。しかしレオも黙って諦める気は無い。

 

「入会してくれたら地下闘技場のチケットやるぞ」

 

「いりません、っていうかそんな所あるんですか?」

 

「あるよ、俺そこのミドル級だし」

 

「為にもならない無駄知識をどうも、そろそろ消えてくれませんか?」

 

「君が生徒会に入会してくれるって言うなら」

 

 あくまでレオも引くつもりは無いらしく、その様子になごみは舌打ちする。

 

「じゃあアタシが帰ります、もし追ってきたら被害届け出しますから」

 

「そりゃ怖い」

 

 そのままレオはなごみを見送る。

 

「今日もまた失敗か」

 

 なごみが去った後レオは静かにそう呟いた。

 

 

 結局また収穫なしに終わったレオの勧誘活動。

一方そのころ生徒会室では良美達が仕事を片付けていた。

まぁ今回はそれ以外特に特筆するようなことは無い、せいぜい姫が芸術のセンスが妙にずれていることが判明したぐらいだ。

 

「あ、ボク達そろそろ帰っていい?今日はドブ坂で夕方からライブやるんだよね」

 

「うん、いいよ後は私で十分だから」

 

「さすがよっぴー、話がわかる!じゃあこれで」

 

 ってな感じにカニとフカヒレも帰る。

 

 

 

レオSIDE

 

 気がつけばもうすっかり夕暮れ。

椰子の勧誘に失敗した俺は生徒会室に戻ったのだが、残っていたのは佐藤さん一人。

 

「他の人達は?」

 

「帰ったよ、鉄先輩と伊達君は部活」

 

 ああ、カニ達はライブ見に行ったのか。俺はそういうのあんまり興味ないからな。

 

「対馬君、もうすぐ終わるから一緒に帰らない?」

 

 お?そりゃ嬉しい申し入れだ。

 

「OK、それじゃ待ってる」

 

 

「そういえば、もうすぐ体育武道祭だよね」

 

 帰り道に佐藤さんがふとそんなことをつぶやいた。

体育武道祭とは平たく言えば運動会だ。ただしその規模は一般と比べ物にならないが。

 

「対馬君は格闘トーナメント出るの?」

 

「いや、あれはスバルに任せる……っていうか俺が出たら大変でしょ?」

 

「あはは……まぁね、でも対馬君って鉄先輩に勝ったんでしょ?対馬君の戦ってる所ちょっと見てみたいかなって思って」

 

「それくらい俺の言ってる闘技場にくればいつでも見られるよ」

 

「うん、それは分かってるんだけどちょっと勿体無いかなって」

 

「何が?」

 

「だって、鉄先輩にも勝ったほどの実力だよ、表で思いっきり目立つことだってできるのに」

 

 ……表で目立つ、か。そういえば長い事そういうの考えてなかったな。

 

「まぁ、一度表の世界で破門された身だし、踏ん切りがつくまではもう少し穴倉で暴れてるよ」

 

 なんか言い訳じみてるけど、それが今の俺の本音だから……。

 

 

その夜

 

 今日は乙女さんが晩飯を『本格的に』作ることになったのだが……。

 

「だぁああああ!!ちょっ、火!!凄い事になってるから!!」

 

 乙女さんの持ってるフライパンから家事寸前の火柱が上がり、あわてて消火。

 

「家を全焼させる気?」

 

「すまない……」

 

「で、何作ったの?」

 

「ラーメン?」

 

 何故に疑問系?

ちなみにフライパンの中身はすでに消し炭と化してしまっている。

 

「って事はつまり」

 

「ああ、夕飯はおにぎりだ」

 

 やっぱり…………。

 

 晩飯を食い終わってから少しして俺はいつものロードワークへと向かった(乙女さんは実家から荷物が届くとかで今日は留守番)。

しばらく走って駅前に差し掛かった頃、俺は見知った顔を見つけた。

 

「椰子……またかよ」

 

 これで三度目だ。アイツいつもこんな時間に街ふらついて何してるんだ?

 

(ちょっとばかし様子を見てみるか……)

 

 正直あの女が普段何してるのか気になる。

 

(売春……は絶対無いな)

 

 アイツの性格上絶対無い。となると親と喧嘩か?

 

 

 

NO SIDE

 

 結構時間が経った。しかし椰子なごみが動く気配は無い。

 

「本当に何やってるんだ?」

 

 さすがに観察するのにも飽きてレオは踵を返そうとしたがその時だった。

 

「ねぇ、ちょっといいかい?」

 

「……」

 

「君だよ、ロングの美人のお姉さんに言ってるんだよ」

 

 見るからにチャラチャラした男が三人なごみに近付いてきた。

 

「なぁ、さっきからずっと奏してるみたいだけど暇なら俺たちと遊びにいかね?」

 

「興味ない」

 

 当然の事ながらなごみはそれを拒絶するが相手のほうもかなりしつこく食い下がる。

 

「な、バンドやってるいい男もいるからとりあえず話だけでもしようよ」

 

「いい男がいなければ帰ればいいYO!」

 

「消えろ、潰すぞ」

 

 より一層拒絶間を強めるなごみだが、相手は精神的にタフなのか単なる馬鹿なのか定かではないがとにかくしつこく食い下がる。

だが、ここで男はひとつ間違いを犯した。

なごみの服、もっと言うなら体に触れてしまったのだ。

 

「あたしに触るな!!」

 

「超痛ぇええええええええ!!!」

 

(ナイスキック)

 

 脛を思い切り蹴られた男はごろごろとのたうちまわった。

 

「ち、キモい連中だ」

 

「テメェふざけんじゃねえYO!いきなり蹴るこたねーだろYO!」

 

 思わぬ反撃にチャラ男共は逆切れしてなごみに絡んでくる。

 

「あーあ、何でああいう手合いはああも一方的に切れるかね?」

 

 半ば呆れながらレオは呟く。

 

「……しょうがない」

 

 さすがに女一人に男三人という状況に見かねてレオはなごみのいる方向へ足を進めた。

 

 

 

レオSIDE

 

 ったく、どうして俺はこうなのかねぇ。

テンションに流されたくないのに結局流さて動いちまう。

 

「ま、勝負事と人助けは特例ってね」

 

 さ〜て、馬鹿の掃除といきますか。

 

 

 

なごみSIDE

 

「ちょっと、おいシカトしてねーでこっちこいYO!」

 

 ウザイな、こんなのバッカリ寄って来る。

 

「待てよ」

 

 そんな時に現れたのは見間違えもしない、アタシの苛立ちの一因である男、対馬先輩だった。

 

「女相手に逆切れはみっともないんじゃねぇの?」

 

 あからさまに馬鹿にしたような態度。明らかに三人組に喧嘩を売ってる。

この人は馬鹿か?いくら格闘技をやってるからって1対3で勝てるとでも思ってるのか?

 

「テメェなめてんじゃねぇYO!」

 

 男の一人が先輩を殴りつけた……ように見えた。

先輩を殴ろうとした男の体は……先輩の体をすり抜けてしまったのだ。

 

「な、何だ?」

 

「残像だ」

 

「へ?ひでぶっ!!?」

 

 突如男の真横に先輩が現れ、男をいとも容易く蹴飛ばしてしまった。しかも蹴飛ばされた男の体は面白いように宙を舞い、そのまま男は伸びてしまった。

 

「な、何だコイツ滅茶苦茶強ぇ!!?」

 

「だ、誰かヒザキさん呼んで……ギャアアアア!!」

 

 それから先はもうワンサイドゲームだった。チャラ男は仲間を呼んで応戦しようとしたが、誰一人先輩に触れる事さえ出来ずあっという間に地に沈んでいった。

チャラ男のトップのヒザキという男に至っては……。

 

「すんませんでした!!本当に申し訳ございません!!もう勘弁してください!!!」

 

 この通り先輩の殺気にビビッて土下座している。

 

「勘弁も何も俺は応戦しただけだからな、そいつら連れてさっさと帰りな」

 

「は、はい!」

 

 去っていく馬鹿共を見ながらアタシは先輩への評価を少しだけ変えた。

 

 

 

レオSIDE

 

「予想外でした、先輩強いんですね」

 

「まぁな」

 

 開口一番に椰子が言ったのはそんな言葉だった。

 

「助けられた、なんて思ってませんが一応借り一つって事にしときます」

 

 は?

 

「おいおい、借り一つって……俺そんなつもりじゃ」

 

「それでも借りは借りです、一方的とはいえ助けられて何もしないじゃ後味悪いですし」

 

「一応恩は感じてるんだな」

 

 ま、コイツがそういうなら丁度良い。

 

「それならさ、生徒会入ってくれよ」

 

「……わかりました、ただし代わりが見つかるまでの代打、という事でなら」

 

「ああ、全然OK!」

 

 どうせ姫は飽きるまで手放さないから。

何にせよこれで目的は達成だ!!

 

 

 

NO SIDE

 

 こうして翌日、生徒会に椰子なごみを加え無事生徒会メンバーはそろった。

 

(それにしても……乙女さん、カニ、姫、椰子、佐藤さん、祈先生、あと生徒会じゃないけど近衛も……俺の周りって強気な女が多くね?)

 

 今にして思えばこの時からレオの波乱に満ちた学園生活の幕開けだったのだろうと後のレオは語っている。


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