人生の分岐点は?と聞かれれば俺は間違いなく即座に三つ思いつくだろう。
一つ目…アレはガキの頃、当時ガキ大将的な近所の男子に喧嘩で勝った俺は好い気になって従姉に挑戦し……完膚なきまでに叩きのめされた。
そして馬にされた挙句……「くちごたえするなコンジョーナシ!くやしかったらわたしにかってみろ!」と言われた。
”上等だコノヤロウ……何年掛けてでも強くなって泣かしてやる!!”
と、まぁこんな子供染みた復讐心から格闘技を始めた訳だが、いざ始めてみるとコレがなかなか面白い。
特に自分が以前より強くなったと実感した時は何とも言えない快感だったりする。
次に二つ目…あれは中学の頃…………当時の友人だった近衛素奈緒が同じクラスの不真面目な馬鹿共相手にいざこざを起こし、俺はそれに首を突っ込んで……その結果俺は周囲から「ハッスル君」なんて不名誉な仇名を貰い、逆上した馬鹿共が俺の知らない所で近衛に手を出し、それにブチ切れた俺はそいつ等全員入院する程の大怪我を負わせ、長い事世話になった道場から破門された。
あの馬鹿共をぶちのめした事に全く後悔なんてしていないが一つだけ分かった事があるとすれば、テンションに流されると碌な事にならないって事ぐらいだな。
コレばかりは今でも嫌な思い出だ。
そして最後に、中学卒業を機に足を踏み入れたこの世界…………。
『さぁ、本日のメインイベント、ミドル級のタイトルマッチだぁ!!』
それは…………地下闘技場だ。
『赤コーナー、勝てば新チャンピオン誕生、ココまでなかなかの勢いで勝ち星を稼いできました、美男子ムエタイファイター、半田(はんだ)紗武巣(さむす)選手!!』
観客に大袈裟にアピールする半田、見た目通りキザな野郎だ……。
「青コーナー、現ミドル級チャンピオンにしてブラスナックルトーナメント優勝経験を持つ若き獅子、対馬レオ選手!!」
「レオーー!!負けんじゃねえぞ!!そんなキザ野郎、速攻でぶっ潰せ!!」
「そうだそうだ!!俺はそういう顔の奴が本気でムカつく!!」
「そりゃお前の私怨だろ」
観戦している幼馴染達の声援と言う名の喚き声に冷静なツッコミを入れる我が親友。
とりあえず声援に応える様に軽く手を振る。
『さぁ、いよいよゴングです!!』
司会の声の直後、ゴングによる金属音が鳴り響いた。
「ハッ!セイ!であぁっ!!」
ゴングと同時に仕掛けてくる半田。拳とエルボーの連携が俺に襲い掛かる。
『おおっと早くも半田選手得意のコンビネーションだ!!』
「よっ、ほっ、とっ……」
得意のフットワークで全て回避。うん、大変よく出来ました俺。
「ええい!ちょこまかと!!私の拳で沈みたまえ!!」
業を煮やして突撃戦法に切り替えてきた。だが……。
「ラァ!!」
カウンター気味に拳を繰り出し、相手の鼻っ柱に叩き込む。
「がっ!?」
効果あり!半田の奴は鼻血を出して仰け反った。
「おのれぇっ!!私の美しい顔によくも!!!!」
うわ……リアルに聞くと本気でイタイな、その台詞。
「喰らえ!必殺、ジャガーキック!!」
一回転ジャンプしながらの踵落としを繰り出す半田。
「馬鹿が……」 スピードも勢いも今一つ、それじゃ俺には勝てない。
相手の足を受け止め、がら空きになった腹に渾身の力を込めた拳を叩き込む。
「うぐぇぇっ!!」
豪快な音とうなり声とともに半田はマットに沈む。
勝ち星を稼いできた割に大した事無いな、この手の連中はアレだ。新人潰して勝ち上がってきたって奴……たまにいるんだよな。
レフェリーが近づいて様子を見る。普通ならココでカウントを取るんだが……その必要は無いようだ。
「勝者、対馬レオ!」
試合終了を表すゴングが鳴り響き、観客席から歓声が聞こえてくる。
そんな中俺は静かに半田に近づいた。
「次ぎ戦(や)るときはキッチリ腕磨いて来い、新人潰しなんてセコイ真似せずにな」
俺の言葉に半田は力無く頷いた。
「さてと……」
俺は観客からの歓声に応えるように右腕を高々と上空に突き上げた。